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役立たず

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「痛い。痛いよ!」
「ほら、シャルも痛いって言ってるだろ。手を放せよ」
「お前が放せば済む話だろ」

両手を強い力で引っ張られ、シャルロットは悲鳴を上げた。

それでも仲間はシャルロットを譲ろうとしなかった。
シャルロットは物扱いで、そのため、怪我することもあった。怪我したことを言うと「なんでもっと早く言わないんだ!」と逆に怒られてしまうので、シャルロットは怪我を隠した。

たいして効果のない回復魔法で治療しながら、シャルロットは落ち込んだ。

(怒られてばっかりだにゃ。このままじゃ、そのうち、追い出されるにゃあ……)

雑用としては重宝されていたが、仲間がどんどん強くなるのに1人だけ弱いままでは自信が育たず、シャルロットの心は限界にきていた。

(最初は……みんな、あんなに優しかったのに………)

シャルロットは、その見た目から、冒険者学校では人気者だった。けれど、頭が悪く、座学ではいつも赤点だった。泣きながら勉強をするシャルロットを見かねて、彼らはシャルロットに勉強を教えてくれた。

すごい良い人間たちだと思った。
だからついていこうと思った。

でもその決断は失敗だったのかもしれない。

(シャルが出来損ないだからだにゃ……。きっと、呆れられてしまったんだにゃ)

半獣は珍しいが、冒険者として何の実績もないシャルロットより強い半獣なんていくらでもいる。味方の足ばっかり引っ張る、雑用しか出来ない半獣に価値はない。

シャルロットは涙を浮かべながら、とぼとぼと仲間の後を歩いていた。

そして、とうとうその日が来た。

(役立たずって……。もう魔物の討伐に連れて行かないって言われたにゃ……!)

それは事実上の戦力外通達だった。

仲間を庇ってシャルロットが大怪我をした。

すると血相を変えて、仲間がシャルロットを罵倒し始めたのだ。シャルロットの心は、ついに耐えられなくなった。仲間の手を振り払い、絶叫した。

「やめて!! もう何も、言わにゃいで!!」

シャルロットは半獣で、足だけは速かった。「待て、シャル! お前、怪我してるんだぞ!!」制止されるのを振り切って、シャルロットは仲間だった人間たちから、何も持たずに逃げてきた。

どれだけ走ったのかわからない。靴を履いていたはずだが、右の靴が脱げてしまっている。途中、あまりの痛さに回復魔法をかけたが、ズキズキと腕も足も痛んだ。

見慣れた町にたどり着いて安堵したのか、ずるずるとシャルロットは崩れ落ちた。
町を出る前はみんなと一緒だった。
でも、今日からは1人ぼっちだ。

「ふぇ……。うぇえええええん!!」

ついに人目も憚らず、シャルロットは泣き出した。大きな瞳からは堰が切ったかのように涙が溢れ出し、頬を濡らした。

「おい、どうしたんだ? 怪我もしてるじゃねーか。手当するから、こっちに来いよ」
「ぼ、僕なんてほっといてにゃ! こんな出来損ない、優しくする価値なんかないにゃ!」

シャルロットは興奮して、手を差し伸べた人間の手を引っ掻いた。だが、その人間は、怯まなかった。

「価値があるかどうかは俺が決めることだ。なんでそんなに泣いているんだ? このまま立ち去ったら、気になって寝れなくなるじゃねーか」

人間の手から血が出ていることに気が付いて、シャルロットは少し冷静になった。

「怪我させて、ごめんなさいにゃ。……でも、僕のことなんか聞いたって、これっぽっちも楽しくないにゃ」
「つらいことがあったんだな。俺に出来ることがあるなら、手伝ってやるぞ。どうせ暇してるし」

その人間は、人の良さそうな笑顔を浮かべて、シャルロットの左手を取った。

(あったかいにゃ……)

その手の温もりは、シャルロットの冷えた心をじんわりと温めてくれた。
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