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第四噺 ゴミ捨て場
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これは今年の春から大学生になった、Jさんという女性の話だ。
彼女は大学入学を機に、念願の一人暮らしを始めた。
わずらわしい親元を離れ、ついに自分だけの部屋を手に入れた事は彼女にとってこの上ない喜びだった。
彼女の部屋は二階建てアパートの一階で、嬉しい事に角部屋だった。
1LDKの部屋は築二十年という歴史を感じさせない小奇麗な部屋で、日当たりも良く家賃もそれなり、大学生という立場の彼女にとっては十分すぎる部屋だった。
おまけに隣に住人はおらず、大学やスーパーも近い。立地も申し分ない。
彼女の大学生活の基盤となる場所は、文句のつけようのない場所だった。
大学生活が始まり、目まぐるしく動き続ける状況にJさんは必死に食らいついていた。
サークル活動、授業、バイトと、家族のありがたさを感じながら彼女は日々を過ごしていた。
だが忙しいながらも、何人か仲の良い友人もできゆっくりとだが生活にも慣れ始めていた。
そんなある日、彼女は居酒屋のバイトを終え家に帰って来た。
彼女は帰るなりそのままベットに倒れ込む、体はもうガタガタでぴくりとも動きそうにない。
「あー……ねむ」
このまま眠ってしまおうか、どうせ明日バイトは休みで授業も午後からだ。
彼女はそのまま睡魔に身を預けようとした。
その時彼女は、ふとゴミを出し忘れていた事を思い出した。
彼女の住む地区の燃えるゴミの回収日は明日、それを逃すと次は二日後だ。
前回のゴミの日を逃したせいで、すでに燃えるゴミの袋はパンパンだった。
明日ゴミを出し損ねてしまえば、更に二日ゴミを家に置いておかなければならない。
中には生ゴミも入っている、臭いもひどくなるしゴキブリなどの害虫もやってくる。
「……やだなあ」
Jさんは重い体をどうにか起こし、ゴミ袋を持って外へ出た。
時刻はすでに十二時を回っており、アパートの外はしんと静まりかえっている。
彼女がゴミを出すのを渋ったのは、疲れているという理由だけではない。
ゴミ捨て場の雰囲気が、どうにも嫌だったからだ。
彼女のアパートのゴミ捨て場は、建物から少し離れた所にある物置タイプのものだ。
外壁はくすんだクリーム色、屋根の赤い塗装は所々剥がれている。中はだいたい一畳ほどの大きさの、よくあるゴミ捨て場だ。
彼女は当然だが今まで何度もそこにゴミを捨ててきた、だがただの一度も穏やかな気持ちでゴミを捨てれた事が無かった。
その理由は、ゴミを捨てる時に感じる視線のせいだ。
初めてゴミを捨てた時からどうにも気分が悪かった、誰かに見られているような背筋がぞくりとするような感覚。
それがずっとあるのだ、扉を開けてゴミを捨てまた扉を閉める間はずっとだ。
気持ち悪いなあ、そんな思いを抱きながら彼女は扉を開けた。
中には、他の住人が出したであろうゴミ袋が三つほど入っている。
彼女は急いでゴミを投げ込むと、扉を閉めて部屋へ向かって歩き出した。
その間もずっと、彼女の体にはあの嫌な視線が纏わりついていた、
住み始めて半年が経っても、やはりゴミ捨て場は気持ちの悪いままだったが、環境とは恐ろしいもので、Jさんはその視線に慣れ始めていた。
確かに気持ち悪い感じはするが、だからといって特に何か恐ろしいもの見たとか、体の具合が悪くなるような事もない。
第一ゴミ捨て場以外は特に問題ないにも関わらず、半年で引っ越したいと言って親を困らせるのもどうかという考えもあった。
そんなある日、彼女は大学の食堂で友人二人と食事をしていた。
いつも通りの下らなくも、楽しい話の中で彼女は例のゴミ捨て場の話を出してしまった。
今までは変に思われたくなかったので黙っていたが、彼女の中であのゴミ捨て場の存在が当たり前の物になっていたため、つい言ってしまったのだ。
「ゴミ捨て場の視線かあ……気のせいじゃないの?」
「気のせいじゃないよ、ほんとに見られてるような感じがするんだって」
そんな話をしていると、二人の内の一人が実際に見てみたいと言い出した。
彼女も何の気なしにそれを了承し、週末にゴミ捨て場を見に泊まりに来ることになった。
そして週末、友人はJさんの家にやってきた。
友人は視線の正体を暴いてやると意気込んでおり、懐中電灯などの装備を持ってきていた。
二人で話をしたり、テレビを見たりしている内に、時間は過ぎていきあっという間に夜になった。
すでに時刻は二十三時を過ぎた、夜にしたのはその方が雰囲気があるからという友人の提案だ。
二人は早速外に出ると、ゴミ捨て場に向かう。
外は静かで当然のように人気はない、聞こえてくる虫の声も蝉から鈴虫に変わるような季節だ。少し肌寒い感じがする。
「うわ、けっこう雰囲気あるね」
友人の言葉通り、その日のゴミ捨て場は妙に雰囲気があった。
慣れてきていたとはいえ、改めて友人に言われると薄気味悪さが蘇ってくる。
その日も変わらず、あの嫌な視線はあった。
友人もそれを感じたのか、少し大人しくなっている。
「ねえ、中はどうなってんの?」
「よくわかんない、いつも扉あけてゴミを投げ入れるだけだから」
「もしかしてさ、中に人がいるんじゃない?」
その言葉で嫌な想像をしてしまったJさんを置いて、友人は扉を勢いよくあけて顔を入れた。
「すいませーん、誰かいますかー」
「ちょっと、あんまりふざけないでよ」
おどけた様子で友人は中を見渡している、その後ろでJさんはため息交じりに小さく笑っていた。
友人の姿は頼もしいが、見てくれは不審者そのものだ。
もし誰かに見られれば事だ、そう思って彼女は周りを見渡した。
ばん!
突如響いた大きな音に、彼女は体を強張らせる。
音のした方を見ると、友人が扉のしまったゴミ捨て場の前に立っていた。
「どうしたの? 調査はもう終わり?」
Jさんは明るく声をかけた、だが友人は何も言わない。
ただ黙って、しまった扉を見つめている。
「ねえ、何かあったの?」
彼女の問いかけに何も答えず、友人は足早に彼女の部屋に向かうと、荷物をまとめてまるで逃げるように帰ってしまった。
Jさんは部屋の中でも、何度も声をかけたがそれに対する友人の返答はなかった。
ただ大きく見開いた目で、まるで何かに憑りつかれた様な姿で荷物を乱暴にまとめて帰ってしまった。
それからJさんはその友人の姿を、大学内で見る事がなくなってしまった。
友人は大学を休みがちになり、やがて自主退学という形で姿を消した。
友人は電話にも出ず、SNSでのメッセージにも返信がない。
もう一人の友人と共に家を訪ねてみたりしたが、すでに家は引き払われており、結局会う事はできなかった。
他の知り合いにも話を聞いてみたが、友人の様子を知る事は叶わなかった。
ただ唯一大学の先生からは『体を壊したので、大学をやめて療養の為に実家に戻った』という典型的な答えを得ることができた。
友人が一体あそこで何を見たのか、それは分からない。
Jさんは現在つぎのアパートを探しているらしい。
人を狂わせる何かがいないゴミ捨て場のあるアパートを。
彼女は大学入学を機に、念願の一人暮らしを始めた。
わずらわしい親元を離れ、ついに自分だけの部屋を手に入れた事は彼女にとってこの上ない喜びだった。
彼女の部屋は二階建てアパートの一階で、嬉しい事に角部屋だった。
1LDKの部屋は築二十年という歴史を感じさせない小奇麗な部屋で、日当たりも良く家賃もそれなり、大学生という立場の彼女にとっては十分すぎる部屋だった。
おまけに隣に住人はおらず、大学やスーパーも近い。立地も申し分ない。
彼女の大学生活の基盤となる場所は、文句のつけようのない場所だった。
大学生活が始まり、目まぐるしく動き続ける状況にJさんは必死に食らいついていた。
サークル活動、授業、バイトと、家族のありがたさを感じながら彼女は日々を過ごしていた。
だが忙しいながらも、何人か仲の良い友人もできゆっくりとだが生活にも慣れ始めていた。
そんなある日、彼女は居酒屋のバイトを終え家に帰って来た。
彼女は帰るなりそのままベットに倒れ込む、体はもうガタガタでぴくりとも動きそうにない。
「あー……ねむ」
このまま眠ってしまおうか、どうせ明日バイトは休みで授業も午後からだ。
彼女はそのまま睡魔に身を預けようとした。
その時彼女は、ふとゴミを出し忘れていた事を思い出した。
彼女の住む地区の燃えるゴミの回収日は明日、それを逃すと次は二日後だ。
前回のゴミの日を逃したせいで、すでに燃えるゴミの袋はパンパンだった。
明日ゴミを出し損ねてしまえば、更に二日ゴミを家に置いておかなければならない。
中には生ゴミも入っている、臭いもひどくなるしゴキブリなどの害虫もやってくる。
「……やだなあ」
Jさんは重い体をどうにか起こし、ゴミ袋を持って外へ出た。
時刻はすでに十二時を回っており、アパートの外はしんと静まりかえっている。
彼女がゴミを出すのを渋ったのは、疲れているという理由だけではない。
ゴミ捨て場の雰囲気が、どうにも嫌だったからだ。
彼女のアパートのゴミ捨て場は、建物から少し離れた所にある物置タイプのものだ。
外壁はくすんだクリーム色、屋根の赤い塗装は所々剥がれている。中はだいたい一畳ほどの大きさの、よくあるゴミ捨て場だ。
彼女は当然だが今まで何度もそこにゴミを捨ててきた、だがただの一度も穏やかな気持ちでゴミを捨てれた事が無かった。
その理由は、ゴミを捨てる時に感じる視線のせいだ。
初めてゴミを捨てた時からどうにも気分が悪かった、誰かに見られているような背筋がぞくりとするような感覚。
それがずっとあるのだ、扉を開けてゴミを捨てまた扉を閉める間はずっとだ。
気持ち悪いなあ、そんな思いを抱きながら彼女は扉を開けた。
中には、他の住人が出したであろうゴミ袋が三つほど入っている。
彼女は急いでゴミを投げ込むと、扉を閉めて部屋へ向かって歩き出した。
その間もずっと、彼女の体にはあの嫌な視線が纏わりついていた、
住み始めて半年が経っても、やはりゴミ捨て場は気持ちの悪いままだったが、環境とは恐ろしいもので、Jさんはその視線に慣れ始めていた。
確かに気持ち悪い感じはするが、だからといって特に何か恐ろしいもの見たとか、体の具合が悪くなるような事もない。
第一ゴミ捨て場以外は特に問題ないにも関わらず、半年で引っ越したいと言って親を困らせるのもどうかという考えもあった。
そんなある日、彼女は大学の食堂で友人二人と食事をしていた。
いつも通りの下らなくも、楽しい話の中で彼女は例のゴミ捨て場の話を出してしまった。
今までは変に思われたくなかったので黙っていたが、彼女の中であのゴミ捨て場の存在が当たり前の物になっていたため、つい言ってしまったのだ。
「ゴミ捨て場の視線かあ……気のせいじゃないの?」
「気のせいじゃないよ、ほんとに見られてるような感じがするんだって」
そんな話をしていると、二人の内の一人が実際に見てみたいと言い出した。
彼女も何の気なしにそれを了承し、週末にゴミ捨て場を見に泊まりに来ることになった。
そして週末、友人はJさんの家にやってきた。
友人は視線の正体を暴いてやると意気込んでおり、懐中電灯などの装備を持ってきていた。
二人で話をしたり、テレビを見たりしている内に、時間は過ぎていきあっという間に夜になった。
すでに時刻は二十三時を過ぎた、夜にしたのはその方が雰囲気があるからという友人の提案だ。
二人は早速外に出ると、ゴミ捨て場に向かう。
外は静かで当然のように人気はない、聞こえてくる虫の声も蝉から鈴虫に変わるような季節だ。少し肌寒い感じがする。
「うわ、けっこう雰囲気あるね」
友人の言葉通り、その日のゴミ捨て場は妙に雰囲気があった。
慣れてきていたとはいえ、改めて友人に言われると薄気味悪さが蘇ってくる。
その日も変わらず、あの嫌な視線はあった。
友人もそれを感じたのか、少し大人しくなっている。
「ねえ、中はどうなってんの?」
「よくわかんない、いつも扉あけてゴミを投げ入れるだけだから」
「もしかしてさ、中に人がいるんじゃない?」
その言葉で嫌な想像をしてしまったJさんを置いて、友人は扉を勢いよくあけて顔を入れた。
「すいませーん、誰かいますかー」
「ちょっと、あんまりふざけないでよ」
おどけた様子で友人は中を見渡している、その後ろでJさんはため息交じりに小さく笑っていた。
友人の姿は頼もしいが、見てくれは不審者そのものだ。
もし誰かに見られれば事だ、そう思って彼女は周りを見渡した。
ばん!
突如響いた大きな音に、彼女は体を強張らせる。
音のした方を見ると、友人が扉のしまったゴミ捨て場の前に立っていた。
「どうしたの? 調査はもう終わり?」
Jさんは明るく声をかけた、だが友人は何も言わない。
ただ黙って、しまった扉を見つめている。
「ねえ、何かあったの?」
彼女の問いかけに何も答えず、友人は足早に彼女の部屋に向かうと、荷物をまとめてまるで逃げるように帰ってしまった。
Jさんは部屋の中でも、何度も声をかけたがそれに対する友人の返答はなかった。
ただ大きく見開いた目で、まるで何かに憑りつかれた様な姿で荷物を乱暴にまとめて帰ってしまった。
それからJさんはその友人の姿を、大学内で見る事がなくなってしまった。
友人は大学を休みがちになり、やがて自主退学という形で姿を消した。
友人は電話にも出ず、SNSでのメッセージにも返信がない。
もう一人の友人と共に家を訪ねてみたりしたが、すでに家は引き払われており、結局会う事はできなかった。
他の知り合いにも話を聞いてみたが、友人の様子を知る事は叶わなかった。
ただ唯一大学の先生からは『体を壊したので、大学をやめて療養の為に実家に戻った』という典型的な答えを得ることができた。
友人が一体あそこで何を見たのか、それは分からない。
Jさんは現在つぎのアパートを探しているらしい。
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