少年淫魔の神様業!

宇野 肇

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本編

生涯契約承ります

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 首都から大きく離れた地方の田舎。ベッドタウンとして開拓されたその丘陵には、比較的大きな神社がある。鎮守の杜を含めると結構な敷地面積になるだろうそこに祀られているのはとある神様だ。
 サクマと呼ばれ親しまれてきたその神様は風変わりで、昔からちょくちょく人の前に姿を見せては一つ頼み事をして、代わりに願い事を叶えてくれるのだという。風変わりなのはそれだけではなく、御神木とされているのが枯れた桜の木というのも、初めて聞く人からすれば首を傾げる要素の一つだ。理由はちゃんとあって、この桜の木が満開になっているところを見たらサクマさまに会える、というところからそうなったようだ。一体いつからなのかはわからないが、もうかれこれ五百年ほど前からそういう言い伝えが残っている。これは何らかの形で後世に残された、現存する資料の中で最も古い記述に過ぎず、実際はもっともっと前から、サクマさまはこの丘にいると言われている。
 神様がいるとあって、この丘陵を開拓するという話が持ち上がった際は物凄く荒れたそうだ。信仰があろうがなかろうが、それ以上に目撃証言が絶えないのだから存在そのものはいるものとして長らく『聖域』扱いだった場所だ。誰のものでもない、敢えて言うのならばサクマさまの土地であるというのが近年までの住民たちの見解であり、そこに地方公共団体が手をつけようとしたのだから感情的に待ったがかかったのは当然とも言える。
 さて、その騒動は結局時代の波風に押される形で、立派な神社を残すという落とし所でもって終結した。その際にサクマさまから貰い育てたサクマの木を長らく守ってきた、とある家の血筋がその神社の世話役になるのが相応しかろうと、サクマさまの名前から佐久間神社と名付けられたそこの管理を担っている。
 佐久間神社はおかしな神社だ。狛犬の代わりに大きな犬と猫の像があって、それらもサクマさまの眷属として崇められている。そのせいかこの辺一体では地域猫がやたら多いし、犬を飼ってる家も相当数に上る。
 そして、この眷属だという犬と猫の目撃証言も後を絶たない。ベッドタウンということもあって、にぎわい始めた数十年前には痴漢や露出狂が出たりしたらしいのだが、そのことごとくを大きな犬だか猫だかが現れて犯人を取り押さえるということが立て続けに起こったそうだ。警察が被害者や犯人に事情聴取をしたところ、大人よりもずっと大きかったんだと証言が一致していることから、恐らくはそれが真実なのだろうと警察も認めざるを得ないらしかった。話を聞こうにも相手は動物とあってそれ以上の追求もできないし、被害者はともかく犯人がそれで震え上がってしまうということで事件そのものも次第に少なくなり、佐久間神社周辺の丘の治安はすこぶる良いことで知られるようになり今日に至る。この辺りのこともあって、今尚サクマさまとその眷属は、この辺に住んでる人間なら大体は知っているくらい有名な存在となっているというわけだ。悪いことをすると食われてしまう、なんていう躾にも使われているくらいに生きた存在なのだ。
 ちなみに、サクマの木も健在だ。代々サクマの木を受け継ぎ守ってきた血筋――俺の家の裏庭でしっかりと実をつけ、枯れることも増えることもなくマイペースにそこにある。
 決まった数だけ実るサクマの実は大事な収入源だ。何処かの研究施設が随分調べたらしいけど、とにかく不思議な実で、元気になる実ということしか分からなかったんだからサクマさまさまって感じだ。この実は、今は契約で所定数病院へ送っている。それ以外は遠方からわざわざ直接やってくる人に渡してるけど、基本は予約制。それでも一年先まで埋まってしまっている。嗜好品というよりは縋るような思いで求めている人が多いだけに心苦しいが、サクマの実る速さに人の都合は関係ないだけにどうしようもない。
 何度か泥棒にもあったが、実が腐るだけでなんの得もなく、むしろ一つ分枠がなくなるだけで損しかしないため心待ちにしている人からの憎しみが増し、あわや刃傷沙汰というところで再び例の犬と猫が活躍してくれたためこの問題も今のところは静かなものだ。サクマの木のことが知られたのはインターネットによるところが大きいが、そんな情報も後を追うようにまた拡散されて、今は上手い具合に知名度が高まるのみとなっている。
 さて、そんな『サクマ』を引き継ぐ予定である俺はというと――



「……て、起きて」
 暖かい布団にくるまれながら、ゆらゆらと身体を揺さぶられる。気持ちが良い。ふわふわしていて、ずっとこの絶妙な場所に留まって居たいと思わせる。
「起きて、ユウ」
 まどろみを邪魔されて、不機嫌な声が漏れた。やめてくれ、俺はまだ寝ていたい。
 そう思っても優しい声は俺を叩いてくる。
「もう……入れちゃうよ……?」
 やがて諦めたのか身体の揺さ振りは収まったが、次の瞬間、身体に圧し掛かってくる重みに、俺は驚いて目が覚めた。
「あああんっ」
 仰向けに寝ている俺にまたがるもの。カーテンを閉めていたって分かる朝の薄明りに助けられて、相手が知らないわけでもない存在だと知ることが出来た。視界に飛び込んでくるその光景に、俺はまたかと思うと同時に快感の正体を覚る。夢心地にしがみ付くようにしていたのが、やってきた快感に一気に現実へと引き戻された。
「くっ……また、か、このっ……エロガミ!」
「あっ……ん、ああん……っ、やだ、そんな風に呼ばないで、よっ……」
 俺のナニをずっぽりと男の持つ穴に収めて腰を振りながら、小柄で可愛い系の姿をしたヤツは女の子みたいに喘いだ。――こうして淫乱に、AV女優顔負けのエロさで俺のものでよがっているこいつこそ、佐久間神社に祀られている神様、『サクマ』、その神なのだ。
「くそ……っ、寝込みを襲うのはレイプだって、何回言や分かんだっ」
「あんんっ! レイプなんて……あっ、ちゃんとした約束なんだから、夜這いって言ってよぉ……っくふぅっ」
 俺の下半身を剥き、ヤツは全裸で懸命に身体を揺らして俺をイかそうとしている。一気に覚醒した俺はそれに乗って、ヤツの腰を思い切り掴んだ。俺から腰を突き上げ、ヤツの身体を揺さぶる。
「やあああっ、ああん、あんっ、あっ、いいっ、それぇ……!」
 ヤツのナニは俺よりも小さいが立派に勃起していた。はちきれそうになっているが、放っておいてもヤツは後ろでも最高にイけると知った今となっては気にならない。
 お互い小刻みに腰を揺らし、最上の快感へ向けて走る。視界に入る股間のそれさえなきゃ貧乳の可愛い女の子でも通じるってのに、その一点で全てが台無しだ。まあ本人……本神ほんしんは気にしてるみたいだからあんま弄らねえようにしてるけど。
 仰向けになって動くのも限界かと上半身を起こしかけると、ヤツは俺の胸板に手を乗せてそれを阻止した。それからナニを俺の腹に擦り付けるように前傾になっていやらしく腰を動かして、自分の良い場所に俺を誘い込む。そのままぐりぐりと腰を押し付けられ、その重さと熱、ぎゅっと俺の根元で締め付け、扱くような感覚に目を閉じた。
「あ、あああっ、いく、いっちゃうぅっ!」
 柔らかいものに包まれていた中が急にキツくなり、掃除機みたいに奥へ奥へ吸われていく。なのにマッサージのように蠢き、俺はその感覚に耐え切れずヤツの言葉を追う形で精液を吐き出した。
「っ」
 ふと息を詰め、外へ走って行く快感を味わう。……相手が男でも勃つもんは勃つし、すげえ気持ちが良いんだって身体で教えられてからもう随分経ったけど、誰にでもそうなるってわけじゃないことも、俺は知っている。
「は、ぁああああ……っ ん、ユウの、相変わらず美味しいね」
 へら、と俺にまたがったまま笑う締まりのない顔に、余裕の戻ってきた俺はそうかよ、と呟いた。こいつは野郎の精液なら誰のだって美味そうに食うくせに。
「ヒトが大きくなるのってホント早いよね」
「オメーが言うとそういう意味にしか聞こえねえんだよ」
「あ、そっちもだけど。お姉さん、成人おめでとうね」
「……ん」
 俺はこいつに助けてもらったことがある。俺自身じゃない。俺の姉をだ。
 俺には歳の離れた姉が一人、いる。三歳離れてるんだけど、その姉貴は五年前……俺が小六の頃、通り魔に腹を刺されて死にかけたことがある。
 なんせ通り魔。交通事故に遭うようなモンだった。悪意がある分タチが悪ィけど、俺は逮捕された犯人が憎いとかよりも、ただただ姉貴が死ぬのが怖くて、佐久間神社に参拝し、当時の全財産を賽銭箱にぶち込んで泣き喚いた。シスコン気味っつー自覚はあったけど、恥も外聞もないってのはああいうのを言うんだと思う。
 そんな俺の声を聞き届けてくれたというのが、この辺一体で昔から信仰されていた張本神ちょうほんしんにして朝から俺を襲っていた、このサクマさまと言うわけだ。
 俺は「姉貴を元通り元気にしてくれ、その為ならなんでもやる。この先ずっと言うこときくから」とまあ、口を滑らせた。挙句、その時既に後遺症が残って歩けなくなるかもしれないとか、最悪助からないかもしれないとか聞いてた俺は、サクマの出した「精を捧げる」っていう条件にそんなことで済むならと一も二もなく飛びついた。結果、サクマは見事に姉貴を五体満足で、刺し傷も痕が残らないよう綺麗に治してくれたというわけだ。ちなみに賽銭箱にぶち込んだ金は必要ないからと返された。
 これは、そんな約束の末の状態なのだ。
 約束を反故にしようにも相手は人外。幽霊とかそういう類のヤツで、施錠とかしたってまるで意味がない。俺が実家を離れて遠くへ行けば解放されるが、別にそこまで嫌なわけでもないし、そもそもずっと言うことを聞く、というのは結局俺は佐久間神社を継ぐわけで、まあ離れられないんだからという安易な考えが根底にあったからだ。逃げるつもりは別にない。大体、約束を破ってまた姉貴が傷つけられるのは嫌だ。
 それに、見方を変えれば、俺はこの先ずっとサクマのものであり、この約束がある限り俺はサクマに守られているということでもある。
 サクマ自身は大したことはできないらしいが、その眷属の巨大な犬のシロと猫のセンリは頼もしいことこの上ない。おおっぴらに連れて歩くのは無理だが、有事の際には駆けつけてくれることになっている。悪いことばかりじゃないってわけだ。
 ちなみに俺がサクマやシロ、センリと面識があることは誰にも言ってない。口止めされたっていうのもあるけど、それ以上に普通会えない存在と関係があると言い張ったところで、サクマ達に会うにはサクマ側の意思がなければ会えないのだ。俺が証明したくてもサクマが嫌がればそれはできない。しかも俺の願い事ならまだしも、サクマに何を頼まれたのかだとか、そのために普段何をしているのかなんて言えやしない。いや、言えるけど恥ずかしいし気まずすぎるし、社会的に死ぬ。言えるわけがない。
 こうやってサクマが俺のところへ来る時は、部屋の外へ音が漏れないようにと一応気を使ってくれてるらしい。だが、気の使い所が違うんじゃないかと思ってしまうのは俺が人で、こいつが神様だからだろう。きっと。
「で……朝っぱらから盛ってどうしたんだよ。他で飯食えてねえのか」
「他でもちゃんと貰ってるけど……ちょっと小腹がすいたなって思ってユウのこと見ようと思ったら朝勃ちしてたから勿体無くて。ご無沙汰だったし」
 あっけらかんと言い放つその内容に頭を抱えたくなった俺はおかしくないと思う。
「俺はセフレか!」
「やだなあ。僕はちゃんと愛情を持てる相手を選んでるんだけど? 僕ユウとえっちするの大好き」
 ……ちなみに、俺はまだサクマの中に入りっぱなしだったりするんだけど、悔しいが可愛いと思ってしまう笑顔を見て、正直きゅんってなった。股間が。
「ユウがね、嫌そうにしてなんだかんだ文句つけつつも最後にはちゃーんと僕の相手してくれて、僕のこと見てくれるのに、終わるとちょっとそっけなくなるのがね、とっても僕好みっていうか。なのに欲しい時にキスしてくれるし優しいし……なにより、ユウほど真面目な人ってなかなかいないんだよ? 僕、ユウ以外でこんなにちょくちょく姿見せてるヒトなんていないもの」
 言い訳をさせてもらうと、まあ約束とはいえ恋人でもない、どんなに可愛いとはいえ男相手にどんな顔して誘いに乗ればいいのか分からないし、あまり乗り気すぎてもどうなんだって気持ちがある。叶えてもらった願いの大きさとして。キスはその、最中、間が持たなくてついしてしまうのだ。蕩けたような顔をしているサクマと目が合うと、しないわけにもいかないような気がして。一度やると抵抗感が薄れたのも大きかった。サクマの身体は本当に股間以外は女の子みたいで、喘ぎ声なんかほんと可愛くて、キスするとサクマから懸命に舌を使って応えてくれるのが可愛い……というかなんというか、まあとにかく最中のサクマは可愛くてつい。
「その真面目を誑かしてるヤツがそれを言うな」
「約束守ってもらってるだけだもん」
 とはいえ、腐っても神様っていうのか、こいつはそういう俺の気持ちなんか全部見透かしてそうなのが余計にどんな顔をすればいいか分からない要因だ。最中はそんなこと考える暇もないけど、普段は別。
 悪びれもせず唇を尖らせたヤツの脇腹をくすぐるように揉んでやると、ひゃあ、と情けない声をあげてヤツは思い切り俺の萎えたナニを締め付けた。
「っ」
 一瞬だったからやり過ごせるとはいえ、この体勢での反撃は実質不可能かもしれない。
 そう思っていると、不意にサクマが俺の上で寝そべった。その拍子にサクマ中から俺のが抜ける。サクマは俺の乳首を舐めながらそっと朝一番の運動を終えたそこを揉み始めた。
「っ、あ、おい」
 その手つきは労わるようでいて、癒すようでいて、つまりまた俺のそこは元気になるわけで。
「ね……もう一回、シよ?」
 挙句可愛い顔で甘くおねだりをされ、俺ははっきりと股間が脈打ったのを感じた。だが、しかしだ。
「っ待て待て待て! 今日普通に学校あるっての! 今何時だよ!」
 正直魅力的な誘いではある。あるけど、日常生活に支障をきたすのは問題だ。そこまでギチギチした約束でもない。
 俺はサクマの手から自分の息子を庇いつつもがくと、ヤツはマイペースに笑った。
「大丈夫だって。まだ六時くらいだし……それに、簡易でも『巣』の中は夢のようなものだって言ったでしょ。時間の流れをゆっくりにするくらいできるし」
「つってもそれやりすぎると俺が一人だけ老けるんだろが」
「そんなにヤってないもん! 大体それ、時間早めた時だし……。ね、今のってむしろ遅くするならもっともっとシてもいいってこと?」
 もぞもぞと腰を動かして、股間をかばう俺の手の甲に芯の入ったヤツのモノが擦り付けられる。それ自体は硬いのに、他の肌や肉はすげえ柔らかくてエロいこと抜きにしても気持ちがいい。
「そういう話じゃねえって……っく、こっ……の、エロ魔人が……!」
「ええー? 嬉しいな、もっと言って?」
 まあやめないけど、という無慈悲な言葉を聞きながら、俺は俺の手ごと扱こうとするヤツの小さく柔らかい手に敗北した。丁寧に手を退かされ、ヤツが足を開いた俺の股の間に座って身を丸め、また勃ちかけてデカくなり始めた俺のを両手で包むように持つ。そして何度も愛おしそうにそこへキス。唇で噛むように愛撫されて、俺の息子は初々しくびくびくと震えた。
「ん……じゃあユウの美味しいお乳、もうちょっと貰うね」
「っ、ふ……ぁ」
 それだけでもかなりそそる光景っていうのもあって、言ってる卑猥な内容は平常時なら笑い飛ばせるのに、今はそれさえも俺のヤる気を刺激してきて全然馬鹿にできない。亀頭を舐めまわされ、キスがてら吸い付かれて腰が跳ねた。朝一番の搾りたてとかどんなだよと思うのに、俺の息子は正直にやる気を出して姿勢を正し始める。

 こんなヤツが側にいて彼女ができるのか。

 一点を除きその辺の女子よりも遥かに可愛いヤツの顔を見慣れすぎて、俺は目が肥えきっているような気がしてならない。何気無い風景を綺麗だと思うような、恋のときめきを逃しているように思えてならない。よしんば彼女ができたところで、こんな風に興奮できるのかも定かではない。
 もし。もしもだ。彼女が出来て、その子が好きなのにエッチが上手くいかなくて萎えたら……そう思うと、こうやって偶にでもサクマの相手になっているのはマズイことなんじゃないだろうかって偶に不安になる。俺は殆ど腰を振ってるだけだ。テクなんかない。なくたってこいつは全身が性感帯だとでも言うかのように、どこを触っても感じるから、こいつ相手に自分がテクがあるなんて全く思えない。
 この先ずっとこいつと比較することになるのかと思うと気が重い。最終的にこのセックスが忘れられなくてこいつを選んでしまうかもしれないのが怖い。なのに最中はそんなことは頭の隅に追いやられてしまう。それくらい気持ちいい。
「サクマ……オメー神様っていうより悪魔だろ……」
「!」
 悔しくて負け犬の遠吠えよろしくそんなことを吐き捨てると、当の本神ほんしんはぶすくれるどころか、俺の息子から唇を離すと余計に嬉々として笑い声を上げた。
「あは、やっぱりユウは最高だよ!」
 本心から喜んでいるような声と顔で、サクマはさっきよりも余程張り切って俺にフェラをしてきて、俺はその気持ち良さにされるがまま、起き抜けにもう一回搾り取られた。
 頼みの綱が原因の俺の切実なる悩みは当分、解消されそうにない。
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