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執事と侍従
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控えめなノック。どうぞ、と声をかければ失礼いたします、と男の声がして、部屋のドアが開かれた。
「白百合様、主人より仰せつかり参りました。本日よりこちらに控えております侍従が、あなた様の身の回りのお世話をいたします」
「お初にお目にかかります。ルゥと申します」
執事と一緒に入ってきたのは、小柄な少年と言った風情の、どちらかというと平凡顔の男だった。
「はじめまして、白百合と呼ばれております。どうぞよろしく」
軽く会釈すると、恐縮しきったようにルゥが「は、はい」と返事をする。
その様子を微笑ましく思いながら見ていると、同じく執事も優しげな目でルゥを見下ろし、それから俺を見て
「これでようやく白百合様をお磨きすることができるかと思うと、わたくし、大変嬉しいです」
にっこりと、嫌味ったらしいまでに綺麗に笑った。
元王子に男だとカミングアウトして一週間。『一応』俺が男だということを受け入れた元王子は執事に俺のことを話したらしく、起床とほぼ同時に部屋の中へ入ってくると、当たり障りのない朝の話もそこそこにこう言い放った。
「やっと主人より白百合様のご性別について伺いました。これで以前より手配しておりました世話役をつけることができます。皆心待ちにしておりましたゆえ、相応にお覚悟を」
……どうもこの執事、俺が男だってことは気づいていたらしい。使用人揃って元王子がいつ気づくかと見守ってたんだとか。いいのかそれで。
口調も改めなくて良いってことで、それは直ぐに変えた。
「……いつから気づいてた?」
「一目拝見しました時より」
あっさりと言われ、何とも言えない気分になる。
「よく黙ってたな」
「他でもない主人があなた様を見初められたのですから、何を申し上げることがございましょう」
執事は少しばかり笑みながら軽く目を伏せた。うーん、いや、でも、俺が言うのもなんだけどその辺は早いところ教えたやった方が傷は浅かったかもなあ。俺としてはありがたかったわけだけどさあ。
「そんなに誰も彼も気づいてたってんなら、なんであの人はわかんなかったんだろ」
「主人の目は節穴ですから」
「いいのかよ、んなこと言って」
「恋は盲目とかねてより申しますでしょう」
そらされた。あの元王子、侮られてるわけではないようだけど、使用人には随分可愛がられているようだ。普通逆だろ。
ともあれ、性別が『正式に』バレた俺は、自棄に息巻く執事の勢いに押される形で侍従がつくのを了承したのだった。
そうしてご対面した俺専任の侍従・ルゥは、外見は俺と同い年くらい。俺が男ってことは執事から聞いてたみたいだけど、それでも俺を見て感嘆のため息を漏らした。
「美しい方ですねえ」
「そうかな。ありがと」
「はい! 白百合様のお美しさが損なわれないよう、精一杯尽力いたします!」
「そんなに気合はいれなくていいけど」
お手柔らかに、と肩を竦めると、意外にも執事が声を上げた。
「なりません。この一年、わたくしどもがどれほどやきもきとさせられたか! お食事や入浴剤程度でしかお支えできなかったのですよ。これからは全力でもってお世話をさせていただきます」
「なんかそれ、疲れそうなんだけど」
「白百合様は主人の心を射止めた方。主人の命がなければもっと早くに押しかけているところです」
「それは悪かったよ。というか、男だってばれてたんなら別に侍従くらいはよかったけど」
「可能な限り白百合様のご要望を尊重するよう仰せつかりましたので」
ぱっと聞いた感じ元王子より俺のが優先順位が高いように思えるけど、もともと元王子の命令ありきってわけね。
目を伏せて軽く頭を下げた執事に、形はどうあれ根っこは敬われているようだと思う。使用人との距離が近いのかもしれない。人間の貴族の中にもいろんなのがいたけど、元王子は身分抜きに本人に人徳か人望があるタイプかな。偶に舐められてるやつとかいるんだけど、見下されているわけじゃなさそうだ。
「まあいいや、俺もここまで引っ張ったんだから、大人しく世話されることにする」
「ありがとうございます、では、ルゥ。あとはあなたが」
「はい! かしこまりました」
観念すると、執事に目配せされたルゥは元気良く礼をとると、俺に微笑んだ。
「ではまずは湯あみをいたしましょう」
******
元気いっぱいという感じで好ましいな、と思ってた自分を殴りつけてやりたい。
女嫌いの元王子が女中頭は勿論、侍女や女中に至るまで全て雇わず、男所帯でまとめているというのはバトラーに聞いた。だから女じゃないのは別にいい。多分、女中でも同じ展開になっていただろうことは想像に難くない。
問題は、『全力のお世話』を俺が舐めてたってことだ。
ルゥの言う湯あみは薬湯に浸かることで、その後最高級の石鹸で全身くまなく洗われ、もう一度湯船の中に放り込まれ、やっとでれたと思ったら体を拭かれ、髪には香油で艶出しをして、美容に良いらしい油を塗りたくられて全身マッサージというコースを辿らされた。
やられているだけの俺はまだいい。これをやる側は全てルゥ一人だ。それなのにルゥの体力は尽きるどころか溢れ出てくるようで、俺はそれ用のベッドにうつ伏せになって、揉みくちゃにされながら唸り声を上げた。
「物の怪ってみんなルゥみたく体力あるのか?」
「いいえ、個々によって異なりますよ」
「……人間と比べてそもそもが違うとか」
「そんなことはないです。物の怪でもヒトより弱い者はおります」
じゃあやっぱりルゥの体力が凄いのか、と呟くと、少し笑を含んだ声が降ってきた。
「ここはお館様のお屋敷ですから。お館様のお力が凄いのです」
なんでも、物の怪の世界では主従関係を結ぶと一種の契約が成立するらしく、雇い主の力が大きければ大きいほど従者はその力の恩恵を受けることができ、能力が向上するのだとか。すでにある程度の力がある物の怪は誰かの下につくということを本能的に厭うらしく、強い者が固まることもないそうだ。
「ふうん。龍の血ってそれだけ凄いんだな」
「ええ。そしてその中でも特に血の影響を受けてらしたお館様の好い人が白百合様なのです。ですから、執事をはじめこの屋敷の者は皆、白百合様のことが大切なのです」
「そこまでのことなんだ」
「はい。お館様は特に美しいものに対して妥協なさらない方ですので」
「……物の怪的にも俺ってそんな綺麗なの?」
美的感覚が似通っているのは、今回に限っては良かった。これで俺が物の怪的不細工とかだったらもう目も当てられなかった。
自然と湧き上がった疑問を口にすると、ルゥは少し言い淀んだ。
「我々の美的感覚というのは、おそらくはヒトとは少し異なるものかと」
「? どういう意味だ?」
「申し訳ありません。上手くご説明できず……ただ、ヒトの言うところの外見の美醜は、我々にとっては二の次なのです。まあ、お館様が面食いであるというのは否定いたしませんが」
「むしろそこを否定すべきだろ」
「お館様は鋭い審美眼をお持ちですので、自然、そうなるのです」
それってあんまり褒められることでもなくね? という言葉はなんとか飲み込んだ。飲み込めたのは、ルゥが俺の尻の間に手を突っ込んできたからだ。
「ちょわ!?」
「あ、申し訳ございません。急でしたか?」
からっと言う割に、手は執拗に尻を揉んでくる。時折尻の割れ目を指が滑り、アナルに指の腹がほんの僅かに喰い込んだ。
「ルゥっ お前何してんだ!」
「何とおっしゃられても……マッサージですが?」
「あのな、これはマッサージって言わねえよ」
「? 性感マッサージ……なので、合っておりますが」
「は!?」
身体をよじろうとしても、ルゥの手は思いのほか力強く俺の身体をベッドへ固定していて敵わない。そんなこと一言も聞いてねえけど、と顔をしかめつつ抗議すると、ルゥが満面の笑みを浮かべるのが横目に見えた。
「白百合様の懸念もようやくなくなったことですし。これから先いつお館様と愛し合われるか分からないでしょう? マッサージもですが、こちらの手入れも毎日欠かさぬ方がよいと思われますが」
「こちらのって、っ!?」
にゅる、とアナルの中に何かが入ってくる。寝ころんでるからそんなに開いてるはずがないのに、『何か』は隙間から入ってくるようだった。
「な、なに、やって」
「指を入れております」
「指!? 絶対違えだろ! んっ!」
ぞわ、とナカが疼く。その間にもルゥは変わらない声色で俺に語りかけながら『指』とやらを入れてくる。
「これは間違いなく僕の指でございますよ。僕も物の怪ですから。執事もですが、皆、白百合様にお目見えする際には人間に化けているのです」
「っ……う、…ぁっ」
にゅるにゅるしたものがアナルの中を入っていく。なのにイイトコロを擦られるときは妙にはっきりとある程度の硬いものだという感覚があって、さらに時折出ていくような動きに排泄感まで出始める始末。
「はっ……、くぅ、ん……っ」
「お加減はいかがですか? ご気分がすぐれないようでしたらすぐ仰ってください」
俺が悶えているのを見下ろして、ルゥは呑気にそんなことを言ってくる。どんな状態かなんて俺より分かってるだろうに。ルゥは全く手を緩めずに中を這いまわる。その感触はなんていうか、人間相手では味わえないものだし、人間じゃとても無理だ。こんなのは知らない。ジェルだとか軟膏だとかを塗り込むにしても指が無ければ無理だし、舌でもない。
「っやめ……」
「申し訳ありませんが、執事より言い含められておりますので。大丈夫です。僕、汚物処理が得意なんです。スライムってご存知ですか? ほぼどこにでもいる物の怪ですが、悪食で有名なのです。何でも食べてしまいますからね」
「ん、ふ」
にゅるる、とナカでナニカが動く。それに合わせてイイトコロが刺激されて、ぶるりと身体が震えた。
嫌でも感じさせられて、主導権を握られることは今までそう無かった。大体は頭のどこかは常に冷静だったし、相手を喜ばせるのが仕事だったから、自分が先に快楽に溺れるような真似はしないように、それだけは気を付けてきた。
なのに、そんな今までの経験が無意味に感じられるほど水のように沁みこんでくる快感に身を委ねてしまいたくなる。
それが耐えられなくて、俺は肘と膝に力を込めて身を起こした。
「っ、ルゥ、分かったから変に解すのをやめ……っ!?」
「ああ、折角ですから前の方も綺麗にいたしましょう」
「あ」
俯せからある意味無防備になった俺のペニスに、ルゥの『指』が絡みつく。目で見ると、確かにルゥの右手が途中から透明になり、俺の股座を覆っていた。それは俺が抵抗する間も無く蠢いて、甘ささえ感じるそれに膝の力が抜けてへたり込んでしまう。
「はっ……あ、……っ」
「大丈夫ですか? 危ないですから、お支えいたしますね」
背中にルゥの体温が広がった。もたれるようにとそっと人間の手のままの左腕で引き寄せられ、途切れない静かな快感に抗えないでいる俺はされるがままになるより他なかった。
「後ろはそろそろ食べ終わりそうですよ。前も綺麗にしますね」
「んっ……」
鈴口から尿道を通ってルゥが入ってくる。異物挿入経験はなくはないけど、痛みがないのには驚いた。下手くそだと痛くなるから大体は自分のペースでやって見せてたんだけど、結構怖いからあんまり奥まで入れたことは無い。
『指』が入っていってしばらく。深い所で快感が走った。
「んあ、ぁっ」
奥から突かれたところに近い気がする。俺の身体の奥にイイトコロの塊があって、それを前と後ろ両方から弄られてるような感じ。前から弄られて思わずケツに力を入れるんだけど、そうするとナカが締まって、アナルから弄られてるのがはっきり分かってしまって落ち着かない。
「ここがよろしいですか? ではこのあたりで」
ルゥは言って、どういう仕組みなのかはさっぱりわからないものの『指』を動かし始めた。
「んっ あ、……あっ、ふ……っんぅ」
にゅるにゅるとペニスから入っていった蠢くものが、ナカのイイトコロを撫でつけて、擦って、寒風摩擦するみたいに出たり入ったりする。射精感が何回もやってきて、ナカが動くのに合わせて腰が前後に動いた。
「な、んだ、これっ」
気持ちいい。すごく気持ちが良い。イってないのにイった時くらい気持ちよくて、同時にアナルからもくすぐるような刺激が来て、理解が追い付かない。
直ぐに息が上がって、込み上げてくる快感に飲み込まれ、翻弄されてみたい衝動に駆られた。
「っあ、……あっ……っあ、はぁ……んっ、るぅ、る、あ、……あ、あ、ああ、あ!」
ペニスを扱かれてるわけじゃないのに、何度も何度もイク時の感覚が走る。早さもゆっくりと抜き差しされてるようなのから徐々に小刻みなものに変わり、腰がびくびくと跳ねた。アナルのナカはまるでイイトコロを掌全体で押し付けるように撫でまわされてるみたいで、逃げ場もなかった。
「も、あ、で、るっ、イっ……く、ぅ……!」
気づけばルゥの服を肩越しに強く掴んでいた。出したい、という欲求のままに射精して、ルゥの『指』が入ったままなのにあっさりと放つ感覚を不思議に思う。どくん、どくんと脈打つペニスから、ルゥの『指』伝いに精液が出てくる。……いや、吸い出されてるのか? 水の中を漂うようなそれは、直ぐにルゥの身体の中に溶けて消えた。
「いっぱい出ましたね」
楽しそうな、嬉しそうなルゥの声が耳元で響く。ゆるゆるとルゥの指に股座を揉み解されて、風呂に入った時に似た気持ちよさに大きな吐息が漏れた。イったことで身体中の筋肉が弛緩する。一気に一晩やりっぱなしだったかと思うほどの疲労感に包まれた俺は、ルゥのうっとりとした声を聞きながら瞼を閉じた。
「本当に……お美しい方なんですね。この程度では少しも穢れない。僕、とっても嬉しいです。ごちそうさまでした」
ふ、と水の中から浮かび上がるような感覚。
目を覚ました俺は、ゆっくり身を起こした。辺りはそろそろ夕暮れかという頃合で、見慣れた部屋の中に差し込む光は赤みを帯びていた。……身体が軽い。服もきちんと着せられてるし、あれからルゥが全部やってくれたんだろう。
「お目覚めですか」
声を掛けられ目を向けると、執事が部屋へ入ってくるところだった。
「俺、寝てたのか」
「ええ。ルゥはいかがでしたか?」
「……やる気ありすぎ」
いろいろ、というのは心の中でだけ付け足して、俺は伸びをしてベッドに腰掛けた。
執事は少し首を傾げ、問う。
「御気分を害されてしまいましたでしょうか」
「いや、むしろ逆だよ。すげー気持ちよかった。つか、気持ちよすぎ。なにあれ」
即答すると、執事は安心したように表情を緩めて「それはようございました」と持っていたトレイからお茶をくれた。ソーサーごと手に取って、唇を濡らす。するりと咽喉を通って行ったそれは仄かに甘く、花の香りがした。
「白百合様が眠ってしまわれたと気落ちしておりましたので、そう仰っていただけると喜ぶでしょう」
「ん。……あ、そうだ、聞きたいことがあったんだけど」
「はい」
「物の怪の美的感覚って人間とは違うんだろ? そりゃ、人間からは『見目麗しい』で選ばれたけどさ、ホントよくあの人の前に通される前に殺されなかったよな。あんたらから見ても俺ってそんなに綺麗なのか? あの人のお眼鏡に叶うだろうと思うくらい?」
直前までルゥとしていた話を執事に振ると、執事は意味ありげに沈黙し、それから口を開いた。
「わたくしども物の怪の中には、肉体よりも魂を見る者も多数おりまして。その点において白百合様は大変……お美しい方でしたので」
「へえ」
魂っていうからには性格とかそういうのじゃねーんだろな。それで行くと俺はそんなによくもねえし。
くい、とお茶を煽って執事へ返す。それを受け取りながら、執事は少し笑んだ。
「もっとも、白百合様の場合は肉体の方も類稀なるものをお持ちでしたが……」
「あ、今日すげえ気合入れてルゥに揉まれたりしたんだけど、あれあんたの差し金なんだって? あの人に言われたの?」
「いいえ、それに関しましてはわたくしの独断でございます」
言って、執事はカップの乗ったトレイを一旦サイドテーブルに置くと、軽く会釈をした。
「ふーん? なんでまた」
「わたくしも美しいものが大好きなのです」
聞いたのは完全に流れというか、なんとなくだった。
それを満面の笑みで答えられ、俺の方が何とも言えず言葉に詰まる。
「俺の見てくれが?」
「白百合様におかれましては中身も含めて、になりますね」
「……あの人は俺の魂とやらに惹かれてるってことか?」
「龍の血は非常に本能的なものでもありますので、わたくしにも分かりません。美醜で反応するものでもないと伺っております」
「つまり、ほんとにたまたまってことね」
外見がよく無けりゃ出会うこともなかったし、本来は俺の魂とやらが綺麗でも汚くてもどっちでも良かったと。んで? 上手いこと俺の外見が元王子の合格ラインで? さらに血の方も反応してくれちゃったと。ホントめんどくせえな龍の血って。
「ええ。血と当人の好みが合致しないことも多々あったようでして……それ故に主人と白百合様について、運命的である、と申す者も少なくありません」
「それってあんた?」
執事が微笑むから、俺はそう聞いてみた。
「いいえ。物の怪は本能や欲求に素直な者が多いのですが、わたくしもそうなのです。どちらかと言えばルゥと同族でしょうか」
「……悪食?」
「あれほどではございませんし、わたくしは選り好みいたしますよ。……そうですね、食に関して、少々享楽的、とでも申しましょうか」
執事は蠱惑的に唇を歪めると、そっと俺に近づいた。
「ルゥは確かに悪食でございますが、あれは白百合様の魂を美しいものとして捉えております。それは芸術品を見る類のもの。わたくしの場合、魂とは頂く……食すものなのです」
「ふうん? 俺って美味そう?」
「ええ、それはもう。極上の美酒のごとく」
蕩ける様な顔をされ、いかにも『食べたい』と言わんばかりの執事に苦笑が漏れた。
「んじゃ、ちょっと舐めるぐらいする?」
提案をすると、執事の目が丸く見開かれた。
「よろしいのですか?」
「痛いとか死ぬとかは嫌だし、それで俺とかあんたがあの人に怒られて酷い目にあうんじゃないなら、舐めるくらいは。ってか、魂とかどうやって食うんだ?」
俺は元王子に引きとめられて此処にいるものの、物の怪の世界でなにか役割があったりするわけじゃない。客人と言えば聞こえはいいかもしれないが、正直ただの穀潰しだ。今まで男娼と言えどきっちり仕事して生きてきた分、こういうぬるま湯に浸かってるような生活ってのは逆に据わりが悪い。誰にも気兼ねしたくないんだ。致命的な衝突を回避して、男としていることを許された以上は、特に。
掻い摘んでそう告げると、執事は気にすることは無いと言いながらも俺の前で膝をついた。
「食べる、と言いましても、私の場合は……言葉は悪いかもしれませんが、口に含みその味を堪能するのです」
「そのまま飲み込んだりは?」
「いたしません。それ程そそられるものがなかったというのもありますが、そのような稀有な存在に出会い欲求の赴くまま飲み込んでしまえば、逆にもう二度とそれを味わうことは叶わないでしょう? 既に気づかれておいででしょうが、飲み込むというのはその者の死を意味しますから」
確かに。
納得して、まあ俺が死んだり酷い目に遭ったり、お互いが叱られたりすることがないのを確認して先を促す。
「では、御手を失礼いたします」
執事は俺の両手をそっと握った。目が合い、そのまま目を逸らさないように言われる。
「瞬きはしても結構です。呼吸を合せてください。……では、吸って……吐いて……」
指示に従って深呼吸を繰り返す。次第に執事も無言になり、俺はじっと、執事の目を見つめながら呼吸が揃うよう努めた。
吸って、吐いて、吸って、吐いて。
何度も何度も繰り返していく内に、息を思い切り吸い込むと急にぞわぞわと足からなにかが這い上がってくる感覚に見舞われた。快感に似ている。けど皮膚の表面を駆け上がったそれはそのまま頭の先へたどり着くと、そのまま消えていった。
「いいですね……随分合って参りました。あまり合いすぎてもいけませんので、この辺で呼吸は楽にしていただいて結構ですよ」
落ち着いた声の通りに意識していた呼吸を自然のものへ直す。しばらくして、急にまた快感が身体の中を這いあがってきた。
「……ふぁ……っ」
思わず声が漏れる。股間の辺りにむずむずとした感覚が生まれて、ペニスが勃ちかけてるのが分かった。
「いいですよ……そのまま……抗おうとはなさらずに……はい、ではそのままゆっくり、上半身を倒してください。横になって、楽に構えて」
手を取られたまま、そっとベッドへと押しやられる。足はベッドの外へ投げ出したまま沈み込む。執事は俺と目を合わせたまま立ち上がり、同じように上半身をこっちに倒してくる。
「そうです。……では参りますよ。我慢できないようでしたら声は出していただいて構いません」
「あぁっ!」
言うや否や、また身体の内側を快感が駆け巡る。
外ならわかる。鳥肌が立つのと同じだ。でもこれは違う。身体の内側全てが性感帯になったみたいだ。それを撫でられてるみたいな感じ。足の先から頭の先まで。ねぶられてるみたいだ。暖かい。足の裏がジンジンする。ペニスは触られていないのに揉まれてるみたいに気持ちいいし、腹も脇も首も、耳も、頭の中まで愛撫されてるみたいな。
「ふっ、ああっ……あっ」
ゾクゾクするのが止まらない。執事の目はひたすらに落ち着いているのに、俺だけが乱れている。乱されている。
「大丈夫ですよ。心配なさらないでください。イってしまっても結構ですし……ああ、しかし折角綺麗になられたのですから、汚れてしまうのはいけませんね。僭越ながら、わたくしがお世話をさせていただきます」
「あっ、あ!」
頬を一撫でされ、視線と手が外れる。なのに身体の内側を這うような快感は止まらなかった。浮遊感も相俟って落ち着かなくなり、掴むものを探してシーツに指を引っかける。
快感は波のように下から上へ流れ、かと思えば股間の辺りでぐるぐるとまわる。その渦の中心を物理的な刺激が襲い、俺は思わず腰を突き上げた。
「はっ、ん……! あぁっ、あ、あんんっ」
ぢゅぷ、と音が聞こえ、目をやると執事が俺のペニスを深く咥えながら頭を動かしているのが見えた。口の中は柔らかくて暖かくて、ぬるぬるしていてたまらない。その上舌が絡みついて、時折すっと吸われて射精感を寸前まで引き出される。
「あぁんっ……ぁ、……っ、ぁん……」
執事の動きに合わせて腰を動かす。ゆっくりなのに確実に快感は強まって、次第に波のようだと思ったその動きがペニスの方へ集まってきて、大きな渦になって、それがぎゅっと縮んで鋭い流れを生み出した。
「っあ、もう、……っ、も、あっ、いく、イくっ……!」
気持ちよくて、思うままに腰を振る。執事は俺の動きに合わせて、カリを唇で締めつけながら亀頭を舌で舐めまわし、サオは手コキに変えて強く扱きあげた。
「んんんっ、……あっ、ああああ!」
体の内側の大きな流れは、射精と共にペニスの先端から外へ出ていくようだった。射精と同時に漏らしたような妙な感覚に、なんとなく恥ずかしさがこみあげてくる。……どんな理由でも、この歳でしょんべん漏らすって大分恥ずかしいだろ? そういうプレイ内容じゃあるまいし。
「っは、はぁっ……っ……は、……はあっ……あっ、ん」
執事は俺が出した精液をこぼすことなく飲み込んで、その上で丁寧にしゃぶって俺のペニスを掃除をした。最後には、ちゅっと音を立てて鈴口に吸い付いて、離れる。その舌が唇を舐め、てらてらと光るそこに目を奪われた。
「大変美味でございました。やはり白百合様は素晴らしくていらっしゃる」
「……そりゃ……どーも……」
今までにない快感に夢中になりかけること、二回。幸いどっちもねちっこい方ではなかったから、まだぐずぐずになぶられずに済んだって感じだ。不本意だし、あんま面白くねえけど気持ちよかったのは確かだ。
「物の怪って精液飲んでも平気なのか? 苦くない?」
荒くなった息を整えつつ、平然としている執事に聞いてみる。まさか精液が美味かったってことは無いだろう。
「以前よりお食事はわたくしどもにお任せいただいておりましたから、ある程度は調整できますので」
「へえ」
初耳。てっきり人によって違うもんだと思ってたわ。
感心すると同時にぼうっとしていた頭が冴えてくる。俺は執事の股間を指差して訊ねた。
「あんたのおっ勃ってるソレ、収めなくていいの? 俺やろうか?」
「ふふ、ありがとうございます。ですが、白百合様のお手を煩わせるわけにはまいりません。お見苦しいものをお見せしました。美味を堪能致しますとどうしても反応してしまい……いけないとは思いつつもなかなか自制するのも難しいのです」
「まあ……なあ」
気持ちは分からんでもない。にしても食いながら勃起ってすげー器用だ。
でもまあ、執事も満足したようでよかった。ひっそりと俺のこと気に食わねえ奴とか思われてたら嫌だしなあ。
抜くにしても何にしても早い方が良いだろうと退室を促す。
「それでは夕餉が出来ましたらまた御呼びいたします」
「了解。ちょっと俺、もっかい寝てるかも。寝てたら起こして。飯は食いたいから」
「かしこまりました。ごゆっくりお休みくださいませ」
トレイを持って出て行った執事を見送って、ベッドへ突っ伏す。あーあ、なんか良いように翻弄された気がする。まだ元王子には何もされてないのになあ。
……ん? 元王子より先にこんなことしてもよかったのか? でももたついてる方が悪いよな。それはあっちの都合ってか、勝手なわけだし。
俺はぐるぐると自己弁護を済ませると、また目を閉じた。……なんか疲れやすくなってる気がする。体力落ちたかもしれない。やだなー。元王子に頼んでちょっとくらいの散策は許してもらうか。
「……り、白百合」
「ん……」
身体を優しく揺らされて目を開けた。伸びをして、俺に覆いかぶさる男を見遣る。
「おかえり」
「ああ、戻った。体調はどうだ?」
「悪くないよ。元気」
「そうか。夕餉の支度が整ったようだ」
「ん」
元王子と一緒に上半身を起こすと、肩に腕を回され、もう片方の手の甲で頬を撫でられた。
「なに?」
「いや」
見上げると、元王子は穏やかな表情で俺を見下ろしてくる。その口元は薄らと笑みを形作っていて、柔らかい。じっとしていると、頬を撫でていた手が下へ滑り、下唇に触れた。太くて長い指がそのまま唇の端から端へ移動する。その仕草にどうしてかドキリとした。
ふと顎で手が止まり、おもむろに元王子の顔が近づいてくる。距離が縮まるにつれゆっくりと瞼を閉じて、来たるべき感触に備える。重なった唇は柔らかくて、触れ合っただけなのに下腹部が甘く疼く。腰から下が蕩けそうだ、と思った。
そっと離れていく熱に薄目を開ける。額をぴったり重ねて、至近距離で元王子のべっこう飴みたいな目に捕らわれた。その瞳が俺を映しているのが分かる。また少し、胸が跳ねる。と、その双眸が細められた。ほぼ同時に猫にするように顎をくすぐられて、思わず声を上げた。
「ぁ、っひゃ」
ぞくん! と気持ちいいのが腰元に落ちてきた。うっかり喘ぎ声みたいなのを出しかけて、慌てて取り繕う。それが元王子にはどう見えたのか、くつくつと肩を揺らし、咽喉仏が動いているのが見えた。
「な、んだよ。そんなに笑うことねーだろ」
「いや、すまぬ。しかし少しくらいは溜飲が下がったかな」
「は?」
「あからさまに使用人に嫉妬を見せて当り散らすのも格好が悪いだろう」
言われ、首を傾げる。
何の話だと聞こうとして、昼間のことかと思い至った。つーか、それしかないか。執事が報告でもしたのかな。
「妬いたんだ」
「当然だ」
言う割に不機嫌そうには見えないが、急にキスをしてきたのはつまりそういうことなんだろう。いつもは鬱陶しいくらい確認を取ってくるのに。うーん。やっぱ、ちょっと罪悪感。
「謝った方が良い?」
「いいや。そなたが不自由でなければ、それが一番よい」
穏やかに言い切られて、調子が狂う。なんだ、いつもみたいに躍起になってくれれば謝るのも簡単だったのにな。
肩に回されていた手が俺の後頭部を優しく撫でる。見上げると、しっかりと目が合った。逸らせず、食い入るように見つめる。――そこに何を見出そうとしていたのか、俺自身にもよく分からない。ただ、目は直ぐに逸らされてしまって何もわからなかった。
「さて、夕餉だ。腹加減はどうだ」
「寝てばっかだったけどすげー減ってる」
手を取られ、ベッドから降りて立ち上がる。声色はいつもと変わらないように思えるのに、そこに甘さが感じられないのは俺の方に原因があるんだろうか。
ちくりと、胸に針が刺さった気がした。
「白百合様、主人より仰せつかり参りました。本日よりこちらに控えております侍従が、あなた様の身の回りのお世話をいたします」
「お初にお目にかかります。ルゥと申します」
執事と一緒に入ってきたのは、小柄な少年と言った風情の、どちらかというと平凡顔の男だった。
「はじめまして、白百合と呼ばれております。どうぞよろしく」
軽く会釈すると、恐縮しきったようにルゥが「は、はい」と返事をする。
その様子を微笑ましく思いながら見ていると、同じく執事も優しげな目でルゥを見下ろし、それから俺を見て
「これでようやく白百合様をお磨きすることができるかと思うと、わたくし、大変嬉しいです」
にっこりと、嫌味ったらしいまでに綺麗に笑った。
元王子に男だとカミングアウトして一週間。『一応』俺が男だということを受け入れた元王子は執事に俺のことを話したらしく、起床とほぼ同時に部屋の中へ入ってくると、当たり障りのない朝の話もそこそこにこう言い放った。
「やっと主人より白百合様のご性別について伺いました。これで以前より手配しておりました世話役をつけることができます。皆心待ちにしておりましたゆえ、相応にお覚悟を」
……どうもこの執事、俺が男だってことは気づいていたらしい。使用人揃って元王子がいつ気づくかと見守ってたんだとか。いいのかそれで。
口調も改めなくて良いってことで、それは直ぐに変えた。
「……いつから気づいてた?」
「一目拝見しました時より」
あっさりと言われ、何とも言えない気分になる。
「よく黙ってたな」
「他でもない主人があなた様を見初められたのですから、何を申し上げることがございましょう」
執事は少しばかり笑みながら軽く目を伏せた。うーん、いや、でも、俺が言うのもなんだけどその辺は早いところ教えたやった方が傷は浅かったかもなあ。俺としてはありがたかったわけだけどさあ。
「そんなに誰も彼も気づいてたってんなら、なんであの人はわかんなかったんだろ」
「主人の目は節穴ですから」
「いいのかよ、んなこと言って」
「恋は盲目とかねてより申しますでしょう」
そらされた。あの元王子、侮られてるわけではないようだけど、使用人には随分可愛がられているようだ。普通逆だろ。
ともあれ、性別が『正式に』バレた俺は、自棄に息巻く執事の勢いに押される形で侍従がつくのを了承したのだった。
そうしてご対面した俺専任の侍従・ルゥは、外見は俺と同い年くらい。俺が男ってことは執事から聞いてたみたいだけど、それでも俺を見て感嘆のため息を漏らした。
「美しい方ですねえ」
「そうかな。ありがと」
「はい! 白百合様のお美しさが損なわれないよう、精一杯尽力いたします!」
「そんなに気合はいれなくていいけど」
お手柔らかに、と肩を竦めると、意外にも執事が声を上げた。
「なりません。この一年、わたくしどもがどれほどやきもきとさせられたか! お食事や入浴剤程度でしかお支えできなかったのですよ。これからは全力でもってお世話をさせていただきます」
「なんかそれ、疲れそうなんだけど」
「白百合様は主人の心を射止めた方。主人の命がなければもっと早くに押しかけているところです」
「それは悪かったよ。というか、男だってばれてたんなら別に侍従くらいはよかったけど」
「可能な限り白百合様のご要望を尊重するよう仰せつかりましたので」
ぱっと聞いた感じ元王子より俺のが優先順位が高いように思えるけど、もともと元王子の命令ありきってわけね。
目を伏せて軽く頭を下げた執事に、形はどうあれ根っこは敬われているようだと思う。使用人との距離が近いのかもしれない。人間の貴族の中にもいろんなのがいたけど、元王子は身分抜きに本人に人徳か人望があるタイプかな。偶に舐められてるやつとかいるんだけど、見下されているわけじゃなさそうだ。
「まあいいや、俺もここまで引っ張ったんだから、大人しく世話されることにする」
「ありがとうございます、では、ルゥ。あとはあなたが」
「はい! かしこまりました」
観念すると、執事に目配せされたルゥは元気良く礼をとると、俺に微笑んだ。
「ではまずは湯あみをいたしましょう」
******
元気いっぱいという感じで好ましいな、と思ってた自分を殴りつけてやりたい。
女嫌いの元王子が女中頭は勿論、侍女や女中に至るまで全て雇わず、男所帯でまとめているというのはバトラーに聞いた。だから女じゃないのは別にいい。多分、女中でも同じ展開になっていただろうことは想像に難くない。
問題は、『全力のお世話』を俺が舐めてたってことだ。
ルゥの言う湯あみは薬湯に浸かることで、その後最高級の石鹸で全身くまなく洗われ、もう一度湯船の中に放り込まれ、やっとでれたと思ったら体を拭かれ、髪には香油で艶出しをして、美容に良いらしい油を塗りたくられて全身マッサージというコースを辿らされた。
やられているだけの俺はまだいい。これをやる側は全てルゥ一人だ。それなのにルゥの体力は尽きるどころか溢れ出てくるようで、俺はそれ用のベッドにうつ伏せになって、揉みくちゃにされながら唸り声を上げた。
「物の怪ってみんなルゥみたく体力あるのか?」
「いいえ、個々によって異なりますよ」
「……人間と比べてそもそもが違うとか」
「そんなことはないです。物の怪でもヒトより弱い者はおります」
じゃあやっぱりルゥの体力が凄いのか、と呟くと、少し笑を含んだ声が降ってきた。
「ここはお館様のお屋敷ですから。お館様のお力が凄いのです」
なんでも、物の怪の世界では主従関係を結ぶと一種の契約が成立するらしく、雇い主の力が大きければ大きいほど従者はその力の恩恵を受けることができ、能力が向上するのだとか。すでにある程度の力がある物の怪は誰かの下につくということを本能的に厭うらしく、強い者が固まることもないそうだ。
「ふうん。龍の血ってそれだけ凄いんだな」
「ええ。そしてその中でも特に血の影響を受けてらしたお館様の好い人が白百合様なのです。ですから、執事をはじめこの屋敷の者は皆、白百合様のことが大切なのです」
「そこまでのことなんだ」
「はい。お館様は特に美しいものに対して妥協なさらない方ですので」
「……物の怪的にも俺ってそんな綺麗なの?」
美的感覚が似通っているのは、今回に限っては良かった。これで俺が物の怪的不細工とかだったらもう目も当てられなかった。
自然と湧き上がった疑問を口にすると、ルゥは少し言い淀んだ。
「我々の美的感覚というのは、おそらくはヒトとは少し異なるものかと」
「? どういう意味だ?」
「申し訳ありません。上手くご説明できず……ただ、ヒトの言うところの外見の美醜は、我々にとっては二の次なのです。まあ、お館様が面食いであるというのは否定いたしませんが」
「むしろそこを否定すべきだろ」
「お館様は鋭い審美眼をお持ちですので、自然、そうなるのです」
それってあんまり褒められることでもなくね? という言葉はなんとか飲み込んだ。飲み込めたのは、ルゥが俺の尻の間に手を突っ込んできたからだ。
「ちょわ!?」
「あ、申し訳ございません。急でしたか?」
からっと言う割に、手は執拗に尻を揉んでくる。時折尻の割れ目を指が滑り、アナルに指の腹がほんの僅かに喰い込んだ。
「ルゥっ お前何してんだ!」
「何とおっしゃられても……マッサージですが?」
「あのな、これはマッサージって言わねえよ」
「? 性感マッサージ……なので、合っておりますが」
「は!?」
身体をよじろうとしても、ルゥの手は思いのほか力強く俺の身体をベッドへ固定していて敵わない。そんなこと一言も聞いてねえけど、と顔をしかめつつ抗議すると、ルゥが満面の笑みを浮かべるのが横目に見えた。
「白百合様の懸念もようやくなくなったことですし。これから先いつお館様と愛し合われるか分からないでしょう? マッサージもですが、こちらの手入れも毎日欠かさぬ方がよいと思われますが」
「こちらのって、っ!?」
にゅる、とアナルの中に何かが入ってくる。寝ころんでるからそんなに開いてるはずがないのに、『何か』は隙間から入ってくるようだった。
「な、なに、やって」
「指を入れております」
「指!? 絶対違えだろ! んっ!」
ぞわ、とナカが疼く。その間にもルゥは変わらない声色で俺に語りかけながら『指』とやらを入れてくる。
「これは間違いなく僕の指でございますよ。僕も物の怪ですから。執事もですが、皆、白百合様にお目見えする際には人間に化けているのです」
「っ……う、…ぁっ」
にゅるにゅるしたものがアナルの中を入っていく。なのにイイトコロを擦られるときは妙にはっきりとある程度の硬いものだという感覚があって、さらに時折出ていくような動きに排泄感まで出始める始末。
「はっ……、くぅ、ん……っ」
「お加減はいかがですか? ご気分がすぐれないようでしたらすぐ仰ってください」
俺が悶えているのを見下ろして、ルゥは呑気にそんなことを言ってくる。どんな状態かなんて俺より分かってるだろうに。ルゥは全く手を緩めずに中を這いまわる。その感触はなんていうか、人間相手では味わえないものだし、人間じゃとても無理だ。こんなのは知らない。ジェルだとか軟膏だとかを塗り込むにしても指が無ければ無理だし、舌でもない。
「っやめ……」
「申し訳ありませんが、執事より言い含められておりますので。大丈夫です。僕、汚物処理が得意なんです。スライムってご存知ですか? ほぼどこにでもいる物の怪ですが、悪食で有名なのです。何でも食べてしまいますからね」
「ん、ふ」
にゅるる、とナカでナニカが動く。それに合わせてイイトコロが刺激されて、ぶるりと身体が震えた。
嫌でも感じさせられて、主導権を握られることは今までそう無かった。大体は頭のどこかは常に冷静だったし、相手を喜ばせるのが仕事だったから、自分が先に快楽に溺れるような真似はしないように、それだけは気を付けてきた。
なのに、そんな今までの経験が無意味に感じられるほど水のように沁みこんでくる快感に身を委ねてしまいたくなる。
それが耐えられなくて、俺は肘と膝に力を込めて身を起こした。
「っ、ルゥ、分かったから変に解すのをやめ……っ!?」
「ああ、折角ですから前の方も綺麗にいたしましょう」
「あ」
俯せからある意味無防備になった俺のペニスに、ルゥの『指』が絡みつく。目で見ると、確かにルゥの右手が途中から透明になり、俺の股座を覆っていた。それは俺が抵抗する間も無く蠢いて、甘ささえ感じるそれに膝の力が抜けてへたり込んでしまう。
「はっ……あ、……っ」
「大丈夫ですか? 危ないですから、お支えいたしますね」
背中にルゥの体温が広がった。もたれるようにとそっと人間の手のままの左腕で引き寄せられ、途切れない静かな快感に抗えないでいる俺はされるがままになるより他なかった。
「後ろはそろそろ食べ終わりそうですよ。前も綺麗にしますね」
「んっ……」
鈴口から尿道を通ってルゥが入ってくる。異物挿入経験はなくはないけど、痛みがないのには驚いた。下手くそだと痛くなるから大体は自分のペースでやって見せてたんだけど、結構怖いからあんまり奥まで入れたことは無い。
『指』が入っていってしばらく。深い所で快感が走った。
「んあ、ぁっ」
奥から突かれたところに近い気がする。俺の身体の奥にイイトコロの塊があって、それを前と後ろ両方から弄られてるような感じ。前から弄られて思わずケツに力を入れるんだけど、そうするとナカが締まって、アナルから弄られてるのがはっきり分かってしまって落ち着かない。
「ここがよろしいですか? ではこのあたりで」
ルゥは言って、どういう仕組みなのかはさっぱりわからないものの『指』を動かし始めた。
「んっ あ、……あっ、ふ……っんぅ」
にゅるにゅるとペニスから入っていった蠢くものが、ナカのイイトコロを撫でつけて、擦って、寒風摩擦するみたいに出たり入ったりする。射精感が何回もやってきて、ナカが動くのに合わせて腰が前後に動いた。
「な、んだ、これっ」
気持ちいい。すごく気持ちが良い。イってないのにイった時くらい気持ちよくて、同時にアナルからもくすぐるような刺激が来て、理解が追い付かない。
直ぐに息が上がって、込み上げてくる快感に飲み込まれ、翻弄されてみたい衝動に駆られた。
「っあ、……あっ……っあ、はぁ……んっ、るぅ、る、あ、……あ、あ、ああ、あ!」
ペニスを扱かれてるわけじゃないのに、何度も何度もイク時の感覚が走る。早さもゆっくりと抜き差しされてるようなのから徐々に小刻みなものに変わり、腰がびくびくと跳ねた。アナルのナカはまるでイイトコロを掌全体で押し付けるように撫でまわされてるみたいで、逃げ場もなかった。
「も、あ、で、るっ、イっ……く、ぅ……!」
気づけばルゥの服を肩越しに強く掴んでいた。出したい、という欲求のままに射精して、ルゥの『指』が入ったままなのにあっさりと放つ感覚を不思議に思う。どくん、どくんと脈打つペニスから、ルゥの『指』伝いに精液が出てくる。……いや、吸い出されてるのか? 水の中を漂うようなそれは、直ぐにルゥの身体の中に溶けて消えた。
「いっぱい出ましたね」
楽しそうな、嬉しそうなルゥの声が耳元で響く。ゆるゆるとルゥの指に股座を揉み解されて、風呂に入った時に似た気持ちよさに大きな吐息が漏れた。イったことで身体中の筋肉が弛緩する。一気に一晩やりっぱなしだったかと思うほどの疲労感に包まれた俺は、ルゥのうっとりとした声を聞きながら瞼を閉じた。
「本当に……お美しい方なんですね。この程度では少しも穢れない。僕、とっても嬉しいです。ごちそうさまでした」
ふ、と水の中から浮かび上がるような感覚。
目を覚ました俺は、ゆっくり身を起こした。辺りはそろそろ夕暮れかという頃合で、見慣れた部屋の中に差し込む光は赤みを帯びていた。……身体が軽い。服もきちんと着せられてるし、あれからルゥが全部やってくれたんだろう。
「お目覚めですか」
声を掛けられ目を向けると、執事が部屋へ入ってくるところだった。
「俺、寝てたのか」
「ええ。ルゥはいかがでしたか?」
「……やる気ありすぎ」
いろいろ、というのは心の中でだけ付け足して、俺は伸びをしてベッドに腰掛けた。
執事は少し首を傾げ、問う。
「御気分を害されてしまいましたでしょうか」
「いや、むしろ逆だよ。すげー気持ちよかった。つか、気持ちよすぎ。なにあれ」
即答すると、執事は安心したように表情を緩めて「それはようございました」と持っていたトレイからお茶をくれた。ソーサーごと手に取って、唇を濡らす。するりと咽喉を通って行ったそれは仄かに甘く、花の香りがした。
「白百合様が眠ってしまわれたと気落ちしておりましたので、そう仰っていただけると喜ぶでしょう」
「ん。……あ、そうだ、聞きたいことがあったんだけど」
「はい」
「物の怪の美的感覚って人間とは違うんだろ? そりゃ、人間からは『見目麗しい』で選ばれたけどさ、ホントよくあの人の前に通される前に殺されなかったよな。あんたらから見ても俺ってそんなに綺麗なのか? あの人のお眼鏡に叶うだろうと思うくらい?」
直前までルゥとしていた話を執事に振ると、執事は意味ありげに沈黙し、それから口を開いた。
「わたくしども物の怪の中には、肉体よりも魂を見る者も多数おりまして。その点において白百合様は大変……お美しい方でしたので」
「へえ」
魂っていうからには性格とかそういうのじゃねーんだろな。それで行くと俺はそんなによくもねえし。
くい、とお茶を煽って執事へ返す。それを受け取りながら、執事は少し笑んだ。
「もっとも、白百合様の場合は肉体の方も類稀なるものをお持ちでしたが……」
「あ、今日すげえ気合入れてルゥに揉まれたりしたんだけど、あれあんたの差し金なんだって? あの人に言われたの?」
「いいえ、それに関しましてはわたくしの独断でございます」
言って、執事はカップの乗ったトレイを一旦サイドテーブルに置くと、軽く会釈をした。
「ふーん? なんでまた」
「わたくしも美しいものが大好きなのです」
聞いたのは完全に流れというか、なんとなくだった。
それを満面の笑みで答えられ、俺の方が何とも言えず言葉に詰まる。
「俺の見てくれが?」
「白百合様におかれましては中身も含めて、になりますね」
「……あの人は俺の魂とやらに惹かれてるってことか?」
「龍の血は非常に本能的なものでもありますので、わたくしにも分かりません。美醜で反応するものでもないと伺っております」
「つまり、ほんとにたまたまってことね」
外見がよく無けりゃ出会うこともなかったし、本来は俺の魂とやらが綺麗でも汚くてもどっちでも良かったと。んで? 上手いこと俺の外見が元王子の合格ラインで? さらに血の方も反応してくれちゃったと。ホントめんどくせえな龍の血って。
「ええ。血と当人の好みが合致しないことも多々あったようでして……それ故に主人と白百合様について、運命的である、と申す者も少なくありません」
「それってあんた?」
執事が微笑むから、俺はそう聞いてみた。
「いいえ。物の怪は本能や欲求に素直な者が多いのですが、わたくしもそうなのです。どちらかと言えばルゥと同族でしょうか」
「……悪食?」
「あれほどではございませんし、わたくしは選り好みいたしますよ。……そうですね、食に関して、少々享楽的、とでも申しましょうか」
執事は蠱惑的に唇を歪めると、そっと俺に近づいた。
「ルゥは確かに悪食でございますが、あれは白百合様の魂を美しいものとして捉えております。それは芸術品を見る類のもの。わたくしの場合、魂とは頂く……食すものなのです」
「ふうん? 俺って美味そう?」
「ええ、それはもう。極上の美酒のごとく」
蕩ける様な顔をされ、いかにも『食べたい』と言わんばかりの執事に苦笑が漏れた。
「んじゃ、ちょっと舐めるぐらいする?」
提案をすると、執事の目が丸く見開かれた。
「よろしいのですか?」
「痛いとか死ぬとかは嫌だし、それで俺とかあんたがあの人に怒られて酷い目にあうんじゃないなら、舐めるくらいは。ってか、魂とかどうやって食うんだ?」
俺は元王子に引きとめられて此処にいるものの、物の怪の世界でなにか役割があったりするわけじゃない。客人と言えば聞こえはいいかもしれないが、正直ただの穀潰しだ。今まで男娼と言えどきっちり仕事して生きてきた分、こういうぬるま湯に浸かってるような生活ってのは逆に据わりが悪い。誰にも気兼ねしたくないんだ。致命的な衝突を回避して、男としていることを許された以上は、特に。
掻い摘んでそう告げると、執事は気にすることは無いと言いながらも俺の前で膝をついた。
「食べる、と言いましても、私の場合は……言葉は悪いかもしれませんが、口に含みその味を堪能するのです」
「そのまま飲み込んだりは?」
「いたしません。それ程そそられるものがなかったというのもありますが、そのような稀有な存在に出会い欲求の赴くまま飲み込んでしまえば、逆にもう二度とそれを味わうことは叶わないでしょう? 既に気づかれておいででしょうが、飲み込むというのはその者の死を意味しますから」
確かに。
納得して、まあ俺が死んだり酷い目に遭ったり、お互いが叱られたりすることがないのを確認して先を促す。
「では、御手を失礼いたします」
執事は俺の両手をそっと握った。目が合い、そのまま目を逸らさないように言われる。
「瞬きはしても結構です。呼吸を合せてください。……では、吸って……吐いて……」
指示に従って深呼吸を繰り返す。次第に執事も無言になり、俺はじっと、執事の目を見つめながら呼吸が揃うよう努めた。
吸って、吐いて、吸って、吐いて。
何度も何度も繰り返していく内に、息を思い切り吸い込むと急にぞわぞわと足からなにかが這い上がってくる感覚に見舞われた。快感に似ている。けど皮膚の表面を駆け上がったそれはそのまま頭の先へたどり着くと、そのまま消えていった。
「いいですね……随分合って参りました。あまり合いすぎてもいけませんので、この辺で呼吸は楽にしていただいて結構ですよ」
落ち着いた声の通りに意識していた呼吸を自然のものへ直す。しばらくして、急にまた快感が身体の中を這いあがってきた。
「……ふぁ……っ」
思わず声が漏れる。股間の辺りにむずむずとした感覚が生まれて、ペニスが勃ちかけてるのが分かった。
「いいですよ……そのまま……抗おうとはなさらずに……はい、ではそのままゆっくり、上半身を倒してください。横になって、楽に構えて」
手を取られたまま、そっとベッドへと押しやられる。足はベッドの外へ投げ出したまま沈み込む。執事は俺と目を合わせたまま立ち上がり、同じように上半身をこっちに倒してくる。
「そうです。……では参りますよ。我慢できないようでしたら声は出していただいて構いません」
「あぁっ!」
言うや否や、また身体の内側を快感が駆け巡る。
外ならわかる。鳥肌が立つのと同じだ。でもこれは違う。身体の内側全てが性感帯になったみたいだ。それを撫でられてるみたいな感じ。足の先から頭の先まで。ねぶられてるみたいだ。暖かい。足の裏がジンジンする。ペニスは触られていないのに揉まれてるみたいに気持ちいいし、腹も脇も首も、耳も、頭の中まで愛撫されてるみたいな。
「ふっ、ああっ……あっ」
ゾクゾクするのが止まらない。執事の目はひたすらに落ち着いているのに、俺だけが乱れている。乱されている。
「大丈夫ですよ。心配なさらないでください。イってしまっても結構ですし……ああ、しかし折角綺麗になられたのですから、汚れてしまうのはいけませんね。僭越ながら、わたくしがお世話をさせていただきます」
「あっ、あ!」
頬を一撫でされ、視線と手が外れる。なのに身体の内側を這うような快感は止まらなかった。浮遊感も相俟って落ち着かなくなり、掴むものを探してシーツに指を引っかける。
快感は波のように下から上へ流れ、かと思えば股間の辺りでぐるぐるとまわる。その渦の中心を物理的な刺激が襲い、俺は思わず腰を突き上げた。
「はっ、ん……! あぁっ、あ、あんんっ」
ぢゅぷ、と音が聞こえ、目をやると執事が俺のペニスを深く咥えながら頭を動かしているのが見えた。口の中は柔らかくて暖かくて、ぬるぬるしていてたまらない。その上舌が絡みついて、時折すっと吸われて射精感を寸前まで引き出される。
「あぁんっ……ぁ、……っ、ぁん……」
執事の動きに合わせて腰を動かす。ゆっくりなのに確実に快感は強まって、次第に波のようだと思ったその動きがペニスの方へ集まってきて、大きな渦になって、それがぎゅっと縮んで鋭い流れを生み出した。
「っあ、もう、……っ、も、あっ、いく、イくっ……!」
気持ちよくて、思うままに腰を振る。執事は俺の動きに合わせて、カリを唇で締めつけながら亀頭を舌で舐めまわし、サオは手コキに変えて強く扱きあげた。
「んんんっ、……あっ、ああああ!」
体の内側の大きな流れは、射精と共にペニスの先端から外へ出ていくようだった。射精と同時に漏らしたような妙な感覚に、なんとなく恥ずかしさがこみあげてくる。……どんな理由でも、この歳でしょんべん漏らすって大分恥ずかしいだろ? そういうプレイ内容じゃあるまいし。
「っは、はぁっ……っ……は、……はあっ……あっ、ん」
執事は俺が出した精液をこぼすことなく飲み込んで、その上で丁寧にしゃぶって俺のペニスを掃除をした。最後には、ちゅっと音を立てて鈴口に吸い付いて、離れる。その舌が唇を舐め、てらてらと光るそこに目を奪われた。
「大変美味でございました。やはり白百合様は素晴らしくていらっしゃる」
「……そりゃ……どーも……」
今までにない快感に夢中になりかけること、二回。幸いどっちもねちっこい方ではなかったから、まだぐずぐずになぶられずに済んだって感じだ。不本意だし、あんま面白くねえけど気持ちよかったのは確かだ。
「物の怪って精液飲んでも平気なのか? 苦くない?」
荒くなった息を整えつつ、平然としている執事に聞いてみる。まさか精液が美味かったってことは無いだろう。
「以前よりお食事はわたくしどもにお任せいただいておりましたから、ある程度は調整できますので」
「へえ」
初耳。てっきり人によって違うもんだと思ってたわ。
感心すると同時にぼうっとしていた頭が冴えてくる。俺は執事の股間を指差して訊ねた。
「あんたのおっ勃ってるソレ、収めなくていいの? 俺やろうか?」
「ふふ、ありがとうございます。ですが、白百合様のお手を煩わせるわけにはまいりません。お見苦しいものをお見せしました。美味を堪能致しますとどうしても反応してしまい……いけないとは思いつつもなかなか自制するのも難しいのです」
「まあ……なあ」
気持ちは分からんでもない。にしても食いながら勃起ってすげー器用だ。
でもまあ、執事も満足したようでよかった。ひっそりと俺のこと気に食わねえ奴とか思われてたら嫌だしなあ。
抜くにしても何にしても早い方が良いだろうと退室を促す。
「それでは夕餉が出来ましたらまた御呼びいたします」
「了解。ちょっと俺、もっかい寝てるかも。寝てたら起こして。飯は食いたいから」
「かしこまりました。ごゆっくりお休みくださいませ」
トレイを持って出て行った執事を見送って、ベッドへ突っ伏す。あーあ、なんか良いように翻弄された気がする。まだ元王子には何もされてないのになあ。
……ん? 元王子より先にこんなことしてもよかったのか? でももたついてる方が悪いよな。それはあっちの都合ってか、勝手なわけだし。
俺はぐるぐると自己弁護を済ませると、また目を閉じた。……なんか疲れやすくなってる気がする。体力落ちたかもしれない。やだなー。元王子に頼んでちょっとくらいの散策は許してもらうか。
「……り、白百合」
「ん……」
身体を優しく揺らされて目を開けた。伸びをして、俺に覆いかぶさる男を見遣る。
「おかえり」
「ああ、戻った。体調はどうだ?」
「悪くないよ。元気」
「そうか。夕餉の支度が整ったようだ」
「ん」
元王子と一緒に上半身を起こすと、肩に腕を回され、もう片方の手の甲で頬を撫でられた。
「なに?」
「いや」
見上げると、元王子は穏やかな表情で俺を見下ろしてくる。その口元は薄らと笑みを形作っていて、柔らかい。じっとしていると、頬を撫でていた手が下へ滑り、下唇に触れた。太くて長い指がそのまま唇の端から端へ移動する。その仕草にどうしてかドキリとした。
ふと顎で手が止まり、おもむろに元王子の顔が近づいてくる。距離が縮まるにつれゆっくりと瞼を閉じて、来たるべき感触に備える。重なった唇は柔らかくて、触れ合っただけなのに下腹部が甘く疼く。腰から下が蕩けそうだ、と思った。
そっと離れていく熱に薄目を開ける。額をぴったり重ねて、至近距離で元王子のべっこう飴みたいな目に捕らわれた。その瞳が俺を映しているのが分かる。また少し、胸が跳ねる。と、その双眸が細められた。ほぼ同時に猫にするように顎をくすぐられて、思わず声を上げた。
「ぁ、っひゃ」
ぞくん! と気持ちいいのが腰元に落ちてきた。うっかり喘ぎ声みたいなのを出しかけて、慌てて取り繕う。それが元王子にはどう見えたのか、くつくつと肩を揺らし、咽喉仏が動いているのが見えた。
「な、んだよ。そんなに笑うことねーだろ」
「いや、すまぬ。しかし少しくらいは溜飲が下がったかな」
「は?」
「あからさまに使用人に嫉妬を見せて当り散らすのも格好が悪いだろう」
言われ、首を傾げる。
何の話だと聞こうとして、昼間のことかと思い至った。つーか、それしかないか。執事が報告でもしたのかな。
「妬いたんだ」
「当然だ」
言う割に不機嫌そうには見えないが、急にキスをしてきたのはつまりそういうことなんだろう。いつもは鬱陶しいくらい確認を取ってくるのに。うーん。やっぱ、ちょっと罪悪感。
「謝った方が良い?」
「いいや。そなたが不自由でなければ、それが一番よい」
穏やかに言い切られて、調子が狂う。なんだ、いつもみたいに躍起になってくれれば謝るのも簡単だったのにな。
肩に回されていた手が俺の後頭部を優しく撫でる。見上げると、しっかりと目が合った。逸らせず、食い入るように見つめる。――そこに何を見出そうとしていたのか、俺自身にもよく分からない。ただ、目は直ぐに逸らされてしまって何もわからなかった。
「さて、夕餉だ。腹加減はどうだ」
「寝てばっかだったけどすげー減ってる」
手を取られ、ベッドから降りて立ち上がる。声色はいつもと変わらないように思えるのに、そこに甘さが感じられないのは俺の方に原因があるんだろうか。
ちくりと、胸に針が刺さった気がした。
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今年のメインイベントは受験、
あとはたのしみにしている北海道への修学旅行。
だがそんな彼は飛行機が苦手だった。
電車バスはもちろん、ひどい乗り物酔いをするのだった。今回も飛行機で乗り物酔いをおこしトイレにこもっていたら、いつのまにか気を失った?そして、ちがう場所にいた?!
あれ?身の危険?!でも、夢の中だよな?
急死に一生?と思ったら、筋肉ムキムキのワイルドなイケメンに拾われたチアキ。
さらに、何かがおかしいと思ったら3歳児になっていた?!
変なレアスキルや神具、
八百万(やおよろず)の神の加護。
レアチート盛りだくさん?!
半ばあたりシリアス
後半ざまぁ。
訳あり幼児と訳あり集団たちとの物語。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
北海道、アイヌ語、かっこ良さげな名前
お腹がすいた時に食べたい食べ物など
思いついた名前とかをもじり、
なんとか、名前決めてます。
***
お名前使用してもいいよ💕っていう
心優しい方、教えて下さい🥺
悪役には使わないようにします、たぶん。
ちょっとオネェだったり、
アレ…だったりする程度です😁
すでに、使用オッケーしてくださった心優しい
皆様ありがとうございます😘
読んでくださる方や応援してくださる全てに
めっちゃ感謝を込めて💕
ありがとうございます💞
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