62 / 63
番外編
2、幸せの真ん中で 1 ~ルイ視点~
しおりを挟むラノキリアジャパンも軌道に乗って、モデルを休んでいた海斗と一歳になった空と家族三人楽しく暮らしていたので、心にも余裕があった。穏やかなそんな日のことだった。
海斗の弟の陸斗は、明が大学生になると仕事を始めたいと言った。社会に出すのも不安そうだった海斗と明は、陸斗のやる気を信じることにして精一杯見守ることにした、そんな経緯の話。
ある日、陸斗が花屋でバイトをしてみたいと明に相談した。そして明が俺に相談してきた。
「陸斗の元番って、たしか花関係だったよな? 華道家とかなんとか? なぜか陸斗が花に興味を持っていて仕事にしたいって言いだしたんだけど、どう思う?」
「どうって……記憶に関係するかとか?」
「そう。今いい具合に過去を忘れて俺と向き合ってくれているからさ、ちょっと不安なんだよ。陸斗の実家って、いつも行くと花が沢山あるだろ? あれって陸斗が活けていたんだって。陸斗の母親が感心していたし、それくらいの趣味なら問題ないと思ってさせていたって言っていたんだけど、まさか仕事にしたいとはさ」
そう言って、明は陸斗が活けた花の写真を見せてきた。スマホに沢山写るそれはとてつもなく豪華で、とても素人が活けたようには見えなかったし、家庭に飾る花というよりは、パーティーなどに出してもおかしくないような、フラワーアーティストが作ったような仕上がりだった。
「す、凄いな」
「ああ、俺も驚いてお義母さんに聞いたんだよ。お花習っているんですかって。そうしたら陸斗が独学でやったって言うし」
そこに俺たちの可愛い一人息子の空を抱っこした海斗がやって来た。
「それなんだけど。もしかして陸斗は、一人の家であの番を待っている間、花の勉強でもしていたんじゃない? 番でいた……記憶を失くした五年間は、あの憎きアルファのことを好きだったみたいだし。あいつの家には迎え入れてもらえなかったなりに、陸斗は認めてもらえるように一人で勉強していたのかなって」
「えっ、なんだかそれは、健気というか……切な過ぎる」
記憶がない過去の陸斗を受け入れたとはいえ、明にはキツイ話だったと思う。だけどこれからの陸斗を受け入れていくつもりなら覚悟を持って聞いてもらいたいと思って、海斗なりに話を進めていた。
「陸斗にいつから花に興味があったのって聞いても、覚えてないから記憶失くした時の趣味だったのかなって言って。そのことは、僕とお母さんとで陸斗から聞いていたんだ。ごめん明、言っていなくて」
「そういうことか。いいよ、海斗さん。俺に気を使わなくても、なんだか納得した。記憶を失くしてもその時に覚えたことは好きになっていたってことね。それって凄いことじゃん! 陸斗が一人で孤独に耐えていた時に救いがあったって知れて俺は少し嬉しいよ。だったら俺、陸斗を応援する」
明は凄いな、っていうかその話は俺、初耳だった。
「海斗、俺に秘密を持ったの?」
「えっ、違うよ、秘密じゃない。ただの親子の会話で想像の話だから真実かは分からないし、僕とお母さんもそんなに深刻に考えていなかったから、類、ごめん。全て話していなくて」
「俺にとっては、海斗の全てを知っていたい。深刻な話じゃなくても、して?」
「うん、分かった」
海斗が俺の唇に軽くキスをした。ああ、嫁が素直で可愛い。
「おえっ、お前っ、糖度マシマシじゃねぇか! 友達の前で気持ち悪い理不尽な嫉妬みせるなよ。これだからアルファは……」
「明もこれくらいの執着を陸斗に見せて欲しいな。いいでしょ、僕の旦那様は!」
海斗は俺に寄り添って明に見せつけていた。俺は海斗の胸に抱える空と海斗を抱きしめた。海斗は俺の嫉妬を喜ぶという、とっても出来た嫁だった。
「うわっ、嫁まで執着の塊とか……。陸斗の教育に悪いからあまり二人がゲロイチャなのは見せるなよ、俺たちはクリーンに健全に愛し合っていくんだからな。俺と陸斗にバースのネチネチはいらないんだよ」
「はいはい、明には感謝しているよ。陸斗を深く想ってくれていて」
海斗の言ったことは本当だった。海斗はいつも明には頭が上がらないって言っている。兄では出来ないことを、恋人である明がスマートにこなしてくれて、いつもそばにいてくれて助かっていると。俺だって、海斗を喜ばせてくれる明に感謝をしている。
そんな感じで明が陸斗のバイトの面接に立ち会うという、なんとも過保護なサポートの元、陸斗は仕事を始めた。それがとても楽しいらしく、二年すると正社員として雇われた。明はまだ大学生で、陸斗は社会人。そんな二人は穏やかに時間を重ねていき、当初高校卒業してから結婚というのも、陸斗の社会人慣れを待つことにした。休日デートを重ねて、明が大学を卒業してから結婚をした。
そしてそんな二人の出会いから数年経ち、空も成長して四歳になった。いまだ陸斗は空のことを産んだことは思い出していないようで、俺たち櫻井家は変わらず幸せに暮らしていた。海斗はモデルの仕事を再開して、なんと空がこの間初めてモデルの仕事を海斗としたんだ。俺は感動で目から水が零れた。俺たちの未熟児だった空が、こんなに立派になって。
そんな俺を見て妻と子供は笑っていた。そして俺の実家からは怒られた。可愛い孫の初モデルがなぜサクラジュエリーのモデルじゃないんだと。それほど空は俺の両親からも愛されていたけれど、過剰な愛情が少し重い。実家に行くたびに空が甘やかされているが、まぁ仕方ない。空は飯田家の良いところだけを受けついだ天使だからな。
そんな穏やかな幸せの途中経過だった。
28
あなたにおすすめの小説
僕がそばにいる理由
腐男子ミルク
BL
佐藤裕貴はΩとして生まれた21歳の男性。αの夫と結婚し、表向きは穏やかな夫婦生活を送っているが、その実態は不完全なものだった。夫は裕貴を愛していると口にしながらも、家事や家庭の負担はすべて裕貴に押し付け、自分は何もしない。それでいて、裕貴が他の誰かと関わることには異常なほど敏感で束縛が激しい。性的な関係もないまま、裕貴は愛情とは何か、本当に満たされるとはどういうことかを見失いつつあった。
そんな中、裕貴の職場に新人看護師・宮野歩夢が配属される。歩夢は裕貴がΩであることを本能的に察しながらも、その事実を意に介さず、ただ一人の人間として接してくれるαだった。歩夢の純粋な優しさと、裕貴をありのまま受け入れる態度に触れた裕貴は、心の奥底にしまい込んでいた孤独と向き合わざるを得なくなる。歩夢と過ごす時間を重ねるうちに、彼の存在が裕貴にとって特別なものとなっていくのを感じていた。
しかし、裕貴は既婚者であり、夫との関係や社会的な立場に縛られている。愛情、義務、そしてΩとしての本能――複雑に絡み合う感情の中で、裕貴は自分にとって「真実の幸せ」とは何なのか、そしてその幸せを追い求める覚悟があるのかを問い始める。
束縛の中で見失っていた自分を取り戻し、裕貴が選び取る未来とは――。
愛と本能、自由と束縛が交錯するオメガバースの物語。
売れ残りオメガの従僕なる日々
灰鷹
BL
王弟騎士α(23才)× 地方貴族庶子Ω(18才)
※ 第12回BL大賞では、たくさんの応援をありがとうございました!
ユリウスが暮らすシャマラーン帝国では、平民のオメガは18才になると、宮廷で開かれる選定の儀に参加することが義務付けられている。王族の妾となるオメガを選ぶためのその儀式に参加し、誰にも選ばれずに売れ残ったユリウスは、国王陛下から「第3王弟に謀反の疑いがあるため、身辺を探るように」という密命を受け、オメガ嫌いと噂される第3王弟ラインハルトの従僕になった。
無口で無愛想な彼の優しい一面を知り、任務とは裏腹にラインハルトに惹かれていくユリウスであったが、働き始めて3カ月が過ぎたところで第3王弟殿下が辺境伯令嬢の婿養子になるという噂を聞き、従僕も解雇される。
溺愛アルファの完璧なる巣作り
夕凪
BL
【本編完結済】(番外編SSを追加中です)
ユリウスはその日、騎士団の任務のために赴いた異国の山中で、死にかけの子どもを拾った。
抱き上げて、すぐに気づいた。
これは僕のオメガだ、と。
ユリウスはその子どもを大事に大事に世話した。
やがてようやく死の淵から脱した子どもは、ユリウスの下で成長していくが、その子にはある特殊な事情があって……。
こんなに愛してるのにすれ違うことなんてある?というほどに溺愛するアルファと、愛されていることに気づかない薄幸オメガのお話。(になる予定)
※この作品は完全なるフィクションです。登場する人物名や国名、団体名、宗教等はすべて架空のものであり、実在のものと一切の関係はありません。
話の内容上、宗教的な描写も登場するかと思いますが、繰り返しますがフィクションです。特定の宗教に対して批判や肯定をしているわけではありません。
クラウス×エミールのスピンオフあります。
https://www.alphapolis.co.jp/novel/504363362/542779091
【完結】愛されたかった僕の人生
Kanade
BL
✯オメガバース
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。
今日も《夫》は帰らない。
《夫》には僕以外の『番』がいる。
ねぇ、どうしてなの?
一目惚れだって言ったじゃない。
愛してるって言ってくれたじゃないか。
ねぇ、僕はもう要らないの…?
独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
✻本作品(オリジナル)の結末をif(運命の番)ルートに入れ替えて、他サイトでの投稿を始めました。タイトルは「一度目の結婚で愛も希望も失くした僕が、移住先で運命と出逢い、二度目の結婚で愛されるまで」に変えてます。
オリジナルの本編結末は完全なハッピーエンドとはいえないかもしれませんが、「一度目の〜…」は琳が幸せな結婚をするハッピーエンド一択です。
流れる星、どうかお願い
ハル
BL
羽水 結弦(うすい ゆずる)
オメガで高校中退の彼は国内の財閥の一つ、羽水本家の次男、羽水要と番になって約8年
高層マンションに住み、気兼ねなくスーパーで買い物をして好きな料理を食べられる。同じ性の人からすれば恵まれた生活をしている彼
そんな彼が夜、空を眺めて流れ星に祈る願いはただ一つ
”要が幸せになりますように”
オメガバースの世界を舞台にしたアルファ×オメガ
王道な関係の二人が織りなすラブストーリーをお楽しみに!
一応、更新していきますが、修正が入ることは多いので
ちょっと読みづらくなったら申し訳ないですが
お付き合いください!
やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。
毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。
そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。
彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。
「これでやっと安心して退場できる」
これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。
目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。
「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」
その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。
「あなた……Ωになっていますよ」
「へ?」
そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て――
オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。
獣人王と番の寵妃
沖田弥子
BL
オメガの天は舞手として、獣人王の後宮に参内する。だがそれは妃になるためではなく、幼い頃に翡翠の欠片を授けてくれた獣人を捜すためだった。宴で粗相をした天を、エドと名乗るアルファの獣人が庇ってくれた。彼に不埒な真似をされて戸惑うが、後日川辺でふたりは再会を果たす。以来、王以外の獣人と会うことは罪と知りながらも逢瀬を重ねる。エドに灯籠流しの夜に会おうと告げられ、それを最後にしようと決めるが、逢引きが告発されてしまう。天は懲罰として刑務庭送りになり――
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる