運命の番は姉の婚約者

riiko

文字の大きさ
40 / 71
第四章 揺れる心

40 正しい順番 

 その日、隆二は会社に戻ることなく爽についていた。きっと妊娠していなかったことに、がっかりしているだろう爽を慰めるためだと思った。
 いつも以上に甘く、家でずっとくっついている。
「爽、子供はいつだって作れるよ。そんなに落ち込まないで」
「え、うん」
 爽は落ち込んでいない。子供は初めからいなかったし、それよりも隆二はこの流れを信じたのだろうか。
「でもこれで正当な順番にできるね。今度はご両親に つがいの許可をもらいに行こう。それと、結婚の」
「え」
「爽、結婚しよう。本当は結婚してつがいになってから子供が理想的だけど、爽はもう数か月後のお姉さんの結婚式でつがいがいなくてはいけない状況になっているから、つがいが先かな?」
「いや、妊娠が先じゃない?」
 隆二が不思議な顔をする。
「どうして? だってアルファに会うには、つがいになるのが一番の解決法だよ。爽にはもう僕というアルファがいる。それなら妊娠を急がなくてもよくない?」
「隆二は妊娠したから俺の仕事を奪って、ここに連れてきたんでしょ。じゃあ妊娠していないなら、俺は仕事に戻れる? つがいというのも、妊娠したから結婚してつがいって流れだったじゃん。いまさら、そこって必要なの?」
 自分で聞いていて、爽は馬鹿らしくなった。こんなに周りから丸め込まれているのだから、もう隆二がこれだけの理由で開放されるわけがないことくらい想像がつく。それに、今はっきりと結婚しようと言われた。
「それは爽が決めた人生設計で、僕のじゃない。僕は爽を愛している。子供がいようがいまいが、愛しているから爽と一生を共にする。いい加減、そこに向き合ってくれてもよくない?」
「ごめん」
 隆二の想いはずっと聞いていた。
 妊娠していてナーバスな状況というのもあるからか、隆二は求めてこなかった。でも今はもう違う。爽はついに隆二と向き合わなくてはいけないときがきた。
「爽、少なからず爽は僕のことを受け入れてくれているよね?」
「う、うん」
 受け入れている。これで受け入れていないわけがない。
 しかし、それには隆二のアルファの香りを確認しなくてはいけないし、本当に爽はあの人への想いがないのかも知る必要がある。
 たとえあの男を想っていたとしても、結ばれることは絶対にないのだけれど、もし他の男を想ったままなら隆二とつがいになんてなれない。それはあまりにも失礼な行為でしかない。気持ちに嘘をつきながら、他のアルファと一生を過ごせない。
「隆二、でも俺まだ隆二の匂い、わからない……」
「ああ、そうだったね。アルファのフェロモンを感じないのも想像妊娠のせいだって、先生は言っていたか。でもそれはじきに戻るよ。想像妊娠じゃないと理解した時点で、爽の症状はすべて元に戻るって医者も言っていたし」
「うん。だから、隆二の香りを確かめてじゃなくちゃ、俺は何も言えない」
 言い訳苦しいが、今はそうしてこの場を逃れるしかない。
 隆二は微笑みながら、いつも通り爽の言い訳に流されてくれた。結局爽が妊娠を望んでいるのと、つがい候補がいるということを医者が確認してしまったせいで、過剰に抑制剤を貰うことができなくなった。
 どうしようも無い時の処置程度の処方だけだった。
 いつも以上に心もとない抑制剤の量。そして医者からは、想像妊娠で狂ってしまったフェロモンの数値を通常に戻すために、抑制剤の使用を避けるようにとも言われてしまった。
「爽、オメガの機能が戻ってきたら、ちゃんと考えて。それからオメガの機能が戻る前に、心で考えて。フェロモンに左右されない、爽の心で」
「隆二……」
 隆二はキスをする。爽も自然と口を開けて隆二を受け入れる。これだけでも、隆二を好きじゃないわけがない。いい加減、隆二がこうやって爽を逃がさないように優しく優しく囲ってくれている内に、それに応えた方がいいのもわかる。
 ――俺は、いったい。
 やはり考えたくなくて、隆二に縋った。爽の悪い癖だが、隆二は甘えると喜ぶから、たいていのことはこうしていれば無理を言わなくなる。
「隆二っ」
「爽? スイッ入っちゃった? 妊娠していないなら、抱いてもいい? 正直もう僕は爽を抱けなくて限界だよ。妊娠中なら医者から許可が出るまで待つつもりだったけど、今はもういいよね?」
「んっ、んん、でも、俺、今やっても妊娠しなっ、あん、からっ」
 隆二がキスをしながら、胸をいじくる。その快感をすぐに拾ってしまった。
「さっきも言ったけど、それは爽の事情でしょう? 僕は孕ませるためだけに爽を抱いてない。僕は爽を抱きたいから抱く。愛しているから、抱くんだよ」
「はっ、んん。お前、セフレの時からずっと嘘つきだぁ」
 隆二の唇は、はだけた胸に下がっていった。体を吸われる。隆二の唇を体で感じて、気持ちがよすぎて会話ができる気がしない。
「爽が僕から離れないように必死だったんだよ。恋する男なんてこんなもんだ」
「恋って……あっ! ちょ、ちょっと待て! ちょっとどけ!」
 爽は我に返って、腹まわりを舐めまわす隆二の顔を手でどけた。
「なに?」
 隆二はご馳走を奪われたかのような、不服な顔をして見てきた。腹まわりへの口づけはやめた。
「なに? じゃねぇだろう。オメガ改革とやらをやっている役員なら、オメガの仕組み知っていただろ? オメガがヒート以外に妊娠しないって知っていたんじゃないの? もしかして、俺が妊娠してないって知ってた?」
 隆二は爽の言葉を聞いて、起き上がり目の前に座った。髪をかきあげて、しれっとした顔をする。髪を触る仕草が超絶色っぽくて、爽はドキッとした。こういうところがアルファのズルいところだ。そんな理不尽な怒りと、隆二の色気にやられた爽は少し鼓動が激しくなった。
「ああ、それね。でもヒート以外でも稀に妊娠することもあるっているのも事実だから、つわりや食べ物の好みが変わったのを見て、本当に妊娠しているのかもって思うようになったんだ。だから、全く疑っていたわけじゃないよ」
「ふ、ふーん。そうなんだ」
 それにしても、そんなにオメガに詳しいアルファも、そもそもオメガ専門医も、爽のただの偽装妊娠を見破れないなんてことあるのだろうか。
 演技が相当なものなら、姉の結婚式でもすんなりと周りを騙せて、運命の男を見ても動揺せずに義理の兄として接することができるかもしれない。
 運命に気づかれない方法が取れたとしても、爽の態度が挙動不審だったら台無しだ。演技力を今から認めてもらえたのは、これからの未来の安心材料の一つになったから良しとしようと思った。

感想 257

あなたにおすすめの小説

当たり前の幸せ

ヒイロ
BL
結婚4年目で別れを決意する。長い間愛があると思っていた結婚だったが嫌われてるとは気付かずいたから。すれ違いからのハッピーエンド。オメガバース。よくある話。 初投稿なので色々矛盾などご容赦を。 ゆっくり更新します。 すみません名前変えました。

政略結婚のはずが恋して拗れて離縁を申し出る話

BL
聞いたことのない侯爵家から釣書が届いた。僕のことを求めてくれるなら政略結婚でもいいかな。そう考えた伯爵家四男のフィリベルトは『お受けします』と父へ答える。 ところがなかなか侯爵閣下とお会いすることができない。婚姻式の準備は着々と進み、数カ月後ようやく対面してみれば金髪碧眼の美丈夫。徐々に二人の距離は近づいて…いたはずなのに。『え、僕ってばやっぱり政略結婚の代用品!?』政略結婚でもいいと思っていたがいつの間にか恋してしまいやっぱり無理だから離縁しよ!とするフィリベルトの話。

【完結】end roll.〜あなたの最期に、俺はいましたか〜

みやの
BL
ーー……俺は、本能に殺されたかった。 自分で選び、番になった恋人を事故で亡くしたオメガ・要。 残されたのは、抜け殻みたいな体と、二度と戻らない日々への悔いだけだった。 この世界には、生涯に一度だけ「本当の番」がいる―― そう信じられていても、要はもう「運命」なんて言葉を信じることができない。 亡くした番の記憶と、本能が求める現在のあいだで引き裂かれながら、 それでも生きてしまうΩの物語。 痛くて、残酷なラブストーリー。

アルファ王子に嫌われるための十の方法

小池 月
BL
攻め:アローラ国王太子アルファ「カロール」 受け:田舎伯爵家次男オメガ「リン・ジャルル」  アローラ国の田舎伯爵家次男リン・ジャルルは二十歳の男性オメガ。リンは幼馴染の恋人セレスがいる。セレスは隣領地の田舎子爵家次男で男性オメガ。恋人と言ってもオメガ同士でありデートするだけのプラトニックな関係。それでも互いに大切に思える関係であり、将来は二人で結婚するつもりでいた。  田舎だけれど何不自由なく幸せな生活を送っていたリンだが、突然、アローラ国王太子からの求婚状が届く。貴族の立場上、リンから断ることが出来ずに顔も知らないアルファ王子に嫁がなくてはならなくなる。リンは『アルファ王子に嫌われて王子側から婚約解消してもらえば、伯爵家に出戻ってセレスと幸せな結婚ができる!』と考え、セレスと共にアルファに嫌われるための作戦を必死で練り上げる。  セレスと涙の別れをし、王城で「アルファ王子に嫌われる作戦」を実行すべく奮闘するリンだがーー。 王太子α×伯爵家ΩのオメガバースBL ☆すれ違い・両想い・権力争いからの冤罪・絶望と愛・オメガの友情を描いたファンタジーBL☆ 性描写の入る話には※をつけます。 11月23日に完結いたしました!! 完結後のショート「セレスの結婚式」を載せていきたいと思っております。また、その後のお話として「番となる」と「リンが妃殿下になる」ストーリーを考えています。ぜひぜひ気長にお待ちいただけると嬉しいです!

欠陥Ωは孤独なα令息に愛を捧ぐ あなたと過ごした五年間

華抹茶
BL
旧題:あなたと過ごした五年間~欠陥オメガと強すぎるアルファが出会ったら~ 子供の時の流行り病の高熱でオメガ性を失ったエリオット。だがその時に前世の記憶が蘇り、自分が異性愛者だったことを思い出す。オメガ性を失ったことを喜び、ベータとして生きていくことに。 もうすぐ学園を卒業するという時に、とある公爵家の嫡男の家庭教師を探しているという話を耳にする。その仕事が出来たらいいと面接に行くと、とんでもなく美しいアルファの子供がいた。 だがそのアルファの子供は、質素な別館で一人でひっそりと生活する孤独なアルファだった。その理由がこの子供のアルファ性が強すぎて誰も近寄れないからというのだ。 だがエリオットだけはそのフェロモンの影響を受けなかった。家庭教師の仕事も決まり、アルファの子供と接するうちに心に抱えた傷を知る。 子供はエリオットに心を開き、懐き、甘えてくれるようになった。だが子供が成長するにつれ少しずつ二人の関係に変化が訪れる。 アルファ性が強すぎて愛情を与えられなかった孤独なアルファ×オメガ性を失いベータと偽っていた欠陥オメガ ●オメガバースの話になります。かなり独自の設定を盛り込んでいます。 ●最終話まで執筆済み(全47話)。完結保障。毎日更新。 ●Rシーンには※つけてます。

陰日向から愛を馳せるだけで

麻田
BL
 あなたに、愛されたい人生だった…――  政略結婚で旦那様になったのは、幼い頃、王都で一目惚れした美しい銀髪の青年・ローレンだった。  結婚式の日、はじめて知った事実に心躍らせたが、ローレンは望んだ結婚ではなかった。  ローレンには、愛する幼馴染のアルファがいた。  自分は、ローレンの子孫を残すためにたまたま選ばれただけのオメガに過ぎない。 「好きになってもらいたい。」  …そんな願いは、僕の夢でしかなくて、現実には成り得ない。  それでも、一抹の期待が拭えない、哀れなセリ。  いつ、ローレンに捨てられてもいいように、準備はしてある。  結婚後、二年経っても子を成さない夫婦に、新しいオメガが宛がわれることが決まったその日から、ローレンとセリの間に変化が起こり始める…  ―――例え叶わなくても、ずっと傍にいたかった…  陰日向から愛を馳せるだけで、よかった。  よかったはずなのに…  呼ぶことを許されない愛しい人の名前を心の中で何度も囁いて、今夜も僕は一人で眠る。 ◇◇◇  片思いのすれ違い夫婦の話。ふんわり貴族設定。  二人が幸せに愛を伝えあえる日が来る日を願って…。 セリ  (18) 南方育ち・黒髪・はしばみの瞳・オメガ・伯爵 ローレン(24) 北方育ち・銀髪・碧眼・アルファ・侯爵 ◇◇◇  50話で完結となります。  お付き合いありがとうございました!  ♡やエール、ご感想のおかげで最後まではしりきれました。  おまけエピソードをちょっぴり書いてますので、もう少しのんびりお付き合いいただけたら、嬉しいです◎  また次回作のオメガバースでお会いできる日を願っております…!

「君と番になるつもりはない」と言われたのに記憶喪失の夫から愛情フェロモンが溢れてきます

grotta
BL
【フェロモン過多の記憶喪失アルファ×自己肯定感低め深窓の令息オメガ】 オスカー・ブラントは皇太子との縁談が立ち消えになり別の相手――帝国陸軍近衛騎兵隊長ヘルムート・クラッセン侯爵へ嫁ぐことになる。 以前一度助けてもらった彼にオスカーは好感を持っており、新婚生活に期待を抱く。 しかし結婚早々夫から「つがいにはならない」と宣言されてしまった。 予想外の冷遇に落ち込むオスカーだったが、ある日夫が頭に怪我をして記憶喪失に。 すると今まで抑えられていたαのフェロモンが溢れ、夫に触れると「愛しい」という感情まで漏れ聞こえるように…。 彼の突然の変化に戸惑うが、徐々にヘルムートに惹かれて心を開いていくオスカー。しかし彼の記憶が戻ってまた冷たくされるのが怖くなる。   ある日寝ぼけた夫の口から知らぬ女性の名前が出る。彼には心に秘めた相手がいるのだと悟り、記憶喪失の彼から与えられていたのが偽りの愛だと悟る。 夫とすれ違う中、皇太子がオスカーに強引に復縁を迫ってきて…? 夫ヘルムートが隠している秘密とはなんなのか。傷ついたオスカーは皇太子と夫どちらを選ぶのか? ※以前ショートで書いた話を改変しオメガバースにして公募に出したものになります。(結末や設定は全然違います) ※3万8千字程度の短編です

【完結】あなたは僕の運命なのだと、

BL
将来を誓いあっているアルファの煌とオメガの唯。仲睦まじく、二人の未来は強固で揺るぎないと思っていた。 ──あの時までは。 すれ違い(?)オメガバース話。