契約結婚の裏側で

riiko

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14 今夜の二人

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「お父さん。梨香子さんは、僕と健吾の関係を知ってるの?」
「ああ、彼女はそういうものに偏見のない女性だから、むしろ喜んでいたようだった」
「え? 変わってるね」
「ああ、とても心が広くて素敵な女性だ」

 健介は嬉しそうに梨香子のことを話す。本当に愛しているのが、潤には深く伝わってきた。そこで今まで黙っていた健吾が口を開く。

「潤。あの人、梨香子さんは父さんを本当に愛している。息子の俺から見ても、それはよくわかった。お前に手を出すような女性じゃないと判断できたから、俺はこの家に入ることを許可した」
「へ?」

 健吾は真剣な顔をして続ける。

「この家でお前を襲おうとするような色気満々の女なら断ったところだが、彼女は大丈夫だと確信が持てた。浮気の心配はなさそうだと思ったから、俺たちの家族としてここに来ることになった」
「浮気って、僕って信用ないね」

 健吾が悩んだところは、浮気の心配だったらしい。結婚という戸籍に関しては悩まないのだろうかと、少しばかり彼を疎ましく思った。

「俺が心配性なだけだ。お前に関しては、こうやって逃げられないか不安でたまらないんだ。前は子どもだったけど、お前だって適齢期を過ぎて女が騒いでるのを見るたびに、俺は嫉妬でどうにかなりそうだった」
「ちょ、お父さんの前で変なこと言わないでよ」
「変なことじゃない。お前が女性から人気があることくらい、父さんだって知っているぞ」

 いや、今は潤の女性人気ではなく。兄であり恋人の健吾が「嫉妬」の言葉を使ったことに、潤は抗議しただけだった。父親の前で恥ずかしくてたまらない。健吾にはなぜその羞恥心がないのか疑問だった。

 そこで健介が意外なことを言う。

「お前たちの仲がいいことは知っていたが、そこまでの愛情があるなら、梨香子も安心だ」
「え?」
 
 今度は父が息子たちに言う。

「健吾の気持ちは私もよくわかる。好きな相手が他に少しでも目が移りそうだと思ったら、そうしないように必死になるんだよ。潤は愛されている。お父さんが保証するよ。健吾は私に愛し方が似ているようだ」
「……お父さん」

 ということは、父も梨香子を息子たちに会わせるのが不安だったということだろうかと、潤は考える。

 結婚適齢期を超えた独身男が二人もいる家に、息子たちと同年代の彼女を連れてこなかった今までを考えたら、健吾と父は似ているのかもしれないと潤は思う。

 今回のことを二人で決定して、潤に伝えたところを見ると、梨香子もこうやって逃れられないように仕向けられたのではないだろうか。一度しか会ったことのない彼女に、少しだけ親近感がわいた。

 健吾は父に微笑み、潤に話す。

「俺たちは父さんを通して戸籍で繋がってるし、結婚という概念はいらないだろう。結婚というなら、もうお前を養子に貰って成立してるから、俺たちはもう夫婦同然だ」
「あ、そう」

 健吾は健吾だった。あまり細かいことを考えない性格は、こういうところでも同じらしい。健介は長男の言葉に笑っていた。深刻な話をしていたのだが、どうもその時期は彼らの中で過ぎたようで、潤にはいたって普通に話してきていた。

「潤、こんな話になってしまってすまない。私が死ぬことはもう決まっている。あとはどれだけお前たちに残してやれるかだ」
「お父さん……」
「この家は健吾に譲る。お前と一生をここで過ごすもいいし、売却して新しく家を建ててもいい、好きにするといい。ただ梨香子とその子どもを五年ほど置いてやってほしい。できれば、私の子に愛情を与えてくれないか?」

 健介の真剣な瞳に、潤は必死に応える。

「そんなの、与える! お父さんが僕を愛してくれたように、五年とか言わないで。一生僕は弟の面倒を見る」
「ありがとう、お前は優しい子だ」
「うっ、お父さん」

 涙を流して、父に縋る。

 健介は、息子二人に平等に自分の持っているモノを残そうとしている。そして妻になるはずだった女性にも世間にはわからないように、長男の嫁として現金や土地を残す書類を作成するという。

 自分が死ぬのに、残された人たちのためにそこまですでに考えていたことに、潤はやるせなかった。自分のことではなく、家族のことを想う父を潤は心から愛していた。

 健介の最後の時について、家族で話し合った。

 健吾は長男としてすでに話を聞いていたが、それから潤も交えてたくさんの会話をした。あらかたのことがもう決まっていたので、潤はただ健介のやりたいことや意思を聞いて、それを極力叶えてあげたかっただけだった。悲しいが、もう悲しんでいる時間も惜しい。それしか残されていないのなら、残りの人生笑っている息子の姿を覚えていてほしい。

 そう考え直し、潤は必死に父と話した。その夜、自室で潤はたくさん泣いた。

 もちろん愛する人の胸の中で。
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