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第1話『ブラック企業より地獄』
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「貴様! 名を名乗れ……!何故こんな場所に人が……!」
僕の目の前には、騎士風の格好をした……人?が立っていた。
いや、人……?頭には耳がついている。
あの耳、何の耳だっけ?黒くて丸い……豹?猫?とにかく、動物の耳だ。
その男は剣を構えて、明らかに敵意を向けている。今にも飛びかかってきそうな目つきだ。
いや、ちょっと待って?
これ、普通に危なくない?
彼の後ろには、もう一人。同じく騎士風の格好で、こちらは銀色の耳。
形からして……狼っぽい。
彼は片腕を押さえていて、そこから血がダラダラと流れていた。状況がよくわからないけど、明らかにただ事じゃない。
「えーと……怪しい者ではなくてですね。女神ガイアさんに落とされまして……その……怪我、治しましょうか?」
※
雁須 蓮(かりす・れん)、32歳。
職業:コンビニ店長(自営)。
身長171センチ、中肉中背、良くも悪くもない平凡な顔。
唯一の特徴は「左右均等なシンメトリー顔」。
そんなの福笑いでもできる。
両親を早くに亡くし、育ての親だった祖父も他界。天涯孤独。それが僕だ。
29歳までは商社勤めの社畜。深夜残業、徹夜当たり前の生活。
でも祖父が亡くなり、店を引き継ぐために脱サラした。
正直、コンビニを甘く見ていた。
学生時代のバイト経験といえば、塾講師と家庭教師くらい。
祖父の手伝いもほんのわずかにはしていたものの……実際に店を回すとなると、もう……とんでもなかった。
やることが、あまりにも多すぎる。
税金の収納代行、バイク保険の申込受付、公共料金の支払い。
たまにしか来ない客の対応には、毎回マニュアルを開いて手探り。
季節イベントも全部がノルマ付き。
おせち、クリスマスケーキ、恵方巻き、丑の日、母の日、父の日、お中元、お歳暮、年賀状まで。
売れなくても罰金はないけど、スーパーバイザーや地区部長が週に何度も来て「注文取れ」とせっついてくる。
コピーやFAXの操作も不完全。
説明書片手に、お客さんと一緒に「うーん」って悩むのが日常。
そして……バイトが来ない。
募集をかけても応募ゼロ。
来ても外国人で、日本語が通じないこともしょっちゅう。
筆記用具をお願いしたら筆ペンが出てきた日には、時空の歪みを疑った。君は何を書く気だ。
雇っても遅刻、無断欠勤、バックレ。
……文化の違いってやつなんですかね?
かといって日本人なら良いかというと、そうでもない。
慣れてきたらバックヤードで雑談が始まり、まったく働かない。
おい、そこにも時給出てるぞ?
商品盗難も日常茶飯事。保管棚の商品が消えたり、客のポイントカードがないと知った途端、自分のカードを打ち込むバイトまでいた。
……犯罪だよね、それ。
とにかく。とにかく、とにかく、とにかく……しんどい!!!
肩書きは「店長(兼オーナー)」だけど、社畜だった頃のほうがよっぽどマシだった。
今はもう、毎日が怒涛のように過ぎていく。
社畜時代は最低でも3時間は寝られた。
今は仮眠すら満足に取れない。
有給?あるわけない。
自分が何してるのか、時々わからなくなる。
当時の僕が「死ぬかも」と思ってたあの頃に、今の僕が言ってやりたい。「今の方が死にそうだよ」と。
──で、今日もそんな日だった。
バイト(外国人)が「モウヤメルアルー」と電話一本で消え、僕は48時間ぶっ通しで店に出ていた。
途中で発注業務を片付けたりしつつも、接客は避けられない。
さすがに汗も限界だったので、徒歩10分の自宅に戻ってシャワーを浴びようと道を歩いていた。
そのとき。スマホが震えた。
……嫌な予感しか、しない。
『あ、店長ォ? 次の子が来ないからアタシ帰るよー?居てあげたいけど、この後ライブなんだよね』
「え、ちょ?! 高岡さん?! 待って! すぐ戻るから待って!お店、誰もいないとかダメだから!お願い待ってぇぇ!」
『えぇ~……うーん。じゃあ3分だけネっ』
高岡さんは、明るくて頼りになる女子大生バイト。
仕事はテキパキ、空気も読める超優良戦力。……なんだけど、“ライブ”の前には敵わない。
通話を切った僕は、全力で来た道を戻ろうとした。
──その瞬間、クラクションが耳をつんざいた。
……そしてその後のことを、僕は知らない。
僕の目の前には、騎士風の格好をした……人?が立っていた。
いや、人……?頭には耳がついている。
あの耳、何の耳だっけ?黒くて丸い……豹?猫?とにかく、動物の耳だ。
その男は剣を構えて、明らかに敵意を向けている。今にも飛びかかってきそうな目つきだ。
いや、ちょっと待って?
これ、普通に危なくない?
彼の後ろには、もう一人。同じく騎士風の格好で、こちらは銀色の耳。
形からして……狼っぽい。
彼は片腕を押さえていて、そこから血がダラダラと流れていた。状況がよくわからないけど、明らかにただ事じゃない。
「えーと……怪しい者ではなくてですね。女神ガイアさんに落とされまして……その……怪我、治しましょうか?」
※
雁須 蓮(かりす・れん)、32歳。
職業:コンビニ店長(自営)。
身長171センチ、中肉中背、良くも悪くもない平凡な顔。
唯一の特徴は「左右均等なシンメトリー顔」。
そんなの福笑いでもできる。
両親を早くに亡くし、育ての親だった祖父も他界。天涯孤独。それが僕だ。
29歳までは商社勤めの社畜。深夜残業、徹夜当たり前の生活。
でも祖父が亡くなり、店を引き継ぐために脱サラした。
正直、コンビニを甘く見ていた。
学生時代のバイト経験といえば、塾講師と家庭教師くらい。
祖父の手伝いもほんのわずかにはしていたものの……実際に店を回すとなると、もう……とんでもなかった。
やることが、あまりにも多すぎる。
税金の収納代行、バイク保険の申込受付、公共料金の支払い。
たまにしか来ない客の対応には、毎回マニュアルを開いて手探り。
季節イベントも全部がノルマ付き。
おせち、クリスマスケーキ、恵方巻き、丑の日、母の日、父の日、お中元、お歳暮、年賀状まで。
売れなくても罰金はないけど、スーパーバイザーや地区部長が週に何度も来て「注文取れ」とせっついてくる。
コピーやFAXの操作も不完全。
説明書片手に、お客さんと一緒に「うーん」って悩むのが日常。
そして……バイトが来ない。
募集をかけても応募ゼロ。
来ても外国人で、日本語が通じないこともしょっちゅう。
筆記用具をお願いしたら筆ペンが出てきた日には、時空の歪みを疑った。君は何を書く気だ。
雇っても遅刻、無断欠勤、バックレ。
……文化の違いってやつなんですかね?
かといって日本人なら良いかというと、そうでもない。
慣れてきたらバックヤードで雑談が始まり、まったく働かない。
おい、そこにも時給出てるぞ?
商品盗難も日常茶飯事。保管棚の商品が消えたり、客のポイントカードがないと知った途端、自分のカードを打ち込むバイトまでいた。
……犯罪だよね、それ。
とにかく。とにかく、とにかく、とにかく……しんどい!!!
肩書きは「店長(兼オーナー)」だけど、社畜だった頃のほうがよっぽどマシだった。
今はもう、毎日が怒涛のように過ぎていく。
社畜時代は最低でも3時間は寝られた。
今は仮眠すら満足に取れない。
有給?あるわけない。
自分が何してるのか、時々わからなくなる。
当時の僕が「死ぬかも」と思ってたあの頃に、今の僕が言ってやりたい。「今の方が死にそうだよ」と。
──で、今日もそんな日だった。
バイト(外国人)が「モウヤメルアルー」と電話一本で消え、僕は48時間ぶっ通しで店に出ていた。
途中で発注業務を片付けたりしつつも、接客は避けられない。
さすがに汗も限界だったので、徒歩10分の自宅に戻ってシャワーを浴びようと道を歩いていた。
そのとき。スマホが震えた。
……嫌な予感しか、しない。
『あ、店長ォ? 次の子が来ないからアタシ帰るよー?居てあげたいけど、この後ライブなんだよね』
「え、ちょ?! 高岡さん?! 待って! すぐ戻るから待って!お店、誰もいないとかダメだから!お願い待ってぇぇ!」
『えぇ~……うーん。じゃあ3分だけネっ』
高岡さんは、明るくて頼りになる女子大生バイト。
仕事はテキパキ、空気も読める超優良戦力。……なんだけど、“ライブ”の前には敵わない。
通話を切った僕は、全力で来た道を戻ろうとした。
──その瞬間、クラクションが耳をつんざいた。
……そしてその後のことを、僕は知らない。
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