恋した君は、嘘のキミ──それでも、好きにならずにいられなかった──

めがねあざらし

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第11話:膝枕とかやばい

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グラスの氷が、カラン、と澄んだ音を立てて溶けていく。
琥珀色の液体はもう残り少なく、舌の奥にほんのり熱がこびりついていた。

(……ちょっと飲みすぎた、かも)

顔がほんのり熱い。視界がやや揺れて、照明の光が水面みたいににじんで見えた。
けれど、完全に酔ってはいない。ただ、心地よいふわふわ感が身体の端にまとわりついている。

「大丈夫?」

すぐ隣から、レオンの低い声。
ソファ越しに近づいてきた肩が、やけにすぐそこにあった。
さっきから距離が近いことには気づいていた。けれど、今夜はやけにそれが気になる。

「……平気」
「ほんとに?」

グラスを受け取ったレオンは、軽くテーブルに置いた後、俺の顔を覗き込んだ。
瞳がまっすぐで、酔いが少し回った頭では誤魔化しようもない。
まるで視線で心臓の鼓動を拾われている気がした。

「少し、赤いね」

(……酒のせい、だろ。絶対)

わざと視線を外し、クッションを握りしめた。
けれど、ふいにレオンが立ち上がり、俺の隣に移動する。

「ね、ちょっと横になってみて?」

「……は?」

意味を理解するより先に、肩に軽い手が置かれた。
その手に導かれるようにソファへ沈み、視界が傾く。
後頭部を支えたのは、思ってもみなかった柔らかさと温もり――。

――レオンの膝。

「っ、いや、なにして……!」
「落ち着いて。ちょっとだけ」

拒否しかけた声を、柔らかな響きが押しとどめた。
起き上がろうとする動きは、背後から降りた手にそっと押さえられて、結局、そのまま膝の上に頭を預ける形になる。

(やば……これ、膝枕……! 本当にやってんのか、俺)

耳のすぐ横で、心臓が騒がしく跳ねる。
ソファに沈む自分の重さを、レオンの太腿がしっかりと支えている。
布越しに伝わる体温と硬さ。背中にまでじんわり広がっていく。

視界に映るのは、逆光の中のレオンの輪郭。
天井の照明が彼の髪を縁取って、後光みたいに輝かせていた。
少しだけ上を向けば、彼の喉仏が上下するのが見える距離。呼吸のたびに小さく動くそれに、なぜか視線が吸い寄せられそうになって慌てて瞼を閉じた。

「ほら、楽でしょ?」

「……べ、べつに……」

かすれた声で返しても、レオンは気にせず微笑む。
そのまま、指先が額から髪の根元をゆっくり撫で下ろした。
髪の間を梳くように、規則的に。
次の瞬間、指がうなじへと滑り、耳の後ろをかすめた。

「っ……!」

反射的に肩がすくむ。
そのくすぐったさは、むしろ電流のように背筋を走り抜ける。
耳の裏の柔らかな皮膚に一瞬触れて、すぐにまた髪を撫でる動きへと戻る。
なのに、そこに残った感覚だけがじんじんと熱を帯び続ける。

(やめろって……! けど……)

頭皮をなぞる優しい力加減に、思考がゆるみそうになる。
撫でられるたびに、瞼が重くなり、身体の力が抜けていく。
酔いのせいなのか、この温もりのせいなのか。

「……このまま寝ちゃう?」

囁きは、まるで夢の誘いみたいだった。
耳のすぐそばで、吐息が頬に直接触れる。
その熱で、余計に目が覚めてしまう。

「っ……!」

飛び起きたいはずなのに、身体は固まったまま動かない。
反射的に握ったクッションに力が入りすぎて、指先が白くなった。

(寝られるわけ、ないしな……!)

叫ぶような心の声とは裏腹に、身体はレオンの膝の上で静止している。
まぶたを閉じれば、そのまま眠り込んでしまいそうなほど心地よい――その危うさが、逆に眠れなくさせていた。

店内の音楽が、遠くで緩やかに流れている。
氷の音も、他の客の笑い声も、全部が霞んでいく。

残っているのは、頭越しに伝わる体温と、髪を撫でる規則的な指の感触。
そして――うなじをかすめた、あの一瞬の余韻。

――抜け出さなきゃ。
――でも、抜け出せない。

心の奥で繰り返しながら、固まったまま、時間が止まったように感じられた。
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