恋した君は、嘘のキミ──それでも、好きにならずにいられなかった──

めがねあざらし

文字の大きさ
25 / 40

第25話:問い詰め

しおりを挟む
店の扉が閉まる音を聞いたあとも、俺はその場から動けなかった。
人波に押されて一歩だけ後ずさったが、足は硬直したまま。
胸の奥で響いているのは、心臓の鼓動か、それとも耳鳴りか。

(……どうすれば、いいんだ)

冷静に考えるべきだとわかっているのに、頭の中は混乱で埋め尽くされていた。
認めたくない。けど、見間違いじゃない。
あれは――奏真だった。

夜の喧騒の中、店の看板がいやに眩しく見える。
あそこに入れば、目の前で全てが明らかになるのかもしれない。
でも客としてではなく、真実を確かめるために扉を開く勇気はなかった。
足が勝手に、店の裏手へと回っていた。

雑居ビルの裏口。
スタッフの出入り口に面した細い路地は、昼間でも人通りが少ない。
夜の今はなおさらで、街灯の下に自分の影だけが伸びていた。

(……ここで、待つしかない)

胸の奥がざわつき続ける。
逃げたいのに逃げられない。
問い詰めなければ、眠れない。
もしかしたら、違うかもしれない。
そんな考えが頭の端から抜けないままだ。

どれくらい時間が経っただろう。
遠くでタクシーのクラクションが鳴るたび、心臓が跳ねた。
やがて、裏口のドアがきしむ音がした。

現れたのは――見慣れた背の高さ。
白いシャツに黒のベスト。
ネオン街の「レオン」の姿。
けれど、眼鏡をかければ「桐嶋奏真」になる、その顔。

「……っ」

気づけば、俺は駆け寄っていた。
腕をつかんで、そのまま壁に押し付ける。
思った以上に荒い動きになった。

「……ああ」

抵抗もせず、彼はわずかに自嘲するように笑った。

「……バレたか」

その声が妙に落ち着いていて、逆に俺のほうが混乱する。

「お前……ずっと俺を……揶揄ってたんだろ!?」

声が震える。怒鳴ったはずなのに、情けないほど掠れていた。
言葉にした途端、胸の奥にたまっていた疑念と怒りが一気に噴き出す。

「ゼミじゃ優等生ぶって、夜はホストで、俺を……俺で、遊んで……」

途中で声が詰まる。
怒りなのか、悲しみなのか、自分でもわからない感情に喉が締め付けられる。

その目の前で、彼はただ静かに言った。

「……違う」

それだけ。
短く、低く、迷いなく。

驚くでも、取り繕うでもなく。
ただ「違う」と。

「は……? なにが違うって言うんだよ!」

詰め寄る俺の声が裏返る。
なのに、彼の視線は揺らがなかった。
眼鏡を外した顔の奥で、冗談も虚勢もなく、ただまっすぐに。

その落ち着きが、逆に俺を揺さぶった。
否定しているのは俺のほうなのに、立場が逆転したみたいに。

(……なんでそんな顔できんだよ)

握っている手に力がこもる。
でも振り払うこともできない。
この場から逃げ出すこともできない。

胸の奥で、怒りと混乱と、どうしようもない熱が渦を巻いていた。

――違う。
その一言の真意を、俺はどうしても聞き出さずにはいられなかった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

馬鹿な先輩と後輩くん

綿毛ぽぽ
BL
美形新人×平凡上司 新人の教育係を任された主人公。しかし彼は自分が教える事も必要が無いほど完璧だった。だけど愛想は悪い。一方、主人公は愛想は良いがミスばかりをする。そんな凸凹な二人の話。 ━━━━━━━━━━━━━━━ 作者は飲み会を経験した事ないので誤った物を書いているかもしれませんがご了承ください。 本来は二次創作にて登場させたモブでしたが余りにもタイプだったのでモブルートを書いた所ただの創作BLになってました。

【BL】男なのになぜかNo.1ホストに懐かれて困ってます

猫足
BL
「俺としとく? えれちゅー」 「いや、するわけないだろ!」 相川優也(25) 主人公。平凡なサラリーマンだったはずが、女友達に連れていかれた【デビルジャム】というホストクラブでスバルと出会ったのが運の尽き。 碧スバル(21) 指名ナンバーワンの美形ホスト。自称博愛主義者。優也に懐いてつきまとう。その真意は今のところ……不明。 「絶対に僕の方が美形なのに、僕以下の女に金払ってどーすんだよ!」 「スバル、お前なにいってんの……?」 冗談?本気?二人の結末は? 美形病みホス×平凡サラリーマンの、友情か愛情かよくわからない日常。 ※現在、続編連載再開に向けて、超大幅加筆修正中です。読んでくださっていた皆様にはご迷惑をおかけします。追加シーンがたくさんあるので、少しでも楽しんでいただければ幸いです。

君の隣は

ゆい
BL
修学旅行での班分けで、隠キャな僕が席が隣というだけで、イケメンの班のメンバーに誘われた。人数合わせの為に。 その中でも圧倒的なオーラを放つ彼が、何故か僕を構ってくる。 なんの取り柄もない僕になんで? またしても突発的な思いつきによる投稿です。楽しくお読みいただけたら嬉しいです。 久々(アルファポリスでは初)の現代BLです。言葉遣いが今の子達と違和感があるかと思いますが、限りなくスルーしていただけると有難いです。言葉遣いのおかしい箇所のご報告は有難いです。 今回もセリフが多めです。 誤字脱字等で文章を突然改稿するかもです。誤字脱字のご報告をいただけると有難いです。

インフルエンサー

うた
BL
イケメン同級生の大衡は、なぜか俺にだけ異様なほど塩対応をする。修学旅行でも大衡と同じ班になってしまって憂鬱な俺だったが、大衡の正体がSNSフォロワー5万人超えの憧れのインフルエンサーだと気づいてしまい……。 ※pixivにも投稿しています

とあるΩ達の試練

如月圭
BL
 吉住クレハは私立成城学園に通う中学三年生の男のオメガだった。同じ学園に通う男のオメガの月城真とは、転校して初めてできた同じオメガの友達だった。そんな真には、番のアルファが居て、クレハはうらやましいと思う。しかし、ベータの女子にとある事で目をつけられてしまい……。  この話はフィクションです。更新は、不定期です。

オメガ判定されました日記~俺を支えてくれた大切な人~

伊織
BL
「オメガ判定、された。」 それだけで、全部が変わるなんて思ってなかった。 まだ、よくわかんない。 けど……書けば、少しは整理できるかもしれないから。 **** 文武両道でアルファの「御門 蓮」と、オメガであることに戸惑う「陽」。 2人の関係は、幼なじみから恋人へ進んでいく。それは、あたたかくて、幸せな時間だった。 けれど、少しずつ──「恋人であること」は、陽の日常を脅かしていく。 大切な人を守るために、陽が選んだ道とは。 傷つきながらも、誰かを想い続けた少年の、ひとつの記録。 **** もう1つの小説「番じゃない僕らの恋」の、陽の日記です。 「章」はそちらの小説に合わせて、設定しています。

本気になった幼なじみがメロすぎます!

文月あお
BL
同じマンションに住む年下の幼なじみ・玲央は、イケメンで、生意気だけど根はいいやつだし、とてもモテる。 俺は失恋するたびに「玲央みたいな男に生まれたかったなぁ」なんて思う。 いいなぁ玲央は。きっと俺より経験豊富なんだろうな――と、つい出来心で聞いてしまったんだ。 「やっぱ唇ってさ、やわらけーの?」 その軽率な質問が、俺と玲央の幼なじみライフを、まるっと変えてしまった。 「忘れないでよ、今日のこと」 「唯くんは俺の隣しかだめだから」 「なんで邪魔してたか、わかんねーの?」 俺と玲央は幼なじみで。男同士で。生まれたときからずっと一緒で。 俺の恋の相手は女の子のはずだし、玲央の恋の相手は、もっと素敵な人であるはずなのに。 「素数でも数えてなきゃ、俺はふつーにこうなんだよ、唯くんといたら」 そんな必死な顔で迫ってくんなよ……メロすぎんだろーが……! 【攻め】倉田玲央(高一)×【受け】五十嵐唯(高三)

ノリで付き合っただけなのに、別れてくれなくて詰んでる

cheeery
BL
告白23連敗中の高校二年生・浅海凪。失恋のショックと友人たちの悪ノリから、クラス一のモテ男で親友、久遠碧斗に勢いで「付き合うか」と言ってしまう。冗談で済むと思いきや、碧斗は「いいよ」とあっさり承諾し本気で付き合うことになってしまった。 「付き合おうって言ったのは凪だよね」 あの流れで本気だとは思わないだろおおお。 凪はなんとか碧斗に愛想を尽かされようと、嫌われよう大作戦を実行するが……?

処理中です...