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第36話:交差する想い
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待ち合わせの時間まで、あと五分。
駅前のロータリーは、夕方のラッシュが落ち着いた後の静けさに包まれていた。
車のライトが遠ざかるたび、舗道のタイルに映る光がさざめく。
風が吹き抜けると、近くのカフェの看板の鎖が小さく鳴った。
俺は、その音に合わせるみたいに何度もスマホを点けては消していた。
届いたメッセージはたった一行。
――「今夜、店じゃなくて外で会おう」
それだけで、胸の奥が焼けつくみたいに熱くなっている。
「……落ち着け」
声に出したが、全然落ち着けなかった。
ポケットの中の手のひらがじっとり汗をかいて、スマホが滑りそうになる。
落ち着けと言い聞かせるたび、逆に心臓の音が大きくなる。
周りの雑踏の音が遠のき、身体の内側だけがうるさく響いているようだった。
人の波の中、視線が勝手に探してしまう。
背の高さ。歩幅。あの眼鏡。
見つかるはずがないのに、見つけたい気持ちが暴れて、目が泳ぐ。
人の顔を一人ひとり確認する自分に気づいて、歯を噛んだ。
……そして――
「陸」
振り返った瞬間、心臓が大きく鳴った。
そこにいたのは、いつもの白シャツに眼鏡姿の桐嶋奏真。
ホストの「レオン」ではなく、俺が大学で見慣れた顔だった。
照明の白に照らされた横顔は、日常の一部のようで、でも俺には非日常にしか見えなかった。
「……来たんだな」
思わず、当たり前すぎる言葉が口から漏れる。
奏真は小さく笑って、「お前もな」と返した。
その笑みはほんの一瞬で、すぐに消えた。
真顔に戻った彼の横顔に、俺は視線を奪われる。
並んで歩き出す。
駅前の通りはもう人通りがまばらで、開いたままのカフェからはコーヒーの匂いが漂ってくる。
靴音が二つ、アスファルトの上で交互に重なる。
どちらも無言で歩いているのに、互いの存在がやけに大きい。
ぎこちない沈黙が、二人の間に張りついていた。
言葉を探そうとすると、すぐに喉が乾いて声が詰まる。
沈黙が痛いはずなのに、なぜか破るのも怖かった。
「……昨日のこと、返事できなくて」
俺が切り出すと、彼は立ち止まり、正面から俺を見た。
眼鏡の奥の視線は、逃げ場を与えてくれない。
街の灯りに縁どられたその目が、真剣であるほど、俺は後ろに下がりたくなる。
「陸」
名前を呼ぶ声が、街のざわめきの中で妙に鮮明だった。
風が吹いて、看板が再び揺れる音も、すれ違う自転車のベルの音も、全部遠ざかる。
残ったのは、彼の声だけ。
「俺はずっと、お前が好きだった」
短い。けれど、その言葉は真っ直ぐで重くて、胸を撃ち抜くみたいだった。
その場で心臓が一瞬止まったかと思うくらい、全身が熱を持つ。
逃げ場を探して視線を逸らそうとしても、どうしても戻ってしまう。
その瞳には、冗談も虚勢もなく、本気しか映っていなかった。
「からかってたんじゃない。本気だ」
俺の中で、何かが崩れる音がした。
これまで何度も「違う」「ありえない」と言い張ってきた言葉が、全部脆くて頼りない。
その上に積み重なった言い訳は、いま彼の一言で粉々にされていく。
鼓動が耳を突き抜ける。
胸の奥からせり上がってくるのは、否定でも怒りでもなく――
昨日、布団の中で零してしまった言葉。
(……会いたい)
視線がぶつかったまま、逃げられない。
夜風が吹いて髪を揺らす。
街路灯の下で、彼の瞳は一瞬たりとも揺らがなかった。
その静けさに、俺の心臓だけが暴れ続ける。
彼の呼吸のリズムが、やけに鮮明に聞こえる。
視線が絡んだまま、ほんの数秒が永遠に引き伸ばされていく。
喉までせり上がった言葉は、最後の一音にならないまま震えて――
俺はただ、その視線に貫かれていた。
駅前のロータリーは、夕方のラッシュが落ち着いた後の静けさに包まれていた。
車のライトが遠ざかるたび、舗道のタイルに映る光がさざめく。
風が吹き抜けると、近くのカフェの看板の鎖が小さく鳴った。
俺は、その音に合わせるみたいに何度もスマホを点けては消していた。
届いたメッセージはたった一行。
――「今夜、店じゃなくて外で会おう」
それだけで、胸の奥が焼けつくみたいに熱くなっている。
「……落ち着け」
声に出したが、全然落ち着けなかった。
ポケットの中の手のひらがじっとり汗をかいて、スマホが滑りそうになる。
落ち着けと言い聞かせるたび、逆に心臓の音が大きくなる。
周りの雑踏の音が遠のき、身体の内側だけがうるさく響いているようだった。
人の波の中、視線が勝手に探してしまう。
背の高さ。歩幅。あの眼鏡。
見つかるはずがないのに、見つけたい気持ちが暴れて、目が泳ぐ。
人の顔を一人ひとり確認する自分に気づいて、歯を噛んだ。
……そして――
「陸」
振り返った瞬間、心臓が大きく鳴った。
そこにいたのは、いつもの白シャツに眼鏡姿の桐嶋奏真。
ホストの「レオン」ではなく、俺が大学で見慣れた顔だった。
照明の白に照らされた横顔は、日常の一部のようで、でも俺には非日常にしか見えなかった。
「……来たんだな」
思わず、当たり前すぎる言葉が口から漏れる。
奏真は小さく笑って、「お前もな」と返した。
その笑みはほんの一瞬で、すぐに消えた。
真顔に戻った彼の横顔に、俺は視線を奪われる。
並んで歩き出す。
駅前の通りはもう人通りがまばらで、開いたままのカフェからはコーヒーの匂いが漂ってくる。
靴音が二つ、アスファルトの上で交互に重なる。
どちらも無言で歩いているのに、互いの存在がやけに大きい。
ぎこちない沈黙が、二人の間に張りついていた。
言葉を探そうとすると、すぐに喉が乾いて声が詰まる。
沈黙が痛いはずなのに、なぜか破るのも怖かった。
「……昨日のこと、返事できなくて」
俺が切り出すと、彼は立ち止まり、正面から俺を見た。
眼鏡の奥の視線は、逃げ場を与えてくれない。
街の灯りに縁どられたその目が、真剣であるほど、俺は後ろに下がりたくなる。
「陸」
名前を呼ぶ声が、街のざわめきの中で妙に鮮明だった。
風が吹いて、看板が再び揺れる音も、すれ違う自転車のベルの音も、全部遠ざかる。
残ったのは、彼の声だけ。
「俺はずっと、お前が好きだった」
短い。けれど、その言葉は真っ直ぐで重くて、胸を撃ち抜くみたいだった。
その場で心臓が一瞬止まったかと思うくらい、全身が熱を持つ。
逃げ場を探して視線を逸らそうとしても、どうしても戻ってしまう。
その瞳には、冗談も虚勢もなく、本気しか映っていなかった。
「からかってたんじゃない。本気だ」
俺の中で、何かが崩れる音がした。
これまで何度も「違う」「ありえない」と言い張ってきた言葉が、全部脆くて頼りない。
その上に積み重なった言い訳は、いま彼の一言で粉々にされていく。
鼓動が耳を突き抜ける。
胸の奥からせり上がってくるのは、否定でも怒りでもなく――
昨日、布団の中で零してしまった言葉。
(……会いたい)
視線がぶつかったまま、逃げられない。
夜風が吹いて髪を揺らす。
街路灯の下で、彼の瞳は一瞬たりとも揺らがなかった。
その静けさに、俺の心臓だけが暴れ続ける。
彼の呼吸のリズムが、やけに鮮明に聞こえる。
視線が絡んだまま、ほんの数秒が永遠に引き伸ばされていく。
喉までせり上がった言葉は、最後の一音にならないまま震えて――
俺はただ、その視線に貫かれていた。
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