39 / 40
第39話:可愛いの攻防
しおりを挟む
大学が終わり一緒に帰宅する夜。
風は少し冷たかった。
昼間の熱気を残したアスファルトの匂いと、秋めいた乾いた風が混じって、鼻の奥をくすぐる。
街灯の下を歩くたびに、影が長く伸びては縮む。
俺と奏真の足音だけが、規則正しく夜道に響いていた。
繋いだ手が、まだ熱い。
鼓動のせいか、手のひらに汗が滲んでいる。
なのに奏真は、まるで何でもない顔で歩いていた。
それが余計に腹立たしい。
「……なあ」
不意に落ちた低い声。
振り返ると、奏真が俺を見ていた。
街灯に縁どられた横顔は、落ち着き払っていて、揺るがない。
「お前ってさ、やっぱ可愛いよな」
「はあ?! な、何言ってんだバカ!」
一瞬で顔が熱くなる。
慌てて手を振りほどこうとしたが、強く握られていて逃げられなかった。
「誰が可愛いだ! 俺は男だぞ! 可愛いわけねーだろ!」
「いや、陸は可愛いよ」
あまりにもさらっと言うから、言葉が詰まった。
否定したいのに、喉が乾いて声が出ない。
どう見ても俺は、顔を真っ赤にして必死で言い返していて――可愛いとしか言いようのない反応をしていた。
「ほら、今の顔。可愛い」
「~~っ、黙れ!」
思わず小突くと、奏真はくすりと笑って俺の手を掴み直す。
余裕のある指先が、余計に憎らしい。
「……そんなに可愛い顔して、俺に隙を見せるのが悪い」
「は?」
意味がわからないまま視線を上げると、すぐそこに彼の顔があった。
呼吸の隙間を縫うように、唇が重なった。
一瞬だけの触れるキス。
熱に打たれたみたいに頭が真っ白になる。
抗議の言葉を出そうとした瞬間、また唇を塞がれた。
今度は深く。舌先が触れ合った途端、背筋に電流が走る。
息が乱れて、無意識に彼の胸を掴んでいた。
「……やめろって……言ってるのに……!」
必死に吐き出した声は震えていて、説得力がない。
むしろ彼を煽るみたいに、また唇を重ねられる。
逃げ道なんてなかった。
深く押し込まれた舌先が、不器用に俺の舌に絡んでくる。
どうしていいかわからず、ただ受け止めることしかできない。
酸素が奪われて、胸が苦しくなる。
鼻先が触れ合って、熱い息が混ざり合う。
耳の奥で、自分の荒い呼吸と心臓の音ばかりが響いていた。
やっと離れたとき、奏真は荒い息のまま低く囁いた。
「陸……キスはあまり慣れてない?……余計に、可愛いな」
「っ……!」
胸の奥が爆発する。
耳まで熱くなり、言葉が勝手に飛び出す。
「う、うるさい! ……はじめてだから仕方ないだろう?!」
沈黙。
自分の声が夜に響いて、驚いて口を押さえる。
けれどもう遅かった。
奏真の目が見開かれる。
次の瞬間、震えるように息を漏らす。
「……はじめて……俺で?」
その声音があまりにも真剣で、俺は余計に耐えられなかった。
いつも余裕ぶっているこいつが、今は俺の言葉に揺さぶられているようだ。
その事実が、胸にずしんと響いた。
「……っ、もう知らねー!」
顔が真っ赤すぎて直視できない。
俺はふてくされたように肩をそむけ、腕で顔を隠す。
「陸。本当に?」
「知らねーったら、知らねー!」
それでも奏真は横に並んできて、そっと肩に頭を預けてきた。
体温が伝わる。耳元で、小さく囁かれる。
「……やっぱり可愛い」
「~~~~っ!」
声にならない声を吐いて、俺はただ顔を覆った。
抗議の言葉なんて、もう出てこなかった。
先が思いやられるな、なんて俺は思ったのだった。
風は少し冷たかった。
昼間の熱気を残したアスファルトの匂いと、秋めいた乾いた風が混じって、鼻の奥をくすぐる。
街灯の下を歩くたびに、影が長く伸びては縮む。
俺と奏真の足音だけが、規則正しく夜道に響いていた。
繋いだ手が、まだ熱い。
鼓動のせいか、手のひらに汗が滲んでいる。
なのに奏真は、まるで何でもない顔で歩いていた。
それが余計に腹立たしい。
「……なあ」
不意に落ちた低い声。
振り返ると、奏真が俺を見ていた。
街灯に縁どられた横顔は、落ち着き払っていて、揺るがない。
「お前ってさ、やっぱ可愛いよな」
「はあ?! な、何言ってんだバカ!」
一瞬で顔が熱くなる。
慌てて手を振りほどこうとしたが、強く握られていて逃げられなかった。
「誰が可愛いだ! 俺は男だぞ! 可愛いわけねーだろ!」
「いや、陸は可愛いよ」
あまりにもさらっと言うから、言葉が詰まった。
否定したいのに、喉が乾いて声が出ない。
どう見ても俺は、顔を真っ赤にして必死で言い返していて――可愛いとしか言いようのない反応をしていた。
「ほら、今の顔。可愛い」
「~~っ、黙れ!」
思わず小突くと、奏真はくすりと笑って俺の手を掴み直す。
余裕のある指先が、余計に憎らしい。
「……そんなに可愛い顔して、俺に隙を見せるのが悪い」
「は?」
意味がわからないまま視線を上げると、すぐそこに彼の顔があった。
呼吸の隙間を縫うように、唇が重なった。
一瞬だけの触れるキス。
熱に打たれたみたいに頭が真っ白になる。
抗議の言葉を出そうとした瞬間、また唇を塞がれた。
今度は深く。舌先が触れ合った途端、背筋に電流が走る。
息が乱れて、無意識に彼の胸を掴んでいた。
「……やめろって……言ってるのに……!」
必死に吐き出した声は震えていて、説得力がない。
むしろ彼を煽るみたいに、また唇を重ねられる。
逃げ道なんてなかった。
深く押し込まれた舌先が、不器用に俺の舌に絡んでくる。
どうしていいかわからず、ただ受け止めることしかできない。
酸素が奪われて、胸が苦しくなる。
鼻先が触れ合って、熱い息が混ざり合う。
耳の奥で、自分の荒い呼吸と心臓の音ばかりが響いていた。
やっと離れたとき、奏真は荒い息のまま低く囁いた。
「陸……キスはあまり慣れてない?……余計に、可愛いな」
「っ……!」
胸の奥が爆発する。
耳まで熱くなり、言葉が勝手に飛び出す。
「う、うるさい! ……はじめてだから仕方ないだろう?!」
沈黙。
自分の声が夜に響いて、驚いて口を押さえる。
けれどもう遅かった。
奏真の目が見開かれる。
次の瞬間、震えるように息を漏らす。
「……はじめて……俺で?」
その声音があまりにも真剣で、俺は余計に耐えられなかった。
いつも余裕ぶっているこいつが、今は俺の言葉に揺さぶられているようだ。
その事実が、胸にずしんと響いた。
「……っ、もう知らねー!」
顔が真っ赤すぎて直視できない。
俺はふてくされたように肩をそむけ、腕で顔を隠す。
「陸。本当に?」
「知らねーったら、知らねー!」
それでも奏真は横に並んできて、そっと肩に頭を預けてきた。
体温が伝わる。耳元で、小さく囁かれる。
「……やっぱり可愛い」
「~~~~っ!」
声にならない声を吐いて、俺はただ顔を覆った。
抗議の言葉なんて、もう出てこなかった。
先が思いやられるな、なんて俺は思ったのだった。
41
あなたにおすすめの小説
陰キャな俺、人気者の幼馴染に溺愛されてます。
陽七 葵
BL
主人公である佐倉 晴翔(さくら はると)は、顔がコンプレックスで、何をやらせてもダメダメな高校二年生。前髪で顔を隠し、目立たず平穏な高校ライフを望んでいる。
しかし、そんな晴翔の平穏な生活を脅かすのはこの男。幼馴染の葉山 蓮(はやま れん)。
蓮は、イケメンな上に人当たりも良く、勉強、スポーツ何でも出来る学校一の人気者。蓮と一緒にいれば、自ずと目立つ。
だから、晴翔は学校では極力蓮に近付きたくないのだが、避けているはずの蓮が晴翔にベッタリ構ってくる。
そして、ひょんなことから『恋人のフリ』を始める二人。
そこから物語は始まるのだが——。
実はこの二人、最初から両想いだったのにそれを拗らせまくり。蓮に新たな恋敵も現れ、蓮の執着心は過剰なモノへと変わっていく。
素直になれない主人公と人気者な幼馴染の恋の物語。どうぞお楽しみ下さい♪
なぜかピアス男子に溺愛される話
光野凜
BL
夏希はある夜、ピアスバチバチのダウナー系、零と出会うが、翌日クラスに転校してきたのはピアスを外した優しい彼――なんと同一人物だった!
「夏希、俺のこと好きになってよ――」
突然のキスと真剣な告白に、夏希の胸は熱く乱れる。けれど、素直になれない自分に戸惑い、零のギャップに振り回される日々。
ピュア×ギャップにきゅんが止まらない、ドキドキ青春BL!
Fromのないラブレター
すずかけあおい
BL
『好きです。あなたをいつも見てます。ずっと好きでした。つき合ってください。』
唯のもとに届いた差出人のない手紙には、パソコンの文字でそう書かれていた。
いつも、ずっと――昔から仲がよくて近しい人で思い当たるのは、隣家に住む幼馴染の三兄弟。
まさか、三兄弟の誰かからのラブレター!?
*外部サイトでも同作品を投稿しています。
隣に住む先輩の愛が重いです。
陽七 葵
BL
主人公である桐原 智(きりはら さとし)十八歳は、平凡でありながらも大学生活を謳歌しようと意気込んでいた。
しかし、入学して間もなく、智が住んでいるアパートの部屋が雨漏りで水浸しに……。修繕工事に約一ヶ月。その間は、部屋を使えないときた。
途方に暮れていた智に声をかけてきたのは、隣に住む大学の先輩。三笠 琥太郎(みかさ こたろう)二十歳だ。容姿端麗な琥太郎は、大学ではアイドル的存在。特技は料理。それはもう抜群に美味い。しかし、そんな琥太郎には欠点が!
まさかの片付け苦手男子だった。誘われた部屋の中はゴミ屋敷。部屋を提供する代わりに片付けを頼まれる。智は嫌々ながらも、貧乏大学生には他に選択肢はない。致し方なく了承することになった。
しかし、琥太郎の真の目的は“片付け”ではなかった。
そんなことも知らない智は、琥太郎の言動や行動に翻弄される日々を過ごすことに——。
隣人から始まる恋物語。どうぞ宜しくお願いします!!
君の恋人
risashy
BL
朝賀千尋(あさか ちひろ)は一番の親友である茅野怜(かやの れい)に片思いをしていた。
伝えるつもりもなかった気持ちを思い余って告げてしまった朝賀。
もう終わりだ、友達でさえいられない、と思っていたのに、茅野は「付き合おう」と答えてくれて——。
不器用な二人がすれ違いながら心を通わせていくお話。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる