王弟様の溺愛が重すぎるんですが、未来では捨てられるらしい

めがねあざらし

文字の大きさ
10 / 64

4-1

しおりを挟む
いつものように、エリアスは王宮内を歩いていた。
別部署からの書類を預かりレオナードの執務室に戻る途中だ。
夕刻の風が吹き抜ける中庭を横切ろうとした時、不意に名前を呼ばれる。

「エリアス様ーっ!」

振り返ると、駆け寄ってきたのはハルトだった。

「……御子殿」
「いやいや!普通にハルトでいいですよ!」

人懐っこい笑顔を浮かべるハルトは、相変わらず屈託がない。
御子として正式に王宮に迎えられて数日が経ったが、相変わらずその態度に気負いは感じられなかった。

「おひとりで散策ですか?」
「はい!王宮内で迷わないように探検中です!エリアス様はお仕事の帰りですか?」
「もう少しですかね。少し片付けがありまして」
「そっかー」

ハルトは隣を並んで歩き始めた。
その距離が妙に近いことにエリアスはわずかに目を細めたが、気付かないふりをして足を進める。

「エリアス様って、本当に綺麗ですね」
「……はい?」
「レオナード殿下が惚れ込むのもわかる気がします」

突然の屈託ない言葉にエリアスは歩を止めかけたが、ハルトは気にする様子もなくにこにこと笑っている。

「いや、その……?」
「村でもね、エリアス様の噂は聞いてましたよ。あ、これこの前も俺言ったかな……?」
「……ええ、まあ」

そういえば、とエリアスも思い出してわずかに肩をすくめる。

「レオナード殿下が恋人として大事にしている方だって。みんな言ってましたし、会って納得しました」
「それは光栄ですが……あまり言いふらさないで頂けると」
「えー、なんでですか?」
「私の立場は、それほど強くはありませんから」

エリアスは淡々と答えたが、ハルトはふっと表情を曇らせた。

「立場とかいろいろとあるんだ……いや、あるんですね」
「当然です。王宮では、それがすべてですから」
「でも……レオナード殿下はそんなこと気にしてなさそうじゃないです?」
「……そう見えるだけです」

エリアスは苦笑を漏らした。

(あれがレオ様の本心であればいいが……ああいやだな。レオ様が絡むむとどうも女々しい)

「……なかなか難しいっすね……」
「ハルト様が無邪気すぎるんですよ」

唸るハルトに向かってそう言いながら、少しだけエリアスの心は和らいでいた。

「ねえ、エリアス様。明日、時間……ええと、お時間ありますか?」
「……明日?」
「はい。俺、剣術の稽古があるんですけど、見ててもらえると嬉しいなって」
「私が?」
「ですです!ここに来てからの一番初めの友達はエリアス様なんで!」

ハルトは明るい笑顔でエリアスを見る。

「だからエリアス様に見ててもらえたら嬉しいなーって思ったんです」

(これは……懐かれたかな……)
エリアスは内心でため息をつきながらも、断りきれず小さく頷いた。

「……わかりました。少しだけならお付き合いしますよ」
「本当ですか!やった!」

無邪気に喜ぶハルトを見て、エリアスは再びため息をつく。
(これが後々、面倒なことにならなければいいが……まあ、大丈夫か)
しおりを挟む
感想 30

あなたにおすすめの小説

人質5歳の生存戦略! ―悪役王子はなんとか死ぬ気で生き延びたい!冤罪処刑はほんとムリぃ!―

ほしみ
ファンタジー
「え! ぼく、死ぬの!?」 前世、15歳で人生を終えたぼく。 目が覚めたら異世界の、5歳の王子様! けど、人質として大国に送られた危ない身分。 そして、夢で思い出してしまった最悪な事実。 「ぼく、このお話知ってる!!」 生まれ変わった先は、小説の中の悪役王子様!? このままだと、10年後に無実の罪であっさり処刑されちゃう!! 「むりむりむりむり、ぜったいにムリ!!」 生き延びるには、なんとか好感度を稼ぐしかない。 とにかく周りに気を使いまくって! 王子様たちは全力尊重! 侍女さんたちには迷惑かけない! ひたすら頑張れ、ぼく! ――猶予は後10年。 原作のお話は知ってる――でも、5歳の頭と体じゃうまくいかない! お菓子に惑わされて、勘違いで空回りして、毎回ドタバタのアタフタのアワアワ。 それでも、ぼくは諦めない。 だって、絶対の絶対に死にたくないからっ! 原作とはちょっと違う王子様たち、なんかびっくりな王様。 健気に奮闘する(ポンコツ)王子と、見守る人たち。 どうにか生き延びたい5才の、ほのぼのコミカル可愛いふわふわ物語。 (全年齢/ほのぼの/男性キャラ中心/嫌なキャラなし/1エピソード完結型/ほぼ毎日更新中)

転生したら同性の婚約者に毛嫌いされていた俺の話

鳴海
BL
前世を思い出した俺には、驚くことに同性の婚約者がいた。 この世界では同性同士での恋愛や結婚は普通に認められていて、なんと出産だってできるという。 俺は婚約者に毛嫌いされているけれど、それは前世を思い出す前の俺の性格が最悪だったからだ。 我儘で傲慢な俺は、学園でも嫌われ者。 そんな主人公が前世を思い出したことで自分の行動を反省し、行動を改め、友達を作り、婚約者とも仲直りして愛されて幸せになるまでの話。

あなたと過ごせた日々は幸せでした

蒸しケーキ
BL
結婚から五年後、幸せな日々を過ごしていたシューン・トアは、突然義父に「息子と別れてやってくれ」と冷酷に告げられる。そんな言葉にシューンは、何一つ言い返せず、飲み込むしかなかった。そして、夫であるアインス・キールに離婚を切り出すが、アインスがそう簡単にシューンを手離す訳もなく......。

【完結】婚約破棄したのに幼馴染の執着がちょっと尋常じゃなかった。

天城
BL
子供の頃、天使のように可愛かった第三王子のハロルド。しかし今は令嬢達に熱い視線を向けられる美青年に成長していた。 成績優秀、眉目秀麗、騎士団の演習では負けなしの完璧な王子の姿が今のハロルドの現実だった。 まだ少女のように可愛かったころに求婚され、婚約した幼馴染のギルバートに申し訳なくなったハロルドは、婚約破棄を決意する。 黒髪黒目の無口な幼馴染(攻め)×金髪青瞳美形第三王子(受け)。前後編の2話完結。番外編を不定期更新中。

悪役令嬢の兄でしたが、追放後は参謀として騎士たちに囲まれています。- 第1巻 - 婚約破棄と一族追放

大の字だい
BL
王国にその名を轟かせる名門・ブラックウッド公爵家。 嫡男レイモンドは比類なき才知と冷徹な眼差しを持つ若き天才であった。 だが妹リディアナが王太子の許嫁でありながら、王太子が心奪われたのは庶民の少女リーシャ・グレイヴェル。 嫉妬と憎悪が社交界を揺るがす愚行へと繋がり、王宮での婚約破棄、王の御前での一族追放へと至る。 混乱の只中、妹を庇おうとするレイモンドの前に立ちはだかったのは、王国騎士団副団長にしてリーシャの異母兄、ヴィンセント・グレイヴェル。 琥珀の瞳に嗜虐を宿した彼は言う―― 「この才を捨てるは惜しい。ゆえに、我が手で飼い馴らそう」 知略と支配欲を秘めた騎士と、没落した宰相家の天才青年。 耽美と背徳の物語が、冷たい鎖と熱い口づけの中で幕を開ける。

悪役令息を改めたら皆の様子がおかしいです?

  *  ゆるゆ
BL
王太子から伴侶(予定)契約を破棄された瞬間、前世の記憶がよみがえって、悪役令息だと気づいたよ! しかし気づいたのが終了した後な件について。 悪役令息で断罪なんて絶対だめだ! 泣いちゃう! せっかく前世を思い出したんだから、これからは心を入れ替えて、真面目にがんばっていこう! と思ったんだけど……あれ? 皆やさしい? 主人公はあっちだよー? ユィリと皆の動画をつくりました! インスタ @yuruyu0 絵も皆の小話もあがります。 Youtube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます。動画を作ったときに更新! プロフのWebサイトから、両方に飛べるので、もしよかったら! 名前が  *   ゆるゆ  になりましたー! 中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー! ご感想欄 、うれしくてすぐ承認を押してしまい(笑)ネタバレ 配慮できないので、ご覧になる時は、お気をつけください!

BL世界に転生したけど主人公の弟で悪役だったのでほっといてください

わさび
BL
前世、妹から聞いていたBL世界に転生してしまった主人公。 まだ転生したのはいいとして、何故よりにもよって悪役である弟に転生してしまったのか…!? 悪役の弟が抱えていたであろう嫉妬に抗いつつ転生生活を過ごす物語。

【完結】悪役に転生したので、皇太子を推して生き延びる

ざっしゅ
BL
気づけば、男の婚約者がいる悪役として転生してしまったソウタ。 この小説は、主人公である皇太子ルースが、悪役たちの陰謀によって記憶を失い、最終的に復讐を遂げるという残酷な物語だった。ソウタは、自分の命を守るため、原作の悪役としての行動を改め、記憶を失ったルースを友人として大切にする。 ソウタの献身的な行動は周囲に「ルースへの深い愛」だと噂され、ルース自身もその噂に満更でもない様子を見せ始める。

処理中です...