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後日。エリアスは官舎の自室にカーティスを呼んでいた。
机の上には、ろうそくの灯りに照らされた書類の山。
その一角に、カーティスが持ち込んだ問題の "小説" が置かれている。
それは本来のものではなく、カーティスがどうにか思い出したものを書き留めたものだ。
エリアスは指先でこめかみを押さえながら、深いため息をついた。
「……つまり、お前の話が正しければ、 七日後の夜会でハルトの飲み物に毒が混入される ってことだが……」
「うん」
カーティスはすぐに頷く。
「毒の種類は?」
「書かれてない。作中の描写では『飲んだ直後に苦しみ始める』とあるから、即効性のものだろうね。ただすぐに死んではいない。その後に神官長の解毒治療が間に合う」
「ふむ…… 毒を混入するタイミングは?」
「それも、はっきりとは書かれてない。ただ、飲み物が運ばれる途中か、テーブルに置かれた後のどちらかだと思う」
エリアスは短く息を吐き、 机の上に指をトントンと当てながら 思考を巡らせた。
(……夜会という大人数の場で、どうやって毒を混ぜる?)
浮かんだものを机の上にある白紙の紙に、鉛筆で文字を書いていく。
・飲み物を運ぶ給仕の誰かが買収されている?
・もしくは、既に毒入りの飲み物が用意されていて、それとすり替える?
・あるいは、夜会中にこっそりと毒を入れる?
「……どの方法でも、 犯人は確実に飲み物に直接関与できる立場の人間だな。結構いるな……」
エリアスの言葉に、カーティスが頷く。
「そういうこと。でも、もし 小説通りに事が進むなら、何をしても毒殺は起こるはず なんだよね」
「防ぎきれないと?」
「だって、この小説は 『御子が毒を盛られる事件が発生する』のが前提 になってるから」
「……なるほど」
エリアスは少し眉をひそめた。
(確かに、ここまで小説通りに事件が起こってきた以上、 今回も“絶対に発生する”という前提で動かなきゃならない)
しかし、だからと言って 手をこまねいて毒殺を許すわけにはいかない。
「どんな形であれ 『御子が毒を口にする』という未来を回避する必要がある」
そう言うと、カーティスが軽く指を鳴らした。
「それなら、 事前に全ての飲み物を差し替えておけば?」
「そう簡単な話じゃない」
エリアスは首を振る。
「夜会で出される飲み物は、一杯や二杯ではない。給仕たちは何度もワインや果実酒を注ぎにくる。 それを全て監視するのは現実的ではない」
「確かに……じゃあ、 『全員の飲み物を試飲する』のは?」
「誰がするんだよ、それ」
そう言うと、カーティスはエリアスを指さした。
「馬鹿か。そもそも 仮に毒が入っていたら、俺が死ぬ だろ」
「それは困る」
カーティスが真顔で言った。
「……いや、そこで普通もうちょっと慌てるとかないのか?」
「そりゃ嫌だよ? でも、お前なら飲みそうだなーって。まあ、冗談だけどさ」
エリアスはため息をついた。
しかし、冗談のつもりで言ったカーティスの言葉が、 あるひとつの可能性を示唆している ことに気づく。
(…… もし、俺が毒を飲んだらどうなる?少なくとも 「エリアスが犯人だ」 という筋書きは崩れる……俺が毒を混ぜるという話ならば嫉妬が原因なわけだし、自分が死のうとするはずがない)
「……カーティス」
「ん?」
エリアスは一瞬だけ迷ったが、 次の言葉を慎重に選びながら 口を開いた。
「…… 毒が盛られたと確信した場合、俺が飲む」
「……は?」
カーティスが固まった。
「いや、ちょっと待って。何言ってんの?」
「言葉通りの意味だ」
「バカか?」
今度はカーティスが思わず額を押さえた。
「普通、毒殺を防ぐってそういう意味じゃないだろ……!」
「わかってる。でも、 『御子を守ること』と『俺に罪を着せようとする計画を潰すこと』の両方を同時に防ぐには、それしかない」
カーティスの顔が、みるみるうちに険しくなる。
「いやいやいや……! お前が毒を飲んだら、最悪死ぬんだぞ?!」
「毒の種類が即効性じゃなければ大丈夫だろう。それに、ハルトが傍にいる」
「……は?」
「予め、今回もハルトに協力をしてもらえばいい。俺が倒れたら御子の力で解毒できるさ」
「いや……だからって!!」
「そこでハルトごと殺されない限り、大丈夫だろ」
エリアスは淡々と言った。
「 まあ、仮に解毒が間に合わなくても、俺ならある程度の耐性がある しな」
「耐性って……そんなもんあるのか……?」
「ある。外交官の家系だからかな?実家の方針というやつだよ」
「えぇ……お前の実家、意外と怖いな……」
カーティスは呆れたように言ったが、 まだ納得できない という顔をしていた。
「でも、仮にお前が倒れたら、レオナード殿下が黙ってないぞ?」
「……それは、うん」
エリアスは 若干想像しただけで胃が痛くなった。
(……うん、まあ、確実に怒るな。俺が生きてても死んでても、どっちにしろまずい気がする……)
でも、それでも── ハルトを守るため、そして“犯人を炙り出すため”に、これが最善手なのだ。
エリアスは静かに息を整えた。
「……でも、それが早いだろう?他に手立てがあれば変更するが、あまり大掛かりに動くと犯人にばれる可能性もあるしな」
「……」
カーティスはしばらく沈黙したが、やがて 観念したように頭をかいた。
「……わかった。 でも、俺は絶対にお前を死なせない からな」
「頼んだ」
エリアスは小さく笑った。
机の上には、ろうそくの灯りに照らされた書類の山。
その一角に、カーティスが持ち込んだ問題の "小説" が置かれている。
それは本来のものではなく、カーティスがどうにか思い出したものを書き留めたものだ。
エリアスは指先でこめかみを押さえながら、深いため息をついた。
「……つまり、お前の話が正しければ、 七日後の夜会でハルトの飲み物に毒が混入される ってことだが……」
「うん」
カーティスはすぐに頷く。
「毒の種類は?」
「書かれてない。作中の描写では『飲んだ直後に苦しみ始める』とあるから、即効性のものだろうね。ただすぐに死んではいない。その後に神官長の解毒治療が間に合う」
「ふむ…… 毒を混入するタイミングは?」
「それも、はっきりとは書かれてない。ただ、飲み物が運ばれる途中か、テーブルに置かれた後のどちらかだと思う」
エリアスは短く息を吐き、 机の上に指をトントンと当てながら 思考を巡らせた。
(……夜会という大人数の場で、どうやって毒を混ぜる?)
浮かんだものを机の上にある白紙の紙に、鉛筆で文字を書いていく。
・飲み物を運ぶ給仕の誰かが買収されている?
・もしくは、既に毒入りの飲み物が用意されていて、それとすり替える?
・あるいは、夜会中にこっそりと毒を入れる?
「……どの方法でも、 犯人は確実に飲み物に直接関与できる立場の人間だな。結構いるな……」
エリアスの言葉に、カーティスが頷く。
「そういうこと。でも、もし 小説通りに事が進むなら、何をしても毒殺は起こるはず なんだよね」
「防ぎきれないと?」
「だって、この小説は 『御子が毒を盛られる事件が発生する』のが前提 になってるから」
「……なるほど」
エリアスは少し眉をひそめた。
(確かに、ここまで小説通りに事件が起こってきた以上、 今回も“絶対に発生する”という前提で動かなきゃならない)
しかし、だからと言って 手をこまねいて毒殺を許すわけにはいかない。
「どんな形であれ 『御子が毒を口にする』という未来を回避する必要がある」
そう言うと、カーティスが軽く指を鳴らした。
「それなら、 事前に全ての飲み物を差し替えておけば?」
「そう簡単な話じゃない」
エリアスは首を振る。
「夜会で出される飲み物は、一杯や二杯ではない。給仕たちは何度もワインや果実酒を注ぎにくる。 それを全て監視するのは現実的ではない」
「確かに……じゃあ、 『全員の飲み物を試飲する』のは?」
「誰がするんだよ、それ」
そう言うと、カーティスはエリアスを指さした。
「馬鹿か。そもそも 仮に毒が入っていたら、俺が死ぬ だろ」
「それは困る」
カーティスが真顔で言った。
「……いや、そこで普通もうちょっと慌てるとかないのか?」
「そりゃ嫌だよ? でも、お前なら飲みそうだなーって。まあ、冗談だけどさ」
エリアスはため息をついた。
しかし、冗談のつもりで言ったカーティスの言葉が、 あるひとつの可能性を示唆している ことに気づく。
(…… もし、俺が毒を飲んだらどうなる?少なくとも 「エリアスが犯人だ」 という筋書きは崩れる……俺が毒を混ぜるという話ならば嫉妬が原因なわけだし、自分が死のうとするはずがない)
「……カーティス」
「ん?」
エリアスは一瞬だけ迷ったが、 次の言葉を慎重に選びながら 口を開いた。
「…… 毒が盛られたと確信した場合、俺が飲む」
「……は?」
カーティスが固まった。
「いや、ちょっと待って。何言ってんの?」
「言葉通りの意味だ」
「バカか?」
今度はカーティスが思わず額を押さえた。
「普通、毒殺を防ぐってそういう意味じゃないだろ……!」
「わかってる。でも、 『御子を守ること』と『俺に罪を着せようとする計画を潰すこと』の両方を同時に防ぐには、それしかない」
カーティスの顔が、みるみるうちに険しくなる。
「いやいやいや……! お前が毒を飲んだら、最悪死ぬんだぞ?!」
「毒の種類が即効性じゃなければ大丈夫だろう。それに、ハルトが傍にいる」
「……は?」
「予め、今回もハルトに協力をしてもらえばいい。俺が倒れたら御子の力で解毒できるさ」
「いや……だからって!!」
「そこでハルトごと殺されない限り、大丈夫だろ」
エリアスは淡々と言った。
「 まあ、仮に解毒が間に合わなくても、俺ならある程度の耐性がある しな」
「耐性って……そんなもんあるのか……?」
「ある。外交官の家系だからかな?実家の方針というやつだよ」
「えぇ……お前の実家、意外と怖いな……」
カーティスは呆れたように言ったが、 まだ納得できない という顔をしていた。
「でも、仮にお前が倒れたら、レオナード殿下が黙ってないぞ?」
「……それは、うん」
エリアスは 若干想像しただけで胃が痛くなった。
(……うん、まあ、確実に怒るな。俺が生きてても死んでても、どっちにしろまずい気がする……)
でも、それでも── ハルトを守るため、そして“犯人を炙り出すため”に、これが最善手なのだ。
エリアスは静かに息を整えた。
「……でも、それが早いだろう?他に手立てがあれば変更するが、あまり大掛かりに動くと犯人にばれる可能性もあるしな」
「……」
カーティスはしばらく沈黙したが、やがて 観念したように頭をかいた。
「……わかった。 でも、俺は絶対にお前を死なせない からな」
「頼んだ」
エリアスは小さく笑った。
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