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正レい文化祭

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青い空、白い雲。今日は我らが県立玉津中学・高校の文化祭、玉津祭の日である。普段と違って関係者以外の立ち入りも許可されている今日は、とても多くの人で賑わっている。
「ここから通行人にパチンコ玉を落とすとどうなる」
「二度とオモテを歩けると思うなよ」
 なんてことを言い出すんだ、この馬鹿は。
「馬鹿者をいじめて楽しいか」
「いじめられる馬鹿もにもも問題があると思うよ」
 何処かで見たな、この流れ。
「んで、今日はどうするんだ」
「アンサイクロペディアゴルフ」
 楽しいのか?
ウィキペディアンユーモア欠乏症のあんたにはわからないでしょうけどね、アンサイクロペディアを見ている人間ってのは、聡明で心に余裕があるのよ」【要出典】
「独自研究含んでるだろそれ」
「お前ら、せっかくのハレの日だってのになに言ってんだ」
 それはそうだ。しかしだ、この馬鹿がいつも話を乱す、俺は悪くねえ、俺は悪くねえ。
「なに言ってんだお前。とりあえずここに出店図があるから、目をつぶって指を指した場所に行くってのはどうだ」
 そうだな、もうそれでいいかな。
「アルカリ性~」
 塩基性だろ。
「そのアンサイクロペディアゴルフ?ってのに感覚としては近いんじゃないか」
「エクストリームスポーツにならないかな」
 NRV貼り付けられて終わりそう。
「よしじゃあいくぞソ~レ!」
 マダガスカルとか指差さないよな。
「どこに出た?」
「図書館」
 一番楽しくない場所だろ、文化祭において。
「友達ができずに屯している可哀想な人間を、ニヤニヤしながら見に行こうよ」
「お前も少しでも世界線が違ったら、同じような運命をたどるんだぞ」
「これがシュタ○ズゲー○の選択か」
 違うからな。

 図書館までの道は存外遠い。中学棟、高校棟、体育館、ホール、校庭と並んで最果てにあるのだ。
「なんで一列に並べたんだ、ここの馬鹿は」
「馬鹿だからだろ」
「馬鹿者をいじめて」
「三回目は流石にくどいぞ」
 同じネタを使い回すな。
「売れればなんでもいいんじゃないの」
「白石、こいつ止めないと命が危ないぞ」
 なんてことをいうんだ貴様、全作家に謝罪しろよ。
「じゃあどうしてな○うのランキングにはテンプレートに沿ったような、ありきたりで目新しさが微塵も感じられないような文章ばかりが載っているの?」
「そこは根深い問題だから触れなくていいの」
「利権だろ」
 なんのだよ、天下り先とでもいうのか?
「あとさ、すっごく今更なんだけど、今回なにか日本語がおかしくないか?」
「いつものことだろ」
「違う違う、なんというか、中国人がスパム的に書いたような文章が続いているじゃん」
「所謂怪しい日本語ってやつね」
「そうそう、なんでだよこれ」
「あーこれな、何でも実験らしい」
「は?」
「いやさ、こんな適当な文章を並べて自己満足しているようなやつが商業的に書くことは当面ありえないから、ならいろいろな体制に挑戦してみようってなったらしい」
「いろいろな体制……主体思想とか?」
「黙れよ。ええと、つまり好き勝手にできるということを今更思い出して、何でもかんでも好き勝手にしようと吹っ切れたのか」
「そうそう、だからこんなメタを長々書くこともできる、誤字脱字、おかしい文法があっても『実験』で片付けられることもたった今思いついた」
 最低だろ、作家としてのポリシーはどうなってんだ。
「これを作家と呼ぶことのほうが、全作家に対する侮辱だと思う」
 それはそうだけどさ。
「っと、そんな話をしていたら図書館についたみたいだ」 
 急に説明口調になるな。

 図書館が図書館棟として独立しているだけあって、非常に大きい。この本の海の中で、目当ての品を見つけるというのは至難の業だろう。
「さてさて、いたいた~!文化祭なのに一人でスマホいじってるやつ~!」
「一歩間違えばお前もああなってたんだぞ。あとうるさいから騒ぐな」
 図書館には四、五人ほどスマホに向き合って何かをしているやつらがいた。
「あれ何してると思う?」
「特殊詐欺」
「麻薬取引」
 被るなよ、物騒だし。
「第一声で特殊詐欺が出てくるお前もお前でどうなんだ」
「俺はルフィ!」
「オレオレ、振り込め、催眠、デート。この世のありとあらゆる詐欺を手に入れた男。『詐欺のマニュアルをいただき女子○リちゃんに渡してきた』彼が死に際にはなったその一言は、全公安を東南アジアに駆り立てた!」
 詐欺を手に入れるってなんだよ。
「催眠じゃなくてすやすや、な」
「クレジットカード会社みたいなこというな」
「うーん、著作権全く関係ないけど異議申し立てして消したろ!」
「はい締め出し」
 ……図書館にまで来て、僕何やってんだろう。
「私なんで、ここにいるんだろう。あんたになんて、答えればいい」
 白○かな?
「◯痴でも、みんなでなれば、怖くない」
「これ以上使うといろいろな方向から怒られるからやめようか」
「四十年前ならいけた」
「八十年代が四十年前という恐怖」
 突然別ベクトルから恐怖感をあたえるな。
「恐怖感与えちゃったかな」
 しかし図書館に来て、一体何をするというのか。
「委員会の展示を見て回ろう」
「ここにあるおすすめの本、ってやつ?」
 もう終わったじゃねえか、どうするんだ。
「それじゃあまたこれで決めよう」
「構内一周ダーツの旅」
 中学まで回る気か、貴様ら。
「それじゃあ今度は私が投げるね、ソ~レ!」
 マダガスカルに行きそうだからやめなさい。
「お、生徒会室か」
「見どころがないどころの話じゃないぞ、ここだれもいないだろ」
「往ってみなきゃわからない!」
 最上階の果の果がどうやったらワクワクするような場所になるというんだ。
「学生運動の拠点になっているかもしれない」
「拠点校~拠点校~」 
 何が悲しくて時分が在籍している学校が、暴力集団の本拠地にならないといけないんだ。
「権力への挑戦!」
「自由への挑戦、略して自由」
「余計なことは言わなくていい、早くいくぞ」
 油断もすきもありゃしない。文化祭だというのに精神はめりめりすり減っていく。
「精神って大根みたいなシステムだったのかな」

 さて、生徒会室についたのはいいが、もちろん誰もないない。
「だるまさんがころんだしようよ」
「なんでここに来てまでするのかな?」
「じゃあ誰が鬼やる?」
「それならこの俺に任せてもらおう」
 白石が悪乗りしてしまった。仕方がない、ここは本気を出させてもらおう。
「じゃあいくぞ……だるまさんがころ……」
「はいタッチ」
 楓が爆走して白石の方に触れる。これそういうゲームじゃないから。
「ちょっと」
 後ろから声がした。まずい、騒ぎすぎたか。
「廊下を走ってはいけませんよ」
 違う、正しいけど違う。
「廊下でだるまさんがころんだをするというのは、まあ良しとしましょう。しかし、廊下を走るのはいただけません」
 違うって、あとあんた誰。
「玉津生徒会風紀委員長、¦剣崎 幸音《けんざき ゆきね》と申します」
「クソ、権力階級だ」
「階級闘争!」
「階級闘争……?」
 眉をピクリと動かす剣先委員長。
「階級闘争とは」
「古儀式派との闘争!」
 クルプスカヤさんはお帰りください。
「その通りです。わかっているじゃありませんか」
「古儀式派(教育委員会)」
 自由どころのやりとりじゃない。ここは本当に公立学校なのだろうか。
「自由で揺るぎない学校を」
「我々は永遠に打ち立てたのだ」
「生徒の意思によってなる一つの学校よ」
「「「称えられてあれ、我が玉津よ」」」
 結局剣先委員長も『アッチ』の人間だったのか。いやまあ、古儀式派とかの時点で期待はしていなかったけれど。
「期待していないのに失望する、というのはおかしくありませんか?」
 うるさいですね……。
「だるまさんがころんだしたら飽きたし、帰ろうよ」
 自由勝手を極めし女楓が、いつもの調子で帰りたいと駄々をこねだした。
「いけません、二時まではここにいてください」
 腐っても風紀委員長、規則には従うらしい。
「わかりましたよ、剣崎委員長。委員長閣下も彼氏や友達と御一緒に回ってきてはいかがです」
 半ば諦め、というより不貞腐れたような態度でそう言うと、剣先委員長の顔がみるみる変わっていった。
「貴様!私を侮辱しているのか!」
 なぜかブチギレする剣先委員長。
「い、いやだってどんな人格破綻者やコミュニケーションに難を抱えている人だって、話し相手と呼べる程度の相手はいるでしょうし」
「黙れ!風紀を乱したやつはシベリアに送るぞ!」
「ただで海外旅行とかよかったね」
「いや、ぼくパスポート持ってないんだけど」
 顔を真赤にして怒鳴り散らす剣先委員長を横目に、早く二時になってくれと祈るばかりであった。
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