妖精たちの継息子

Greis

文字の大きさ
4 / 7
第1章

第四話

しおりを挟む
 赤髪赤目の、幼いながらもガタイのいい男の子。同じく赤髪赤目の、年相応の普通の女の子。男の子の方が、兄のルビオ。女の子の方が、妹のアルファン。ルビオが十歳で、アルファンが八歳。彼らは、俺がこのまま向かう先であるベズビオに居を構える、薬師の一家の生まれだそうだ。
 なぜこんな危険な所に子供だけで来たのかを聞いたら、母親が病気にかかってしまい、忙しい父親の代わりに、母親を癒すための薬草を求めて、ここまで二人で来たそうだ。

「大人に見つからずに、よく町を抜け出せたな」

 俺がそう言うと、恐怖でまだ身体を震わせている幼き兄妹は、ほんの少しだけ自慢げになった。

「俺たちだけが知ってる、秘密の抜け道があるんだ!!」
「城門からも遠い所に抜け道があるの。だから、大人には見つからないの!!」

 そう言った兄妹だが、結果的にこうして危ない目にあってしまった事を思い出し、再び恐怖で身体を震わせる。俺は両手で、そんな幼い兄妹の頭を撫でて、恐怖和らげて安心させてやる。そんな俺たちの無防備な姿を見ていた魔物や魔獣たちが、息を潜めて近づこうとして来たので、放つ威圧の格をさらに一段階上げる。近づこうとしていた魔物や魔獣たちは、どの個体もそれぞれの方向に向けて、我先にと逃げていく。
 命の危機を感じ、死にかけた事で動けなくなってしまった二人をそれぞれの腕で抱えて、ベズビオの城門に向かって駆ける。ルビオとアルファンの母親の病の事も気にはなるが、まずは二人を安全圏に連れて帰る事の方が、最優先で行うべき事だ。幼いルビオとアルファンの事を考えて、安全面を気にしながら、速度を出して移動し続ける。
 ベズビオの城壁の門にたどり着いたのは、丁度日が昇り切った、お昼時の時間帯だった。俺はゆっくりと速度を緩め、ベズビオの城壁の門に並ぶ、町に入りたい者たちの列の最後尾に並んで、順番が来るのを待つ。幸いにも、列に並んでいる者たちの数はそこまで多くなく、暫くすると、俺と兄妹の順番が来た。

「身分を証明するものと、銀貨を………ルビオ!!アルファン!!ああ、良かった!!無事だったんだな!!何処にも怪我はないか?」

 人族の衛兵のおっちゃんが、俺に身分証と入場料である銀貨を求めようとしたが、ルビオとアルファンを見て、心底安堵した様に笑顔になって二人問いかけた。

「う、うん。シャルル兄ちゃんが危ない所を助けてくれたんだ」
「そうか、そうか。……すまんが話が聞きたい。こっちに付いてきてもらえるか?」
「分かりました」

 おっちゃんは他の衛兵に声をかけてから、付いてくるように身振りをして先を歩いていく。俺は再び二人を抱えて、先を歩くおっちゃんに付いていく。付いていった先は、城壁の門近くにある衛兵たちの詰所だ。おっちゃんは、扉を開いて俺たちを招き入れ、詰所の中にある休憩場所に座るように促す。俺はルビオとアルファンを降ろし、三人で横並びになって椅子に座る。

「今他の奴に言って、父親を呼びに行ってもらった。父親が来るのを待ちながら、ここに来るまでの経緯を教えてくれ」
「はい、分かりました。俺は…………」

 まずは、身分証と入場料をおっちゃんに渡す。色々と隠したり、誤魔化したりしながら、ルビオとアルファンに出会った経緯を細かく説明していく。おっちゃんは、ルビオとアルファンにも聞き取りを行い、俺の話しに矛盾する所がないかを探っている。聞き取りしている表情は、子供が相手なので和やかだが、一切の情報も聞きもらさない、聞き逃さないといった雰囲気だ。
 何度か細かい所を聞き直されたりしたが、聞き取られている側である本人の記憶違いや、聞き取っている衛兵の方が、思い込みなどで判断や報告をしないようにするためである。

「何度も同じ事を言わせてすまんな」
「構いません。それがお仕事でしょうし」
「そう言ってくれると助かるよ」

 おっちゃんに信用してもらえたので、ベズビオという町の事を聞いていく。おっちゃんも俺という人物を信用した事で、地元の人間だからこそ知っている様な事も、善意で教えてくれる。これには、ルビオとアルファンを助けた事へのお礼も、含まれているのだろう。

「ルビオ!!アルファン!!」

 詰所の入り口から、男性の声が響く。その声を聞くや否や、二人は椅子から立ち上がり、入り口の方に駆け出していく。駆けだした二人はその男性に飛び付いて、涙を流して腰に抱きつく。

「良かった。二人とも無事だったんだな。良かった、本当に良かった」

 詰所の入り口で感動の再会だ。しかし、話しに聞いていた通り、母親は体調がよくないようだ。この場には、父親であろう男性しか現れていない。それ程までに重たい症状なのだろう。暫くの間、親子三人での時間を過ごしていたが、父親である男性が二人を連れて、こちらに近寄ってくる。赤髪赤目の、三十代くらいに見える、普通のお父さんといった感じの人だ。

「貴方がシャルルさんでしょうか?」
「はい、そうです」
「我が子を助けていただいて、ありがとうございます。何かお礼を………」
「いえ、お礼を貰うために助けたわけではありませんから。失礼ですが、二人から奥様の事を聞きました。今は、色々と入り用だと思います。なので謝意だけで十分です」
「いえ、ですが……」

 渋る父親を見て、おっちゃんが気を利かせる様に会話に混じって、俺に聞いてくる。

「シャルル、泊まる場所とか決めてきてるのか?」
「いえ、全く」
「旅をしてるというなら、金は少しでも手元に残せた方がいいだろ?」
「そうですね。旅をするにも、色々とお金がかかります。立ち寄った先で、薬草などを売ってお金を稼いでいますが、贅沢できる程ではないですね。なので、安上《やすあ》がりですむのなら、俺としても大助かりです」

 父親がハッとした顔をする。俺も最初は意図が分からなかったが、おっちゃんの質問の内容に、ルビオとアルファンの現状、それに母親の事などを総合的に考えて、おっちゃんの言いたい事を理解した。父親もそれに気付いたので、俺に対して提案を口にする。

「シャルルさん、もし宜しければ、滞在中は我が家で過ごしませんか?」
「ご迷惑でないのならば」
「全然大丈夫です。お前たちもいいよな?」
「うん!!」
「全然大丈夫!!」
「では、お世話になります。よろしくお願いします」

 俺はおっちゃんにも改めて礼を言い、家族と共に詰所を出る。おっちゃんは、家族の姿を見て微笑みながら、自らの職務に戻っていった。最後に、何か困った事があれば俺を訪ねてこい、何時でも助けてやると言われた。面倒見のいいおっちゃんに感謝し、その背中に一礼する。

「では、行きましょうか」
「「行こう~!!」」

 ルビオとアルファンが、笑顔で左右の手を掴み、自分たちの家に向かって俺を引っ張っていってくれる。それを見る父親も笑顔だ。二人を見て、怪我なく助けられて良かったという気持ちがいてきた。せめて滞在中は、この子たちの笑顔は守ってやりたいと思った。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

悪徳貴族の、イメージ改善、慈善事業

ウィリアム・ブロック
ファンタジー
現代日本から死亡したラスティは貴族に転生する。しかしその世界では貴族はあんまり良く思われていなかった。なのでノブリス・オブリージュを徹底させて、貴族のイメージ改善を目指すのだった。

傷物転生令嬢マグダリーナと原初の魔法使いエステラの幻想譚-女神とスライムの光とともに- (旧タイトル:ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異

天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる―― ※他サイトでも掲載しています ※ちょいちょい手直ししていってます 2026.12.14 タイトル変更 旧タイトル:ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活

転生悪役令嬢の母でございます

里見しおん
ファンタジー
転生悪役令嬢レミーリア・ヴェリーンを育てたお母様のお話です。 創作リハビリ中です!

主人公に殺されるゲームの中ボスに転生した僕は主人公とは関わらず、自身の闇落ちフラグは叩き折って平穏に勝ち組貴族ライフを満喫したいと思います

リヒト
ファンタジー
 不幸な事故の結果、死んでしまった少年、秋谷和人が転生したのは闇落ちし、ゲームの中ボスとして主人公の前に立ちふさがる貴族の子であるアレス・フォーエンス!?   「いや、本来あるべき未来のために死ぬとかごめんだから」  ゲームの中ボスであり、最終的には主人公によって殺されてしまうキャラに生まれ変わった彼であるが、ゲームのストーリーにおける闇落ちの運命を受け入れず、たとえ本来あるべき未来を捻じ曲げてても自身の未来を変えることを決意する。    何の対策もしなければ闇落ちし、主人公に殺されるという未来が待ち受けているようなキャラではあるが、それさえなければ生まれながらの勝ち組たる権力者にして金持ちたる貴族の子である。  生まれながらにして自分の人生が苦労なく楽しく暮らせることが確定している転生先である。なんとしてでも自身の闇落ちをフラグを折るしかないだろう。  果たしてアレスは自身の闇落ちフラグを折り、自身の未来を変えることが出来るのか!? 「欲張らず、謙虚に……だが、平穏で楽しい最高の暮らしを!」  そして、アレスは自身の望む平穏ライフを手にすることが出来るのか!?    自身の未来を変えようと奮起する少年の異世界転生譚が今始まる!

異世界に転生した俺は英雄の身体強化魔法を使って無双する。~無詠唱の身体強化魔法と無詠唱のマジックドレインは異世界最強~

北条氏成
ファンタジー
宮本 英二(みやもと えいじ)高校生3年生。 実家は江戸時代から続く剣道の道場をしている。そこの次男に生まれ、優秀な兄に道場の跡取りを任せて英二は剣術、槍術、柔道、空手など様々な武道をやってきた。 そんなある日、トラックに轢かれて死んだ英二は異世界へと転生させられる。 グランベルン王国のエイデル公爵の長男として生まれた英二はリオン・エイデルとして生きる事に・・・ しかし、リオンは貴族でありながらまさかの魔力が200しかなかった。貴族であれば魔力が1000はあるのが普通の世界でリオンは初期魔法すら使えないレベル。だが、リオンには神話で邪悪なドラゴンを倒した魔剣士リュウジと同じ身体強化魔法を持っていたのだ。 これは魔法が殆ど使えない代わりに、最強の英雄の魔法である身体強化魔法を使いながら無双する物語りである。

帰国した王子の受難

ユウキ
恋愛
庶子である第二王子は、立場や情勢やら諸々を鑑みて早々に隣国へと無期限遊学に出た。そうして年月が経ち、そろそろ兄(第一王子)が立太子する頃かと、感慨深く想っていた頃に突然届いた帰還命令。 取り急ぎ舞い戻った祖国で見たのは、修羅場であった。

【一話完結】断罪が予定されている卒業パーティーに欠席したら、みんな死んでしまいました

ツカノ
ファンタジー
とある国の王太子が、卒業パーティーの日に最愛のスワロー・アーチェリー男爵令嬢を虐げた婚約者のロビン・クック公爵令嬢を断罪し婚約破棄をしようとしたが、何故か公爵令嬢は現れない。これでは断罪どころか婚約破棄ができないと王太子が焦り始めた時、招かれざる客が現れる。そして、招かれざる客の登場により、彼らの運命は転がる石のように急転直下し、恐怖が始まったのだった。さて彼らの運命は、如何。

処理中です...