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願い星、叶い星
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冷たい砂漠の天頂に、今夜も光る赤い星。
ルビリス・ステラ、俺はその星の番人。
昔は自由に天翔ける鳥だった。
今は、取り上げられて名がない。
十月十日、一年に一度、誰かが赤い星に願う。
命の焔が尽きる時。
その願いを聞き届け、ルビリス・ステラはひと際赤く輝く。
星が千度強く輝いたら、俺の願いがたった一つ、叶う。
「──で、リオンは、何を願うの?」
パチパチとはぜる薪の炎。
傍らの織物の上で、後ろから俺の肩に顎を乗せ男は訊いた。
「……言っておくが、俺の名前はリオンじゃない」
十月十日になると、なぜか俺のねぐらにこの男がやってくるようになって数年が経つ。
「名前がないのも不便だからさ、俺がつけた。いいだろ、他に誰が聞くでもない……」
肩の上の顔を押しやって、もぞりと身体の向きを変えたら、厚い胸板がすぐそこで。
汗で砂がこびりついているのを、指先を伸ばして払った。
「だから、リオンでいいだろ?」
裸の腰を抱いた男が、クスリと笑って俺を引き寄せる。
「凍える砂漠の白い鳥……お前は、何を願うの?」
炎を映して緋色に揺れるその瞳を見据え、俺はしばらく考え込んだ。
「……ずっと昔は、名前を取り戻すことを願っていたかな。
俺の名を取り上げて俺をこんな砂漠に捕らえたやつを、ぶっ殺してやるとか」
でも、あまりにも長いこと一人きりでここにいたら、誰でもいいから俺の相手してくんないかな、とか。
「伝言板だけじゃなくて、誰かと話したいな~とか……」
俺は暗闇に白っぽく浮かぶ、ねぐらの傍らの朽ちかけたルーンプランクを指差した。
それは風もないのに揺れて、カランと軽い音を立てた。
「クローが来るまでは、あれだけが外界とのつながりだった。
あそこに、通りすがる人が伝言を残してくれて。俺はそれを読んで退屈を紛らわせていたんだ」
「俺はこの砂漠を通るたびに、あれに伝言を残したんだ。
古い言い伝えの砂漠の鳥に会いたい。願いを叶えてほしい……」
「そうそう」
俺は思い出す。
クローの一番最初の願いは、
『ルビリス・ステラの白い番人。どうか願いを聞き届けてください。
この世からすべての争い事が消えますように。
誰も、誰かを殺さない世界になりますように。俺の国が侵略されませんように』
二度目は、
『赤い星の名もなき番人。俺の願いを聞いてください。
俺は死にたくない、殺したくない。誰も傷つけたくない。
なのにどうして願いを叶えてくれないんだ。戦況は最悪だ』
七度目は、
『赤い願い星、叶い星、白い鳥、そんなものはすべて夢。
どうせ叶いっこない。
なのになぜここを通るたびに、願ってしまうんだろうな?
こんな嘘っぱちの伝説に本気ですがるようじゃ俺もおしまいだ』
クローは西と東を行き来する砂漠の旅人。
胡散臭い交易商人のふりをしているけれど、どこかの国の王族らしい。
俺には興味ないけど。
興味があったのは、たくさんの伝言の中で、クローの残す言葉が一番切実に感じられたこと。恋の悩みや病気の治癒を願う伝言ではなしに。
だからなんとなく気になった。
会いたいと……想ったのだろうか?
そうでなければ、なぜクローがこうして俺のねぐらへやってくるようになったのか説明がつかない。
「聞かせて、リオン。お前の望みはなに?」
クローが俺を身体の下に組み敷き、頬に唇を押し当てた。
「そんなの、決まってる。自由だよ、果てしない自由……」
覆いかぶさってくるクローの肩越しに、俺は暗い夜空を見上げる。
輝く赤い星。
もうすぐ千度目の強いきらめきがこの闇に訪れ、俺の願いが叶うんだ。
「暖かく湿った、夏の終わらない国に飛んでいくよ。
こんな冷たい砂漠なんか捨てて、自由に羽ばたく、もう一度。
名前を取り戻して、こことはおさらばだ。だから、来年。来年が最後だよクロー……」
俺はクローの頭を受け止めながら、今度は闇ほどに暗い瞳を見つめた。
「来年の十月十日、きっと、ここに来てよ……」
「なぜ?」
「クローに見送ってもらいたい」
「なぜ?」
「そんなことは、知らない」
「なぜ?」
「……なぜでも」
ゆっくりと瞳を閉じて、クローの視線から逃れた。
熱い吐息が唇に触れてから、柔らかな熱が重なる。
「…あ……」
クローの手に身を委ねながら、遠い南国の深い森を思った。
むせぶ様な湿った空気を打ちつけて、俺は飛ぶのだ。
果てのない空。
風切り羽の、懐かしい羽ばたきの音が、耳元に聞こえた気がした。
翌年。
待っても待っても、クローは来ず。
ルビリス・ステラも輝かないまま、夜が明けはじめる。
俺はいらいらと爪を噛み、腕組みして、口を開けばクローの文句がついて出た。
「なんだ、あの野郎。見送りに来ないつもりか」
そもそも、今年は誰の願いも叶えられないまま、特別な夜が終わりを告げようとしている。
星が強く光らなければ、俺の願いも叶わない。
こんなにも長いこと待ち続けたのだから、
ここでお預けはあんまりじゃないのか?
「クロー、なんで来ない!」
クローが来ないことで星が輝かないわけでもないのに──
ふと頭をかすめた考えに、心が乱れる。
「クローが来ないのに星が光ったら、どうしよう……」
『俺は自由に羽ばたくんだ、名前を取り戻して』
だけど名を取り戻したら、俺はリオンではなくなる。
クローは俺を忘れ、俺もまたクローを忘れてしまう。
「クロー……星が光る前に……ここに来い……」
ぎゅっと瞼を閉じて、俺は呟いた。
「──なぜ?」
後ろからあの聞きなれた声がして。
振り向く前にもう口にしていたかもしれない。
「クロー!」
なぜ……?
恋していたのかもしれない。
いつの間にか、俺は。
なぜ?
千年の間にたった一人、俺に触れてくれた人だから。
なぜ?
いいや呼ばれたからだよ。
クローだけが俺を呼んだ。
たぶん必死ともいえる強さで。
「狂うほどの長い間、俺はお前を呼んでいたんだ。
伝説の、白い鳥……。
【風切り羽の指す方向、この世の果てが見えるとも 俺の元へ 来よ】
どこかの国の言葉で、そういう意味の歌さ」
俺の肌に舌を這わせ、クローがそんな歌を囁く。
しんしんと冷える夜明け前、薪の火もとうに消えた。
背の下に感じる砂の感触。
さらさらと、それは俺を酔わせるのに、汗ばむ肌に張りついて、俺とクローの邪魔をする。
早く一つになりたくて、もどかしさに焦れながら、冷たい砂上に俺たちはもつれあう。
身体が熱くて仕方がないのは、クローの吐息が触れる度に、肌が灼けていくから。
「あぁ、ッ…ぅ、」
腰を引きずり寄せられて、一気に貫かれた。
「クロ、ッ……ッ!」
「会いたかった、ここを発つたびに、もう次の今日を夢見てた……」
「はぁ、っ……俺……俺も……」
熱い瞳で俺を見つめ、クローがゆっくりと上体を倒す。
「……ッ、リオン……」
「ア……あ……!」
圧し掛かられて苦しいのに、押しつぶされる胸が愛しさで溢れて、砂まみれの腕をクローにまわした。
かき抱くクローの身体から、ポタポタと落ちる汗。
「リオン…、白い鳥、俺を待って、泣かないでくれ」
深く身体の奥へ、たぎる楔を打ち込みながら、クローが顔を歪める。
苦痛と快楽の入り混じる表情。
「ごめん」
俺を夜明けまで待たせたことを謝る。
「あぁ、クロー……もう……っ、謝らなくていい…ッ」
こうしてそばにいるのだから。
俺を甘く満たして──。
「ん……はぁっ……!」
ねだるように腰を揺らし、クローの律動を追いながら俺は声を上げた。
「もっと……呼んで、クロー…」
「リオン……あぁ……」
お互いの身体をなぞって、刻んで。
揺れて、震えた。
夜がいつまでも続く気がしたんだ。
俺の中を抉るように動いていた欲望が、ぐんっと張りつめた。
「あ、く…っ…もう……っ」
「来て……」
「リオン、あぁ、イくッ」
達する瞬間のクローの声。
顔に落ちてくる汗。
うっとりと閉じていた瞳を開けると、クローは歯を食いしばって俺を抱きながら、泣いていた。
「クロー?」
言い知れぬ不安が、胸をよぎった。
「ッ……」
びくびくと震えながら、怒張が熱い精を放ち、クローの腰がうねるように動いた。
「クロー?」
「ごめん──」
大きく息をつくクローの肩ごしに、ルビリス・ステラが強く光る。
まるで誰かの血のように赤く。
「……さよならなんだ、俺も」
「クロー?」
「見送れなくてごめん。捕まって、最期の願いで、俺は」
「クロー……」
「十月十日に、殺してほしいと──」
その時、俺には見えた。
他国の侵略に破壊されたクローの国の王都。
捕らえられたクローが、最期に鉄の格子越しに見上げた赤い星。
【ルビリス・ステラ。願い星、叶い星】
【リオンのところへ、最後に一夜】
【きっと俺が行かなかったら、あの鳥は、旅立つことができないから】
それが、クローのたった一つの願い。
そして星は強く輝いた。
クローの生命の焔が消える時。
クローの重みが、まるで夢のように消えていく。
「いや……嘘、嘘……!」
クローの言葉は、もう空気を震わせることもなくて。
ただ伝わってくる、後悔の念。
──愛していると、最後までお前に、言えなかったね……リオン──。
クローの輪郭が薄れていく。
消えてしまう、陽炎のように。
「嘘、嘘っ!!」
俺は手を伸ばしクローに触れようとした。
けれど手に触れられるものは何もなかった。
地平から射す朝陽にかき消されていく星々を、俺は呆然と見た。
とめどなくしたたり落ちる涙にむせび、応えない相手の名を、いつまでも呼んだ。
「クロー!!」
願い星、叶い星、俺の願いは──
もう自由ではない。
自由なんかいらない。
この場所に、この先一生、一人でもいい。
もう空を飛べなくてもいい。
歌わなくてもいい。
この息が止まってもいい。
「……クローをかえして」
ルビリス・ステラ、赤く光る。
星は煌めき俺に問う。
白い鳥、何よりも自由に焦がれていたではないか。
冷たい砂漠を忌み嫌っていたではないか。
なぜ?
知らない……。
なぜ?
俺に名をくれたんだよ……
名をくれたんだよ……
「リオン!!」
呼ばれて俺は振り向いた。
「……クロー」
男の名を唇に乗せる度、俺は湿った熱帯の深い森を、
その木々の枝にたわわに実る、鮮やかな色彩の果実を想う。
砂漠は変わらず夜には冷えるが、俺の胸は凍える暇もないほどに、この男に夜な夜な溶かされる。
熱く。
「愛してる、俺の白い鳥……」
「クロー……」
目を閉じれば、瞼の裏に赤い花が開く。
口づけは、いつでも甘く。
熟れて、甘く香る。
俺はもう空を見ない。
けれど翼の羽ばたく音は、いつでも耳に聞こえている。
なぜ。
なぜ?
それがクローの鼓動だからさ。
ルビリス・ステラ、俺はその星の番人。
昔は自由に天翔ける鳥だった。
今は、取り上げられて名がない。
十月十日、一年に一度、誰かが赤い星に願う。
命の焔が尽きる時。
その願いを聞き届け、ルビリス・ステラはひと際赤く輝く。
星が千度強く輝いたら、俺の願いがたった一つ、叶う。
「──で、リオンは、何を願うの?」
パチパチとはぜる薪の炎。
傍らの織物の上で、後ろから俺の肩に顎を乗せ男は訊いた。
「……言っておくが、俺の名前はリオンじゃない」
十月十日になると、なぜか俺のねぐらにこの男がやってくるようになって数年が経つ。
「名前がないのも不便だからさ、俺がつけた。いいだろ、他に誰が聞くでもない……」
肩の上の顔を押しやって、もぞりと身体の向きを変えたら、厚い胸板がすぐそこで。
汗で砂がこびりついているのを、指先を伸ばして払った。
「だから、リオンでいいだろ?」
裸の腰を抱いた男が、クスリと笑って俺を引き寄せる。
「凍える砂漠の白い鳥……お前は、何を願うの?」
炎を映して緋色に揺れるその瞳を見据え、俺はしばらく考え込んだ。
「……ずっと昔は、名前を取り戻すことを願っていたかな。
俺の名を取り上げて俺をこんな砂漠に捕らえたやつを、ぶっ殺してやるとか」
でも、あまりにも長いこと一人きりでここにいたら、誰でもいいから俺の相手してくんないかな、とか。
「伝言板だけじゃなくて、誰かと話したいな~とか……」
俺は暗闇に白っぽく浮かぶ、ねぐらの傍らの朽ちかけたルーンプランクを指差した。
それは風もないのに揺れて、カランと軽い音を立てた。
「クローが来るまでは、あれだけが外界とのつながりだった。
あそこに、通りすがる人が伝言を残してくれて。俺はそれを読んで退屈を紛らわせていたんだ」
「俺はこの砂漠を通るたびに、あれに伝言を残したんだ。
古い言い伝えの砂漠の鳥に会いたい。願いを叶えてほしい……」
「そうそう」
俺は思い出す。
クローの一番最初の願いは、
『ルビリス・ステラの白い番人。どうか願いを聞き届けてください。
この世からすべての争い事が消えますように。
誰も、誰かを殺さない世界になりますように。俺の国が侵略されませんように』
二度目は、
『赤い星の名もなき番人。俺の願いを聞いてください。
俺は死にたくない、殺したくない。誰も傷つけたくない。
なのにどうして願いを叶えてくれないんだ。戦況は最悪だ』
七度目は、
『赤い願い星、叶い星、白い鳥、そんなものはすべて夢。
どうせ叶いっこない。
なのになぜここを通るたびに、願ってしまうんだろうな?
こんな嘘っぱちの伝説に本気ですがるようじゃ俺もおしまいだ』
クローは西と東を行き来する砂漠の旅人。
胡散臭い交易商人のふりをしているけれど、どこかの国の王族らしい。
俺には興味ないけど。
興味があったのは、たくさんの伝言の中で、クローの残す言葉が一番切実に感じられたこと。恋の悩みや病気の治癒を願う伝言ではなしに。
だからなんとなく気になった。
会いたいと……想ったのだろうか?
そうでなければ、なぜクローがこうして俺のねぐらへやってくるようになったのか説明がつかない。
「聞かせて、リオン。お前の望みはなに?」
クローが俺を身体の下に組み敷き、頬に唇を押し当てた。
「そんなの、決まってる。自由だよ、果てしない自由……」
覆いかぶさってくるクローの肩越しに、俺は暗い夜空を見上げる。
輝く赤い星。
もうすぐ千度目の強いきらめきがこの闇に訪れ、俺の願いが叶うんだ。
「暖かく湿った、夏の終わらない国に飛んでいくよ。
こんな冷たい砂漠なんか捨てて、自由に羽ばたく、もう一度。
名前を取り戻して、こことはおさらばだ。だから、来年。来年が最後だよクロー……」
俺はクローの頭を受け止めながら、今度は闇ほどに暗い瞳を見つめた。
「来年の十月十日、きっと、ここに来てよ……」
「なぜ?」
「クローに見送ってもらいたい」
「なぜ?」
「そんなことは、知らない」
「なぜ?」
「……なぜでも」
ゆっくりと瞳を閉じて、クローの視線から逃れた。
熱い吐息が唇に触れてから、柔らかな熱が重なる。
「…あ……」
クローの手に身を委ねながら、遠い南国の深い森を思った。
むせぶ様な湿った空気を打ちつけて、俺は飛ぶのだ。
果てのない空。
風切り羽の、懐かしい羽ばたきの音が、耳元に聞こえた気がした。
翌年。
待っても待っても、クローは来ず。
ルビリス・ステラも輝かないまま、夜が明けはじめる。
俺はいらいらと爪を噛み、腕組みして、口を開けばクローの文句がついて出た。
「なんだ、あの野郎。見送りに来ないつもりか」
そもそも、今年は誰の願いも叶えられないまま、特別な夜が終わりを告げようとしている。
星が強く光らなければ、俺の願いも叶わない。
こんなにも長いこと待ち続けたのだから、
ここでお預けはあんまりじゃないのか?
「クロー、なんで来ない!」
クローが来ないことで星が輝かないわけでもないのに──
ふと頭をかすめた考えに、心が乱れる。
「クローが来ないのに星が光ったら、どうしよう……」
『俺は自由に羽ばたくんだ、名前を取り戻して』
だけど名を取り戻したら、俺はリオンではなくなる。
クローは俺を忘れ、俺もまたクローを忘れてしまう。
「クロー……星が光る前に……ここに来い……」
ぎゅっと瞼を閉じて、俺は呟いた。
「──なぜ?」
後ろからあの聞きなれた声がして。
振り向く前にもう口にしていたかもしれない。
「クロー!」
なぜ……?
恋していたのかもしれない。
いつの間にか、俺は。
なぜ?
千年の間にたった一人、俺に触れてくれた人だから。
なぜ?
いいや呼ばれたからだよ。
クローだけが俺を呼んだ。
たぶん必死ともいえる強さで。
「狂うほどの長い間、俺はお前を呼んでいたんだ。
伝説の、白い鳥……。
【風切り羽の指す方向、この世の果てが見えるとも 俺の元へ 来よ】
どこかの国の言葉で、そういう意味の歌さ」
俺の肌に舌を這わせ、クローがそんな歌を囁く。
しんしんと冷える夜明け前、薪の火もとうに消えた。
背の下に感じる砂の感触。
さらさらと、それは俺を酔わせるのに、汗ばむ肌に張りついて、俺とクローの邪魔をする。
早く一つになりたくて、もどかしさに焦れながら、冷たい砂上に俺たちはもつれあう。
身体が熱くて仕方がないのは、クローの吐息が触れる度に、肌が灼けていくから。
「あぁ、ッ…ぅ、」
腰を引きずり寄せられて、一気に貫かれた。
「クロ、ッ……ッ!」
「会いたかった、ここを発つたびに、もう次の今日を夢見てた……」
「はぁ、っ……俺……俺も……」
熱い瞳で俺を見つめ、クローがゆっくりと上体を倒す。
「……ッ、リオン……」
「ア……あ……!」
圧し掛かられて苦しいのに、押しつぶされる胸が愛しさで溢れて、砂まみれの腕をクローにまわした。
かき抱くクローの身体から、ポタポタと落ちる汗。
「リオン…、白い鳥、俺を待って、泣かないでくれ」
深く身体の奥へ、たぎる楔を打ち込みながら、クローが顔を歪める。
苦痛と快楽の入り混じる表情。
「ごめん」
俺を夜明けまで待たせたことを謝る。
「あぁ、クロー……もう……っ、謝らなくていい…ッ」
こうしてそばにいるのだから。
俺を甘く満たして──。
「ん……はぁっ……!」
ねだるように腰を揺らし、クローの律動を追いながら俺は声を上げた。
「もっと……呼んで、クロー…」
「リオン……あぁ……」
お互いの身体をなぞって、刻んで。
揺れて、震えた。
夜がいつまでも続く気がしたんだ。
俺の中を抉るように動いていた欲望が、ぐんっと張りつめた。
「あ、く…っ…もう……っ」
「来て……」
「リオン、あぁ、イくッ」
達する瞬間のクローの声。
顔に落ちてくる汗。
うっとりと閉じていた瞳を開けると、クローは歯を食いしばって俺を抱きながら、泣いていた。
「クロー?」
言い知れぬ不安が、胸をよぎった。
「ッ……」
びくびくと震えながら、怒張が熱い精を放ち、クローの腰がうねるように動いた。
「クロー?」
「ごめん──」
大きく息をつくクローの肩ごしに、ルビリス・ステラが強く光る。
まるで誰かの血のように赤く。
「……さよならなんだ、俺も」
「クロー?」
「見送れなくてごめん。捕まって、最期の願いで、俺は」
「クロー……」
「十月十日に、殺してほしいと──」
その時、俺には見えた。
他国の侵略に破壊されたクローの国の王都。
捕らえられたクローが、最期に鉄の格子越しに見上げた赤い星。
【ルビリス・ステラ。願い星、叶い星】
【リオンのところへ、最後に一夜】
【きっと俺が行かなかったら、あの鳥は、旅立つことができないから】
それが、クローのたった一つの願い。
そして星は強く輝いた。
クローの生命の焔が消える時。
クローの重みが、まるで夢のように消えていく。
「いや……嘘、嘘……!」
クローの言葉は、もう空気を震わせることもなくて。
ただ伝わってくる、後悔の念。
──愛していると、最後までお前に、言えなかったね……リオン──。
クローの輪郭が薄れていく。
消えてしまう、陽炎のように。
「嘘、嘘っ!!」
俺は手を伸ばしクローに触れようとした。
けれど手に触れられるものは何もなかった。
地平から射す朝陽にかき消されていく星々を、俺は呆然と見た。
とめどなくしたたり落ちる涙にむせび、応えない相手の名を、いつまでも呼んだ。
「クロー!!」
願い星、叶い星、俺の願いは──
もう自由ではない。
自由なんかいらない。
この場所に、この先一生、一人でもいい。
もう空を飛べなくてもいい。
歌わなくてもいい。
この息が止まってもいい。
「……クローをかえして」
ルビリス・ステラ、赤く光る。
星は煌めき俺に問う。
白い鳥、何よりも自由に焦がれていたではないか。
冷たい砂漠を忌み嫌っていたではないか。
なぜ?
知らない……。
なぜ?
俺に名をくれたんだよ……
名をくれたんだよ……
「リオン!!」
呼ばれて俺は振り向いた。
「……クロー」
男の名を唇に乗せる度、俺は湿った熱帯の深い森を、
その木々の枝にたわわに実る、鮮やかな色彩の果実を想う。
砂漠は変わらず夜には冷えるが、俺の胸は凍える暇もないほどに、この男に夜な夜な溶かされる。
熱く。
「愛してる、俺の白い鳥……」
「クロー……」
目を閉じれば、瞼の裏に赤い花が開く。
口づけは、いつでも甘く。
熟れて、甘く香る。
俺はもう空を見ない。
けれど翼の羽ばたく音は、いつでも耳に聞こえている。
なぜ。
なぜ?
それがクローの鼓動だからさ。
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