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大公令嬢は状況を知る
気づいてしまった
しおりを挟むこの世界で最大の領地と軍事力を持つイルドマーズ帝国の正統な後継者と、58年前の独立戦争から着々と領地を広げ力をつけるバングドリア王国最高峰の血筋を引いた姫君が同じ日のほぼ同時刻に産まれたというのは、まさに奇跡だった。
この娘こそイルドマーズ帝国の皇后となるためうまれてきたのだ!と、両国は大層持て囃し、皇太子と大公の娘は生まれて3ヶ月後には既に結婚を約束された、つまり婚約者になったわけである。
その人物こそがたった今枕をぶん投げた私と、
「……あのなぁ」
無様に美しい顔へ枕をクリーンヒットされた目の前の男だ。
チェリーとシューが真っ青な顔で私たちを見てる。そりゃそうだ。婚約者とはいえ元属国の一令嬢が、元宗主国の次期皇帝の顔に枕をぶつけるなんて、そんな馬鹿でもしないようなことが目の前で起きてるんだから。
「おれに、何か言うことは?」
「ふぁっきゅー!」
「…あ?」
なおも反抗的(自殺行為)を繰り返す私にユージーンは青筋を立てた。つかつかとこちらに向かい私の柔らかなほっぺをつまむ。
「俺はな? 6年ぶりに再会した婚約者殿がいきなり目の前で倒れたからずっと心配してたんだが?」
「いひゃい!」
「起きたと聞いていてもたってもいられず走ってきた俺にいうことがそれか?」
「うゆひゃい!」
「おーまーえー…」
「まあまあ、殿下」
私の両頬をつまんでぐにぐにしはじめたユージーンをお医者様が宥めて下さった。
「アンジェリナ様が倒れた時、魔力が大きく揺れたと聞きます。恐らく何らかの精神的な負荷がかかってしまったのかと…起きたばかりでもありますし、気が動転されておるのですよ」
ああ、なんて優しいお医者様なのだろう。そして、それに比べて皇太子は
「…月経のようなものか」
なんっって、デリカシーがないんだろうか!
もういっぺん枕を投げつけようかと身構える私を必死でチェリーとシューが宥める。
「お嬢様、だめです、おかわりはだめ!」
「婚約者といえども不敬罪ですよ!」
「いや、未来の妻を不敬罪で捕らえたりはしないが」
「まあまあ、アンジェリナ様。診察させていただきますので枕をお降ろしに。殿下も、少し外してくださいませ。なに、すぐに終わりますのでな」
お医者様がユージーンを出ていかせ、丁寧診察して下さった。
「診察させて頂きましたが、異常はないようです。あとは…先程も申し上げました通り、精神的な負荷がかかってお倒れになられたのでは無いかと推察しておりますが、心当たりは…?」
お医者様の質問に、前世のことを頭にうかべる。
「いえ、特には……殿下に会うのが久しぶりでしたから緊張した、くらいでしょうか」
まあ、言えるわけがなかった。もっともらしいことを言って、お医者さまを納得させる。
嘘は言っていない。記憶が戻るまでの私は、そりゃあもう緊張していたし、中身に関しては、本当に会うのが久しぶりだった。
「そうですか、なら良いのですが.......それではわたしは失礼を」
「はい、お手数をお掛けしました」
お医者様に頭を下げたあと、チェリーとシューに呼びかける。
「殿下を呼んで欲しいの、ほら、さっきは気が動転してたけど.......謝らなきゃ。2人は外して、お医者様をお送りしてくれる?」
言った通りに2人はお医者様と共に席を外し、入れ違いにユージーンが入ってきた。さっきと同じくつかつかと真っ直ぐこちらに向かい、ベッドの横に腰掛ける。
「.......」
「.......」
つかの間の沈黙、それを破ったのはユージーンだ。
「さっきの様子じゃ思い出したんだな。.......久しぶり、花帆」
「やっぱり.......あんただったのね、篠田勝幸くん?」
わたしは、皮肉たっぷりのこえで前世の名前を呼んで、睨みつけた。
さっき倒れた時のことと一緒に思い出した記憶。
篠田勝幸、こいつは。
前世でベタ惚れして告白しようとした私に無理と言ってダッシュで逃げたクソ野郎だった。
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