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1 人間だった頃の記憶

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生まれから間違えてしまった。

僕達は物心ついた時から奴隷だった。
多分親が奴隷か、売られたんだろう。
生まれ育った見世物小屋で、僕達みたいな奴隷は
毎日痛めつけられ苦しむ姿を見せて客を喜ばせていた。
そんな場所だから、翌日に横で寝ていた幼い
奴隷が冷たくなっているのを何度も経験した。
唯一、僕にはオルガが居たからまだ耐えられたけど
でもこのまま居たら絶対にろくな死に方は
しないだろうから、僕は計画を立ててオルガと
逃げようとしたんだ。
…まぁ、子供の、ましてや奴隷の計画なんて
たかが知れてるから意味は無かった。
呆気なく捕まえられた僕達は、舞台に立たされ
最期を見世物にされた。
オルガは足先からじわじわとナイフで
刺され、綺麗だった顔をズタズタにされ、
最後は燃やされた。
僕は縛られて、手も足も出せずに
妹が傷付き、死んでいく様を見せつけられた。
叫んでも泣いても、返ってくるのは嗤い声。
僕は憎み、恨んで、絶望していた。

そんな時、くべられようとした火が勢いよく
燃え上がって僕を包み込んだんだ。
その火は、もう何もない僕へ復讐を持ちかけた。
力をくれると言った。
それを聞いて僕は迷うことなく火を、喰らった。
狂いそうな程の熱さと苦痛を味わいながら、
僕は力を手に入れたんだ。

奴らを殺したまではよかった。
オルガが、いない。
亡骸に魔力をいっぱい込めた。
けど、綺麗に戻るだけで魂は返ってこなかった。

僕はただ、綺麗になったオルガの身体を抱えて
夜が明けようとする空を見上げていた。

僕はオルガの身体を抱えて、歩いた。
街を歩いても奴隷なんて誰も見ようとしない。
だから都合が良かった。
何だか途方もなく当てもなく歩いて、歩いて、
綺麗な花畑を見つけた。
その身体を最後にじっと目に焼き付けて、
僕はオルガを土に埋めた。

それで、後を追って僕も死のうとした。
…死ねなかった、いや、死ななかったんだ。
心臓を抉り取っても再生して。
首を飛ばしても再生して。
それを何回も繰り返しても、すぐに元通り。
僕は笑ってしまった。
狂った様に、花畑の中心で笑った。

笑い終えた僕はまた、当てもなく歩き始めた。
話しかけてくる奴がいたけど、無視した。
無視してもしつこい奴は、少し焼いた。
それで警備隊?みたいなのに捕まったけど
変な女が助けてくれた。

女はフェリシアって言った。
綺麗な茶髪に、深い緑色の瞳の綺麗な女。
多分見た目からしてすごい偉い奴なんだけど、
出会った中で初めて優しかった奴。
どことなく、似てないけどオルガに似ている。
僕みたいに人間じゃなくなったみたい。
僕の話をちゃんと聞いてくれて、服もくれて、
色々なことを教えてくれた。
学ぶのは楽しかった。
けど、心にはぽっかりと穴が開いたままだった。
楽しいけれども、虚しかったんだ。

ふとその中で、見つけたのが異界渡りと言う魔法。
その名の通り、異世界に渡れるらしい。
けど、渡ったが最後、戻れないと聞いた。
それでいい、それがいいと思った。
オルガの居ない世界で生きていける訳ないと、
そう考えたから。
僕はフェリシアに今までのお礼を言って、
世界を渡り歩くことにした。
僕を殺してくれる奴や、場所を探しに。
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