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商町6
しおりを挟むたすき掛けの背を、けけけっと笑う植木屋の弟分。その弟分へと兄貴分が言った。
「親父の所へ行って、俺とお前、この後は抜けさせてもらうと伝えて来てくれ。カワセミだと言えば、親父は分かってくれる」
「承知っ! 菓子屋の兄ぃ、ちょっくら走って来るから、俺のは最後だよっ」
「おう、出来立て食わせてやっから、転ぶなよぉー」
店中から菓子屋が叫ぶ。
弟分は馬の手綱を店先へと括り付けると、馬から少し離れてから走って行った。
植木屋とカワセミ、二人だけで縁台に残されると、カワセミはぽつり、ぽつりと話し出した。
「私には義理の妹がいる。凡人な親父が後妻さんとの間に作った、非凡な妹だ。それが可愛くて仕方がない。私を怖がらず、後をついて回るあの子に、苦労をさせたくなかったんだ」
旦那様も、はと錦も、恐らく村親戚でさえも勘違いしている事だが、カワセミの実家に後から入って来たのは、妹だった。
農家でも、田二反と水の利を持っていれば悪い方じゃない。
その地権者の血は全てカワセミが継いでいた。
しかし、母親を早くに亡くし、後妻が家に居ついてくれると、愛らしく従順な妹と、反抗的で乱暴者の自分の立場が、すり替わった。
とは言っても、女だけの後継ぎ目だ。余所から婿が来てくれれば家は大助かり。婿へ来てくれる者は、俄然、気の荒いカワセミより、気立てのいい妹を欲しがるだろう。
誰の悪意でも、知略でもなく、カワセミは身を引いた。妹可愛さと、自由な考えの気質がそうさせた。
可愛い妹が実家を継いで、どこぞの次男でも三男でも優しいのが家に入ってくれて、家と田と水があれば、妹は安泰。
自分はどうなろうとかまわなかった。まったく不幸だとも思わなかった。商町で出会う者達の方が、数奇な人生を送っている。自分は望んで選べたから、むしろ幸せ者。そう分かっていた。
止める義妹の口を塞ぎ、カワセミは実家を捨てた。権利も苗字もすべて義妹に渡し、親が死ぬまで、二度と顔を出すつもりは無かった。
しかし、それが起こった。
白蛇の祟り。
白蛇の祟りで田が枯れ、水が汚れた。
何か神仏の恨みをかったのだろうと、水元を預かる実家が、村中から責められた。
遠く離れた場所にいながらも、カワセミには、義妹がいながら神の祟りを起こさせるはずがない、と訳も分からない確信があった。もしかしたら、自分の素行が悪すぎて先祖共が怒ったのかと考えた。
おりしも、半殺しとボヤをやらかして、しょっぴかれた矢先だったので、心当たりがあり過ぎたのだ。
そこまで聞き、植木屋の兄貴分は、カワセミが言ったやらかしを思い出した。
二人の仲を危うくした原因。
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