お命ちょうだいいたします

夜束牡牛

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お戻り2

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 突然の出発の催促に、カワセミと植木屋の弟分、何より菓子屋がぎょっとした。

「は? え? もう少しゆっくり、あぁでも急ぎだったな、ちょ、えー、カワセミぃ……」

 そうぐずる菓子屋の手元から、弟分が井水の入った竹筒を取り上げ、手早く自分が持っていた竹編の菓子箱へとかけた。
 つかみどころのない塩に水が染み込み、しゃくしゃくと小さく音を立てる。

「こんくらいかなぁ……菓子屋の兄ぃ、ちょっと見てくれよ塩の具合。仕立てて持って行った方がいいだろ?」

「なんだよっもう、せっかく会えたのに……塩? あ。いいね、そう。外回りだと器に移っちまうから、中心から内回りでそそぐ。わかってんじゃねぇか」

 菓子屋が塩の具合を見るために、湿った塩を指でつつき何度も頷くと、事も何気に植木屋へと声を掛ける。

「植木屋、弟分俺にくれよ。たぶん菓子屋の方が向いてるぜ」

「は? 勝手なことを言ってんじゃねぇよっ阿呆の兄ぃ!」

 菓子屋の突然の申し出に、弟分は腹を立てそう噛み突く。その弟分の頭へと片手を置いたのはカワセミ。
 娘が身を屈ませ菓子箱へと手を掛けた時、黒髪がさらさらと弟分の肩へと流れた。その流れた黒髪の音と同じくらい小さな声で、弟分の耳へと説く声がささやかれる。

「弟分、最後は自分で決めるだろうけど、菓子屋は、見抜く目を持っているよ」

 弟分は、はたと困り、傍へとよせられたカワセミの澄んだ目を見上げた。
 困った時の答えは、いつだって兄貴分、姉貴分が用意してくれているはず。
 しかしカワセミは、菓子箱を取り上げると身を起こし、いつものように、にやりと笑う。

「まぁ、間違っても私と同じところに来なきゃ、それでいい。好きにしな」

「っ姉ぇ! そういえばそれについては、俺にも色々言わせろっ!」

「やぁだね。お前には口で勝てない」

 カワセミはそう言うと、ちゃっと身を返し、馬の傍に立つ植木屋の元へと逃げた。
 その背を逃がすまいと、弟分が口を開けた時だった。

「そこまで」
「わ」

 植木屋がカワセミを軽々と担ぎ上げ、馬の背へと横座りで乗せた。

 弟分から逃げてきたカワセミは、裾も構わずにあぶみに足をかけようとしていた所だったので、その座り方にも担ぎ上げられた事にも、きょとんとしてしまった。

「……兄貴これじゃあすべる、なんだこれ」

「植木屋ぁっ、いまお前の腕の中にカワセミがいただろう! それは俺がやりたかったっ」

 菓子屋の非難声を嫌がり、栗毛が少し足を進めた。
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