お命ちょうだいいたします

夜束牡牛

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幼い祟り神4

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◇◇◇◇

 カワセミが大蛇の前へと立ちはだかった時、白うさぎはひとり社の扉を開けた。

 社の中へと踏み入れると、脇目もふらずに祭壇へと向かう。
 その祭壇には、ひび割れのない丸鏡が備え付けられていた。
 
 丸鏡は、いずれは白うさぎのしろとなるべく、忠実に神社の様子を覗かさせていた。 
 白うさぎは、ミヘビと獅子との仲違なかたがいも、狛犬の手当ても、すべてここを通し覗いていた。

 丸鏡の前には、小さな桐の長小箱が祀られている。
 白いシマヘビの亡骸を入れたそれに、手を伸ばした所で、石畳を砕く衝撃音が響いてきた。
 思わず扉を振り返ったが、次ぐ音は聞こえない。扉も開かない。

「……おにが居ぬ間に、通りゃんせ。まがった道理を、通りゃんせ」

 白うさぎは小さく歌い、桐の小箱を掴んだ。
 小箱を祭壇から降ろし、板の間の中央へとやってくると、ひび割れる丸鏡を傍へと置き、小箱を前に正座をする。
 紅い目で小箱をじっと見つめ、そっと息を吐いた。

「かみさまのいうとおり」

 手を伸ばして桐の蓋を開けた。

 中には、白い皮目を保ったままの細い細い、シマヘビの亡骸。閉じれぬ小さな紅い目が、腐らず、ただ渇き、地に落ちた木の実のようだ。
 白うさぎは小さな手を合わせ、目を瞑ると、頭を下げた。

「いただきます」

 頭をあげ目を開けた後に、手を合わせたまま、ふと小首を傾げた。白い眉が困ったように寄り、紅い目はきょろきょろと辺りを伺っている。
 弱りきった少女の声がそっと呟かれた。

「……箸が、ない……」

 食事は手でするものでなく、箸をつかうもの。
 大好きな旦那様に教わった礼儀。

 白うさぎは旦那様にそう教わるまで、指で食事をとっていた。
 生まれてから箸を与えられずに生きてきた。生まれた場所で躾は受けたが、箸を与えられた事はない。箸を卸さない事で、白い子供が家に居つくのを避けるまじないをかけられていたのだろう。
 そののろいを、難なく払ってくれたのは旦那様。

 奥座敷に置かれた、螺鈿細工らでんざいくの箸を思い浮かべる。今さらながらに覚えた礼儀が、白うさぎの邪魔をする。

 旦那様の言う事は絶対だ。
 すべては神様の言うとおり。
 箸を使わない食事は、旦那様の躾に背く。
 白ヘビの亡骸を食べないのは、神様の言い付けに背く。

 旦那様はひとりなのに、あらがえない決まり事と言い付けが、少女の真白い心を、いったりきたりと騒がしい。
 判断基準は旦那様。全てを決めるのは神様。
 白うさぎの目に、涙が浮かびはじめる。

「うぅっ……、どうしよう……神さま、旦那様……」

 シマヘビの亡骸へと、右手をもじもじと持って行っては、ついっと離す。それを繰り返した末に、さまよった指を口へと入れ、悲しそうに指へと歯をがじがじと当てた。
 ふさがり始めた指の生傷が、再び血を滲ませる。

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