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三者1
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白い大蛇の鎌首に、カワセミの体が勢いよく投げられた。
振られた力でヘビの首から引き剥がされ、白い鱗から手を滑らせた瞬間に落ちる方向を思い出した。
思わず身が凍る。
投げ飛ばされた背の落ちる方向は、百石階段。
白い少年と向き合うことに全てを注いでいたので、そこまでの距離が容易に思い浮かばない。
「っ……」
「カワセミっ」
名を呼ばれ、投げだされた体を宙で抱き留められた。
大きな腕が抱き締めるように抱え込んでくれる。その腕には、昼間に羽交い絞めされた苦い覚えがあった。
大きな腕は、投げる力の方向から娘を奪うようにして地へと着いた。
助けられたカワセミは、横抱きに抱えられたままで吽形の胸倉を掴むと、乱暴に顔を寄せた。
「「怪我はないかっ」」
吽形とカワセミが同時に互いに問う。
カワセミは、百石階段を落ち消えた吽形の身を、吽形は、ひとり荒れる場で立ち回ったカワセミの身を思い、互いが不安な目の中を探った。
「大丈夫だ、すまなかった一人にさせて」
先に吽形が答え、そっと娘を降ろしてやる。
カワセミは掴んだ胸倉をとんっと軽く叩くと、笑った。
「何てことない。ヘビに少し、お相手をしてもらっただけだ」
「……そうか」
本当に何でもないように、あっけらかんとして答えるカワセミ。それに吽形の目が和らぐ。
境内が沈むほどの何かがあったのだろうが、それでも自身の主を、大蛇になった白蛇を貶めるような事を口にしない娘に、狛犬の荒れていた胸の内が、翡翠に満たされ、慰められた。
「容易に離れてくれるな」
「阿呆。お前が勝手に階段落ちしたんだよ」
カワセミがするりと腕から抜け出し、地へと足を付けた。しかし、その肩はいまだ吽形の体からは離れていない。
触れ合える距離で、娘が狛犬を見上げる。
そんなふたりが身を寄せている所へと、吽形の背にでも隠れていたのか、赤髪の若者がひょいと現れた。
若者のまるい目が煌めき、嬉々とした明るく甘い声が、寄り添う二人へと掛けられた。
「なんと、二人は身を寄せるほどに素直になったか。良い良い、仲が良くてよろしい」
嬉しそうにふくふくと若者が笑う。
カワセミは突然の若者の出に、吽形から少し身を引いた。しかし、そんな事も気にせず、笑う赤髪の若者は吽形へと続ける。
「うーさん、わし、縁結びも担いたい。人と神獣が、互いに強く結ばれるのはとても良い。縁結びの気配も音も、この身が喜ぶ。……ふふ、縁結びの実績はうーさんとカワセミで積んだ、後は出雲に申し出ればいいのか」
赤髪を揺らし若者が嬉しそうにそう言うと、青髪を持つ吽形が頷いてやる。
「そうだな。だが、獅子の御利益と言うよりは阿形の御利益だな」
「じゃろ、じゃろ。わしは優秀なんじゃ。はじめからなんでもお見通しなんだ」
荒魂を祀る百石階段神社と縁結びとは、随分と離れてはいるが、嬉しそうに話す獅子に、狛犬は水を差さない。
ただひとり、カワセミはじっと赤髪の若者を見つめていた。
嬉々と話す口元に煌めく真珠の二本牙、
目尻だけが下がる大きく愛嬌のある目、
こちらをにこやかに伺う時に、傾げられた首からほろほろと解き戻る、渦巻く赤髪。の、……男。
(……こいつ)
カワセミの目が男を見据える。
「あーさん、縁結びの担いに関しては後でじっくり練ろう。さて、それではどうしたものか」
吽形が軽口を切り上げ、邪気と穢れに沈む境内を見れば、白い大蛇は重たい丸太の身を滑らせ、ゆっくりと動き出していた。
「まずは、主の視界に入らなくてはな、ん?」
吽形が足を進めようとしたその時、白鼠色の袖がぱっと目の前を遮り、赤髪の若者の胸倉を掴んだ。次いで乱暴に引き寄せ、吽形の目前で、カワセミと赤髪の若者が間近に顔を突き合わせる。
「っわ、なんだカワセミ」
「あぎょう、……だな」
娘の強い目が、たじろぐ鞠の目を見据える。
阿形はそのまるい目で、いつもは見上げていたカワセミを見下ろした。
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