お命ちょうだいいたします

夜束牡牛

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一本角3

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 そこへと、吽形うんぎょうの背で事の詳細が見えない、しかし、神獣の角が自分とは違う、痛みをともわない方法で『人』へと授けられた気配を感じ、阿形あぎょうが猛烈に抗議した。

「なんだそれ! 狛犬には痛くない授け方があるのか、ずるくないか! 『手当て』の応用編なんぞ、わし知らんぞ。わしにはそれ出来なかったのかっ……こら、吽形っ」

 阿形はそう叫ぶと、獅子の体も軽く、二人の間へと飛び出そうと身を低くした。
 その獅子の首元を、ぱっと旦那様が掴み、腕へと抱え込む。

「わ、なんじゃ。吽形、助けてくれっ穢れる」

「黙れ、野暮猫やぼねこ。穢れようがお前はここにいろ。……二人の好きにさせてやれ。名残の惜しみこそ美しい、余韻こそ内に響く音色なんだよ」

 旦那様の腕に首を押さえられた獅子は、後ろ足でぱぱぱっとその胸板を足蹴にした。

「はぁ? 何を訳の分からぬ事を。いいか、お前は馴染むな、口を開くなっ、まとめるな! そもそもお前が、人の身丈に合わない欲を出さなければ、こんな事にはならなかった!」

 獅子の軽い後足を受け、旦那様が返す。

「よく分かっているじゃないか。そうだ、私の欲がなければお前たちは生まれず、あの二人も縁が結ばれなかった」

「良い面だけを取り上げ言うな! 嫌いじゃ! お前は、主の苦しみを一生涯かけつぐなえっ」

 叫ぶ阿形に旦那様がゆっくりと返す。

「そのつもりだ。悪かった。私は自身の極楽のために、犠牲を掛け過ぎた。他の生類を、蔑ろにしすぎた。白うさぎをヘビに取り上げられ、よく身に沁みた。私は私のやり方で償う」

「……」

 獅子は体を捻り、そう言う旦那様を見た。

 鞠の目が、忘八の楼主様の心に改心の色を認める。しかし、思いがけず知った改心にも阿形は納得しきれずに、低く唸った。海鳴りが響く。

「わし、時々人を心底憎んでやりたくなる。でも、そんな恨み節は人真似になるからやらんっ」

「へぇ。また首元を持ってかれるかと覚悟はしたんだがな。人の改心に咎めなしと、猫には猫の道理があるか」

 旦那様がまたもまとめ口を叩き、ついに阿形の前足に頬を殴られた。
 
 吽形の肩越しに顔を出したカワセミから見れば、むしろご褒美な、柔い肉球の当て具合ではあったが、阿形なりの、力による制裁の一撃だった。
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