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第一章 春の真ん中、運命の再会

12 陽花の回想録-3

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 高校1年生のとき、佐々木亜弓ささき あゆみちゃん、あーちゃんと出会い同じクラスになれたのは、わたしにとって高校生活最大の幸運だったと思う。

 入学式の時に自己紹介をしあった、あーちゃんの従弟いとこ佐々木浩二ささき こうじ君と黒ちゃん似の伊藤貴史いとう たかし君とは別のクラスになってしまったのは少し残念だったけれど、あーちゃんのおかげで彼らとは日常的に顔を合わせる機会を持つことになった。

「お昼、四人で屋上で食べない?」

 入学式の翌日のお昼休みに、笑顔全開のあーちゃんに誘われた。

 四人とは、あーちゃんとわたし、そして佐々木君、伊藤君のこと。もちろん、わたしに否はあるはずもなく。内心『やったー!』と伊藤君と親しくなれるチャンスの到来に、心を躍らせていた。

 誘われたその日。実際、お昼の時間にドキドキしながら屋上に行ってみれば、佐々木君と伊藤君はすでに来ていて、笑顔でわたしを迎えてくれた。

 お弁当を広げてすぐに始まったのが、あーちゃんと佐々木君のタコウインナー争奪戦。

「浩二、タコウインナーいただきます!」

 言うや否や、あーちゃんは佐々木君のお弁当箱からタコウインナーを奪取。パクリと口に放り込んだ。いきなりの早業に思わず点目になるわたしとは対照的に、慣れているのか、黙々と自分のお弁当を口に運ぶ伊藤君。

「あ、このっ、何しやがる、高校生男子の貴重なたんぱく源を奪うなっ!」
「高校女子にだって、タンパク質は貴重です」

 ウヒヒと、してやったりの笑顔で胸を張るあーちゃんと、がっくりと打ちひしがれる佐々木君。ちょっと気の毒になって、わたしは自分のお弁当を佐々木君に差し出し声をかけた。

「あの、わたしのウインナーでよかったら、どうぞ? タコじゃなくてカニだけど……」

 バッと顔を上げた佐々木君は、もともとさがり気味な目じりをさらに下げて「ああ、三池みいけが優しい。どこぞの食欲魔人とはエライ違いだ。ありがとう三池!」と、カニウインナーをぱくりと頬張った。

「うんまい~。これって、もしかして三池みいけの手作り?」

 佐々木君に、ニコニコと問われて、こくりと頷く。料理人のお父さんの影響で子供のころから料理は好きだ。高校に入ったときの第一目標は『友達を作ること』だったけど、第二目標は『毎日自分でお弁当を作ること』だった。

「あの、あーちゃんと伊藤君も、よかったらどうぞ」

 二人の方にお弁当箱を差し出せば、あーちゃんと伊藤君は顔を見合わせる。

「じゃあ、交換っこしよう。肉巻きアスパラと、カニウインナートレード!」

 わたしのおかずが減ってしまうことを気にしてくれたのか、あーちゃんがおかずの交換をしてくれた。それにならって伊藤君も「じゃ、俺はミートボールを」と言って、お弁当箱を差し出してくれた。

 さすがに高校生男子のお弁当箱。わたしのお弁当箱の倍くらいありそうな黒い大きなお弁当箱の中身は、ハンバーグやミートボールなどの肉系のおかずがメインのガッツリ系だ。

 気を使って、まだ手を付けていないミートボールを進めてくれたのだろう。わたしは、ありがたくおかずの交換をしてもらった。

「あー、俺も俺も。タコウインナーと交換ね」

 佐々木君も、そう言ってニコニコとお弁当箱を差し出してくれた。すると、すかさずあーちゃんのツッコミが入る。

「それじゃ、中身ウインナ―で一緒じゃんー」
「形が違う、形がっ」

 あーちゃんと佐々木君は、まるで姉弟きょうだいみたいに仲が良い。あーちゃんが話題を振ると佐々木君がツッコミを入れ、佐々木君が話題を振るとあーちゃんがツッコミを入れる。

 まるで夫婦漫才のように息がぴったりで、思わずクスクスと笑ってしまう。

 伊藤君は口数が少なくてあまりおしゃべりはしないけれど、二人の様子を楽し気に見ている。というか見守っているかんじ。この空気感がなんとも言えず心地よい。

 こんなふうに、和気あいあいの四人で過ごすランチタイムは、とても楽しくて。私の高校生活で、いちばん待ち遠しい時間になった。

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