捕獲大作戦

丹羽 庭子

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2巻

2-1

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 捕獲大作戦2




   1


「重いだろ。その荷物よこせ」

 きゅん……

「はぐれるぞ。ほら――お前の手、温かいな」

 キュン……

「外食もたまにはいいが、ユリの料理が一番好きだ」

 はぅっ……し、心臓がっ! ああ、もう、どうしたらっ! 
 結婚して早三ヶ月――私、滝浪たきなみユリ子は、愛しの旦那様・圭吾けいごさんに身悶みもだえする日々を送っております。
 今日は、二人でお買い物。
 最初に訪れたデパートでは、圭吾さんのご命令により何度も試着をさせられ、やっと冬物を数点買い終えました。
 可愛らしいボタンの真っ白な本革のコートは、圭吾さんのイチオシです。襟元えりもとそでにフワフワとしたファーが付いていて、暖かくて触り心地抜群。
 圭吾さんは私を着せ替えるのが好きなんだそうです。リアル着せ替えごっこ……? と、ちょっと引きかねない趣味かもしれませんが、〝どんな趣味でもイケメンだからOK!〟のマジックが発動されて、私が受け入れちゃっているのですから問題ナシです。イケメンて――ずるい!


 その後、私達はランチを楽しみ、腹ごなしをかねて繁華街の目抜き通りをブラブラ。すると圭吾さんが「ちょっといいか?」と、携帯ショップへ立ち寄りました。修理に出していた会社用のタブレット端末を受け取るみたいです。そしてなぜか、私と圭吾さんの携帯電話を、スマートフォンに機種変更……
 え……?

「圭吾さんと、お、おそろい……!」
「駄目か?」
「逆ですぜ、旦那ぁ! むしろありがてぇですよ!」
「……どこの町人だ」

 ふおお……これなら電子書籍になった(BL)小説とか、(BL)漫画が手軽に読めるぅ! ひゃっほう! 
 ……って、すみません。つい、取り乱してしまいました。
 だって私は腐女子ふじょし……つまり、アニメや小説やゲーム(主にBL)が大好きなオタク女子ってことで――
 こんな私を、圭吾さんは、その、丸ごと愛してくださっているのです。……なんて、自分で言うのも照れますが……
 大興奮している私の頭をでた圭吾さんは、私とまた手をつなぎ、今度は家電量販店へ。それぞれ見たいものがあるので、二手ふたてに分かれて散策さんさくです。実は私、新作のゲームをチェックしたかったのです。私も働いていますので、なかなかゲームをする時間が取れない。それに家事も忙しい……なんといっても新婚ですし! だからどうせなら厳選した一作をプレイしたい訳ですよ。
 でも散々悩んだ結果、ゲームはやめて、今回は調理器具を買うことに。選んだものは、スティックタイプのブレンダー。簡単に物を刻んだり泡立てたりできるから、料理の幅が広がりますぜ、奥様!
 駄目とは言われないだろうけど、一応買ってもいいか、圭吾さんに聞いてみようっと。
 売り場をあちこち探したら、圭吾さんはなぜか洗濯機売場に。……まだうちのは壊れていないんだけどな。うーん、やっぱ新機能とか付いてると、つい見ちゃう心理ですかね? 

「圭吾さーん。これ買ってもいいですか?」
「ああ。――なんだ、わざわざ聞いたりして」

 圭吾さんはあきれたように私の手からブレンダーを取り上げて、さっさとレジカウンターへ持っていく。

「ユリは無駄遣いするタイプじゃないってわかってる。必要な物なら自由に買っていいんだぞ」
「あ、でも、家族の物ですし、いいお値段ですから一応、と思いまして」

 家族……と圭吾さんは私の言葉を繰り返した後、黙って私の頭を撫でてくれる。おやおや、圭吾さん、若干頬がゆるんでおりますよ? 
 家族で使う物なので、ちゃんと相談して買いたいのです。
 独身の頃、お金を使うのは、大体地方のオフ会とか、同人誌の即売会ぐらいだったので、誰に相談する必要もなかったのですが……
 また最近は、オシャレの楽しさを知りました。身だしなみっていうやつに気を遣うようになり、周囲の評判も上々。圭吾さんもおめの言葉をくださいます。

『今日も可愛いな、ユリ。それを脱がせるのも楽しみだ』

 こんな感じのとんでもないセリフを浴びせられる毎日は、なかなかに刺激的でゴザイマス。
 会計を済ませ、それぞれ片手に荷物を持って手を繋ぎ、二人の愛の巣へと帰る。
 あー……なんかすごくすご~く、幸せ。まさに幸せって、こういうコトを言うんですねぇ。
 ぴゅうっと吹く風の冷たさが、冬の訪れを知らせる。これからどんどん冷えこんでくるんだろうなあ。でも、私と圭吾さんは新婚アツアツなので寒さなんかに負けません! 
 幸せを噛みしめながら、私は結婚に至るまでのドタバタの日々を思い出した。


『今時どこで売ってるのか探すのも大変な、ガラス製の太枠黒縁眼鏡。いた形跡の見当たらない重たい髪を真ん中分けにし、かつ二つ縛りにした昭和な髪型。そして化粧っけゼロの顔。彩りが一つもなく、可哀想にすら思えるその残念な服装。どれもこれも最初から気に食わなかったんだ。変えろ』


 それは、入社してしばらく過ぎた頃――私が描いたBL漫画を、カチョーである圭吾さんにウッカリ見られてしまったことから始まったのです。
 男×男のラブストーリー『課長、深夜に愛を』は、袴田はかまだ圭吾×清水博之しみずひろゆきという実在する私の上司をモデルにしたものでした。自分がモデルとなっているその漫画を見た圭吾さんは激怒する……かと思いきや、原稿を返してくれ、さらにこのことを自分の胸一つに収めるとおっしゃった。でも、それで済まされる訳がない。代わりに、彼は『三つの条件』を私に突き出した。
 一つ、ダサい見た目を変えること。
 二つ、一ヶ月間、カチョーの家に住みこんで、家事全般をすること。
 あれやこれやと抵抗しましたが言いくるめられて、最終的に条件を呑むことになりました。そしてカチョーのプライベートを知り、様々な出来事を乗り越えるうちに、いつの間にかカチョーのことを好きになっていたのです。
 さらに幼い頃、実はカチョーがお隣に住んでいたという事実を思い出しましてね! いや、もうびっくりですよ! しかもそれを、私の家族が私に黙っていたことまで発覚しましてね! 家族が教えてくれなかったのは、私が自分自身で記憶を封印していたからだったのですけど。小さい頃からの縁って、なんだか運命的……! 
 そして三つ目がなんと――婚姻届にサインをすること。
 まさかまさか、ですよ! 色々すっとばして、いきなり結婚ですよ! おいおい!
 そんなこんなで――私、捕獲されてしまいました! でも、す、好きだったから、願ったり叶ったりなんですけどねっ!


 この夏は、まだ圭吾さんと私が奇妙な同居生活を送っていた頃に約束した、遊園地へ行きました。しかも一泊二日です。まずは園内にあるプールへ。私は気合いを入れて、レースで縁取られたピンクの三角ビキニを身に着けました! なのに圭吾さんてば、即座に「阿呆! 着替えろ!」と命令。代わりに渡されたのは、売店にあった露出度低めなショートパンツのタンキニ……
 しかも大きな浮き輪を、上からボサッと。
 ちょ、子供ですか? 子供扱いですか!? 
 非難の視線を送ると、「虫よけだ」なんて言って仏頂面ぶっちょうづらを見せました。まあ夏だし、もいるかな。昼間はそんなに飛んでないけど、浮き輪にそんな効果があるなんて――って、虫よけ!?
 おっと、そうか! そういうことか~! こ、これは独占欲ってやつですね? やだ! 圭吾さんってば可愛い! すごく可愛い! そしてありがたや~。圭吾さんと一緒だから、ちょっと背伸びした水着を着たかったのですが……周囲の目というものを忘れておりました。いやあ、ウッカリウッカリ。
 圭吾さんは、私の隣でちょっぴり微笑んでいます。
 ああ! もう素敵すぎる! ひとつ年を取ったせいか、端整なお顔に男の渋みが加わっている。そしてしっかりと筋肉がついたひろーい背中。こりゃあ飛びつきたくなりますね。水着の下の〝男の武器〟を見せられなくて非常に残念です。これはもう天下一品どころではない、素晴らしいブツですよ! 何度、それになかされたことか!(あえての平仮名、どの漢字をあてるかは、ご想像にお任せします)
 それから腕の筋張ったところも、手のこうがゴツゴツしているところも素敵! なにより、濡れ髪が、濡れ髪が、濡れ髪がーーっ!(もはや変態な心の声)
 手を伸ばして、圭吾さんの腕をギュッと掴んで頬ずりすると、ポンポンと頭をでられた。

「可愛いな、ユリ」

 くうぅっ! たまりませんっっ!
 いろいろな感情があふれ出てしまい、私は圭吾さんにコッソリ耳打ち。プールから引き揚げて予約しておいた近くのホテルに直行し、夕方まで部屋にこもっていたのは仕方のないことだと思います。
 ほほほほら、し、新婚だし!


 それから夕食を早めに取り、再び園内へ。
 圭吾さんと指を絡めて手をつなぎ、丘の上にある観覧車を目指して歩く。
 婚約指輪代わりにもらった腕時計が、キラキラとLEDの光を反射してきらめいている。そろそろ花火が上がる時間だな、と思って観覧車乗り場で待っていたら、カップルや家族連れが次々と後ろに並び出した。ほどなく順番が回ってきて、私と圭吾さんは観覧車に向かい合って座る。
 ――以前、圭吾さんとこの遊園地に来た日のことを思い出す。
 あの時は、まだ圭吾さんの気持ちがわからなくて。でも恋人になりたくて、なけなしの勇気を振りしぼって、私は圭吾さんに言った。

『夏に、また二人で来たいです』
『一緒に、花火が見たい……です』

 一ヶ月の同居生活が終わっても、二人の関係を繋ぎとめるために――
 そして、とうとうあの時の願いが、今果たされようとしているのです。
 ゆっくりと頂上を目指す観覧車からは、幻想的な遊園地のイルミネーションが見渡せる。前来た時は夕暮れ時のオレンジ色がとても綺麗だったけれど、夜のイルミネーションもまた美しく、胸に迫るものがある。

「なにを考えている?」

 ウットリとしていたら、ふわり、と圭吾さんの手が膝に置いていた私の手に重ねられた。

「前に来た時の思い出をなぞっていました」
「前に来た時か……あの時、俺は内心すごくあせっていた」
「どうしてですか?」
「……絶対に逃がすものか、という強い想いを抑えるのに必死だった」

 うおっ! き、来ました! 

「ユリの方から『また来たい、二人で』と言われて――もう一度、れた。その時ほど、おのれした制約をうらんだことはなかったな」

 己に科した制約……って! 確か時がくるまで手を出さないという、アレですかっ!? っていうか、とっくにキスはされておりましたけどね! 濃厚な大人のキ・ス!

「もう一度、二人で一緒に来ることができて、よかった」

 私は向かいの席から、黙って彼の隣にそっと移動し、指を絡めた。
 伝わる? 私の想い。
 伝わる? 苦しいほどのこの胸の高鳴り。
 圭吾さんの瞳に映った私。ああ、私はこんな顔をしていたのですね。とろけたように、欲しがるように、圭吾さんを見つめていたんだ……
 ドンッ。
 大きな音と共に、夜空で開く大輪の花。続けざまに、いくつもの花が咲き乱れる。
 それを視界のはしに映しながら、近づいてくる圭吾さんの唇を迎えるために、私はゆっくりと目を閉じた。


 と、こんな風に結婚直後の三ヶ月は、またたく間に過ぎていったのでした――




   2


 お買い物デートをした翌週末。圭吾さんが休日出勤してしまったので、私は真っ昼間から一人、家でパソコンに向かっておりました。私が所属する同人サークル『BARA☆たいむ』のサイトを更新しているのです。


 ハーイ☆皆さん! お元気ですか? ばらメイカーりりぃ♪でっす! 
 今日は大事なお知らせがあります。
愁堂芙妃都しゅうどうふひと』は、都合によりリーダーを退任しました。
 引きぎなどがあるため、サークル活動の方は少しお休みをいただきます。
 そんなこんなで、次期リーダーは皆さまご存知の『所天狐ところてんこ』に決まりました!
 次のメルマガでは、同人誌即売会のスケジュールと、新刊のご案内ができればいいなと思います。
 それでは皆様、よい夢を……
『BARA☆たいむ』→http://www.××××.ne.jp
 P.S.私の個人サイトはこちらです。遊びにきてくださいね☆→http://www.○○○○.ne.jp


 タン、とエンターキーを押してアップロード。
 もう結成八年目になる『BARA☆たいむ』は、このたび活動休止の運びになってしまったのだ。永遠に続くかと思った、サークルメンバーとの腐った語り合いの日々が思い出される。
 そもそも、どうしてこうなったかというと、サークルのリーダーが、二十九歳にしてとうとう結婚することになったからです! 
 私が圭吾さんと奇妙な同居生活をしていたつい数ヶ月前、リーダーには全く結婚の気配すらなく……それなのに先日――

『りりぃたん! 私、結婚するの。彼の国に行くことになったから、リーダーを降りたいんだけど……』

 なんていう報告がありましてね。
 っていうか、『彼の国』ってどこ! 相手は外国の人なのか! なんて美味しいネタ! ……じゃなくて、青天せいてん霹靂へきれきってやつですよ!
 という訳でリーダーは、みんなのスケジュール調整や、即売会の抽選予約、そして合同誌などの編纂へんさんに搬入の手続き、そしてサイトの更新ができなくなってしまった。そこで退任という運びになったのだ。
 新たなリーダーを立てなきゃいけないけど、自分に割り振られたページの漫画を描いていただけの私では、代わりなんて務まるはずがない。他に適任者はいないか、と考えてみたけれど……
 インテリアコーディネーターをしているメンバーは、仕事がすごく忙しそうで、たまに『修羅場なう』とSNSで安否あんぴがわかる程度なので、とても任せた! なんて言えない。もう一人は去年結婚して、最近子供が生まれたので、きっと子育てで大忙しだろう。ほかのメンバーに当たってみたけれど、『リーダーとなると荷が重くて……』と消極的だ。
 とまあ、紆余曲折うよきょくせつありましたが、建前上の新リーダーを決め、皆で業務を分担する形でなんとか収まったのだった。サークルのホームページの管理は、私が担当になりました。一抹いちまつの不安はありますが、応援してくださる方もいらっしゃいますので、いっちょ頑張りますよ!
 サイトのBBSには、『寂しいです』『復活をお待ちしております』など、応援してくださっている方から次々にコメントが入った。ほとんどがリーダーのファンであり、そこからサークル全体を応援してくださるようになった方なので、リーダーがいなくなるというのはかなりの痛手いたでです。
 次に私の個人サイトの方を見てみると、チラホラとコメントが入っておりました。
 三作続いた『課長、深夜に愛を』シリーズがなかなか好評で、固定の読者さまがつきました。……残念ながら圭吾さんとの約束で続編は出せませんがね。うん、非常に残念です……
 コメント欄を見ると、いつもの方々から応援メッセージが入っていた。


男兎子おとこ】―――――サークル活動が不定期になるということで、とても残念に思っています。それでも、ずっと応援していきます! もちろんりりぃさんの新作も♪
【パンダスメル】――課長萌えの私としては、鬼畜攻めをする彼の姿を見たい!
【シルミルク】―――私は清水押し! 翻弄ほんろうされる彼が好き過ぎます。
 あああ! もう! ありがてぇですよ! ほんと、星の数ほどある創作サイトの底辺にいる私に、こんな優しいコメントをくださるなんて。もうなんというか恐悦至極きょうえつしごくでございまして、「あらっ、ようこそいらっしゃいました! ささっ、どうぞ座布団を。今お茶とお菓子お持ちしますからね~」と、おもてなしをしたいくらいです。
 一件ずつ心をこめて返信し、パソコンをシャットダウン。んーっ、と背伸びをしながら時計を見たら、そろそろ家を出なければならない時間でした。
 実はこれから、リーダーと婚約者さんを交えてランチをするのです。
 待ち合わせのレストランに先に到着した私は、出入口を気にしつつ、リーダーがどんな相手を連れてくるのかワクワクして待っていた――


「それで、どうだったんだ?」

 夜――
 夕食を取ってお風呂に入り、いつものようにベッドの上で寝転がっていたら、圭吾さんに尋ねられました。

「それが……とんでもない相手を連れてきたのですよ!」

 圭吾さんの男らしい腕に巻きついていた私は、ガバッと身を起こしてえた。
 だって、だって!
 ――リーダーより二歳年下の婚約者は、『どこの二次元から引っ張ってきたのですかっ!』というくらい、端整な顔立ちのいい男でした。
 もちろん私が言う『いい男』とは、ホモホモしい創作活動のモデルとしてふさわしい、の意味ですけれども。
 リーダーの婚約者は、灰色の髪に水色の瞳という異国風の容貌ようぼうをしていた。細身のスーツを着せて、眼鏡をかけさせたら最強じゃあございませんこと!?
 私の向かいに二人が座っていたのだけど、彼のリーダーを見る眼差しは、どこまでも優しく柔らかかった。うむ、誰が見ても、お似合いな二人です。リーダーは嫁ぎ先でも創作活動にいそしんでいるらしく、彼もリーダーのBL好きはご存知とのこと。
 結婚しても趣味は続ける……師匠っー!

「りりぃたん……なんか落ち着いちゃったわねー。前はもっとガツガツしてた気がするけど。あ、なんかわかっちゃった! 三大欲求を満たされているから、かしら」
「三大欲求、ですか?」
「そうよ。食欲、睡眠欲、そして性欲よ。ずいぶんと可愛がられてるのねー」

 そう言って、リーダーは自分の右耳のすぐ下を、指でトントンと叩いた。
 ん? なんでしょう? キョトンとする私に、リーダーは「付いてる」と教えてくれました。
 ――キスマークの存在を! 
 ええっ? うわあああっ! なんでなんでいつの間にーっ!?
 思わずパッと手で隠しましたが、体がで上がるかと思うほど熱くなり、恥ずかしすぎて消えてしまいたくなった。
 くっ、見てろよ圭吾さん。いつかきっと……仕返ししてやり……マス。


「――ってなことがありました……って! 圭吾さん聞いてます!?」
「他の男の話なんぞ聞きたくないな」
こころせまっ!」

 ベッドの上で正座し、こぶしを握って語っていた私は、バッタリと倒れた。
 嗚呼、圭吾さん、ふてくされておられる……!
 私はリーダーの婚約者に対して「ああ、このビジュアルで、『ふふ……もう諦めたかい? 私の手にちるがいい』みたいなセリフを月光の下で言わせたい!」と妄想していただけなのですが……圭吾さん的には、私がニコニコして(実際にはニヤニヤ)、他の男性をたたえるのが面白くなかったようです。そこでハッと気づく。そういうのはちゃんと言ってくれなければ伝わらないのですよ。
 私は仰向けに寝ている圭吾さんの腕と脇の間に潜りこみ、ギュウッと抱きついた。

「あのですね、前に言ったと思うのですが……三次元の男性として見てませんからね? ネタですよ、ネタ。えーと、その、趣味の方の。私が好きなのは、圭吾さんです。圭吾さんだけが私の……私の……」
「私の?」
「リアル嫁です!」
「……は?」
「あああ、ごめんなさい。リアル嫁っていうのはつまり、既婚者が実際の配偶者に対して使う呼び名です。ちなみに大好きな二次元キャラのことは『俺の嫁』って言うんですよ。私にとっての『俺の嫁』は、圭吾さんなくしては存在し得ないんです!」
「全くわからん」
「つまり圭吾さんあっての二次元萌えです。圭吾さんがいないと萌えられないんです、ダメなんです」
「ユリ?」
「じっとしててください」

 圭吾さんの胸に耳を寄せると、とくん、とくん、と規則正しい心臓の音が聞こえる。
 あったかいな。気持ちいいな。
 しばらく耳をましていると、圭吾さんが私の頭を優しくでてくれた。
 こんな風に甘えられるのも、こんな風に応えてくれるのも、想いが通じ合っているからこそ。
 顔を上げ、両手で圭吾さんの頬を包むと、少しだけひげがジョリッとする。これが唇に当たると少し痛い。圭吾さんの唇に、自分から顔を寄せて口づけた。
 ちゅ、ちゅ……と、軽くついばむように。圭吾さんは、されるがままで、私を興味深そうに眺めていた。少しだけ舌を出して、彼の唇をチロッと舐める。それから、唇をこじあけ、綺麗に並んでいる歯列に舌をわせた。
 さらに奥へと舌を伸ばすと、圭吾さんの温かな舌先と触れ合う。誘うように、絡めてみたり吸ってみたりするたび、くちゅ、くちゅ、という音がした。
 そして、口づけをしたまま、右手をそっと圭吾さんの下腹部へ向かって伸ばしていく。ガチムチマッチョではなく、必要な筋肉が必要なだけついた体をでて下りていくと、そこには固く屹立きつりつした男のが……!

「もう、おっきくなってます」

 嬉しいですね。ち上がった肉茎が、私の手の中でどくどくと脈打っています。柔らかく手で包み、撫でるように上下にこすった。

「おい……」
「圭吾さん、お疲れでしょうから、せめて私が」

 連日の残業に休日出勤にと、お疲れですよね。妻は心配なのです。

「熱い……です、すっごく」

 初めての夜以降、何度も何度も何度も何度も何度も(エンドレス)、見たり触れたりれたりする機会があったけれど、どうも未だに慣れなくて……
 手を添わせ上下に擦ると、より固く、より太くなっていく。それにともない、キスもより深くなって下腹の奥がキュンとする。
 唇をちゅうっと吸った後、私は圭吾さんのズボンとパンツを一緒に下ろす。……おぉう……ご立派に成長あそばされて……
 自分も、ズボンとショーツを脱いで、よいしょと圭吾さんにまたがった。そして男茎おはせを軽く握って自分の蜜口に当てる。うん、大丈夫。とっくに自分の方は準備ができていたらしく、にちにちとねばついた音がした。

「いきますよ……ふっ、……ん!」

 相当な質量をもつものが、自分の膣内に入ってくるのがわかる。
 受け入れる気持ちよさ、押し広げられる苦しさ、そして絶頂に向かう――期待。それらがいっぺんに襲ってきて、どうしようもなくなってしまう。
 私のナカが圭吾さんをくわえ、奥へ奥へと導いていく。ぞくぞくとした快感が体中に広がり、ようやくすべてが収まる頃、私はくたりと圭吾さんの上におおい被さっていた。

「……は……あっ」 

 う……動けない……です……
 圭吾さんは私の背中を大きな手ででてくれる。しかし次の瞬間――


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