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第一話
時間のない恋
しおりを挟む~プロローグ~
「記憶が消される?」
まさか、異能が使える人間がいるわけでもないこの世界で、そんなことが俺の身近で起こるなんて、考えてみたこともない……訳ではなかったが、よりによって、「あの人」がその対象になるなんて、考えたい訳がなかった。
「おはよう」
「おはよう……って、あなただぁれ?」
「やっぱり……、俺は……」
そう。
これは、俺が二つの能力以外の全てにおいて「平均」すぎたために守れなかった、大切な人へおくる、最初で最後の手紙。
これを読んで、少しでも俺と一緒にいたいと思ってもらえるなら、願ったり叶ったりだ。
俺はずっと君といたい。
「一生」忘れられない、君との……日間。
ー第一章~失敗の連続~ー
「今秋から、闘格高校C組に転入することになりました、光地之 円世(こうちの えんせい)です。何をしてもパッとしない僕ですが、一つだけ唯一のものをもっています。みなさんが、それを見つけてくれることを願っています。これからよろしくお願いします」
そんな僕の挨拶を受けたクラスメイト達の反応は、失笑とまばらな拍手。
真面目な自己紹介のはずだったのに、みんなの反応を見て違和感を覚えた。
僕の言葉、そんなに変だったかなぁ、と今さら振り返ってももう遅い。
過ぎた時は二度と戻らないのだから。
そんな想いを抱きながら、教室のど真ん中に用意された自分の席へと向かった。
あぁ、また僕は一つ失敗をした。
「光地之君って、どこに住んでるの?」
ココに来てから、生徒に話しかけられたのは、これが初めてだった。
人間関係を築いていく上で最も大切なのは第一印象だ、をモットーにする僕は、いかにも女子ウケが良さそうな彼(名前は知らないので、とりあえず生徒Aとしておく)に、好印象……というよりは、自分の見た目に合った性格を持っている、といった印象を与えるべく、即席で口調を整える。
「北闘市……です」
「そうなの?じゃあ、ここからそんなに遠くないんだね。あっ、そうだ。僕の幼馴染も紹介しておくね。ジョー、ちょっとこっちに来てー!」
「はいはぁ~い。ちょっと待って~!」
という愛想の良い返事の後にやってきた、「ジョー」と呼ばれた女子生徒は、僕のことを見るなりニコッとほほえんで、自己紹介を始めた。
「はじめまして。私の名前は無条円璃。クラスメイトからは『ジョー』って呼ばれてるの。私の取り柄は、明るく快活なところだの。よろしくね」
「よろしく……お願いします」
僕は彼女のスーパーハイテンションかつ謎の語尾に圧倒されるが、無条さんにも一応、貧弱な光地之を植え付けておく。
この印象は、僕がこの学校で成り上がっていく為の第一歩でもあった。
しかし、僕が話したかったのは、お互いについてではなく「試」についてだった。
「『試』という言葉は聞いたことがあると思うんだけど、ほとんど知らないと思うから、一から説明するね。この学校に入って来る生徒の約95%が、これに憧れて入ってくるっていう噂があるくらい、『試』はこの学校の独特なルールの一つなんだ。まず、『試』は、他の学校でいうクラス替えに相当するもので、それは毎週日曜日に行われているんだ」
「毎週……?」
僕は予め、けっこうな頻度で「試」が行われる、とは聞いていたものの、毎週、と聞いて少し驚いてしまう。
「そう、毎週。で、君も知っている通り、学年を問わずの6クラス構成になっているここでは、Sクラスが最高位のランクで、Eクラスが最下位のランクっていう風に、クラス間には『ランク』があるんだ。で、より上位のランクに移ろうと思ったら、『試』で自分の属するランクのなかで、上位3位以内に入らなければいけないんだ。逆に、下位3位以下になったら、一つ下のランクに降格になるんだ。あ、でも、Cクラスだけは例外で、各回、昇格3名に対して、降格は6名なんだ」
「どうして……?」
彼から予感された、何か重たいものを含む雰囲気に、僕は少し緊迫した面持ちになる。
「それは、この学校の少し残酷なルールなんだけど、掃き出し場の無くなった、Eクラスの下位3名は、『メモリー』つまり、この学校で得た記憶……友情関係や、闘い方、勉強、それから、恋愛心までの全てを消去されて、Cクラスへ送られるんだ。そして、Cクラスに送られた生徒に対して、周りの生徒はその生徒がこの学校で過去に過ごしたことの全てを話してはいけないんだ。それを承知の上で行った生徒は退学処分を受けるんだ。というのが、「試』の概要だね」
~続く~
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