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魔法の森からの千里眼

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キサナ国とカスナ国の国境の町を越え、盗賊達討伐の屋敷周辺を越え、
そこから10km位の処で、日が暮れ始めたので、
俺たちは街道沿いの大きな空家屋敷の庭で野宿をすることにした。

空き家があるのだから、建物の中で夜を明かすのが良いのでは?
と俺は思うのだが、建物内には多くのネズミも住み、
どうもネズミが多い所から厄病が流行るとジュリアスに言われたらしい。

と言うことは、そのことは俺がジュリアスに言ったようなことなので、
注意した当の御本人が忘れているとは、本末転倒なお話しだ。

監視兵たちは、野宿の訓練は受けているので、簡単なテントを二つ、三つ作っていた。

そんなに作らなくても、と、思ったが、俺とマルラは一緒のテントらしかった。

やはりマルラが着いて来たのは良かった。

彼女は甲斐甲斐しくテキパキと夕飯作りをし、今ではシャルルも手伝っていた。

軍馬車の中には一応、10日間分の食料が積込まれていた。

雨が降ったら軍幌馬車の中で寝ようかと俺は考えていた。

いくら異世界に来て外見は大男でワイルドそうに見えても、
根がキャンプとかのアウトドアが苦手なオッサンだったから、
野宿は基本的に嫌いだった。

しかもお風呂、浴場に入れないのは、まるで俺が盗賊になった気分で嫌になる。

盗賊達も何日も風呂に入れなく身体が汚れて来て、その不快が精神をも蝕んで、
ますます粗野で凶暴になるのでは?とは、俺の持論です。

とは言え、野宿とは言えちゃんとした夕飯があるのは感謝だ。

長い間、固い軍馬車の椅子に座っていたので、お尻が痛かったから、俺は行儀が悪かろうが、
一人立って食事をした。

監視兵たちは俺が、常に周りの警戒に怠らないのでは、と、勝手にイイ意味で誤解していたが、
単純にお尻が痛いからだが。

街道の道を挟んで反対側には広大な森が広がっていた。

陽もすっかり暮れ、あたりは暗く成り始めると、火を焚いているここだけが明るく、
ある意味目立っている。

この周りに盗賊達がいたら、狙われるだろうな。

一応、監視兵が交代で寝ずの番をするらしい。ご苦労なことだ。

俺は夜飯を食べている時、暗くて深い森方向を指差したて、

「あれが噂の森か?」

と誰に聞く訳でも無く、街道の向こうに広がる森に向かって声を掛けた。

「はい、あの森が魔法の森と呼ばれている危険な森です」

「危険な森って、魔女とかなんか、いるのかい?」

「魔女がいるかどうかは迷信だとは思うのですが、
やはりこの前も移民たちを襲った盗賊達のような輩が森に隠れて住み着いていたり、
後は森の中には巨大な熊や狼の群れ等の大型獣も多く、そっちの方も危険ですね。
それに、森の奥に入ると、
方向感覚が麻痺して道に迷って出て来れなくて失踪する者も続出しましたので、
色々な理由から魔の森、魔法の森と呼ばれているんです。
ですから私達は幼い頃からあの森には近付くなと言いきかされ、
危険な森を差して魔法の森と呼んでいるのかと」

「キサナ国のお姫様も、この魔法の森で失踪したんだろう?
その辺はなにか分かるかな」

「さあ、そこまでは私は詳しく存じません。
その魔法の森で失踪したのか、それとも別な所に逃げたのか、死んだのか、
はたまた今もキサナ国の旧キサナ城の中に隠れ住んでいるのか?」

マルラの話しに監視兵もまた、似たような話しを繰り返すだけで、
所謂!ペトルが話すような説得力がありそうな情報が薄いのが見てとれた。

だいたい、失踪したキサナ国の姫の名前すらマルラや二人の監視兵は、知らないのではと思うし、
3人はキサナ国出身なのに、キサナ国のグラムデル城の正式な名前すら知らないようだ。

彼らにとっては10年前の革命のことなど興味が全く無いらしい感じだ。

だからグラムデル城のことも、旧キサナ城と言ったり、
幽霊城と言ったりして、誰も正式な名称を知らない。

そう言えば、ジュリアス・バーンスタイン侯爵も以前に、
多分、盗賊との小競り合いの中で、自分の記憶の曖昧さに混乱していたようだが、
あれと、今ここにいる3人のアバウト過ぎる記憶の欠落さに、
何か故意な力が働いているような気がちょっとだけした。

そして、そんな事が頭に過(よぎ)った瞬間、
俺が指差した方から誰かに鋭い眼力で見られているような、
まさに千里眼で俺らと言うよりも俺を見ている、見られている感じがしたので、
遠くの深い森が広がる通称「魔法の森」の方向を俺も強く見返した。


俺が見返した時には、誰かに見られていると言う殺気なのか気は煙のように無くなり、
俺は、ただ暗闇に広がる深い森を見続けていた。

その夜、俺たちのテントの周りには白い煙のような霧が忍び寄り覆っていた。

この異世界に来て、すこぶる快眠するようになった俺は、
前世ニッポンでのオヤジ深夜にションベンに起きることもなく、
朝までぐっすり眠る快感を味わって、いつもと同じに寝れる、何処でも寝れる勇者ムートが、
何故か今日の夜に限って眠れなかった。

ので、俺は俺の横で全裸の女体を淫らに絡めているマルラの腕や太腿、
脹脛を静かにどけて、テントの外に出た。

そして、その煙のような霧に包まれた状況を見たって訳だ。

見張り役の監視員が一人、軍馬車の運転台に座っていたので声を掛けようと思い、
近付いて顔を見ようとすると、身長が195cmなので、
馬車の運転台に座っている人にも若干低い位だったので、
気持ち脅かす感覚だったのだけれど、彼は熟睡していた。

その時、この煙のような霧が睡魔の原因では?
と何故かその時はピンときて、もう一人の監視兵やシャルルの眠るテントに入り、
それぞれの身体を強く揺すったのだが、なかなか二人とも起きなくて、
やはり謎の霧が原因であるのが濃厚となったが、その時、はっと気付いたのは、
日頃、寝付の良い俺が起きているって事ですね。

俺には、こんな邪悪な霊的な現象にもセンサーみたいな、何かが働くのだろうか?
ま、兎に角、テントや軍馬車周辺に纏わりつく霧を払うべく、文字通り俺は大きな身体を、
大きな掌をパーにして煙を払うように手で払い始めた。

まさに小学生低学年レベルの行為だ。

と、苦笑いしながらやっていたら、これもあ~ら不思議、霧が晴れ、
まずは見張り役の監視兵が目を覚まし、急に辺りをキョロキョロとし、
俺を見付けてバツの悪い表情をした。

俺は俺でとぼけた感じで、今、起きてションベンをしに行く処とか言ってごまかした。

どうも、夜食事時の魔法の森からの威圧的千里眼とイイ、
やや俺らに敵意のある何かが付き纏っている感じがして、
久し振りにここが異世界であることを再認識し、一人

「怖え~」

と呟いていました。

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