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戦う理由
第13話
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セルヴたちが暮らしている貸し屋に移った。晩まで中庭で稽古をした。みなさんざんにぶちのめしてきた。手加減して自信をつけてくれてもいいのに。体じゅうに痣や切り傷ができた。夜は暑苦しくて寝つけなかった。一日一日、死に近づいていく。
敵役のボーモンが肩に手を置いた。顔をのぞき込んで必死な様子で語りかけてくる。
「ヨアニスはおれより強い。だが強さとはなんだ。勝った者が勝ちだ。どんな手を使ってでも、勝てば勝ちだ。勝て。やってしまえ」
カイはうなずいた。クロードが斧槍を抱きながら含み笑いを漏らした。
「高貴な戦士が必ず婚姻を申し込んでくる。なぜならわたしは強く、美しいから」
ガモが列柱に寄りかかりながら顎をしゃくった。
「あんだけてめえの面に自信ある女、いままでいたか? 貴人ってのはやだねえ」
「おもしろい術策だ。よく考えるものだ。だが相手が悪すぎた」
ヨアニスは決闘の申し出を受け入れた。決闘には別の理由がいる。ベアの正体を明かせば皇帝は西の王に引き渡すだろう。ベアは言う。遍歴の騎士カインは〈黒き心〉を求めて聖都アルマンドを訪れ、あなたの副長を一人殺めた。大隊長は誇りをかけて決闘に挑まなければならない。陛下の御前で、〈黒き心〉をかけて。
「あいつが負けたところで渡すわけねえだろ。のらくら言い訳してよ」
「向こうがその気ならこちらも受けて立つまでだ。だが考えてみろ、カイは大隊長をさしで倒したんだぞ。どれだけ士気が下がると思う。皇帝は必ず〈黒き心〉を差し出す」
「おれも腹くくらねえとな。カイが逃げたらどうするつもりだったんだろ」
コートがうなった。
「絆があるんだ。逃げないとわかってた。なにがあっても」
みなが顔を向けてきた。カイはうなずいた。
「ベアに、愛を教えてあげたいんです。あなたを命懸けで守る男もいるんだ、と」
リュシアンが微笑んだ。
「まことの騎士です」
「逃げたらみなさんといられない、とも思ったんです。ぼくは勇敢ですか。一人前ですか」
セルヴが答えた。
「まだまだだ。だがあっさり主人を引き渡すようなやつを鍛えた覚えはない。弱いやつってのはな、なにをどうやっても弱いままなんだ。わかるな」
ケッサがにこにこしながら付け加えた。
「もともと強かったんだよ。ご飯たくさん食べて大きくなった。もっと大きくなれる」
カイは泣いた。みながうんざりした声を上げる。湿っぽいのはよしてくれ。
敵役のボーモンが肩に手を置いた。顔をのぞき込んで必死な様子で語りかけてくる。
「ヨアニスはおれより強い。だが強さとはなんだ。勝った者が勝ちだ。どんな手を使ってでも、勝てば勝ちだ。勝て。やってしまえ」
カイはうなずいた。クロードが斧槍を抱きながら含み笑いを漏らした。
「高貴な戦士が必ず婚姻を申し込んでくる。なぜならわたしは強く、美しいから」
ガモが列柱に寄りかかりながら顎をしゃくった。
「あんだけてめえの面に自信ある女、いままでいたか? 貴人ってのはやだねえ」
「おもしろい術策だ。よく考えるものだ。だが相手が悪すぎた」
ヨアニスは決闘の申し出を受け入れた。決闘には別の理由がいる。ベアの正体を明かせば皇帝は西の王に引き渡すだろう。ベアは言う。遍歴の騎士カインは〈黒き心〉を求めて聖都アルマンドを訪れ、あなたの副長を一人殺めた。大隊長は誇りをかけて決闘に挑まなければならない。陛下の御前で、〈黒き心〉をかけて。
「あいつが負けたところで渡すわけねえだろ。のらくら言い訳してよ」
「向こうがその気ならこちらも受けて立つまでだ。だが考えてみろ、カイは大隊長をさしで倒したんだぞ。どれだけ士気が下がると思う。皇帝は必ず〈黒き心〉を差し出す」
「おれも腹くくらねえとな。カイが逃げたらどうするつもりだったんだろ」
コートがうなった。
「絆があるんだ。逃げないとわかってた。なにがあっても」
みなが顔を向けてきた。カイはうなずいた。
「ベアに、愛を教えてあげたいんです。あなたを命懸けで守る男もいるんだ、と」
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「まことの騎士です」
「逃げたらみなさんといられない、とも思ったんです。ぼくは勇敢ですか。一人前ですか」
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「まだまだだ。だがあっさり主人を引き渡すようなやつを鍛えた覚えはない。弱いやつってのはな、なにをどうやっても弱いままなんだ。わかるな」
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