頭が球の男

コーヒー好きの山猫

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頭が球の男

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あるところに、頭が球の男がいた。どこから見ても、球。
頭が球の男は、カフェでコーヒーを飲むのが好きだった。
しかし、カフェでお茶をしている間、男がコーヒーがおいしいのかどうか
わからない。なぜなら、男の顔は、存在しないからである。男の顔は、
ボールペンの先のように銀色に光り、つるっとしている。

男は休日、赤いジャケットをはおったまま、犬の散歩をする。
犬の名前はまる。まるっこい、人懐っこい感じの秋田犬である。
まるには、日本犬の漂わせる、ノスタルジックな雰囲気がある。
秋田犬のまるは、ご主人のことが大好きである。
ご主人の銀色に輝いている頭を、べろべろなめる。
そんなときの男は、きっとこそばゆいことだろう。

夕暮れ時、遠くから、豆腐屋の吹く、間の抜けた感じの、
調子のはずれたラッパの音が聞こえてくる。なんとも物悲しい風情だった。
野良犬が、とことこと道を歩いていく。秋の風が、ジャケットの中まで
さむさをはこぶ。銀色の球の頭の男は、足早に近くのカフェまで、
急ぐのだった。

その日の夜、男は、四角い箱を開く夢を見ていた。
箱の中には、赤い球が入っていた。その赤い球をじっと見ていると、
ぶるぶると震えだし、そのうちに、けたけたと、笑い出すのであった。
男は、むくりと二時過ぎに目をさまし、また夢の中にもどり、
再び目を醒ますと、もう明け方だった。
犬のまるは、心配そうに、飼い主の顔を覗き込んだ。
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