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「おはようございまーす!穂香さん、今夜お店を閉めたら王城へ行きましょう!」
「え、どうして?」
「青王様の気持ちを聞きに行くに決まってるじゃないですか!」
「ちょっ...ちょっと待って。とりあえず一回落ち着こう」
瑠璃は、不満というか不安というか、なんともいえない顔をしている。
瑠璃なりに思うところがあるのだろうけど、焦っても仕方ないし、私だってなにも考えていないわけではないのだ。
「私もね、自分の気持ちはどうなのか、青王様のことをどう思っているのか、いろいろ考えているところなの。瑠璃ちゃんの気持ちもわかるわ。でも、もう少し待っていてくれる?」
瑠璃は少し悲しそうな顔をしつつ「はい、すみませんでした...」と、いつも通りお菓子を作り始めた。
私も、ケーキ用のチョコレートを瑠璃に渡し、ボンボンショコラを作り、開店準備を進めた。
今日もたくさんのお客様に声をかけていただいた。「昨日みたいなかわいいケーキ、また作って」「次はどんなスペシャルデーか、楽しみにしてるわね」お客様に喜んでいただけると、やっぱりうれしい。
「明日はお休みだから、片付けが終わったら今日はもう王城に戻って休んでね」
「はい。お疲れ様でした」
瑠璃は仕事のあと王城に戻ると、ほとんど部屋から出ないと言っていた。なので、私は瑠璃が戻ったのを確認してから、こっそり青王様に会いに行くことにした。
「あれ?穂香、どうした?なにかあったのかい?」
「いえ、あの、少しお願いがありまして...」
「ん?なんだろう」
「明日お休みなのでちょっとお出かけしようと思っているんですけど、よかったら一緒に行っていただけませんか?」
青王様は驚いた顔で耳を真っ赤にしている。
「穂香に誘ってもらえるなんてうれしいよ。それで、どこへ行くんだい?」
「朝九時頃に出発して、初めに伏見稲荷を参拝して、それから宇治まで行きたいんです。やりたいことと、あとちょっとお買い物したくて」
「そうか、それでは九時前に迎えに行くよ」
「ありがとうございます。あっ、瑠璃ちゃんには絶対に内緒にしてください」
青王様は「わかった。誘ってくれてありがとう」と、私の頬に手をあてる。
顔が熱くなっていく。どうしよう、ドキドキする。恥ずかしくてうつむいていると、青王様は手を離し、そしてそっと頭をなでた。
顔を上げられないでいる私に「すまない。穂香の気持ちをもっとしっかり考えるべきだった」と頭を下げる青王様。
「いえ、大丈夫です。なんだかちょっと恥ずかしくなっちゃって...」
「...そうか。では明日のためにそろそろ休んだほうがいい」
「そうします。おやすみなさい」
「ああ、おやすみ」
部屋に戻ってもまだドキドキしている。
青王太子様は空良の頬に手をあて、そのままそっと口づけをするのが「おやすみ」の挨拶だったから。その時の光景が頭に浮かび、どうしようかと焦ってしまった。青王様が、今の私にそんなことをするはずがないのに...
ほとんど眠れないまま朝を迎えてしまった。シャワーを浴びて気持ちを落ち着かせ、朝ご飯には具だくさんのお味噌汁を食べた。
宇治では少しのんびりとお散歩をしたいから、紅茶が入った水筒と、キャラメル味やいちご味のガナッシュを入れた球体のチョコレートにスティックを刺したロリポップをバッグに入れた。
それから、この前デパートでたまたま見つけた青王様の髪の色と同じ水色のワンピースを着て、ストラップ付きローヒールの黒いパンプスを履いたところに青王様がやってきた。
「おはよう、穂香」
「おはようございます」
青王様は、髪の色より少し濃い水色のボタンダウンシャツに細身の黒いデニム、黒のハイカットスニーカーを合わせている。
普段の着物姿も素敵だけど、スラッとした長い手足に、モデルのような体型がよくわかるピッタリとした服を着こなし、今日は一段とかっこよく見える。しかもこれってリンクコーデって言うのかな。どうしよう、またドキドキしてきた...
「穂香、具合でも悪いのかい?」
「え...あっ!いえ、大丈夫です」
「では行こうか。途中で具合が悪くなったらすぐに言うんだよ」
「わかりました」
伏見稲荷まで歩き、本殿でお参りをする。本当は山頂まで行きたいけれど、今日は別の目的があるからまた次の機会にゆっくり登ろうと思う。
「宇治までは、JR奈良線で二十分かからないのですぐに着きますよ」
「宇治でもどこかの神社に参拝するかい?」
「はい。宇治神社と宇治上神社に行こうと思っています」
「わかった。では行こうか」
稲荷駅は伏見稲荷の目の前だ。そんなに大きくない駅だけれど観光のお客さんがたくさんいて、様々な国の人たちで賑わっている。
ホームに着くとちょうど電車が入ってきた。満員の車内からはたくさんの人が一斉に降りてきて、ここから乗車した私たちはゆったりと座ることができた。
斜め向かいに座っている若い女性四人組が「あの人かっこよくない?」「声かけてみない?」「一緒に写真撮ってくれるかな?」と、キャーキャー騒ぐ声が聞こえる。きっと私のことは視界に入っていないのだろう。なんとなく心がモヤモヤして居心地が悪い。すると青王様が、
「穂香、今だけ君に触れていてもいいだろうか」
「え?」
「あまりいい気分ではないのだろう?」
青王様は私の気持ちを察し声をかけてくれたようだ。小さくうなずくと、私の肩に手を回しグッと自分のほうへ引き寄せ頭をなでてくれる。やさしくて、心地よくて、こんな時間がずっと続けばいいと思ってしまった。でもこれはきっと空良の気持ちだ。今の私は青王様に対する自分の気持ちがまだよくわからないから...
睡眠不足と電車の揺れ、それに青王様の腕の中という安心感から、ついウトウトしてしまったらしい。「穂香、もう着くよ」という声で目を覚ますと、電車は宇治駅に到着するところだった。
「あっ、すみません、私...」
「かまわないよ。夕べはあまり眠れていないのだろう。朝から少し目が赤い」
「えっ、あ...それは...」
「まぁ穂香が大丈夫なら行こうか。でもあまり無理はせず、途中で休憩をしながらのんびり歩こう」
私は電車を降りるとまずホームのベンチへ向かい「ここで少しお茶を飲んで行きましょう」と腰を下ろした。隣に座った青王様に水筒とロリポップを渡すと「チョコレートまで持ってきてくれたのか。ありがとう」と笑顔を見せた。
「ん?これはいつもと少し違うね」
「そうなんです。今日は歩いて疲れると思ったので、ガナッシュはいつもより甘めにしました。でも甘くなりすぎないように、まわりのチョコはハイカカオのビターチョコにしたんです。でもやっぱりいつものほうがよかったですか?」
「いや、いつものもこれも、どちらも好きだよ。それに手で直接持たずに食べられるのもいいね」
「よかった。まだあるので、またどこかで休憩したときに食べましょう」
「そうだね」と、私の頭をそっとなでた。
ゆっくりお散歩をしながら宇治神社に着くと、まずは授与所へ『うさぎ絵馬』をいただきに行った。
「この絵馬にお願い事を書いてからお参りをしましょう」
「願い事か...穂香には内緒にしてもいいかな?」
「え~、内緒ですかぁ...ふふ、いいですよ。気になるけど、嫌なら無理に見たりしませんから」
「よかった。ありがとう」
お願い事を書き終えお参りをしたあと、青王様にここでの一番の目的を説明した。
「うさぎさん巡りと言って、この絵馬を持って本殿を時計回りに三周するあいだに三つのうさぎの置物を見つけられると、ここに書いた願い事以上のご利益を授かれるんです」
「それならわたしも、この願い事を叶えてほしいから真剣に探すよ」
「妖力を使って見つけたらだめですよ」
「絶対に叶えて欲しいからね。そんなずるいことはしないよ」
「ごめんなさい。青王様はそんなことしないって、ちゃんとわかってますよ。では行きましょうか」
それから私たちは本気で探し始めた。
二周して二つのうさぎを発見した。でも、どうしても最後の一つが見つからない。ちょっと焦る気持ちもあるけど、あと一周してこの場所に戻ってくるまでにもう一つ見つければいいのだ。必ず見つけられると信じ一歩踏み出した。
蟻一匹も見逃さないぐらいの気持ちで、あっちこっちのぞき込んだりしながらゆっくり見て歩き、それでもどうしても見つからなくて諦めかけたとき「あ、あった...!」やっと見つけた最後の一つ。なんだかホッとして力が抜けていくのがわかる。体全体が緊張していたみたいだ。
「穂香、全部見つけられたみたいだね。わたしもやっと見つけたよ。さぁ、絵馬を掛けに行こうか」
私は笑顔でうなずき、お互いのお願い事が見えないように絵馬掛けに絵馬を結びつけた。
青王様はどんなお願い事を書いたんだろう。私のお願い事も叶うといいな。
続けて宇治上神社にもお参りをして、近くのお茶屋さんで休憩をしたあと、もう一つの目的だったお買い物に行くことにした。
「え、どうして?」
「青王様の気持ちを聞きに行くに決まってるじゃないですか!」
「ちょっ...ちょっと待って。とりあえず一回落ち着こう」
瑠璃は、不満というか不安というか、なんともいえない顔をしている。
瑠璃なりに思うところがあるのだろうけど、焦っても仕方ないし、私だってなにも考えていないわけではないのだ。
「私もね、自分の気持ちはどうなのか、青王様のことをどう思っているのか、いろいろ考えているところなの。瑠璃ちゃんの気持ちもわかるわ。でも、もう少し待っていてくれる?」
瑠璃は少し悲しそうな顔をしつつ「はい、すみませんでした...」と、いつも通りお菓子を作り始めた。
私も、ケーキ用のチョコレートを瑠璃に渡し、ボンボンショコラを作り、開店準備を進めた。
今日もたくさんのお客様に声をかけていただいた。「昨日みたいなかわいいケーキ、また作って」「次はどんなスペシャルデーか、楽しみにしてるわね」お客様に喜んでいただけると、やっぱりうれしい。
「明日はお休みだから、片付けが終わったら今日はもう王城に戻って休んでね」
「はい。お疲れ様でした」
瑠璃は仕事のあと王城に戻ると、ほとんど部屋から出ないと言っていた。なので、私は瑠璃が戻ったのを確認してから、こっそり青王様に会いに行くことにした。
「あれ?穂香、どうした?なにかあったのかい?」
「いえ、あの、少しお願いがありまして...」
「ん?なんだろう」
「明日お休みなのでちょっとお出かけしようと思っているんですけど、よかったら一緒に行っていただけませんか?」
青王様は驚いた顔で耳を真っ赤にしている。
「穂香に誘ってもらえるなんてうれしいよ。それで、どこへ行くんだい?」
「朝九時頃に出発して、初めに伏見稲荷を参拝して、それから宇治まで行きたいんです。やりたいことと、あとちょっとお買い物したくて」
「そうか、それでは九時前に迎えに行くよ」
「ありがとうございます。あっ、瑠璃ちゃんには絶対に内緒にしてください」
青王様は「わかった。誘ってくれてありがとう」と、私の頬に手をあてる。
顔が熱くなっていく。どうしよう、ドキドキする。恥ずかしくてうつむいていると、青王様は手を離し、そしてそっと頭をなでた。
顔を上げられないでいる私に「すまない。穂香の気持ちをもっとしっかり考えるべきだった」と頭を下げる青王様。
「いえ、大丈夫です。なんだかちょっと恥ずかしくなっちゃって...」
「...そうか。では明日のためにそろそろ休んだほうがいい」
「そうします。おやすみなさい」
「ああ、おやすみ」
部屋に戻ってもまだドキドキしている。
青王太子様は空良の頬に手をあて、そのままそっと口づけをするのが「おやすみ」の挨拶だったから。その時の光景が頭に浮かび、どうしようかと焦ってしまった。青王様が、今の私にそんなことをするはずがないのに...
ほとんど眠れないまま朝を迎えてしまった。シャワーを浴びて気持ちを落ち着かせ、朝ご飯には具だくさんのお味噌汁を食べた。
宇治では少しのんびりとお散歩をしたいから、紅茶が入った水筒と、キャラメル味やいちご味のガナッシュを入れた球体のチョコレートにスティックを刺したロリポップをバッグに入れた。
それから、この前デパートでたまたま見つけた青王様の髪の色と同じ水色のワンピースを着て、ストラップ付きローヒールの黒いパンプスを履いたところに青王様がやってきた。
「おはよう、穂香」
「おはようございます」
青王様は、髪の色より少し濃い水色のボタンダウンシャツに細身の黒いデニム、黒のハイカットスニーカーを合わせている。
普段の着物姿も素敵だけど、スラッとした長い手足に、モデルのような体型がよくわかるピッタリとした服を着こなし、今日は一段とかっこよく見える。しかもこれってリンクコーデって言うのかな。どうしよう、またドキドキしてきた...
「穂香、具合でも悪いのかい?」
「え...あっ!いえ、大丈夫です」
「では行こうか。途中で具合が悪くなったらすぐに言うんだよ」
「わかりました」
伏見稲荷まで歩き、本殿でお参りをする。本当は山頂まで行きたいけれど、今日は別の目的があるからまた次の機会にゆっくり登ろうと思う。
「宇治までは、JR奈良線で二十分かからないのですぐに着きますよ」
「宇治でもどこかの神社に参拝するかい?」
「はい。宇治神社と宇治上神社に行こうと思っています」
「わかった。では行こうか」
稲荷駅は伏見稲荷の目の前だ。そんなに大きくない駅だけれど観光のお客さんがたくさんいて、様々な国の人たちで賑わっている。
ホームに着くとちょうど電車が入ってきた。満員の車内からはたくさんの人が一斉に降りてきて、ここから乗車した私たちはゆったりと座ることができた。
斜め向かいに座っている若い女性四人組が「あの人かっこよくない?」「声かけてみない?」「一緒に写真撮ってくれるかな?」と、キャーキャー騒ぐ声が聞こえる。きっと私のことは視界に入っていないのだろう。なんとなく心がモヤモヤして居心地が悪い。すると青王様が、
「穂香、今だけ君に触れていてもいいだろうか」
「え?」
「あまりいい気分ではないのだろう?」
青王様は私の気持ちを察し声をかけてくれたようだ。小さくうなずくと、私の肩に手を回しグッと自分のほうへ引き寄せ頭をなでてくれる。やさしくて、心地よくて、こんな時間がずっと続けばいいと思ってしまった。でもこれはきっと空良の気持ちだ。今の私は青王様に対する自分の気持ちがまだよくわからないから...
睡眠不足と電車の揺れ、それに青王様の腕の中という安心感から、ついウトウトしてしまったらしい。「穂香、もう着くよ」という声で目を覚ますと、電車は宇治駅に到着するところだった。
「あっ、すみません、私...」
「かまわないよ。夕べはあまり眠れていないのだろう。朝から少し目が赤い」
「えっ、あ...それは...」
「まぁ穂香が大丈夫なら行こうか。でもあまり無理はせず、途中で休憩をしながらのんびり歩こう」
私は電車を降りるとまずホームのベンチへ向かい「ここで少しお茶を飲んで行きましょう」と腰を下ろした。隣に座った青王様に水筒とロリポップを渡すと「チョコレートまで持ってきてくれたのか。ありがとう」と笑顔を見せた。
「ん?これはいつもと少し違うね」
「そうなんです。今日は歩いて疲れると思ったので、ガナッシュはいつもより甘めにしました。でも甘くなりすぎないように、まわりのチョコはハイカカオのビターチョコにしたんです。でもやっぱりいつものほうがよかったですか?」
「いや、いつものもこれも、どちらも好きだよ。それに手で直接持たずに食べられるのもいいね」
「よかった。まだあるので、またどこかで休憩したときに食べましょう」
「そうだね」と、私の頭をそっとなでた。
ゆっくりお散歩をしながら宇治神社に着くと、まずは授与所へ『うさぎ絵馬』をいただきに行った。
「この絵馬にお願い事を書いてからお参りをしましょう」
「願い事か...穂香には内緒にしてもいいかな?」
「え~、内緒ですかぁ...ふふ、いいですよ。気になるけど、嫌なら無理に見たりしませんから」
「よかった。ありがとう」
お願い事を書き終えお参りをしたあと、青王様にここでの一番の目的を説明した。
「うさぎさん巡りと言って、この絵馬を持って本殿を時計回りに三周するあいだに三つのうさぎの置物を見つけられると、ここに書いた願い事以上のご利益を授かれるんです」
「それならわたしも、この願い事を叶えてほしいから真剣に探すよ」
「妖力を使って見つけたらだめですよ」
「絶対に叶えて欲しいからね。そんなずるいことはしないよ」
「ごめんなさい。青王様はそんなことしないって、ちゃんとわかってますよ。では行きましょうか」
それから私たちは本気で探し始めた。
二周して二つのうさぎを発見した。でも、どうしても最後の一つが見つからない。ちょっと焦る気持ちもあるけど、あと一周してこの場所に戻ってくるまでにもう一つ見つければいいのだ。必ず見つけられると信じ一歩踏み出した。
蟻一匹も見逃さないぐらいの気持ちで、あっちこっちのぞき込んだりしながらゆっくり見て歩き、それでもどうしても見つからなくて諦めかけたとき「あ、あった...!」やっと見つけた最後の一つ。なんだかホッとして力が抜けていくのがわかる。体全体が緊張していたみたいだ。
「穂香、全部見つけられたみたいだね。わたしもやっと見つけたよ。さぁ、絵馬を掛けに行こうか」
私は笑顔でうなずき、お互いのお願い事が見えないように絵馬掛けに絵馬を結びつけた。
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