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中編
意外なことに、警察もイチ先輩の家族も、誰もあれきり私には話を聞いてこなかった。
私とイチ先輩が関係ないと思われているようで嫌だったけど、そのおかげで、バイトを頑張った私は半年も経たないうちに家を引っ越し、新しくイチ先輩用の業務用冷凍庫を買うことができた。
気を付けてはいたつもりだったけど、家庭用の冷凍庫の中にずっと入れていたせいか、新しいショーケースに移したイチ先輩は少し冷凍焼けが起こってしまっていた。
本当はイチ先輩を一度溶かして真っ直ぐにしてあげたかったのだけれど、もっと悪くなってしまう気がしたから、イチ先輩はまだぎゅっと丸まった体勢のままだ。
せっかく大きい冷凍庫を買ったのだが、だからぽっかりと庫内には半分ほどの隙間が空いてしまっている。
仕方ないと思う。
最初からそういうことに気づける人間だったら、きっとイチ先輩は私に笑顔を向けてくれたのだろうから。
でも、いつでも先輩の顔を見られるようになったのはとても良かった。
頑張った甲斐があるというものだ。
ガラス越しに見る先輩の表情はいつ見ても変わらないはず、なのだが、でも私が悲しいときはそれに寄り添ってくれるように悲しげな顔になるし、嬉しいときは微笑んでくれているように見える。
とても不思議だ。
私の心が、口になんてしなくてもイチ先輩と繋がっているような気がする。
触れなくても、言葉を交わせなくても、それだけで十分だった。
このまま先輩と穏やかで幸せな毎日が続くのだと、私はすっかりそう信じきっていた。
「ただいまイチせんぱ……あれ?」
その日、お盆の帰省から帰った私は、玄関で廊下の電気のスイッチを押して首を傾げた。
もう一度押す。やはり電気がつかない。
電球が切れてしまったのだろうか。まあ買い直すのは明日でもいいか、と思いつつ室内に入り、リビングの電気のスイッチを押す。
こちらもつかない。
「……あ、れ?」
ざあっ、と、目の前から色がなくなった。
決定的な証拠を確かめるのが怖くて、手近にあったトイレの電気や給湯のスイッチを押す。やはり変化がない。
「嘘っ……!」
見上げた配電盤では、ブレーカーが落ちていた。
汗でベタベタになった手で玄関から傘を持ってきて、祈るような気持ちでブレーカーのつまみを押し上げる。
ぶぅん……と、小さく。
冷凍庫が稼働を始める音がした。
「やだ……いつから……」
家を出たのは3日前。
扉は開けていない。開けていないけれど、真夏の、しかも冷房も何もない部屋だ。
タイミングによっては――
「い、いや、もしかして、ついさっき、とかかもしれないし……」
必死に自分に言い聞かせながら、震える脚で部屋の中央にある冷凍ショーケースに近づく。
意を決して中を覗くと、そこではイチ先輩が完全に溶けてしまっていた。
だらりと手足がほどけ、その下にどろりとした血まじりの汁が広がっている。
「い、イチ先輩……」
震える手で蓋を開けると、中の空気は全く室温と変わらなかった。
むっとする、少し腐りかけた肉特有のきつい匂いが鼻を刺す。
「……どうしよう……」
私とイチ先輩が関係ないと思われているようで嫌だったけど、そのおかげで、バイトを頑張った私は半年も経たないうちに家を引っ越し、新しくイチ先輩用の業務用冷凍庫を買うことができた。
気を付けてはいたつもりだったけど、家庭用の冷凍庫の中にずっと入れていたせいか、新しいショーケースに移したイチ先輩は少し冷凍焼けが起こってしまっていた。
本当はイチ先輩を一度溶かして真っ直ぐにしてあげたかったのだけれど、もっと悪くなってしまう気がしたから、イチ先輩はまだぎゅっと丸まった体勢のままだ。
せっかく大きい冷凍庫を買ったのだが、だからぽっかりと庫内には半分ほどの隙間が空いてしまっている。
仕方ないと思う。
最初からそういうことに気づける人間だったら、きっとイチ先輩は私に笑顔を向けてくれたのだろうから。
でも、いつでも先輩の顔を見られるようになったのはとても良かった。
頑張った甲斐があるというものだ。
ガラス越しに見る先輩の表情はいつ見ても変わらないはず、なのだが、でも私が悲しいときはそれに寄り添ってくれるように悲しげな顔になるし、嬉しいときは微笑んでくれているように見える。
とても不思議だ。
私の心が、口になんてしなくてもイチ先輩と繋がっているような気がする。
触れなくても、言葉を交わせなくても、それだけで十分だった。
このまま先輩と穏やかで幸せな毎日が続くのだと、私はすっかりそう信じきっていた。
「ただいまイチせんぱ……あれ?」
その日、お盆の帰省から帰った私は、玄関で廊下の電気のスイッチを押して首を傾げた。
もう一度押す。やはり電気がつかない。
電球が切れてしまったのだろうか。まあ買い直すのは明日でもいいか、と思いつつ室内に入り、リビングの電気のスイッチを押す。
こちらもつかない。
「……あ、れ?」
ざあっ、と、目の前から色がなくなった。
決定的な証拠を確かめるのが怖くて、手近にあったトイレの電気や給湯のスイッチを押す。やはり変化がない。
「嘘っ……!」
見上げた配電盤では、ブレーカーが落ちていた。
汗でベタベタになった手で玄関から傘を持ってきて、祈るような気持ちでブレーカーのつまみを押し上げる。
ぶぅん……と、小さく。
冷凍庫が稼働を始める音がした。
「やだ……いつから……」
家を出たのは3日前。
扉は開けていない。開けていないけれど、真夏の、しかも冷房も何もない部屋だ。
タイミングによっては――
「い、いや、もしかして、ついさっき、とかかもしれないし……」
必死に自分に言い聞かせながら、震える脚で部屋の中央にある冷凍ショーケースに近づく。
意を決して中を覗くと、そこではイチ先輩が完全に溶けてしまっていた。
だらりと手足がほどけ、その下にどろりとした血まじりの汁が広がっている。
「い、イチ先輩……」
震える手で蓋を開けると、中の空気は全く室温と変わらなかった。
むっとする、少し腐りかけた肉特有のきつい匂いが鼻を刺す。
「……どうしよう……」
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