お願い先輩、死なないで ‐こじらせリーマン、転生したらアルファになった後輩に愛される‐

二ッ木ヨウカ

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有象無象の塵芥共が汚い口を開かないでもらえますかでも先輩の方に行っても嫌ですし情報収集くらいしてやりまあっ先輩終わったんですねご飯行きましょ

「火花草の根っこに、ドワーフラビットの角、シロガシ鳥の尾羽……確認しました! 合わせて千八百Gのお支払いですね」

 猫耳のギルド受付――ユリーという名前らしい――が納品物を確認し、岸尾が出した依頼票に完了の判を押す。報酬を受け取って財布代わりの巾着に入れた岸尾は、振り向いた瞬間軽い立ち眩みを感じた。

「どうされました?」
「あ、いえ……」

 幸いにして、世界が回るような感覚と軽い吐き気は数秒で治まり、ユリーに頭を下げた岸尾はカウンターを離れた。

(ちょっと疲れが溜まってる、のかな……?)

 冒険者、と言えば格好いいが働き方としては業務請負や日雇い労働者に近いので、動けなくなったら収入もなくなってしまう。病気や昼間ウサギに蹴られた後遺症では、と一瞬考え、それは心配しすぎか、と頭を振る。
 さて佐久間は、と探すと、待合スペースの隅で他の冒険者グループと話しているのが見えた。使い込まれた様子のプレートアーマーや盾、剣から熟練のパーティーであることが伺える。

(……まただ)

 最近の佐久間は、他パーティーから勧誘を受けることがよくある。まだ数か月のルーキーなのに、と思うが、剣の練習で修練所に通っているうちに有名になったらしい。
 オメガになってしまったせいか剣を振る力すらなく、見るからにどんくさい岸尾の方にはそんな引き抜きのお誘いは来ない。一緒にこの世界に来たはずなのに早くも差がついているな、と佐久間の背中を見ながら考える。

(これが「アルファ」とやらとの能力差……いや、違うか)

 佐久間はこの世界に来る前からそうだった。入社したときは「創業以来最もやべえ新人が入ってきた」と悪い意味で噂になっていたはずなのに、いつの間にか教育係だった岸尾を抜かしてエースである。それは元々の能力だけではなく、佐久間がそれだけの努力をしていたからだ。

(でも、俺だって、頑張り……はしてると思うんだけど、な)

 薬草の鑑別を覚えたり、モンスターの習性や弱点を調べておいたり。岸尾なりに色々やってはいるつもりなのだが、あまり役立ったことはない。心がささくれ立ってくるのを感じながら少し離れたところで待っていると、振り向いた佐久間と目が合った。

「あ、それじゃ」
「ちょっと待っ……」

 明らかに一方的に話を終えた佐久間が小走りに近寄ってくる。ぐい、と手を掴まれてそのままギルドの外に岸尾は引っ張り出された。固くしっかりした佐久間の指先は、この世界に来てからの剣の修練で培われたものだ。

「先輩、今日の夕飯何にします? この前行った『ウミボウズの店』もよかったですけど、『有翼亭』も気になりますよね」

 手を繋ぎながら、どっちにします、と岸尾の顔を見下ろす佐久間を、街灯代わりの光魔法が照らしている。先ほどのことは完全になかったことにされているようで、岸尾は自分だけ蚊帳の外に置かれたような気がした。

「……さっきの断ってたみたいだけど、良かったのか?」
「別に。興味ないんで」
「いや、でも……俺と一緒にいるよりほかのパーティーに入ったほうが稼げるだろ。経験も積めるだろうし」

 佐久間が夜に街の外に出たり、遠出をしたりしないのは自分が理由だ、と岸尾だって気づいている。要は足手まといなのである。彼だけなら、もっと活躍できるはずだ。

「は?」

 佐久間の返答は、剣呑な響きをしていた。細められた双眸の鋭さに恐怖を感じて後退ろうとするが、握られた手がそれを許さない。

「先輩は、僕と組むのが嫌なんですか?」
「そ、そんなことは言ってないだろ」
「じゃあいいじゃないですか。大体先輩一人になったらどうするつもりなんですか」
「どうって、別に……」

 街の近くでできる採取案件や、どこかの店の手伝いでもしながら細々と暮らしていくだけである。
 そうですか、と不満げに低く吐き捨てた佐久間は、強く佐久間の手を握りしめた。苛立ちを隠そうとしない様子に「痛い」とも「放してくれ」とも言えず、引っ張られるように岸尾は通りを歩いた。

「今日は買って帰りましょう。いいですね?」
「うん……」

 威圧されて頷く。近くの店でひき肉と野菜のおやきを購入した佐久間の後に悄然と続き、岸尾は裏通りに入った。ずっと宿屋暮らしだと費用がかさむので、小さいが部屋を借りたのだ。

(そういうつもりではなかったんだけど……伝え方って難しいな)

感想 3

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