いつか私もこの世を去るから

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友人

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夏休みに入ってすぐに、中学校の「クリーンデー」があった。

学校の近くの川のゴミ拾いをする日だ。
私はクラスメイトや末永蒼に会いたくなくて、国子さんに行きたくないと言ったが、認めてもらえなかった。

「出席日数にも入らないし、休んでいいでしょ?」

「川の清掃は大事だ。
勉強より大事だぞ。川のゴミ拾いをして、徳を積んでおくと、いざって時に神様が味方してくれるんだ。」

「じゃぁ、別に今日じゃなくてもいいよね!
違う日に、個人的にゴミ拾いして徳積むから!」

私が両手を合わせてお願いする。

「何でちょっと悪口言われたくらいで、うじうじするかね。
気にしないでじっとしてればいい!」

「じゃぁ、国子さんは悪口言われても気にしないの?この辺で変な呪いをかける黒魔術師って言われてるけど!」

「黒魔術師って何だ?
そんなん気にしない。悪口なんて動かないで大人しくしてたら、そのうち勝手に収まっとるもんだ。」

全然駄目だ。取り合ってもらえない。
私は仕方なく、クリーンデーに参加する事になった。

クリーンデーの当日はカンカン照りの暑い日だった。

清掃場所の川へ行くと、同じ中学校の生徒が大勢いた。

夏休み中と言う事もあり、何故かみんなテンションが高かった。

みんな、ゴミを拾っているのか遊んでいるのか、もはやわからない。

楽しそうなみんなを横目に、友達のいない私は黙々と1人でゴミ拾いをする。

末永蒼もクラスの女子ときゃっきゃっと言いながら遊んでいた。

私はなるべく見つからないように、みんなから離れた橋の下辺りでゴミを拾う。

「よお!泣き虫!」

急に声をかけられて顔を上げると、荒木光だった。
そう言えば同じ中学って言ってたっけ。

「この間はありがとう。」
一応私はお礼を言う。

「本当に大変だったぜ。ずっとびーびー泣きやがって。」

なんか本当に腹が立つんだよな。
口が悪い。

「お前こんな所で何やってんだよ。」

「何ってゴミ拾いに決まってんじゃん。今日はクリーンデーなんだから。」

私がそう言うと、荒木光はにやにやして
「何だお前、友達いないのか。」
と言ってくる。

図星だが、こいつに言われると腹がたつ。
「本当にうるさいな!別に友達とかいらないからいいの!」

「強がっちゃって。一人で寂しいんだろう?
みんな楽しそうに遊んでるのに、自分だけ仲間に入れなくて。」

私が何も言えなくて黙っていると、
「仕方ないな~俺が友達になってやろうか?」
と言ってくる。

「なんで私があんたなんかと友達にならなきゃなんないのよ!」
思わず私が叫ぶ。

「俺こう見えて、いじめられてるやつとか放っておけないタイプなんだよね。」
何いってるんだろう。
別にいじめられてないし。多分。

「糸だっけ?こんな橋の下の暗い所でうじうじしてないで、釣りいこうぜ!」

「今、ゴミ拾い中、クリーンデーだってば!」
「真面目かよ!何が楽しくてゴミ拾いなんかしなくちゃいけないんだよ!」

いや、国子さんに口酸っぱくゴミ拾いは大事って言われてきたんだけど、、、。

「早くこい!絶対ゴミ拾いより楽しいから!」
そう言って釣り竿を持って歩いていく。
始めから、釣りをする為にきていたようだった。

私は行かないつもりだったが、末永蒼らが、楽しそうに遊んでいるのを見て、
『もうこんな所いたくない。』と思って、荒木光についていった。

荒木光はどんどん早足で歩いていく。
「ちょっと待ってよ~。どこまで行くのよ!」
私は走ってついていく。

「上流に良い釣りスポットがあるんだよ。びっくりするぜ!」
そう言って更に早足でかけていく。

どんどん上流の森の中へ入って行く。
虫がぶんぶん飛んでいたり、蜘蛛の巣が張ってあって私は悲鳴をあげる。

「うるせーな!虫くらいで、これだから都会育ちは!」
と悪口を言ってくる。

歩きながら、そこには穴が開いてるとか、そこには漆の木が生えてるとか、
危ない所は全て知っているようだった。

「なんでそんな詳しいの?」
私が聞くと
「小さい頃からずっとこの辺で遊んでるからな、庭みたいなもんだ。」
と言っている。

東京育ちの私からしたら信じられなかった。
子供だけでこんな森や川に入る事なんて絶対になかった。

慣れない山道で私がヘロヘロになっていると、荒木光が私の方を振り返って言った。
「おい!もうつくぞ!」

その言葉通り、山を下った所の、少し開けた川の淵のような場所にたどりついた。

小さな滝みたいなものがあり、物凄く綺麗な場所だった。

「わあー凄い!」

私が思わず歓声をあげると、荒木光は何故か自慢げに
「な!いい場所だろ?」
と得意げに言ってくる。

木の緑が川に反射してキラキラしている。
驚くのは、水の綺麗さだ。

今まで見たことないくらい透明で透き通っていた。
肉眼でも、魚がいるのが見える。

「みてみて!魚がいるよ!」

思わず私がはしゃいでいると
「当たり前だろ?川なんだから。」と言ってじゃぶじゃぶ川に入っていく。

私も川に入ると、思っていたより水が冷たい。
けど、今日はかんかん照りで気温も高かったので、この冷たさが気持ち良かった。



「違うって!なんでそんなぐいぐい動かすんだよ!」
荒木光が釣りを教えてくれるからと言って、私に竿を渡してくれたが、中々釣れないし、
隣でうるさいから私はだんだん嫌になってきた。

「あのさ~初めてなんだから、そんな上手に出来るわけないでしょ?」

「初めてでも普通わかるだろ?そんな事したら魚逃げるだろ!」

呆れて私から釣り竿を取り上げる。
私はムカついて近くの川の石に腰かける。
今日はハーフパンツにTシャツという恰好だが、もうビショビショだった。

私はあまりに川の水が綺麗だったので顔をつけてみた。
水の中で目を開けると、小さな魚の大群が泳いでいるのが見えた。

すごい、、、、。

魚が気持ち良さそうに泳いでいる。
石も草も光を浴びて綺麗に光って綺麗だった。

「光!凄いよ!魚の大群がいる!」

私が思わず叫ぶと、光は釣り竿を振りながら
「呼び捨てかよ。俺一応、お前より年上なんだけど。」
と言ってくる。

「友達だからいいでしょ!」
と私が言う。

その後もしばらく私と光はその川で遊んだ。
飛び込みが出来るスポットを、光が教えてくれて、2人で馬鹿みたいに何度も飛び込んだ。

こんなに自然の中で遊んだのは初めてかもしれない。

私にとったら全てが刺激的だった。
「お前意外と泳げるんだな?」

川から上がって光が私に言う。
「幼稚園の時からスイミング習ってたからね。
一応選手コースだったんだよ!」

私が得意げに言うと、光はつまんなそうな顔して言ってくる。

「何だよそれ?すげーの?この村にスイミングスクールなんてないからな。」

「え?じゃぁどうやって泳げるようになったの?」

「そんなの川で泳いでれば泳げるようになるだろ。後は学校のプールとか?」

「そうゆうもんなんだね。」

村と東京は全然違う。
ここへ来て本当に感じる。

「なぁ。おまえのばあちゃん、カミサマできるんだよな。」

光が私に向かって言ってくる。
「ああ。なんかそうらしいね。光も知ってたんだ、その神事の事。」

若い人が知っているのは、意外だった。
なんとなく、年配の人しか知らないのかと思っていたからだ。

「俺の父ちゃん、小さい時見たんだって。
お前のばあちゃんが、カミサマやるの。」

「えっ?そうなの?!見た事あるの?」

国子さんが、山から魂を降ろすって、本当の話しだったんだ。

「俺のじいちゃんが、じいちゃんの弟を降ろして貰ったらしい。
何か、呪文?みたいな言葉を唱えて、降ろすらしい。そしたら本当にお前のばあちゃん、じいちゃんの弟みたいな声になって話しだしたんだって。そのうち本当に亡くなった弟が現れた
ような気がしたって。」

嘘じゃないんだ。
国子さんは本当にカミサマが出来るんだ。

「って事は、国子さん私のお母さんも降ろせるのかな?」
私が光に詰め寄ると
「でた!マザコン!
色々条件があるらしいぜ、確か身内は降ろせないって言ってたぜ。」

身内は降ろせない、、、。

「ってか自分でばあちゃんに聞けよ!
確か身内はダメって聞いたぞ?母ちゃんに会いたいなら祠を見つけた方が良いんじゃないか?」

祠?そうだ玄さんも言ってた!
裏山に祠があるって、見つけたら願いを叶えてくれるって。

「その話し本当なのかなぁ?流石にそんな昔話みたいな事ある?」

私が少し笑って言うと、光が真剣な顔で
「さあ?でも裏山に昔入って行った人が、祠を見つけて、娘の病気を治してくれって頼んだら本当に治ったとか、
潰れそうな店が持ち直したとか、色々話はあるみたいだぜ?」

そんな事あるのだろうか?
「探してみるか?」
光が楽しそうに言ってくる。

「いや、でも見つけられなかったら山から出てこられないんでしょ?」
私がちょっと怖がっていう。

「そうだよ。でもその前に道具を探しださなきゃだめなんだぜ。」
「道具?」

光が川に石を投げいれる。『ぽちゃん』と音がして小さな魚達が逃げていく。

「ただ、祠を見つけてもダメなんだよ。道具を祠に供えなきゃダメなんだ。」
「道具って何?何処にあるの?」

「勾玉と鏡。しかも特別なやつ。勾玉はS海岸の断崖にある、九竜神社の奥社にある。」

「S海岸!?めちゃくちゃ遠いじゃん!電車で2時間はかかるよ?」

私が大声で言うと光は大袈裟にため息をつく。
「あのなあ、願い事叶えてもらうんだぞ?そんな簡単なわけないだろうが。」

私は少しムッとして、
「じゃあ鏡も遠いの?」と聞く。

「当たり前よ、N町の岩山鉱山の中にある、岩山神社だ。」
それは何処だかわからなかったが、遠そうだ。

「なんでそんな全部遠いんだろう。しかも全部神社だし。」

「糸の家の神社は、山の神、九竜神社は水の神、岩山神社は岩の神だ。」

へえ~なるほど。それは何か関係ありそうだ。
しかし、なんでそんなに光は詳しいんだろう。

「光は何で、そんな祠の事詳しいの?」
「うちの死んだじいちゃんが、昔祠を探しに行こうとしたらしいんだよ。
家族に猛反対されて結局行かなかったらしいんだけどな。」

「なあ糸探しに行こうぜ!この夏休み、友達もいないし暇だろ?」

本当に失礼なやつだ。
確かに、友達いなくて毎日暇をしてるが、、、。

「光はさ?受験生じゃないの?こんな所でぶらぶらしてていいの?」

「お前、この辺に高校は1校しかないの知らないのか?しかも超バカ高。」

「みんなそこにいくの?」
「大体はな。頭の良いやつは、もっと遠くの高校へ行ったりするけどな。
とりあえず、名前が書ければ受かるんだよ。」

だから、こんなに余裕で遊んでいるのか。
「とにかく行ってみようぜ!」

私は行くとも行かないとも言わなかった。

家に帰ると、国子さんがお昼にそうめんを茹でて待っていてくれた。
つけ汁に、豚肉と炒めた茄子が入っていて美味しそうだった。
後はトマトと、とうもろこしの茹でたのもあった。

私はお腹がペコペコだったので、どんどん食べていく。

「糸、遅かったがゴミ拾いしてすぐ帰ってきたのか?」
と国子さんが聞いてくる。

私は、ゴミ拾いせず、川へ行った事は言わないで
「クリーンデーの後、ちょっと友達と遊んでた。」
と言った。

国子さんは
「友達できたんか~。」
と嬉しそうにしている。

その時、携帯がなって、メッセージを見ると、光からだった。
『明後日、朝8時九竜神社に出発な!』

と書いてあった。
私は本気で言ってたのかと思ったが、暇だし、気晴らしに行ってもいいかなと思った。

『了解』
と返信した。
私は国子さんに言った。
「明日、S海岸へ行ってくるね!」

そう言うと、国子さんは不思議そうな顔をして、「何しに、そんな遠くまでいくんだ。」と聞いてくる。

私は少し焦って
「普通に海水浴するだけだよ。」
と答える。

国子さんは、表情を変えず
「そうか。海は気をつけなきゃいけないよ。」
と言う。

「うん!わかった。気をつけるよ。大丈夫、私泳げるし。」

そう言うと国子さんが怖い顔で言ってくる、
「その油断が危ないんだぞ。波は低くてもあっとゆうまにさらっていってしまうからな。」

「う、うん!気をつける。」
こんなんじゃ、まさか祠に行く為に九竜神社に行くとは口が裂けても言えないと思った。

祠に行く事も絶対に内緒にしておこうと思った。

私は今まで、危険な事などした事がないのだ。
母が心配症だったので、危ない場所には絶対に私を近づけなかった。

私も母を心配させるような事はしなかった。

もし、母が生きていたらきっと私は
光について行ってS海岸など行かないだろう。

母が死んで、私の絶対的だった人はいなくなってしまった。

もう、頼れる人はいない。

自分しかいないのだ。














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