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とき 8

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「と・・・き・・・おき・・・さい」
「ふへぇ?」
肩をゆする感覚に私は目を開けた。ぼんやりとした輪郭の顔が目の前にある。
「名古屋に着いたわよ」
その言葉にハッとして、完全に覚めた。
「しゅ、しゅいません!寝てましたっ」
「フッ、寝言まで言ってたわ」
輝さんが笑っている。からかわれたのか、本当に寝言を言っていたのか分からないけど、どちらにしても恥ずかしい!

彼女を待たせない様、急いで荷物を手に持ち新幹線を降りた。駅の時計を見るとお昼前だった。
輝さんがスタスタ歩いて行く。
「ここで私鉄に乗り換えよ」
「待ってください。もう伊勢に行っちゃうんですか?」
「当たり前でしょ?」
(うー、私の予定が、、、)
こちらの表情を読んだのか、輝さんはため息をついた。
「ハァ、、、さっきお弁当食べたばかりじゃない」
(バレてる)

せっかく名古屋を通るんだし、お昼は名古屋飯を食べてから伊勢に向かうんだろうと私は勝手に思っていたのだ。
「まだお昼には早いわよ。伊勢に着いてからでいいでしょ?」
確かに。まさかこんなに早く着くなんて!私はそれでも食い下がった。
「知ってますか?名古屋の喫茶店ではモーニングと言って、コーヒー1杯で色々食べ物が付いて来るそうですよ」
「もう朝でもないでしょうに、、、」
ダメだ!呆れられてる!(元々かもしれないけど)これ以上私の信用を落とすわけにはいかない!(元々落ち切ってるかもしれないけど)
「・・・はい。すいません」

諦めて駅の構内をとぼとぼ歩いていると、見つけてしまった!サクサクの海老天をおむすびで包んだ名古屋名物を!
「ちょっと待っててください!」
私は迷わず商品を手に取り、素早く会計を済ませ戻った。時間は1分もかかってないハズ。それでも輝さんは呆れていた。けど呆れつつもちゃんと待っていてくれるところが優しい。

私鉄の特急に乗り換え伊勢へ。
車内はだいぶ空いていた。今日は平日だし、お伊勢参りへ向かう人も少ないんだと思う。私はお伊勢参りは初めてだ。輝さんには『巫女をしているのに行ったことないの?』とか言われそうだから隠しているけど。だってぇ、神社に務めているからわざわざ他の神社にお参りに行こうと思わないんだもん。罰当たりかな?なんたってお伊勢さんはあのアマテラスが祀られている場所。やっぱり巫女として一度はご挨拶に行っておくべきか。ちょうど出張が伊勢で良かった。

席に座り、さっそくさっき買った名古屋飯を堪能しようとしたら、輝さんに止められた。
「もう少し待ったら?」
「この電車にも通な食べ方があるんですか?」
「違うわよ。もうすぐお昼だからそれまで待って、お昼ご飯の代わりにしたらって言ってるの」
「え?」
「ん?」
お互い顔を見合わせてしまった。
「お昼はお昼で食べますよ?せっかくの伊勢だし」
「ちょっと食べ過ぎじゃない?これから舞に行くのよ?」
「だからしっかり食べておかないと、」
「え?」
「ん?」
またお互い顔を見合わせてしまった。

どうやら輝さんとは食べ物に関する考え方が会わない部分があるらしい。輝さんは舞の前はほとんど食べ物を口にしないらしい。食べたとしても軽めだろう。だから私にも食べないようにと言ってくる。けど私は舞った後、お腹が空いてしょうがないのだ。こちらとしてはお腹いっぱい食べておきたいと思っているのだけど、、、そこがお互いかみ合わないみたい。
「舞う前に食べたらつらいでしょう?」
「そんなことないですよ?逆にお腹が空いてると力が出ないじゃないですか」
私は構わず包みを開いた。小ぶりなおむすびが6つと、お漬物だけのシンプルな内容だ。こういうのでいいんだよぉ。
「半分ずつにしましょう」
「・・・・・・」
輝さんは呆れているのか何も言わなかったけど、私がおむすびを差し出すと手に取ってくれた。
「お昼はこれで十分ね」
「えー、お昼は伊勢名物食べましょうよー」

だいたい、輝さんは食べもしないで何で胸はそんなに大きいのだろう?(羨ましい!)同じものを同じ時間に食べていれば、私もそのうち大きくなるだろうか?素質はあると思ってるんだけどねぇ、、、なにせお母さんはバカみたいに大きいから。
(ハッ!気付いてしまった!きっとお母さんと同じものを食べていたから、輝さんも大きくなったに違いない!)
輝さんは退魔師になりたての頃、お母さんと組んでいたって言うし。
「食べないの?」
おむすびを頬張った輝さんが不思議そうにしている。
「え?食べますよ。えへへ」(これからは同じものを)
私もおむすびを頬張った。
「美味しいですね!コレ。天丼を食べてるみたい」
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