ゆるゾン

二コ・タケナカ

文字の大きさ
66 / 136

62

しおりを挟む
62

夏休みはあっという間に過ぎてしまった。結局、積みっぱなしのゲームは全てクリアする事はできず、録り貯めてあったアニメも消化ようと思っていたのに、予定を立てていた半分の量もこなせなかった。それもこれもふーみんのせいだ。
彼女が泣いていたあの日は何とか丸く収まり、アタシもホッとして家に帰った。しかし、後から思い起こしてみても、アタシは本当に何もしていないはずなんだけど?あれはふーみんが勝手に落ち込んで泣いていただけじゃないか。振り回されたアタシの方が被害者だ。
(ハァー、まったく。あのツンデレめ、)
休みの間、情緒を乱され楽しいはずのゲームも手に付きやしない。アタシの夏休み返せ!

『8月25日 始業式』
今日はちゃんとアラームを止めた。3日前から昼型の生活に戻す努力をしていた甲斐があった。
いつもの時間にはなっちと登校し、いつもの短いホームルームを済ませ、いつもは無い始業式をこなすと、学校は終わり。
午前中で終わりだった為、アタシは一旦家に帰って保冷バックを手に下げ学校へ引き返した。
またふーみんが泣いてしまうといけないので、今日も午後から部活を開く。

部室の戸を開けると、いつもと変わらないメンバーがそこに居た。
ふーみんもいつもと変わらない様子で、はなっちとおしゃべりしていたようだ。
「月光ちゃん、お腹すいたよぉ」彼女はテーブルに突っ伏してしまった。
はなっちは家に帰ってお昼を食べるつもりだったんだけど、無理を言って残ってもらった。何かあった時の為の保険として。
「午後は何もないんだから、べつに部活しなくてもよくない?」お前が言うなッ!誰の為に部活開いたと思ってるんだ。彼女はツンと澄ましてこちらを見ている。
ふーみんはもしかしたら虚勢を張っているだけかもしれないので、今のところは言葉を飲む。

代わりに突っ伏しているはなっちに声をかけた。
「はなっち、誕生日おめでとう。ハイ、プレゼント」
「わぁ!ありがとう月光ちゃん。今年は忘れてるのかと思ってたよぉ」
「ごめんごめん。今年はちょーっと、アレで」
ふーみんの方を見たが、目線が合わなかった。
「なになに。花、今日誕生日だったの?おめでとー」
「おめでとうございます。花代さん」
「二人ともありがとう。でも本当の誕生日は8月7日なんだけどね」
「8月7日で、は・な・よ。覚えやすくて助かるよぉ、祝う方としてはなんてありがたい名前か」
「アンタはそれを忘れてたって事でしょ?今頃プレゼント渡したりなんかして」
「あははは」
いつもと変わらないツンツンとしたツッコミだった。

「言ってくれれば私もプレゼント用意したのに」
「いいよ。そんな気を遣ってくれなくても。今年はみんなに祝ってもらえただけでうれしい。8月7日だと夏休みの真っ最中だから友達で祝ってくれるのって月光ちゃんぐらいだったんだよねぇ」
「わかるー!私も8月5日が誕生日だからクラスの誰からも祝ってもらった事ない」
「わぁ!風香ちゃん、誕生日近かったんだぁ。おめでとー」
「ありがとー」
ふーみはいつもの様に笑っている。これなら心配はいらなさそうだ。アタシは警戒を解いた。
「生まれた季節によって性格って表れるもんだよねぇ。はなっちはいつも元気で夏が似合うていうか、たまーに暑さで脳がとろけちゃってる所も夏っぽい」
「えへへ」
「花、笑ってるけどソレ褒められてないからね」
「プッ!」かいちょは静観を決め込んでいるらしい。今日は気象予報士の試験も終わっているので勉強もしていない。ただこちらに笑顔を向けている。しかしアタシにはその笑顔の方が怖いよ。
「そこいくと、ふーみんはどんなに暑くてもへっちゃらなザ・夏って感じだよね」
「それは私が暑苦しいと?」
「いやいやいや。あはは」
話をそらす為、かいちょに振る。

「かいちょの誕生日は?」
「私ですか?わたしは、」
「待って!当てるから・・・・・・ズバリ4月」
「うふふ。アタリです」
「4月の前半でしょう?」
「ええ。」
「1日?」
「いいえ、」
「2日?」
「いいえ、」
「3日?」
「そりゃ”いつか”は当たるわよ」
「風香さん当たりです。私、4月5日生まれなんです」
ふーみんは呆れて天を仰いだ。
「かいちょはおっとりしてて春って感じだもんねぇ」
「そう言うアンタはいつなの?もしかして9月15日とか?名前が月光なだけに」
「うっ・・・・・・そうだよ!9月15日だよ!お月見の十五夜にかけてこの名前なんだよ。悪いですかってんだ!」
「な、なんで怒ってるのよ」
「月光ちゃん名前でいじられるの嫌ってるから」
物知りなかいちょが補足する。
「でも、確か十五夜とは旧暦の8月15日の事を言うのではなかったでしょうか?だから今の暦に当てはめると毎年日にちはバラバラで必ずしも9月15日が十五夜にはならないはずです」
「そうなんだよぉ。誕生日を聞かれるたびにその説明をしなきゃならないから面倒くさくて。それにこの名前!月に光と書いて”つきか”なんて中二病かってんでぇい!にゃろめい!」
「荒れてるわね。でも私は、す・・・・・・」
言いかけた言葉を飲み込んで、言い直したふーみん。
「き、嫌いじゃないわよっ。月の光なんて名前、ロマンティックでいいんじゃない?」
完全にいつものツンデレふーみんに戻った様だ。

「この名前を初めて見た人は100パー”げっこう”って呼んでくるから!それをいちいち訂正する身にもなってよ。意地悪なヤツだとワザと面白がって間違えてくるからね?こんな名前で嬉しかったのなんてバイオ○ザードでベートーヴェンの「月光」が出て来た時ぐらいだよ!」
「まあまあ、月光ちゃん落ち着いて。ねえ、プレゼント開けてもいい?たぶん月光ちゃんの事だからお菓子かなんかでしょ?みんなで食べよ?」
袋の中を覗き込んで、はなっちは息をのんだ。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

終焉列島:ゾンビに沈む国

ねむたん
ホラー
2025年。ネット上で「死体が動いた」という噂が広まり始めた。 最初はフェイクニュースだと思われていたが、世界各地で「死亡したはずの人間が動き出し、人を襲う」事例が報告され、SNSには異常な映像が拡散されていく。 会社帰り、三浦拓真は同僚の藤木とラーメン屋でその話題になる。冗談めかしていた二人だったが、テレビのニュースで「都内の病院で死亡した患者が看護師を襲った」と報じられ、店内の空気が一変する。

クラスで1番の美少女のことが好きなのに、なぜかクラスで3番目に可愛い子に絡まれる

グミ食べたい
青春
高校一年生の高居宙は、クラスで一番の美少女・一ノ瀬雫に一目惚れし、片想い中。 彼女と仲良くなりたい一心で高校生活を送っていた……はずだった。 だが、なぜか隣の席の女子、三間坂雪が頻繁に絡んでくる。 容姿は良いが、距離感が近く、からかってくる厄介な存在――のはずだった。 「一ノ瀬さんのこと、好きなんでしょ? 手伝ってあげる」 そう言って始まったのは、恋の応援か、それとも別の何かか。 これは、一ノ瀬雫への恋をきっかけに始まる、 高居宙と三間坂雪の、少し騒がしくて少し甘い学園ラブコメディ。

フラレたばかりのダメヒロインを応援したら修羅場が発生してしまった件

遊馬友仁
青春
校内ぼっちの立花宗重は、クラス委員の上坂部葉月が幼馴染にフラれる場面を目撃してしまう。さらに、葉月の恋敵である転校生・名和リッカの思惑を知った宗重は、葉月に想いを諦めるな、と助言し、叔母のワカ姉やクラスメートの大島睦月たちの協力を得ながら、葉月と幼馴染との仲を取りもつべく行動しはじめる。 一方、宗重と葉月の行動に気付いたリッカは、「私から彼を奪えるもの奪ってみれば?」と、挑発してきた! 宗重の前では、態度を豹変させる転校生の真意は、はたして―――!? ※本作は、2024年に投稿した『負けヒロインに花束を』を大幅にリニューアルした作品です。

俺にだけツンツンする学園一の美少女が、最近ちょっとデレてきた件。

甘酢ニノ
恋愛
彼女いない歴=年齢の高校生・相沢蓮。 平凡な日々を送る彼の前に立ちはだかるのは── 学園一の美少女・黒瀬葵。 なぜか彼女は、俺にだけやたらとツンツンしてくる。 冷たくて、意地っ張りで、でも時々見せるその“素”が、どうしようもなく気になる。 最初はただの勘違いだったはずの関係。 けれど、小さな出来事の積み重ねが、少しずつ2人の距離を変えていく。 ツンデレな彼女と、不器用な俺がすれ違いながら少しずつ近づく、 焦れったくて甘酸っぱい、青春ラブコメディ。

百の話を語り終えたなら

コテット
ホラー
「百の怪談を語り終えると、なにが起こるか——ご存じですか?」 これは、ある町に住む“記録係”が集め続けた百の怪談をめぐる物語。 誰もが語りたがらない話。語った者が姿を消した話。語られていないはずの話。 日常の隙間に、確かに存在した恐怖が静かに記録されていく。 そして百話目の夜、最後の“語り手”の正体が暴かれるとき—— あなたは、もう後戻りできない。 ■1話完結の百物語形式 ■じわじわ滲む怪異と、ラストで背筋が凍るオチ ■後半から“語られていない怪談”が増えはじめる違和感 最後の一話を読んだとき、

美人生徒会長は、俺の料理の虜です!~二人きりで過ごす美味しい時間~

root-M
青春
高校一年生の三ツ瀬豪は、入学早々ぼっちになってしまい、昼休みは空き教室で一人寂しく弁当を食べる日々を過ごしていた。 そんなある日、豪の前に目を見張るほどの美人生徒が現れる。彼女は、生徒会長の巴あきら。豪のぼっちを察したあきらは、「一緒に昼食を食べよう」と豪を生徒会室へ誘う。 すると、あきらは豪の手作り弁当に強い興味を示し、卵焼きを食べたことで豪の料理にハマってしまう。一方の豪も、自分の料理を絶賛してもらえたことが嬉しくて仕方ない。 それから二人は、毎日生徒会室でお昼ご飯を食べながら、互いのことを語り合い、ゆっくり親交を深めていく。家庭の味に飢えているあきらは、豪の作るおかずを実に幸せそうに食べてくれるのだった。 やがて、あきらの要求はどんどん過激(?)になっていく。「わたしにもお弁当を作って欲しい」「お弁当以外の料理も食べてみたい」「ゴウくんのおうちに行ってもいい?」 美人生徒会長の頼み、断れるわけがない! でも、この生徒会、なにかちょっとおかしいような……。 ※時代設定は2018年頃。お米も卵も今よりずっと安価です。 ※他のサイトにも投稿しています。 イラスト:siroma様

セーラー服美人女子高生 ライバル同士の一騎討ち

ヒロワークス
ライト文芸
女子高の2年生まで校内一の美女でスポーツも万能だった立花美帆。しかし、3年生になってすぐ、同じ学年に、美帆と並ぶほどの美女でスポーツも万能な逢沢真凛が転校してきた。 クラスは、隣りだったが、春のスポーツ大会と夏の水泳大会でライバル関係が芽生える。 それに加えて、美帆と真凛は、隣りの男子校の俊介に恋をし、どちらが俊介と付き合えるかを競う恋敵でもあった。 そして、秋の体育祭では、美帆と真凛が走り高跳びや100メートル走、騎馬戦で対決! その結果、放課後の体育館で一騎討ちをすることに。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

処理中です...