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恥ずかしさで思わず叫びそうになったところに、一人の男性がメイベールの前へ進み出ました。手を差し伸べたのは兄のジャスパーです。
「綺麗だよメイベール。さあ、こちらへ」
手を引かれ案内された場所にはテオの姿がありました。
(おにぃ!)
テオもメイベールの姿を認め、笑顔になります。その顔はテオのものですが、朝日には明星の優しい顔に思えました。
思わず駆け寄って胸に抱きつこうとしました。明星も軽く腕を開き妹を受け止めようとします。けれどジャスパーが繋いだ手を放してくれません。
「メイベール。先にご挨拶を……テオ、少し待ってくれるかな?」
そう言った彼の眉は少し引きつっていました。
ジャスパーに促された方へ顔を向けると、握った拳で口元を隠し、小さく笑っている男性がいました。輝くような金髪に白い肌、笑って緩んだ瞳は鮮やかな青色をしています。
見た目だけでもその人物が特別な存在と分かりますが、それに加えてまとっているオーラが、高貴なものだと伝わってきます。
(ルイス殿下だ!)
朝日は背筋をピンと伸ばしました。そして片足を斜め後ろの内側へ引き、もう片方の足の膝を曲げて挨拶します。
「ご機嫌麗しゅう、ルイス殿下。メイベール・ケステルです」
屋敷で何度も練習したので、緊張していた朝日にも何とか出来ました。続けてルイスの目を見て、にこやかに印象が良いように意識して言いました。
「この度、未熟なわたくしも殿下と同じく格式高いリード魔法学校へ入学する運びとなりました。どうかこれから、ご指導ご鞭撻の程よろしくお願い致します。」
如何にもな社交辞令に、ニッコリ笑ってルイスが返します。
「よく言えたねメイベール。ちゃんと挨拶できたから、もう立派なレディだ」
パーティーでは、まず一番位の高い人物へ挨拶をしなくてはいけないよ。と、ジャスパーに言われていたのです。出席者の中で一番位の高い人物と言えばこの国を治める王様のご子息、ルイス・ロンド皇太子殿下です。
だから朝日は歯の浮くセリフを一生懸命繰り返して覚えてきました。なのに、返されたのはまるで幼い子供を扱うような言葉です。
あっけに取られるメイベールの事をまた笑ってルイスが言います。
「もしかして覚えていないのかい?子供の頃、よく一緒に遊んだじゃないか。あのお転婆な子がこんなにも美しい女性に成長するなんてね。テオに先を越されたのが悔しいよ」
フフフと、また笑っています。どうやらからかわれているのだと分かり、メイベールは恥ずかしさで顔を真っ赤にしました。
「からかうなんて、酷いですわっ」
「フフ、私の中のメイベールは幼い頃のままだったんだ。ずっと妹の様に思っていたのに……けど、美しいと言ったのは本当だよ。からかってなんていない」
真顔に戻ったルイスからそんな事を言われ、メイベールの体は急に体温が上がり変な汗が吹き出しました。
(王子様の破壊力すごっ!)
赤面して固まるメイベールにテオが呼びかけます。
「メイベール、お腹は空いてないか?向こうに食事が用意されている。食べに行こう」
彼が腰に手を当て、肘を突き出します。朝日は察して、その腕に掴まって組みました。
「ルイス様、お兄様、わたくし行ってまいります」
去っていく二人を見て、またルイスが笑ってジャスパーに言いました。
「テオは変わったな」
「ああ、この前うちのパーティーに呼んだら、お互い気が合った様だ。来る前は渋々だったくせに」
「女性に興味なさそうだったあのテオがな」
「興味ないどころか……」
ジャスパーが首を振ります。
「婚約しているとはいえ、メイベールはまだ結婚前だ。世間体というものを考えてほしいものだよ」
「あれだけ見せつけているんだ、テオも覚悟が決まったんだろう。今更、婚約を取り消したりしまい」
「どうかな。二人ともついこの間までお互い嫌っていたんだぞ?直前になって気が変わることもあり得る。だからメイベールには淑女としてわきまえて欲しいんだ」
「ほう。」
ルイスの声のトーンが変わりました。
「なら私にもまだチャンスはあるのかな?」
「やめてくれルイス。あの子は気が移りやすいんだよ。ケステル家の禍根となりかねない」
「そんな事を言って、妹を手元に置いておきたいだけじゃないのか?テオのベオルマ家へ婚約を申し込んだのも他の貴族が寄ってこない様にしたかっただけだろう」
「婚約は家同士が決めるものだ。僕が口出しできることではないよ」
ジャスパーはお返しとばかりに、わざとらしく言いました。
「そうだ。キミの妹のエミリーを僕にくれるのならメイベールにも、それとなく伝えてあげてもいい」
「断る。」
すぐさま突っぱねたルイスの顔は笑っていませんでした。それでもジャスパーは続けます。
「なにせメイベールは気が移りやすい。王家に嫁ぐ話をすれば鞍替えするかもしれないよ。お互い兄弟同士になれば両家は安泰だ」
ルイスは何も応えませんでした。ジャスパーがフッと笑います。
「どうやらキミも妹の事が可愛くてしょうがないらしい」
こうして貴族の腹を探り合うパーティーは続くのです。
「綺麗だよメイベール。さあ、こちらへ」
手を引かれ案内された場所にはテオの姿がありました。
(おにぃ!)
テオもメイベールの姿を認め、笑顔になります。その顔はテオのものですが、朝日には明星の優しい顔に思えました。
思わず駆け寄って胸に抱きつこうとしました。明星も軽く腕を開き妹を受け止めようとします。けれどジャスパーが繋いだ手を放してくれません。
「メイベール。先にご挨拶を……テオ、少し待ってくれるかな?」
そう言った彼の眉は少し引きつっていました。
ジャスパーに促された方へ顔を向けると、握った拳で口元を隠し、小さく笑っている男性がいました。輝くような金髪に白い肌、笑って緩んだ瞳は鮮やかな青色をしています。
見た目だけでもその人物が特別な存在と分かりますが、それに加えてまとっているオーラが、高貴なものだと伝わってきます。
(ルイス殿下だ!)
朝日は背筋をピンと伸ばしました。そして片足を斜め後ろの内側へ引き、もう片方の足の膝を曲げて挨拶します。
「ご機嫌麗しゅう、ルイス殿下。メイベール・ケステルです」
屋敷で何度も練習したので、緊張していた朝日にも何とか出来ました。続けてルイスの目を見て、にこやかに印象が良いように意識して言いました。
「この度、未熟なわたくしも殿下と同じく格式高いリード魔法学校へ入学する運びとなりました。どうかこれから、ご指導ご鞭撻の程よろしくお願い致します。」
如何にもな社交辞令に、ニッコリ笑ってルイスが返します。
「よく言えたねメイベール。ちゃんと挨拶できたから、もう立派なレディだ」
パーティーでは、まず一番位の高い人物へ挨拶をしなくてはいけないよ。と、ジャスパーに言われていたのです。出席者の中で一番位の高い人物と言えばこの国を治める王様のご子息、ルイス・ロンド皇太子殿下です。
だから朝日は歯の浮くセリフを一生懸命繰り返して覚えてきました。なのに、返されたのはまるで幼い子供を扱うような言葉です。
あっけに取られるメイベールの事をまた笑ってルイスが言います。
「もしかして覚えていないのかい?子供の頃、よく一緒に遊んだじゃないか。あのお転婆な子がこんなにも美しい女性に成長するなんてね。テオに先を越されたのが悔しいよ」
フフフと、また笑っています。どうやらからかわれているのだと分かり、メイベールは恥ずかしさで顔を真っ赤にしました。
「からかうなんて、酷いですわっ」
「フフ、私の中のメイベールは幼い頃のままだったんだ。ずっと妹の様に思っていたのに……けど、美しいと言ったのは本当だよ。からかってなんていない」
真顔に戻ったルイスからそんな事を言われ、メイベールの体は急に体温が上がり変な汗が吹き出しました。
(王子様の破壊力すごっ!)
赤面して固まるメイベールにテオが呼びかけます。
「メイベール、お腹は空いてないか?向こうに食事が用意されている。食べに行こう」
彼が腰に手を当て、肘を突き出します。朝日は察して、その腕に掴まって組みました。
「ルイス様、お兄様、わたくし行ってまいります」
去っていく二人を見て、またルイスが笑ってジャスパーに言いました。
「テオは変わったな」
「ああ、この前うちのパーティーに呼んだら、お互い気が合った様だ。来る前は渋々だったくせに」
「女性に興味なさそうだったあのテオがな」
「興味ないどころか……」
ジャスパーが首を振ります。
「婚約しているとはいえ、メイベールはまだ結婚前だ。世間体というものを考えてほしいものだよ」
「あれだけ見せつけているんだ、テオも覚悟が決まったんだろう。今更、婚約を取り消したりしまい」
「どうかな。二人ともついこの間までお互い嫌っていたんだぞ?直前になって気が変わることもあり得る。だからメイベールには淑女としてわきまえて欲しいんだ」
「ほう。」
ルイスの声のトーンが変わりました。
「なら私にもまだチャンスはあるのかな?」
「やめてくれルイス。あの子は気が移りやすいんだよ。ケステル家の禍根となりかねない」
「そんな事を言って、妹を手元に置いておきたいだけじゃないのか?テオのベオルマ家へ婚約を申し込んだのも他の貴族が寄ってこない様にしたかっただけだろう」
「婚約は家同士が決めるものだ。僕が口出しできることではないよ」
ジャスパーはお返しとばかりに、わざとらしく言いました。
「そうだ。キミの妹のエミリーを僕にくれるのならメイベールにも、それとなく伝えてあげてもいい」
「断る。」
すぐさま突っぱねたルイスの顔は笑っていませんでした。それでもジャスパーは続けます。
「なにせメイベールは気が移りやすい。王家に嫁ぐ話をすれば鞍替えするかもしれないよ。お互い兄弟同士になれば両家は安泰だ」
ルイスは何も応えませんでした。ジャスパーがフッと笑います。
「どうやらキミも妹の事が可愛くてしょうがないらしい」
こうして貴族の腹を探り合うパーティーは続くのです。
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