30 / 160
4-4
しおりを挟む
先生が床に転がっていた石を魔法で浮かび上がらせます。
「今日のは私の魔力も混ざって面白い反応をしていますね。いいサンプルが取れました」
その石は複雑に色が混ざって、見る角度で色を変えています。キラキラと虹色に輝く石を見つめ、先生は満足そうです。
石をテーブルの上に置いた先生が、メイベール達に向き直って聞きます。
「それで、何の用ですか?」
朝日は呆れました。どうやらこの人は、目の前の興味ある事に集中すると周りが見えなくなるようです。
「ジョージ先生が言いましたのよ?放課後、わたくし達に研究室へ来るようにと」
アイラもテオの膝から降りて言います。
「さっきは校則違反をして、すいませんでした」
彼女は頭を下げました。
先生は「あ~あ」と頷き、やっと思い出したようです。
これなら言いつけ通り来なくても問題なかったのかもしれません。そもそも来る前からテオとの実験にのめり込んでいたようですし。心配していた自分がアホらしく思えて、朝日は頭を下げませんでした。メイベールお嬢様の体もそれを拒否しています。
先生は少し考えてから言いました。
「罰を与えるのでしたね」
メイベールの前に立った彼が、両手を出します。
「なんですの?」
目の前の顔がニヤリと笑いました。
「魔力交換をしましょう。テオ君はもう出来なさそうですし、」
「いっ!嫌ですわっ!」
メイベールは自分の体を抱きしめて、拒否反応を示しました。なんだか生理的に受け付けないのです。今の状況をアナドリのファンが見たのならメイベールの支持率は暴落したに違いないでしょう。元々彼女の人気はありませんが。
今度は先生の視線がアイラに向きます。アイラもビクついてテオの後ろに隠れてしまいました。
「これでは罰になりませんねぇ」
「わたくし達、今日は疲れておりますの」
先ほどジャスパーから魔力を分けてもらったので、メイベールの疲れは吹き飛んでいますが適当に誤魔化すしかありません。
「それに魔力の交換なんて親しい間柄でおこなうものでしょう?兄からはそう教えられておりますわ。みだりに他人同士で交換するなど、はしたない」
「ケステル家ではそういう方針なのですか。興味深い」
「ま、まあ、アイラさんとなら、やってあげてもよろしくてよ?ね?」
アイラに視線を向けると、彼女は少し顔を赤らめて言いました。
「はい……メイベールさんとなら」
また変なパラメーターが上がってなければいいなと思いつつ、言ってしまったものはしょうがありません。
「ふむ。先ほどの魔力交換を見る限り、メイベール嬢とアイラ嬢はよほど相性がいいようだ。けれど、アレをこの研究室で再現しては、建物が壊れてしまわないか少々不安ですね」
朝日も生き埋めになど、なりたくはありません。その表情を読み取ったのか、先生は諦めたように言いました。
「仕方ありませんね。今日のところは帰ってよろしい。近いうちに研究室の結界を強化しておきますので、準備が出来てからにしましょう」
なら、もうここに用はありません。さっさと帰ろうとすると先生が呼び止めました。
「テオ君、今日の分の謝礼です」
先生が差し出してきたのは、薄い金属の板です。長さ3センチ、幅1センチほどの真ちゅう製で、くすんだ黄金色をしています。
「これは何ですの?」
その板を見せてもらうと、10と刻印されていました。それが3枚。
「アナタ達は入学したばかりでまだ知らないのですね。それはチップです。この学校の中だけで使えるお金の様なものです。上のアトリエで出せば商品と交換できますよ」
「なぜわざわざチップなんて使うのです?お金で払ってはいけませんの?」
「ここは貴族が通う学校ですからね。貴族というのは領地を貸して得られる収入で暮らしているので、裕福な家だと一生、労働というものを経験しないまま過ごしてしまいます。そのチップはこの学校生活の中で必要な仕事、例えば先生の授業を手伝うだとか、掃除や片付けをするだとか、労働の対価として与えられます。いわば労働を学ぶ体験プログラムの一環です。アトリエではチップのみしか使えません。だからお金をいくら積んでも買えないので、欲しいものがあればテオ君の様に働いてください」
(本当にゲームみたい)
アナドリの中でもミニゲームをこなしてお金を貯め、マリーさんのお店でアイテムを買うのです。
先生は、そうそうと言って付け加えました。
「この研究室でチップがもらえる事は他の生徒に言ってはダメですよ。魔力を提供するだけでチップが貰えると知れたら、生徒が押しかけてくるかもしれませんからね」
先生に呼ばれた生徒が何をされたのか喋らないというのは、こういう事だったのかと納得した朝日は研究室を後にしました。
「今日のは私の魔力も混ざって面白い反応をしていますね。いいサンプルが取れました」
その石は複雑に色が混ざって、見る角度で色を変えています。キラキラと虹色に輝く石を見つめ、先生は満足そうです。
石をテーブルの上に置いた先生が、メイベール達に向き直って聞きます。
「それで、何の用ですか?」
朝日は呆れました。どうやらこの人は、目の前の興味ある事に集中すると周りが見えなくなるようです。
「ジョージ先生が言いましたのよ?放課後、わたくし達に研究室へ来るようにと」
アイラもテオの膝から降りて言います。
「さっきは校則違反をして、すいませんでした」
彼女は頭を下げました。
先生は「あ~あ」と頷き、やっと思い出したようです。
これなら言いつけ通り来なくても問題なかったのかもしれません。そもそも来る前からテオとの実験にのめり込んでいたようですし。心配していた自分がアホらしく思えて、朝日は頭を下げませんでした。メイベールお嬢様の体もそれを拒否しています。
先生は少し考えてから言いました。
「罰を与えるのでしたね」
メイベールの前に立った彼が、両手を出します。
「なんですの?」
目の前の顔がニヤリと笑いました。
「魔力交換をしましょう。テオ君はもう出来なさそうですし、」
「いっ!嫌ですわっ!」
メイベールは自分の体を抱きしめて、拒否反応を示しました。なんだか生理的に受け付けないのです。今の状況をアナドリのファンが見たのならメイベールの支持率は暴落したに違いないでしょう。元々彼女の人気はありませんが。
今度は先生の視線がアイラに向きます。アイラもビクついてテオの後ろに隠れてしまいました。
「これでは罰になりませんねぇ」
「わたくし達、今日は疲れておりますの」
先ほどジャスパーから魔力を分けてもらったので、メイベールの疲れは吹き飛んでいますが適当に誤魔化すしかありません。
「それに魔力の交換なんて親しい間柄でおこなうものでしょう?兄からはそう教えられておりますわ。みだりに他人同士で交換するなど、はしたない」
「ケステル家ではそういう方針なのですか。興味深い」
「ま、まあ、アイラさんとなら、やってあげてもよろしくてよ?ね?」
アイラに視線を向けると、彼女は少し顔を赤らめて言いました。
「はい……メイベールさんとなら」
また変なパラメーターが上がってなければいいなと思いつつ、言ってしまったものはしょうがありません。
「ふむ。先ほどの魔力交換を見る限り、メイベール嬢とアイラ嬢はよほど相性がいいようだ。けれど、アレをこの研究室で再現しては、建物が壊れてしまわないか少々不安ですね」
朝日も生き埋めになど、なりたくはありません。その表情を読み取ったのか、先生は諦めたように言いました。
「仕方ありませんね。今日のところは帰ってよろしい。近いうちに研究室の結界を強化しておきますので、準備が出来てからにしましょう」
なら、もうここに用はありません。さっさと帰ろうとすると先生が呼び止めました。
「テオ君、今日の分の謝礼です」
先生が差し出してきたのは、薄い金属の板です。長さ3センチ、幅1センチほどの真ちゅう製で、くすんだ黄金色をしています。
「これは何ですの?」
その板を見せてもらうと、10と刻印されていました。それが3枚。
「アナタ達は入学したばかりでまだ知らないのですね。それはチップです。この学校の中だけで使えるお金の様なものです。上のアトリエで出せば商品と交換できますよ」
「なぜわざわざチップなんて使うのです?お金で払ってはいけませんの?」
「ここは貴族が通う学校ですからね。貴族というのは領地を貸して得られる収入で暮らしているので、裕福な家だと一生、労働というものを経験しないまま過ごしてしまいます。そのチップはこの学校生活の中で必要な仕事、例えば先生の授業を手伝うだとか、掃除や片付けをするだとか、労働の対価として与えられます。いわば労働を学ぶ体験プログラムの一環です。アトリエではチップのみしか使えません。だからお金をいくら積んでも買えないので、欲しいものがあればテオ君の様に働いてください」
(本当にゲームみたい)
アナドリの中でもミニゲームをこなしてお金を貯め、マリーさんのお店でアイテムを買うのです。
先生は、そうそうと言って付け加えました。
「この研究室でチップがもらえる事は他の生徒に言ってはダメですよ。魔力を提供するだけでチップが貰えると知れたら、生徒が押しかけてくるかもしれませんからね」
先生に呼ばれた生徒が何をされたのか喋らないというのは、こういう事だったのかと納得した朝日は研究室を後にしました。
3
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
その狂犬戦士はお義兄様ですが、何か?
行枝ローザ
ファンタジー
美しき侯爵令嬢の側には、強面・高背・剛腕と揃った『狂犬戦士』と恐れられる偉丈夫がいる。
貧乏男爵家の五人兄弟末子が養子に入った魔力を誇る伯爵家で彼を待ち受けていたのは、五歳下の義妹と二歳上の義兄、そして王都随一の魔術後方支援警護兵たち。
元・家族の誰からも愛されなかった少年は、新しい家族から愛されることと癒されることを知って強くなる。
これは不遇な微魔力持ち魔剣士が凄惨な乳幼児期から幸福な少年期を経て、成長していく物語。
※見切り発車で書いていきます(通常運転。笑)
※エブリスタでも同時連載。2021/6/5よりカクヨムでも後追い連載しています。
※2021/9/15けっこう前に追いついて、カクヨムでも現在は同時掲載です。
断罪まであと5秒、今すぐ逆転始めます
山河 枝
ファンタジー
聖女が魔物と戦う乙女ゲーム。その聖女につかみかかったせいで処刑される令嬢アナベルに、転生してしまった。
でも私は知っている。実は、アナベルこそが本物の聖女。
それを証明すれば断罪回避できるはず。
幸い、処刑人が味方になりそうだし。モフモフ精霊たちも慕ってくれる。
チート魔法で魔物たちを一掃して、本物アピールしないと。
処刑5秒前だから、今すぐに!
【完結済】悪役令嬢の妹様
紫
ファンタジー
星守 真珠深(ほしもり ますみ)は社畜お局様街道をひた走る日本人女性。
そんな彼女が現在嵌っているのが『マジカルナイト・ミラクルドリーム』というベタな乙女ゲームに悪役令嬢として登場するアイシア・フォン・ラステリノーア公爵令嬢。
ぶっちゃけて言うと、ヒロイン、攻略対象共にどちらかと言えば嫌悪感しかない。しかし、何とかアイシアの断罪回避ルートはないものかと、探しに探してとうとう全ルート開き終えたのだが、全ては無駄な努力に終わってしまった。
やり場のない気持ちを抱え、気分転換にコンビニに行こうとしたら、気づけば悪楽令嬢アイシアの妹として転生していた。
―――アイシアお姉様は私が守る!
最推し悪役令嬢、アイシアお姉様の断罪回避転生ライフを今ここに開始する!
※長編版をご希望下さり、本当にありがとうございます<(_ _)>
既に書き終えた物な為、激しく拙いですが特に手直し他はしていません。
∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽
※小説家になろう様にも掲載させていただいています。
※作者創作の世界観です。史実等とは合致しない部分、異なる部分が多数あります。
※この物語はフィクションです。実在の人物・団体等とは一切関係がありません。
※実際に用いられる事のない表現や造語が出てきますが、御容赦ください。
※リアル都合等により不定期、且つまったり進行となっております。
※上記同理由で、予告等なしに更新停滞する事もあります。
※まだまだ至らなかったり稚拙だったりしますが、生暖かくお許しいただければ幸いです。
※御都合主義がそこかしに顔出しします。設定が掌ドリルにならないように気を付けていますが、もし大ボケしてたらお許しください。
※誤字脱字等々、標準てんこ盛り搭載となっている作者です。気づけば適宜修正等していきます…御迷惑おかけしますが、お許しください。
ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活
天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる――
不要とされる寄せ集め部隊、正規軍の背後で人知れず行軍する〜茫漠と彷徨えるなにか〜
サカキ カリイ
ファンタジー
「なんだ!あの農具は!槍のつもりか?」「あいつの頭見ろよ!鍋を被ってるやつもいるぞ!」ギャハハと指さして笑い転げる正規軍の面々。
魔王と魔獣討伐の為、軍をあげた帝国。
討伐の為に徴兵をかけたのだが、数合わせの事情で無経験かつ寄せ集め、どう見ても不要である部隊を作った。
魔獣を倒しながら敵の現れる発生地点を目指す本隊。
だが、なぜか、全く役に立たないと思われていた部隊が、背後に隠されていた陰謀を暴く一端となってしまう…!
〜以下、第二章の説明〜
魔道士の術式により、異世界への裂け目が大きくなってしまい、
ついに哨戒機などという謎の乗り物まで、この世界へあらわれてしまう…!
一方で主人公は、渦周辺の平野を、異世界との裂け目を閉じる呪物、巫女のネックレスを探して彷徨う羽目となる。
そしてあらわれ来る亡霊達と、戦うこととなるのだった…
以前こちらで途中まで公開していたものの、再アップとなります。
他サイトでも公開しております。旧タイトル「茫漠と彷徨えるなにか」。
「離れ小島の二人の巫女」の登場人物が出てきますが、読まれなくても大丈夫です。
ちなみに巫女のネックレスを持って登場した魔道士は、離れ小島に出てくる男とは別人です。
叶えられた前世の願い
レクフル
ファンタジー
「私が貴女を愛することはない」初めて会った日にリュシアンにそう告げられたシオン。生まれる前からの婚約者であるリュシアンは、前世で支え合うようにして共に生きた人だった。しかしシオンは悪女と名高く、しかもリュシアンが憎む相手の娘として生まれ変わってしまったのだ。想う人を守る為に強くなったリュシアン。想う人を守る為に自らが代わりとなる事を望んだシオン。前世の願いは叶ったのに、思うようにいかない二人の想いはーーー
辺境貴族ののんびり三男は魔道具作って自由に暮らします
雪月夜狐
ファンタジー
書籍化決定しました!
(書籍化にあわせて、タイトルが変更になりました。旧題は『辺境伯家ののんびり発明家 ~異世界でマイペースに魔道具開発を楽しむ日々~』です)
壮年まで生きた前世の記憶を持ちながら、気がつくと辺境伯家の三男坊として5歳の姿で異世界に転生していたエルヴィン。彼はもともと物作りが大好きな性格で、前世の知識とこの世界の魔道具技術を組み合わせて、次々とユニークな発明を生み出していく。
辺境の地で、家族や使用人たちに役立つ便利な道具や、妹のための可愛いおもちゃ、さらには人々の生活を豊かにする新しい魔道具を作り上げていくエルヴィン。やがてその才能は周囲の人々にも認められ、彼は王都や商会での取引を通じて新しい人々と出会い、仲間とともに成長していく。
しかし、彼の心にはただの「発明家」以上の夢があった。この世界で、誰も見たことがないような道具を作り、貴族としての責任を果たしながら、人々に笑顔と便利さを届けたい——そんな野望が、彼を新たな冒険へと誘う。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる