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マリーさんのお店に入りました。暖房の効いた店内は暖かく、3人は一息つきました。
「おや、いらっしゃい」
奥から現れたマリーさんが温かく迎えてくれます。
「明日から冬休みだね。帰省のお土産に何か買っていってくれるのかい?」
朝日は即座に応えました。
「暫く会えなくなるから、マリーさんの顔を見に来たのですわ」
これも兄、ジャスパーの真似事です。彼は冗談を言いつつ褒めたりして、人の心を掴むのが上手いのです。
マリーさんは分かりやすいおべっかにも優しく笑ってくれました。
「ハハハ!アタシに会いに来てくれたのかい。うれしいねぇ」
彼女が側に来るようにと手招きします。魔導具で温められている、おでん鍋の蓋を取りました。
「食べていきな。チップはいらないよ」
「いいんですの?」
「ああ、明日から冬休みだからね。残しておいてもしょうがないのさ」
放課後はいつも賑わうこのお店も、今日はさすがに帰省の準備に忙しいのか生徒は一人もいません。有難く言葉に甘えて、湯気の立つおでんに手を伸ばします。鍋にはギッシリ具材が詰まっていました。
(明日から休みだって分かってるのに、何でこんなにも沢山仕込んでるんだろう?)
それは来るかもしれない生徒をがっかりさせない為なのでした。それに、残しておいてもしょうがないのは本当かもしれませんが、それもメイベール達が遠慮しないようにと言ったマリーさんの方便。気遣いなのです。朝日はまだまだ自分は大人を真似るだけの子供だと、そのおでんの優しい味に思い知りました。
「マリーさんは帰省しますの?」
「アタシかい?しないよ。アタシの実家は遠いのさ」
「あら、もしかして海外の出身なのかしら?」
「まあ、そんなところだね。ハハハ」
(やっぱりおでん作ってるくらいだから、東の国の出身とか?)
改めて見るとマリーさんはどこかブリトンの人達とは顔立ちが違って見えます。じっと見つめていた朝日でしたが、笑われてしまいました。
「本当にアタシの顔を見に来たのかい?ハハハッ!」
タダでおでんをご馳走になり、少し気の引けた朝日は代わりに雑貨を買っていくことにしました。
「せっかく寄ったのだし、家の者に何かお土産でも買っていこうかしら?」
「そうかい?ありがとね」
店内を見て回ります。しかし、朝日には実家へお土産を買って帰るという経験が無い為、何を選んでいいのか困りました。
(メイド達とか全員に買える訳じゃないし……)
お金ならジャスパーから貰ったお小遣いが手つかずのまま残っているので、メイド達の分を買うのは訳ありません。けれどこのお店では労働の対価として先生から与えられるチップしか使えないのです。
朝日はチップの入っているポケットに手を突っ込みました。指先には数枚の金属が冷たい感触を与えます。マリーさんの手伝いをたまにしかしておらず、その上ちょくちょくおでんを食べに来ていた彼女には余裕はありませんでした。
(誰か1人に絞った方がいいよね)
浮かんだのは父親の顔です。雑貨を眺めながら考えました。
(何をプレゼントしたら喜ぶんだろう?そもそも、お貴族様なんだからこんな所に売ってる物なんて欲しがるのかなぁ?いやいや、こういうのは気持ちだって言うし、アタシが初めて働いて稼いだチップなんだから何を買っても……)
朝日はチップを取り出し、手のひらの上で広げました。
(そうだ……おにぃは初任給でアタシにお小遣いくれたんだっけ。それでゲームを買って……)
初めて労働の対価を受け取った記念として、形に残るものがいいと思い棚を眺めます。そこにカフリンクスが目に留まりました。男性がシャツの袖口を留める為に使う飾りボタンです。丸い真ちゅうの板に王冠をあしらったシンプルなデザインで、値段も持っているチップで収まります。
「あ、コレなんかいいんじゃないかしら?」
朝日はそのカフリンクスに手を伸ばそうとしましたが、腕がまったく動いてくれません。お嬢様が嫌がっているのです。
(ど!どうしたのー⁉おじょうさまーぁ!)
朝日が力を込めても、手は反発し合って震えるばかり。その震える手が少しづつ伸び、隣に置いてあった何の変哲もないペンを手に取りました。
(もー、何なの?こっちにしろって?)
ペンにはリード魔法学校の簡略化されたエンブレムが刻印されていました。如何にもなノベルティ品です。
(まぁ、お嬢様がこっちの方がいいのなら、これでいいか。あげるのはお嬢様のお父さんなんだし)
「それでいいのかい?」
「ええ、父に送ろうと思いまして。この学校の紋章も入っていますし、気負ってなくて丁度いいわ」
「なら綺麗に包んであげようかね」
色紙に包まれたペンはリボンで結ばれ、コレなら見栄えも悪くはないと受け取りました。
「メイベールさん、もういいかしら?」
「だいぶ時間を潰してしまいましたね」
二人が待ってくれています。
(あー、やっぱり行かなきゃダメかー)
嫌な事を先延ばしにしていた朝日もとうとう観念しました。
「おや、いらっしゃい」
奥から現れたマリーさんが温かく迎えてくれます。
「明日から冬休みだね。帰省のお土産に何か買っていってくれるのかい?」
朝日は即座に応えました。
「暫く会えなくなるから、マリーさんの顔を見に来たのですわ」
これも兄、ジャスパーの真似事です。彼は冗談を言いつつ褒めたりして、人の心を掴むのが上手いのです。
マリーさんは分かりやすいおべっかにも優しく笑ってくれました。
「ハハハ!アタシに会いに来てくれたのかい。うれしいねぇ」
彼女が側に来るようにと手招きします。魔導具で温められている、おでん鍋の蓋を取りました。
「食べていきな。チップはいらないよ」
「いいんですの?」
「ああ、明日から冬休みだからね。残しておいてもしょうがないのさ」
放課後はいつも賑わうこのお店も、今日はさすがに帰省の準備に忙しいのか生徒は一人もいません。有難く言葉に甘えて、湯気の立つおでんに手を伸ばします。鍋にはギッシリ具材が詰まっていました。
(明日から休みだって分かってるのに、何でこんなにも沢山仕込んでるんだろう?)
それは来るかもしれない生徒をがっかりさせない為なのでした。それに、残しておいてもしょうがないのは本当かもしれませんが、それもメイベール達が遠慮しないようにと言ったマリーさんの方便。気遣いなのです。朝日はまだまだ自分は大人を真似るだけの子供だと、そのおでんの優しい味に思い知りました。
「マリーさんは帰省しますの?」
「アタシかい?しないよ。アタシの実家は遠いのさ」
「あら、もしかして海外の出身なのかしら?」
「まあ、そんなところだね。ハハハ」
(やっぱりおでん作ってるくらいだから、東の国の出身とか?)
改めて見るとマリーさんはどこかブリトンの人達とは顔立ちが違って見えます。じっと見つめていた朝日でしたが、笑われてしまいました。
「本当にアタシの顔を見に来たのかい?ハハハッ!」
タダでおでんをご馳走になり、少し気の引けた朝日は代わりに雑貨を買っていくことにしました。
「せっかく寄ったのだし、家の者に何かお土産でも買っていこうかしら?」
「そうかい?ありがとね」
店内を見て回ります。しかし、朝日には実家へお土産を買って帰るという経験が無い為、何を選んでいいのか困りました。
(メイド達とか全員に買える訳じゃないし……)
お金ならジャスパーから貰ったお小遣いが手つかずのまま残っているので、メイド達の分を買うのは訳ありません。けれどこのお店では労働の対価として先生から与えられるチップしか使えないのです。
朝日はチップの入っているポケットに手を突っ込みました。指先には数枚の金属が冷たい感触を与えます。マリーさんの手伝いをたまにしかしておらず、その上ちょくちょくおでんを食べに来ていた彼女には余裕はありませんでした。
(誰か1人に絞った方がいいよね)
浮かんだのは父親の顔です。雑貨を眺めながら考えました。
(何をプレゼントしたら喜ぶんだろう?そもそも、お貴族様なんだからこんな所に売ってる物なんて欲しがるのかなぁ?いやいや、こういうのは気持ちだって言うし、アタシが初めて働いて稼いだチップなんだから何を買っても……)
朝日はチップを取り出し、手のひらの上で広げました。
(そうだ……おにぃは初任給でアタシにお小遣いくれたんだっけ。それでゲームを買って……)
初めて労働の対価を受け取った記念として、形に残るものがいいと思い棚を眺めます。そこにカフリンクスが目に留まりました。男性がシャツの袖口を留める為に使う飾りボタンです。丸い真ちゅうの板に王冠をあしらったシンプルなデザインで、値段も持っているチップで収まります。
「あ、コレなんかいいんじゃないかしら?」
朝日はそのカフリンクスに手を伸ばそうとしましたが、腕がまったく動いてくれません。お嬢様が嫌がっているのです。
(ど!どうしたのー⁉おじょうさまーぁ!)
朝日が力を込めても、手は反発し合って震えるばかり。その震える手が少しづつ伸び、隣に置いてあった何の変哲もないペンを手に取りました。
(もー、何なの?こっちにしろって?)
ペンにはリード魔法学校の簡略化されたエンブレムが刻印されていました。如何にもなノベルティ品です。
(まぁ、お嬢様がこっちの方がいいのなら、これでいいか。あげるのはお嬢様のお父さんなんだし)
「それでいいのかい?」
「ええ、父に送ろうと思いまして。この学校の紋章も入っていますし、気負ってなくて丁度いいわ」
「なら綺麗に包んであげようかね」
色紙に包まれたペンはリボンで結ばれ、コレなら見栄えも悪くはないと受け取りました。
「メイベールさん、もういいかしら?」
「だいぶ時間を潰してしまいましたね」
二人が待ってくれています。
(あー、やっぱり行かなきゃダメかー)
嫌な事を先延ばしにしていた朝日もとうとう観念しました。
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