アナザーワールド・オブ・ドリームズ

二コ・タケナカ

文字の大きさ
105 / 160

13-8

しおりを挟む
「ウサギ?狩でもしろって言うの?」
アイラの方から返事はありません。上手くいくと思っていたのに成果が上がらず、怒られただけなのですから、しょげているのです。
朝日もふてくされているだけではダメだと思い。彼女に声を掛けます。
「とりあえず、コレでも食べる?」
足元にわずかばかりの海藻が流れ着いているのを拾い上げました。
「そうですね……お腹、空きましたもんね」

いったん小屋に戻ります。
海藻は茹でて食べようと思ったのですが、薪が無いので火を起こせません。仕方なく生で食べようにも、まず洗いたいと思い、二人は井戸を探して庭を歩き回りました。
「井戸、どこ?」
風よけの石垣に囲まれた敷地は、そんなに広くはないのに井戸が見当たりません。すると歩き回っている二人の足元に犬が尻尾を振りながらじゃれついて来ました。
「なに、この子。どうしたの?」
「散歩だ」
急に背後で野太い声がしたのでドキッとしました。そこに居たのはオリバーです。
「あ……どうも。」
「……こんにちわ。」
彼は無表情で、何を考えているのか分かりにくく、二人は物怖じしました。
「なにしてる」
「え……っと、水が欲しくて井戸を探してるんですけど」
彼が付いて来るようにと手招きします。犬が駆けて後を追います。二人も付いて行きました。

「ん、」
納屋でバケツを持たされました。また、手招きします。オリバーは石垣を出て行ってしまいました。訳が分かりませんが付いて行くしかありません。
石垣の外は強風だというのに、犬は喜んで草原を駆け回っています。まだ成犬でないのか小ぶりで、時々風にあおられて転げていました。それでも余程散歩が楽しいのか、オリバーの周りをキャンキャン駆け回ります。
彼が自身の太ももをポンポンと叩きます。駆け回っていた犬が隣に来て、おとなしくなりました。彼の顔を見上げて指示を待っています。腕を振るとまた風の様に走り出しました。どうやら狩猟犬か牧羊犬の様です。散歩のついでに訓練も兼ねているのでしょう。

オリバーが先ほどの浜へと降りて行きます。犬も転げ落ちるように降りて行きます。二人も付いて行きます。
(水とは言ったけど、まさか海水を汲みに行くんじゃないよね?)
「ここで汲め」
先ほどは気が付きませんでしたが崖には亀裂が出来ていて、そこから水がダバダバ流れ出ていました。島に降った雨がここから湧きだしているのです。その地下水が何千年とかけて崖を削り、崩れた岩は波に洗われ、砂利となってこの浜を作ったのでした。

「飲めるの?コレ?」
オリバーは頷くだけです。
地面は砂利なのでそこに水溜まりは出来ず、犬が流れ落ちる水へ食らいつくように飲んでいます。上手く飲めず体は濡れてビショビショです。
(つめたそー)
朝日も手に少しすくい飲んでみました。
(まずっ!……ミネラルウォーターみたい)
オリバーは頷くと犬を連れて行ってしまいました。
(運んではくれないんだ、)
二人はバケツに水を汲み、重い思いをして小屋まで帰りました。

「疲れたー」
「ええ……」
崖を上り下りしたので流石に寒くても喉の渇きを覚えた二人は、バケツからカップに水を汲んで飲みました。何も入っていない胃には冷たい水が突き刺す様に感じ、ひと口で止めました。
お腹は減っているのに冷たいものはまったく受け付けないのです。朝日は魔力操作で手を温め、冷えたお腹に当てました。
「ねぇ、この海藻、生で食べる?どのみち薪は無いもんね」
「温かいものを食べたいですね。スープにするとか。このままじゃ、凍えそう」
魔力操作で温まることの出来ないアイラはガタガタと震えています。
「そうだよね……薪、とってこようか」
朝日は先ほど庭を歩き回った時に見つけていたのです。向かいの家に大量に積まれた薪を。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活

天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる――

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

異世界転生~チート魔法でスローライフ

玲央
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。 43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。 その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」 大型連休を利用して、 穴場スポットへやってきた! テントを建て、BBQコンロに テーブル等用意して……。 近くの川まで散歩しに来たら、 何やら動物か?の気配が…… 木の影からこっそり覗くとそこには…… キラキラと光注ぐように発光した 「え!オオカミ!」 3メートルはありそうな巨大なオオカミが!! 急いでテントまで戻ってくると 「え!ここどこだ??」 都会の生活に疲れた主人公が、 異世界へ転生して 冒険者になって 魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。 恋愛は多分ありません。 基本スローライフを目指してます(笑) ※挿絵有りますが、自作です。 無断転載はしてません。 イラストは、あくまで私のイメージです ※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが 少し趣向を変えて、 若干ですが恋愛有りになります。 ※カクヨム、なろうでも公開しています

その狂犬戦士はお義兄様ですが、何か?

行枝ローザ
ファンタジー
美しき侯爵令嬢の側には、強面・高背・剛腕と揃った『狂犬戦士』と恐れられる偉丈夫がいる。 貧乏男爵家の五人兄弟末子が養子に入った魔力を誇る伯爵家で彼を待ち受けていたのは、五歳下の義妹と二歳上の義兄、そして王都随一の魔術後方支援警護兵たち。 元・家族の誰からも愛されなかった少年は、新しい家族から愛されることと癒されることを知って強くなる。 これは不遇な微魔力持ち魔剣士が凄惨な乳幼児期から幸福な少年期を経て、成長していく物語。 ※見切り発車で書いていきます(通常運転。笑) ※エブリスタでも同時連載。2021/6/5よりカクヨムでも後追い連載しています。 ※2021/9/15けっこう前に追いついて、カクヨムでも現在は同時掲載です。

無能妃候補は辞退したい

水綴(ミツヅリ)
ファンタジー
貴族の嗜み・教養がとにかく身に付かず、社交会にも出してもらえない無能侯爵令嬢メイヴィス・ラングラーは、死んだ姉の代わりに15歳で王太子妃候補として王宮へ迎え入れられる。 しかし王太子サイラスには周囲から正妃最有力候補と囁かれる公爵令嬢クリスタがおり、王太子妃候補とは名ばかりの茶番レース。 帰る場所のないメイヴィスは、サイラスとクリスタが正式に婚約を発表する3年後までひっそりと王宮で過ごすことに。 誰もが不出来な自分を見下す中、誰とも関わりたくないメイヴィスはサイラスとも他の王太子妃候補たちとも距離を取るが……。 果たしてメイヴィスは王宮を出られるのか? 誰にも愛されないひとりぼっちの無気力令嬢が愛を得るまでの話。 この作品は「小説家になろう」「カクヨム」にも掲載しています。

異世界で快適な生活するのに自重なんかしてられないだろ?

お子様
ファンタジー
机の引き出しから過去未来ではなく異世界へ。 飛ばされた世界で日本のような快適な生活を過ごすにはどうしたらいい? 自重して目立たないようにする? 無理無理。快適な生活を送るにはお金が必要なんだよ! お金を稼ぎ目立っても、問題無く暮らす方法は? 主人公の考えた手段は、ドン引きされるような内容だった。 (実践出来るかどうかは別だけど)

【完結済】悪役令嬢の妹様

ファンタジー
 星守 真珠深(ほしもり ますみ)は社畜お局様街道をひた走る日本人女性。  そんな彼女が現在嵌っているのが『マジカルナイト・ミラクルドリーム』というベタな乙女ゲームに悪役令嬢として登場するアイシア・フォン・ラステリノーア公爵令嬢。  ぶっちゃけて言うと、ヒロイン、攻略対象共にどちらかと言えば嫌悪感しかない。しかし、何とかアイシアの断罪回避ルートはないものかと、探しに探してとうとう全ルート開き終えたのだが、全ては無駄な努力に終わってしまった。  やり場のない気持ちを抱え、気分転換にコンビニに行こうとしたら、気づけば悪楽令嬢アイシアの妹として転生していた。  ―――アイシアお姉様は私が守る!  最推し悪役令嬢、アイシアお姉様の断罪回避転生ライフを今ここに開始する! ※長編版をご希望下さり、本当にありがとうございます<(_ _)>  既に書き終えた物な為、激しく拙いですが特に手直し他はしていません。 ∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽ ※小説家になろう様にも掲載させていただいています。 ※作者創作の世界観です。史実等とは合致しない部分、異なる部分が多数あります。 ※この物語はフィクションです。実在の人物・団体等とは一切関係がありません。 ※実際に用いられる事のない表現や造語が出てきますが、御容赦ください。 ※リアル都合等により不定期、且つまったり進行となっております。 ※上記同理由で、予告等なしに更新停滞する事もあります。 ※まだまだ至らなかったり稚拙だったりしますが、生暖かくお許しいただければ幸いです。 ※御都合主義がそこかしに顔出しします。設定が掌ドリルにならないように気を付けていますが、もし大ボケしてたらお許しください。 ※誤字脱字等々、標準てんこ盛り搭載となっている作者です。気づけば適宜修正等していきます…御迷惑おかけしますが、お許しください。

3歳で捨てられた件

玲羅
恋愛
前世の記憶を持つ者が1000人に1人は居る時代。 それゆえに変わった子供扱いをされ、疎まれて捨てられた少女、キャプシーヌ。拾ったのは宰相を務めるフェルナー侯爵。 キャプシーヌの運命が再度変わったのは貴族学院入学後だった。

処理中です...