アナザーワールド・オブ・ドリームズ

二コ・タケナカ

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「まずアイラさんがシールドを張って。こう……大きいバケツみたいな形に出来る?」
「やってみます」
まだ魔法に不慣れな彼女は綺麗な円柱型を作れませんでしたが、なんとか形にしてくれました。そこへ服を全部入れ、火球で温まっていたお湯を注ぎます。
「石鹸は無いけど、しょうがないよね」
「洗うのはどうするんですか?」
「ちょっと待って。このシールドを少し傾けられない?」
「こ、こうですか?」
シールドが傾くと、アイラの体も一緒に傾いてしまいました。
続いて朝日もシールドを張ります。アイラのシールドより幾分大きく作ったシールドで全体を包み込み、その二つのシールドの隙間に風魔法を放ちました。帯状に調整した風をシールドの淵に沿って一方方向へ流します。すると中のシールドがグルグルと回り始めました。
「うまくできた!こうやって暫く回し続ければ洗えるはずだよ」
「でも、洗いあがるまでこのままなんですか?……ちょっと恥ずかしい」
「うん……恥ずかしい」
二人とも裸のまま魔法を維持するため手を掲げているのです。その姿は少し滑稽でした。
「コートだけ後で洗えばよかったね……」

体が冷えてしまわないうちに止め、濡れた服を絞りました。そして今度はアイラがドーム状にシールドを張り、中では朝日が火球を出してから風魔法で空気をかき混ぜます。熱風で椅子に掛けた服も、二人の髪の毛も乾いていきます。
「あっつい!」
それは衣類乾燥機の中に生身のまま入っている様なもので、二人はシールドの外に出たり寒くなれば入ったりしながら服を乾かしました。

魔法を使い続けた二人は精神的に参ってしまいました。
「お風呂に入るだけでも重労働だったね……」
「そうですね……」
それでも自分達だけでお風呂と洗濯をこなしたことに満足していました。
アイラがフフフと笑います。
「メイベールさん、髪の毛ボサボサですよ?」
「アイラさんこそ」
自然乾燥させた髪は空気を含んで膨らんでいます。お互い笑い合いました。

「お腹も減ったし、ご飯にしよう」
「はい。」
シチューの方はほったらかしにしていましたが、上手く煮えたようです。フォークで刺してみると、野菜は簡単に崩れ、肉も骨からスルリと外れます。カマドが煮込み料理に適している事を二人は学びました。
香り付けの為に入れていたローリエとローズマリーは取り出します。そしてミルクを加えてひと煮立ちさせ、塩で味をととのえれば完成です。

一緒にお祈りしてから、シチューをひと口食べて朝日は驚きました。
「おいしい!」
ウサギ肉を食べる事に心が痛んだものの、その味に懺悔の念は吹き飛んでいました。よく煮込まれて柔らかくなった肉はホロホロと口の中で崩れて、食感は軟らかい鶏肉の様です。味も獣臭さはほとんどなく、ハーブがその臭みを消してくれたのでしょう。何より肉から出た油と旨味が深いコクを与えています。野菜も煮崩れる事でとろみが付き、体はホカホカと中から温まりました。
「コレ、お店に出せる程だよ!」
「それは言い過ぎですよ、フフ。でも思った以上に上手く出来ましたね」

やっとまともな食事が摂れました。体が温まっているうちに、さっさとベッドに入ります。今日も体と精神は疲れ果てていて、まだ夕方ですがすぐにでも眠れそうです。
うとうとしていると、隣のアイラが話し始めました。
「私、教会で暮らしていた時は周りから気を使われて、一人ぼっちだったんです。魔法を使えなくてもベオルマの血を引いているのは、みんな知ってたから。だからこうやって水汲みしたり、お料理したり、友達と一緒にお風呂を用意するのも嫌じゃないです」
「わたくしも同じですわ。屋敷ではメイド達が身の回りの事は全てやってくれるのです。お兄様だけが唯一の遊び相手でした。ここに来て正直、面食らいましたけどアイラさんと一緒にこうして眠る事も悪くはないわ」
二人は静かに笑い合いました。
「……これからも友達でいてくれますか?」
「ええ、もちろん……」
「……何があっても……」
言葉の途中でアイラは眠っていました。
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