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お茶請けのお菓子を皿に並べているうちに、ルイスは水を汲んで戻ってきました。本当にあっという間で、朝日が行くよりだいぶ早そうです。
「ありがとうございます。ルイス様」
「どういたしまして。他に手伝える事はあるかな?」
「ルイ!」
グランダの叱咤にルイスは肩をすぼめてみせると、席に着きました。
サッサとしなと、グランダが手を振ります。
「ぼさっとしてないで、ティーセットはストーブ横のシェルフに置いて温めな」
オリバーが指し示してくれた場所にカップとポットを置いていきます。
ニコニコして見ていたエミリーが言いました。
「お婆様は紅茶のこだわりが強いのよね」
「昔はね、紅茶といえばお貴族さまの飲み物だったのさ。優雅に紅茶を嗜むことが庶民の憧れだったんだよ。その反動だろうね。こだわりが強くなったのは」
エミリー達がお喋りしている間、ヤカンを火にかけていましたが、なかなか沸いてきません。薪の投入口を覗くと、火力が弱いようです。朝日は魔法を唱えました。
「ファイヤー」
「またっ!」
グランダが指をクルクルと振ると、火球がパッと消えます。転移した火球は遠く海の上に落ちました。
「そんなモンを入れたら、ストーブがイカレちまうだろう!……しょうがない、ナル」
オリバーが代わりに薪の世話をしてくれました。慣れた手つきで火を調整します。
グランダが指を振り、1・2・3……と数え始めました。
「今日は6人分だからティースプーンに6杯、茶葉を入れな。ケチらずに山盛りだよ」
言われた通り、温めておいたポットに茶葉を入れます。茶葉を用意するうちに、ヤカンの蓋がカタカタ音を鳴らしてお湯が沸きました。
「ほら、湯が湧いたらすぐに入れな。沸かし過ぎると紅茶がマズくなる」
グランダがヤカンを持つ仕草で腕を高く掲げてみせます。
「お湯を注ぐときはヤカンを高く持って注ぎな。大事なのは空気を多く含んだお湯なんだ」
「高い所から入れるのは、お湯を注ぐときにやるんですね。紅茶をカップに注ぐときかと思ってました」
アイラの疑問にエミリーが捕捉します。
「空気を含んだお湯を注ぐと茶葉が全部表面に浮いてきて、踊るようにポットの中でクルクル回るのよ。これでしっかり茶葉の成分が抽出されるの。沸かし過ぎたお湯ではこうはならないわ」
朝日はヤカンを持ってポットに注ごうとしましたが、高く持ち上げるなんて熱くて怖いし重いので腕が震えます。すると持っていたヤカンがフッと、軽くなりました。
「誰だい?イタズラしてるのは?」
グランダの鋭い視線に、エミリーがニヤニヤにやけています。
お湯を注ぎ終わったポットはストーブに戻して保温します。
「蒸らしている間に、ミルクを用意しな」
見ていられなくなったのか、オリバーがミルクポットと瓶ミルクを用意してくれました。朝日はポットにミルクを注ぐだけ。何か言われる前に、それをストーブの上に置きます。
「ちょっと待ちな!ミルクを温めるんじゃないよ!生臭くなるだろうが」
「だって、冷たいままじゃ……」
「冷たいミルクで冷ますから丁度飲みやすくなるんだろう?これだから……」
朝日もジャスパーから注意されたことがありました。それはミルクを入れずに熱々の紅茶をすすった時の事。『音を立てて飲むのはマナーが悪いよ』と言うのです。朝日にとっては普通の事だったのですが、どうやらここの人達にとってすする音は耐え難い事の様で、以来、兄と紅茶を飲む際には必ずミルクを勧めてくるようになりました。確かにミルクで冷まして飲めば、すする必要は無いのです。
(お茶は熱い方がいいのに、)
温めていたティーカップをテーブルに運びます。アイラも手分けしてテーブルの上にカップを配っていきます。彼女も見ていられなくなったのでしょう。
「これじゃあ、いつまで経っても自分で出来やしないじゃないか」
グランダは呆れて天井を見上げました。その視線が時計に向けられます。
「もう十分蒸れた頃だね。濾してティーポットに移し替えな」
オリバーに茶こしとティーポットを用意してもらって、紅茶を注ぎます。すると甘く、爽やかな香りが立ち昇りました。
出来上がった紅茶をテーブルに持って行くと、グランダがまた言うのです。
「やれやれ、お茶を飲むにも一苦労だねぇ。もうアフタヌーンティーじゃないか」
彼女が指を振ります。キッチンに置いてあった茶葉の缶が浮かび上がり、朝日の前に飛んできて置かれました。
「これからは一人で淹れられるようにコレで練習しな」
(アタシ、コーヒー派だもん!)
心の中で反発する事しか出来ない朝日なのでした。
「ありがとうございます。ルイス様」
「どういたしまして。他に手伝える事はあるかな?」
「ルイ!」
グランダの叱咤にルイスは肩をすぼめてみせると、席に着きました。
サッサとしなと、グランダが手を振ります。
「ぼさっとしてないで、ティーセットはストーブ横のシェルフに置いて温めな」
オリバーが指し示してくれた場所にカップとポットを置いていきます。
ニコニコして見ていたエミリーが言いました。
「お婆様は紅茶のこだわりが強いのよね」
「昔はね、紅茶といえばお貴族さまの飲み物だったのさ。優雅に紅茶を嗜むことが庶民の憧れだったんだよ。その反動だろうね。こだわりが強くなったのは」
エミリー達がお喋りしている間、ヤカンを火にかけていましたが、なかなか沸いてきません。薪の投入口を覗くと、火力が弱いようです。朝日は魔法を唱えました。
「ファイヤー」
「またっ!」
グランダが指をクルクルと振ると、火球がパッと消えます。転移した火球は遠く海の上に落ちました。
「そんなモンを入れたら、ストーブがイカレちまうだろう!……しょうがない、ナル」
オリバーが代わりに薪の世話をしてくれました。慣れた手つきで火を調整します。
グランダが指を振り、1・2・3……と数え始めました。
「今日は6人分だからティースプーンに6杯、茶葉を入れな。ケチらずに山盛りだよ」
言われた通り、温めておいたポットに茶葉を入れます。茶葉を用意するうちに、ヤカンの蓋がカタカタ音を鳴らしてお湯が沸きました。
「ほら、湯が湧いたらすぐに入れな。沸かし過ぎると紅茶がマズくなる」
グランダがヤカンを持つ仕草で腕を高く掲げてみせます。
「お湯を注ぐときはヤカンを高く持って注ぎな。大事なのは空気を多く含んだお湯なんだ」
「高い所から入れるのは、お湯を注ぐときにやるんですね。紅茶をカップに注ぐときかと思ってました」
アイラの疑問にエミリーが捕捉します。
「空気を含んだお湯を注ぐと茶葉が全部表面に浮いてきて、踊るようにポットの中でクルクル回るのよ。これでしっかり茶葉の成分が抽出されるの。沸かし過ぎたお湯ではこうはならないわ」
朝日はヤカンを持ってポットに注ごうとしましたが、高く持ち上げるなんて熱くて怖いし重いので腕が震えます。すると持っていたヤカンがフッと、軽くなりました。
「誰だい?イタズラしてるのは?」
グランダの鋭い視線に、エミリーがニヤニヤにやけています。
お湯を注ぎ終わったポットはストーブに戻して保温します。
「蒸らしている間に、ミルクを用意しな」
見ていられなくなったのか、オリバーがミルクポットと瓶ミルクを用意してくれました。朝日はポットにミルクを注ぐだけ。何か言われる前に、それをストーブの上に置きます。
「ちょっと待ちな!ミルクを温めるんじゃないよ!生臭くなるだろうが」
「だって、冷たいままじゃ……」
「冷たいミルクで冷ますから丁度飲みやすくなるんだろう?これだから……」
朝日もジャスパーから注意されたことがありました。それはミルクを入れずに熱々の紅茶をすすった時の事。『音を立てて飲むのはマナーが悪いよ』と言うのです。朝日にとっては普通の事だったのですが、どうやらここの人達にとってすする音は耐え難い事の様で、以来、兄と紅茶を飲む際には必ずミルクを勧めてくるようになりました。確かにミルクで冷まして飲めば、すする必要は無いのです。
(お茶は熱い方がいいのに、)
温めていたティーカップをテーブルに運びます。アイラも手分けしてテーブルの上にカップを配っていきます。彼女も見ていられなくなったのでしょう。
「これじゃあ、いつまで経っても自分で出来やしないじゃないか」
グランダは呆れて天井を見上げました。その視線が時計に向けられます。
「もう十分蒸れた頃だね。濾してティーポットに移し替えな」
オリバーに茶こしとティーポットを用意してもらって、紅茶を注ぎます。すると甘く、爽やかな香りが立ち昇りました。
出来上がった紅茶をテーブルに持って行くと、グランダがまた言うのです。
「やれやれ、お茶を飲むにも一苦労だねぇ。もうアフタヌーンティーじゃないか」
彼女が指を振ります。キッチンに置いてあった茶葉の缶が浮かび上がり、朝日の前に飛んできて置かれました。
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