上 下
124 / 305
第5章

5-13

しおりを挟む
5-13「チェアリーのターン」

「はぁ・・・・・・」
私は肩を落とした。ユウには毛皮を売りに行けば大丈夫だからみたいなことを言っておいて、実際には二人が一食分で使い切ってしまうくらいの額にしかならなかったのだから。
皮を一生懸命下処理してくれた彼に申し訳ない。

ユウにはなんと言えばいいだろうか?
(黙っていようかな・・・・・・)
お金の事を気にかけていてくれる彼の事だ、黙っていると余計に心配させかねない。
(正直に話した方がいいかな・・・・・・)
それも彼を心配させてしまうだけで、同じことだと思う。

私はバックから財布を取りだした。
中にはこの前スライムを倒して得た魔宝石が数個と、コインが数枚残っているだけ。魔宝石は宿代にと残してある分だ。これに手を付けると、もうどうにも立ちゆかなくなってしまう。そうなればエルフの村に帰るしかない。

(お昼ご飯はどうしよう)
街の外に出られればこの前買っておいたドライハーブがあるし、野草を収穫してどうにか食費は浮かせることが出来る。けど、門が閉まっていては食材調達すらできない。
宿に帰っておかみさんに泣きついたら、優しいおかみさんはいくらでも食べさせてくれるだろう。しかし、これまでもおかみさんには良くしてもらっている。そんな事を繰り返していたら自分がダメになってしまいそうだ。

でも・・・・・・

足取り重くユウの待つ場所へ戻ると、なぜか彼は柵の上に身を乗り出すようにしていた。
「ユウ!何やってるの!?」
辺りにはヒツジとヤギが何を興奮しているのか、うるさい程に集まってきている。

メーェ、メーェ、メーェ、メーェ、メーェ、
ンメェ~、ンメェ~、ンメェ~、
ベェ~、ベェ~、ベェ~、

彼は半笑いでこちらを振り返った。
「ちょっと、触れあってたら懐かれて・・・・・・」
どう見ても懐かれているというより、襲われている。
ヤギがユウの服を引っ張り、敷地の中へ引き込もうとしているように見えた。
(なんでいつも私のいない時に!)

「ちょ!離しなさい!コラ!!」
彼の服を握り引っ張り返してはみたものの、ヤギは前歯でしっかり袖を噛み目をひん剥きながらこちらを睨み返して離そうとはしなかった。

「下がヤバい!なんとかしてくれ」
彼に言われて視線を下げると一匹のヤギが柵の隙間から頭を出し、彼の股間に噛みついている。
「やだっ!なに!?この子」
そのヤギはユウを柵の中へ引き込もうとしているのか、噛んだまま後ずさりをはじめた。
ユウは必死にこらえているようだったが、彼のズボンは股間の部分が引っ張られ伸びていく。

「えっ!!伸びてるよ!?だっ大丈夫??ねえ、平気なの!?」
「だいじょうぶ!大丈夫だからなんとかして!」
彼はストールの端を引っ張るヤギと格闘していて、下まで気が回っていない。

私がどこを持っていいのか困っているうちに、ズボンはなおも引っ張られ今度は少しづつ全体がずり下がってきた。
「え!?ええっ!!あ、」
見ているうちに上の服も引っ張り上げられ、下のズボンもずり下がり、彼のおへそが露わになる。
「はやくっ!早くなんとかして!!」

ズボンはベルトでなんとか持ちこたえていた。けど、このままだと彼の大事な部分まで露わになってしまうまでそんなに長くはかからなさそうだ。
どこを触っていいのか私がオロオロしている間にも少しずつ着実にズボンはずり下がっていく。

そうこうしているとずり下がったズボンから、見えてはいけない部分までうっすら見えはじめてきた!
(ああ!!・・・・・・黒いんだ)
ユウは頭の黒髪と同じように、あそこの毛も黒いようだった。自分とは違う色に妙に興奮する。
「はやっ!・・・・・・くっ」
彼は腰を引き、必死にこらえているがその声からもう限界が近いようだ。あと少し、何かの拍子で全てがズリ剥けてしまう!

「えい!!」

私はヤギの鼻っ面を指でパチン!とはじいた。
するとヤギは驚いて口を開け、ユウの股間を離した。
ストールと服を噛んでいるヤギにも同じようにお見舞いしてやると、あっさりヤギは口を開きようやくユウは開放された。

彼は開放された勢いでよろよろと後ずさりし、ずり下がったズボンの裾に足を取られたのかそのまま地面にへたり込んだ。
「っぷ!!あはははははっ!!」
その姿を見て、おもわず笑いが込み上げる。

「アハハハハハッ!!」
大声で笑うと、さっきまでお金の事に悩んでいたのが嘘のように気分が晴れた。
「ちょっと、笑いずぎじゃないか?」
「はぁー、ごめんなさい。あまりにもおかしくって、プッ」
私は尻もちをついているユウに手を差し伸べた。

手を取った彼の立ち上がる動作に合わせて、体重を後ろにかけ引っ張り上げる。
「きゃ!」
後ろに体重をかけたら今度は私の方が倒れそうになってしまい、彼が力強く私の体を引き寄せてくれた。
(初めて会った時もこんなことが)
すぐ側に彼の顔があり、少し恥ずかしくなった私はうつむいた。

すると、うつむいた先で目に入ったのは、ズボンがずり落ち、パンツ姿の彼の下半身だった。
「っぷ!!ぷはははははっ!!もう!やめてよぉ」
私はまたしても大笑いした。

「そんなに笑わなくてもいいだろ」
彼がズボンを上げながら、恥ずかしそうに言う。
「はぁ―――、ごめんなさい。フフッ」
彼となら例え貧しくてもなんとかなる。そんな気がした。
しおりを挟む

処理中です...