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第8章

8-25

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8-25「ライリーのターン」

ジャラ!
私は机の引き出しから魔宝石を取り出した。
(エリアス達には、負担をかけたわね・・・・・・ブーストを使った分は補てんしてあげないと)
体は魔法の反動でまだ重たかったが、ただ寝ているのも落ち着かないので昨日得た魔宝石の分け前を仕分けすることにしたのだ。
すると・・・・・・

コン!コン!コン!

誰かが扉をノックをした。その音のリズムから少し慌てている様な印象を受ける。
「空いてるわ、入りなさい」
入ってきたのはアデリナとココだった。

「あなた達、まだいたの?ユウの監視は?」
「はい、それがどうやらユウ達は今日、野営をするようなので報告しておこうと思いまして」
「野営を?どこかに遠出するの?」
「いえ、街から少し南に行った中州でするようです」
「なんでまた、そんな所で・・・・・・」
「なんでって、」
ココがニヤニヤしている。

ココを制するようにアデリナが続ける。
「私達も側で監視しようと思いますので、今夜は帰れないと思います」
「私も行くわ」
「いえっ、ライリー様はお疲れでしょうから休んでいてください」
「監視するといっても一晩中起きているつもり?人数が多い方が交代で寝れるでしょう」
「しかし・・・・・・」
「それに、モンスターが減っているとはいえ、あなた達2人で行かせるのは心配だわ」
「私も行きます」
部屋の外で聞いていたのか、開けっぱなしだった扉からアンスが入ってきた。

「アンス、あなたもういいの?無理しなくてもいいのよ」
「体の方は大丈夫です・・・・・・それより昨日は申し訳ありませんでした」
アンスは私達に深々と頭を下げた。

「皆、無事だったのだしもういいわ」
「そういう訳にはいきません。どうか、私に汚名返上の機会をください」
アンスはそう言うと、また頭を下げた。
ブーストの影響は使った私も身をもって知っている。まだ節々が痛く、体は重い。それに今朝から頭痛がして少しボーっとする。本当は休んでいたいが、それはアンスも同じはず。

私がそれでも起きだして何かしていようと思ったのは、昨日の責任を感じていたからだ。皆の命を危険にさらしてしまった責任はリーダーである私にある。
アンスも自分の責任を感じて、私と同じくじっとはしていられないのだろう。
「いいわ、付いて来なさい。けど、無理をしてはダメよ」
「ハイ、ありがとうございます」
顔を上げたアンスの顔には少し笑みが見えた。

「いいんですか?こんな大人数で・・・・・・私達だけで良かったのに」
ココはまたニヤニヤしている。
「アンスがいてくれた方が心強いでしょ?アナタさっきから何をニヤケているの?」
「いいえ、何でもありませんよ。ねっ、アデリナ」
「なんで私に振るのっ!?」
なんだか二人とも楽しそうだ。
(遊び気分でいるのかしら?また気が緩んできたようね)
私の失態のせいで示しがつかなくなっているのかもしれない。そう思った。

「アンス、悪いけど馬車を借りて来てもらえるかしら?野営をするのなら幌馬車がいいわね」
「はい」
「私は荷物を用意しておくから。教会まで回してきてちょうだい。アデリナとココはユウの監視に向かいなさい。南門の前で合流しましょう」
「分かりました」

幌馬車に荷物を詰め込み、南門に向かう。門の前にはアデリナとココが既に待っていた。
馬車に乗りこんできた2人の顔はまたしてもニヤケている。
「ユウはどうしたの?もう出て行ったの?」
「まだそこにいますよ」
ココが指さす方を見ると、門から少し離れた場所に1頭の馬が見えた。その背には男女2人が乗っているようだった。ユウとあのエルフだろう。

「勇者様って馬に乗れないんですね」
ココはニヤニヤしながら言った。アデリナまで笑っている。
(あぁ、馬に乗れない事を笑ってたの)
街の中で暮らしていれば馬の必要性は低いが、外に出る時は必需品だ。もしもの時、モンスターから逃げる為に必要だからだ。乗馬を苦手にして馬車しか乗らない人もいるが、大概だれでも馬を操ることは出来る。
だが、今まで私が見てきた勇者達は別だ。乗馬出来ないのが普通で、ほとんどは馬を見るのも初めてなくらいだった。

「ココ、あまり人の事をバカにするものではないわ」
「え?バカになんてしていませんよ」
「ならその顔は何なの?ニヤニヤして」
ココは顔を両手で挟み、上下に揺すった。

「ニヤケてました?違うんですよこれは。ここに来る間ずっと2人を見てたんですけど、なんていうか、微笑ましいというか、じれったいというか、甘酸っぱいというか、見ているこっちが恥ずかしくなるからつい顔がニヤケて」
ココはまたニヤケ顔に戻った。
「まあ、いいわ」

「あ、馬が歩き始めました。追いますか?」
アンスの声に視線をユウの方に戻すと、2人を乗せた馬がゆっくり歩いて行く。遠くて話している内容は分からないが、楽しそうな雰囲気は伝わってくる。

前に座るエルフがおもむろに帽子を脱いだ。それに続き、ユウも帽子を脱いだ。金髪と黒髪が露わになり、その光景に昔の記憶が蘇る。
(あんな風に乗馬を教えた事があったわね・・・・・・)

「ライリー様?」
御者席からこちらに振り返ったアンスが不思議そうに見ていた。
「え?」
「出発してもよろしいですか?」
「あぁ・・・・・・急ぐ必要はないわ。アデリナ、この先の川に向かったのよね?」
「そのはずです」
「行先は分かっているから後を付けているのがバレないように、十分距離を開けてから行きましょ」
「はい」

ボーっとする頭に私は気合いを入れ直した。
(相当、疲れているみたいだわ・・・・・・しっかりしないと)
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