上 下
237 / 305
第8章

8-40

しおりを挟む
8-40「東悠人のターン」

その日もランニングを終え、オレがコンビニでおやつとスポーツドリンクを買って出てくると、ネコが駐車場の隅で座っていた。
「待っててくれたのか」
何の警戒心も無く、側に来て足に頬を擦り寄せてくる。いつものようにおやつを細かくちぎって与えた。

オレはスポーツドリンクを飲みながらネコが食べ終わるまで、ボーっと通り過ぎていく車を眺めた。
2台の車が走ってくるのが見える。先頭に軽自動車、その後ろを乗用車が車間距離を開けずにピッタリとくっついてあおっていた。
先頭の車が割り込みでもして怒らせたのか、後ろの車が最初から嫌がらせをしているのか・・・・・・

キュッ!!

ブレーキ音を短く響かせ、後ろの車がウインカーも出さずにコンビニの駐車場に入ってきた。スピードは十分に落ちていない。
なんだか嫌な予感がして、とっさにオレはおやつを食べる事に夢中になっているネコを抱き上げ、横へ放り投げた。
自分も・・・・・・
そう思った時にはもう遅かった。

ギュルルル!! ウォオン!!
目の前に迫ってきた車はパーキングブロックを簡単に乗り越えた。
ガッシャーン!!
オレは突っ込んできた車に押しつぶされ、そのまま車もろとも店内に突っ込んだ。
ギュルルル――――――!!
商品棚にオレを押し付けたまま車はなおも突っ込んでくる。押しつぶされたことで、もしかすると神経がやられたのかもしれない。痛みなんて感じておらず、頭は意外なほど冷静だった。

ボンネットの先に運転手の顔が見える。中肉で白髪交じりの中年男性だ。目が飛び出るほどひん剥いて、体はのけ反り、必死に足を踏ん張っている。
ギュルルル――――――!!
店内にタイヤがスリップする音が響き続いていた。
(それ・・・・・・アクセルだから、踏み間違えてる・・・・・・)

オレを押しつぶしてくるのはシルバーのハイブリットカー。如何にも中高年に人気のある車種だ。
昔はどんな車に乗ってブイブイいわせていたのか知らないが、いい大人がエコカーに乗ってまで危険な運転をして・・・・・・そのうえ判断力が落ちている事を認識していないから、アクセルとブレーキを踏み間違える事故なんて起こすんだ。
自分勝手で横柄。運転手の顔は何だかあの上司に似ている気がした。

段々と意識が遠のき目の前が暗くなっていく。
「あぁ・・・・・・まだオレ、なにもしてない・・・・・・」
しおりを挟む

処理中です...