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第13話 異世界行脚
しおりを挟む「出番があるかも」と勝田さんからメッセージが着たのは22時を過ぎたころだった。
その後、ウズウズとしながら勝田さんの名刺にあったお店のホームページを眺めていたら、アユミさんは3店舗あるキャバクラ店の1つで人気No3のようだった。意外と売れっ子さんだ。
青い顔で血吐いてアイメイクも涙でグシャグシャなイメージしかなかったので華やかでセクシーなドレス姿がとても新鮮だ。写真が色々掲載されている。眼福眼福。
「……でっか」
No1の女性は大きかった。凄い谷間だ。これ動いて大丈夫なのか心配になる。
料金システムを見ると1時間5千円くらいにTAXサービス料が30%。延長30分と指名料が3千円。女の子の飲み物代が別として果たしていくらになるのやら。
「TAXサービス料が30%ってすげぇな」
異世界だ。ここにも異世界が広がっていた。自転車で5分の身近な繁華街にこんな世界が広がっていたとは気付きもしなかった。俺の前職の日給が1時間ちょっと座っているだけで消えてなくなる世界。見ないようにしていたが正解なのかもしれないが。
「これる?」
着信音を響かせたスマホに表示される通知。勝田さんだ。
「大丈夫です。どちらに伺えばいいですか?」と返信すると今見ていたアユミさん勤務の店名が返ってきたので5分で行きますと送信した。
24時近くなり車通りが少なくなった道路をライトを点けた自転車で疾走する。
ちょっと楽しみになっていた。
夜の蝶達の華やかな女の園。
しかし、たどり着いたそこは野戦病院のような有り様だった。
お店の入り口のボーイさんに案内された無骨なロッカーと簡素なソファが並ぶ待機所には、靴を脱ぎ散らかしてソファで仰向けに横になり唸っている女性と、床に座り込んでイヤイヤ無理無理言いながら泣きはらしている女性がいた。ボーイさん達が困った顔で宥めている。
しばし呆然としていると勝田さんがやってきた。
「先生! 助かる! 2人の回復頼みます!」
「2人とも、ですね。了解しました」
まずは横になっている女性からだ。よく見るとNo1の人だった。はだけた胸元からはヌーブラがはみ出て、短いスカートからは下着が丸見えになっているが色気もへったくれもない。手早く済ませよう。
「小解毒」
投げ出された腕に触れ、小解毒をかける。ぴくりと反応した。
「あれっ?」
がばりと起き上がった女性は不思議そうな顔をしてこっちを見ている。
次だ。
「小解毒」
泣きはらしている女性の腕に触れ、同様に小解毒だ。2つ目の魔力向上を取ったおかげかそれほど負担は感じない。
「よーし。ルミはまず化粧を直せ。アイカは行けるな?」
「なにこれ? 統括?」
「酒を抜いてもらった。朝、説明したろうが。指名の客で酔い潰れたら2,500円で復帰させるって。ホラ、客が待ってるから早く行け。ヘルプじゃもたん」
そそくさと身だしなみを整えに化粧室へ駆け出す2人。
「さすが先生。ラストまで待機しててもらうことってできる?」
「ラストって何時ですかね?」
「今日は1時半かな」
「この後は特に用事がないので大丈夫です」
「助かるわー。あの客、コカボムバンバン入れるんだよねー」
強い香水が混じり合った臭気だけが漂う無機質な待機室で1時間ほど待つ間にも、もう1人ダウン者が出た。もちろん小解毒で回復済みだ。
コカボムとはコカレロという南米古来のハーブ酒とレッドブルのカクテルで最新パリピ酒なんだそうな。検索調べ。一気飲みウェーイしているらしい。一杯3,000円也。
結局、この日は1時間半ほどで15,000円の売上だ。勝田さんからお金を受け取り、領収書を3枚発行した。キャスト達の反応を見ながら他の店舗も頼みたいとありがたいお言葉ももらった。
「先生。おっつでーす」
「お疲れ様です」
私服に着替えたキャストさん達にもすっかり先生呼びが馴染んでしまった。
帰りがけに寄った牛丼屋で思った。
意外と儲かるなこっちの異世界も。
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