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第47話 脳筋志向

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 カーテンから外を覗き見ると不審な路上駐車が多いような気がして気持ち悪さを感じたものの、襲撃はなさそうだし戦力的にも恐怖は感じなかったので、交代でボディガードすると言いながら女子トークを繰り広げる女子2人を放置して普通に就寝した。


 目が覚めると目の前にマイさんの寝顔があって思わず悲鳴を上げそうになった。交代して寝ずの番という話だったのでは……。しかしいい加減、プライベートな時間が欲しい。一応、健全な男子なのだ。

 ミノムシのように寝袋で寝っころがっている2人を起こすのも何なので、軽く迷宮入り口の設置物をチェックなどしたりしているとスマホが震えた。2人が起きたようだ。

「おはようございます」

「先生~黙って行っちゃだめ~。おはよ~」

 入り口を潜りながら挨拶するとマイさんから優しく叱られる。書き置きくらいすべきだったか。

「すぐそこの様子を見るだけだったので。すいません」

「アンテナは無事みたいですね。もう少し寝ます」

 少しずつ打ち解けてきた気がするアイリさんの心配はwifiアンテナのようだ。化粧をしていないアイリさんは妙に幼く見える。

 迷宮街へは午後から後の2人の合流とレベルアップ後に行くことになっていたので、冷蔵庫の謎肉で朝食などをとりながら過ごしているとインターホンがなる。ドアを開けるとマンションの管理会社の人が申し訳なさそうに立っていた。

「今度、オーナーが変わるらしくてね。改装するのに立ち退いてもらえないかとお願いして回ってたんですよ」

 挨拶もそこそこに切り出されたのは立ち退き願いと書かれた書類とそんな話だった。

「あとは弁護士先生から話があると思うのでよろしく頼みますよ」

 呆気に取られているうちにぺこぺこと頭を下げながら去っていってしまった。

「立ち退き~?」

「これはあれですかね。物件ごと異世界を取りにきた感じなんですかね?」

「アユミに連絡してみる~!」

 書類に目を落とすと、立ち退きに際する引越し費用は全額補償、そのほかに補償金100万円と記載されており心が揺れなくもないが、恐らく相手は自分しか出入りできないことを知らないのではないだろうか。

 補償金もらって預かっている入会金を返金したところで、自分はなんらかの形で巻き込まれるのは確定だろう。給料をもらう形なら我慢できるかもしれないが、ここまできておいて作業で異世界に行かせられるのもなんとなく嫌だ。

「アユミ、弁護士連れてくるって~」

「了解です」

 行く末がどう転がるかさっぱり分からないが、搦め手は面倒だ。1人じゃ解決できる気がしない。

 そんな脳筋じみた考え方に、苦笑いするしかなかった。

 いつからこんなんになったんだろな……。しかし隣の部屋を借りるどころの話じゃなくなってしまった。遠のいていくマイプライベートスペース。
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