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第49話 軽い立ち退き交渉
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「引っ越し代の他に100万円ですよ。100万円。絶対、立ち退いた方がいいと思うなー。別段こんな賃貸の家に思い入れとかないでしょ?ラッキーですって」
「そう言われましても」
夜になろうかという時間に突然訪れたのは、分厚い名刺に弁護士とあったが随分と軽薄そうな男だった。一人暮らし用の部屋の契約となっているので玄関先で一人で対応していたのだが肩透かしをくらった気分だった。こやつ……理詰めで説得してくるのかと思いきや弁護士のくせに金の話しかしない。
「貰えるものは貰える時にしっかり貰うのが賢い選択ですよ」
「はぁ」
「今時、ネットでもっといい家もすぐ見つかりますって。まずは行動です。機を見るに敏ですよ!」
「すいませんが引っ越す気はありません」
「そんなつれないことを言わずに考え直すべきですって。今だけですよ100万円」
「いえ、本当に引っ越すと困るので」
「しょうがないですねぇ。家主さんに立ち退き料の値上げ交渉してみますよ。でもあまりゴネられるとこちらにも考えがありますからね」
「はぁ。とりあえず立ち退きに応じる気はありません」
「……ご意向は伺いました。スケジュールがおしているので今日のところはこの辺で。それでは」
それまでは貼り付けたような胡散臭い笑顔だったが表情が消え失せ、閉じられたドアの音の大きさが彼の不機嫌さを物語っていた。
ちょっと前にアユミさんが連れてきてくれた弁護士さんによると、通常は半年1年は猶予を持たせて立ち退き交渉をするものでこんなに急かして立ち退きを迫るのはよっぽどの事態らしい。アユミさんの見立てでは実際に改装などを行うわけでもなく、揺さぶりやブラフに近いとのことだったが終始お金の話しかせず、どうせお金が欲しいんだろ的な上から目線の嫌悪感が凄い。話が通じない弁護士ってどうなんだ?
「どうでした?なんとなく聞こえていましたけど」
「なんか感じ悪そうな人っすねー」
「一方的に、ゴネて立ち退き料をせびる人認定された気がします」
なんだか降って湧いた話でゴタゴタしてしまったので全員そろっての迷宮行きはなくなり、マイさんとアイリさんはお仕事に出掛けて行った。入れ替わりで今日の見張り当番はアユミさんとノアさんの色んな意味で比較的安心感があるお二人だ。
「もうちょっと揉めるか懐柔案があると思ったんですけどねぇ……」
「なんかの勧誘話みたいだったっす」
思案顔のアユミさんと能天気なノアさんだが、一応アユミさんが連れてきてくれた弁護士さんと理論武装はしていたのだ。想定していた問答集のほとんどが特に使わなかっただけで。
オーナーチェンジで改装するなどという理由だけで立ち退きを強要できるほど日本の法律は甘くなかった。たとえ裁判となろうが住んでいる人のほうが大分有利なのだ。それを事前に知れたのは気持ちの面で大きかった。
「じゃ早速9層行きましょう!」
立ち退き話でうやむやになっていたがマイさんアイリさんと9層レベリングしたのが大層羨ましかったらしいアユミさんだ。
「いえ、その前に晩飯にしません?」
「そういえばお腹空いたっす!」
「晩飯前にと思ったんですけどしょうがないですねぇ。でも迷宮に潜るので軽めにしておきましょう」
そんな朝飯前みたいに言われても同意しかねる。アイリさんは迷宮行きにノリノリなのだがノアさんはそうでもない様子なのだ。メンタル維持のためにも腹は満たさねばならぬ。
「軽め……なんかあったかな。素麺でいいです?」
茹でるのに時間がかからず、めんつゆで手間なく食べれるのだが一回食べると存在を忘れてしまう素麺が棚に眠っていた。暑い夏にもらっても茹でるのがしんどいんだよね。そういえば動画サイトで焼き塩素麵レシピを見て作ってみようと思ってたんだった。
「なんでもOKっす!」
「茹でるだけですしね。すぐ出来ますしね!」
「異世界食材も使って焼き塩素麵にします」
「「おおー!」」
なんだか盛り上がってきたので動画サイトを見ながらみんなで作ってみたのだが、物足りなくなってもう一回作って食べた。これは素麺を眠らせておくのはもったいない。保存もきくし買い溜めしておこうと心に誓った。
ちなみに満腹まで食べたせいで全然軽くなかった。
「そう言われましても」
夜になろうかという時間に突然訪れたのは、分厚い名刺に弁護士とあったが随分と軽薄そうな男だった。一人暮らし用の部屋の契約となっているので玄関先で一人で対応していたのだが肩透かしをくらった気分だった。こやつ……理詰めで説得してくるのかと思いきや弁護士のくせに金の話しかしない。
「貰えるものは貰える時にしっかり貰うのが賢い選択ですよ」
「はぁ」
「今時、ネットでもっといい家もすぐ見つかりますって。まずは行動です。機を見るに敏ですよ!」
「すいませんが引っ越す気はありません」
「そんなつれないことを言わずに考え直すべきですって。今だけですよ100万円」
「いえ、本当に引っ越すと困るので」
「しょうがないですねぇ。家主さんに立ち退き料の値上げ交渉してみますよ。でもあまりゴネられるとこちらにも考えがありますからね」
「はぁ。とりあえず立ち退きに応じる気はありません」
「……ご意向は伺いました。スケジュールがおしているので今日のところはこの辺で。それでは」
それまでは貼り付けたような胡散臭い笑顔だったが表情が消え失せ、閉じられたドアの音の大きさが彼の不機嫌さを物語っていた。
ちょっと前にアユミさんが連れてきてくれた弁護士さんによると、通常は半年1年は猶予を持たせて立ち退き交渉をするものでこんなに急かして立ち退きを迫るのはよっぽどの事態らしい。アユミさんの見立てでは実際に改装などを行うわけでもなく、揺さぶりやブラフに近いとのことだったが終始お金の話しかせず、どうせお金が欲しいんだろ的な上から目線の嫌悪感が凄い。話が通じない弁護士ってどうなんだ?
「どうでした?なんとなく聞こえていましたけど」
「なんか感じ悪そうな人っすねー」
「一方的に、ゴネて立ち退き料をせびる人認定された気がします」
なんだか降って湧いた話でゴタゴタしてしまったので全員そろっての迷宮行きはなくなり、マイさんとアイリさんはお仕事に出掛けて行った。入れ替わりで今日の見張り当番はアユミさんとノアさんの色んな意味で比較的安心感があるお二人だ。
「もうちょっと揉めるか懐柔案があると思ったんですけどねぇ……」
「なんかの勧誘話みたいだったっす」
思案顔のアユミさんと能天気なノアさんだが、一応アユミさんが連れてきてくれた弁護士さんと理論武装はしていたのだ。想定していた問答集のほとんどが特に使わなかっただけで。
オーナーチェンジで改装するなどという理由だけで立ち退きを強要できるほど日本の法律は甘くなかった。たとえ裁判となろうが住んでいる人のほうが大分有利なのだ。それを事前に知れたのは気持ちの面で大きかった。
「じゃ早速9層行きましょう!」
立ち退き話でうやむやになっていたがマイさんアイリさんと9層レベリングしたのが大層羨ましかったらしいアユミさんだ。
「いえ、その前に晩飯にしません?」
「そういえばお腹空いたっす!」
「晩飯前にと思ったんですけどしょうがないですねぇ。でも迷宮に潜るので軽めにしておきましょう」
そんな朝飯前みたいに言われても同意しかねる。アイリさんは迷宮行きにノリノリなのだがノアさんはそうでもない様子なのだ。メンタル維持のためにも腹は満たさねばならぬ。
「軽め……なんかあったかな。素麺でいいです?」
茹でるのに時間がかからず、めんつゆで手間なく食べれるのだが一回食べると存在を忘れてしまう素麺が棚に眠っていた。暑い夏にもらっても茹でるのがしんどいんだよね。そういえば動画サイトで焼き塩素麵レシピを見て作ってみようと思ってたんだった。
「なんでもOKっす!」
「茹でるだけですしね。すぐ出来ますしね!」
「異世界食材も使って焼き塩素麵にします」
「「おおー!」」
なんだか盛り上がってきたので動画サイトを見ながらみんなで作ってみたのだが、物足りなくなってもう一回作って食べた。これは素麺を眠らせておくのはもったいない。保存もきくし買い溜めしておこうと心に誓った。
ちなみに満腹まで食べたせいで全然軽くなかった。
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