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第57話 ディストリビューター
しおりを挟む「先日は大変失礼致しました。立ち退きに関してもオーナーと相談の上、撤回とさせていただきましたので平にご容赦を⋯⋯」
高そうな菓子折持参で1人やってきた議員秘書さんが平謝りしていた。立ち退き要求はあっさり撤回されたようだ。
「それとは別件で、異世界迷宮の事業についてご相談させていただけないでしょうか?」
さらりと出てきた異世界迷宮という言葉にビキリと背筋が固まってしまったが、秘書さんの眼は真剣だった。普通なら与太話でしかない異世界の話が当然のように出てくる事実に半ば愕然としていた。
「先生、上がってもらってはどうでしょう?」
ひょいと顔を出したアユミさんが助け舟を出してくれたので、秘書さんには部屋に上がってもらうことにした。
「こ、これは⋯⋯」
寝袋はさすがに片付けられていたが、武器や防具は部屋の片隅に積み上げるように置いてある。異世界の話を疑っていたわけではないのだろうが、実際に使用している武器防具を見た秘書さんは感嘆の声を漏らしていた。
「それで相談の内容ですが」
「はい。私どもにカウンターパートを任せていただけないかと⋯⋯」
口火を切ったアユミさんに秘書さんが説明した内容を要約するとこうだ。
新規の会員はこちらでは受け付けず、秘書さんの団体で受ける。料金は今までの料金で秘書さんの団体に卸す、迷宮入り人数の最低保障枠を設けるといったこちらには有利な条件だった。
マイさんがいれてくれたお茶を飲みながら、集客や知らない人と話しをしなくて済む分、随分と楽になりそうだなどと考えていた。逆に忙しくなり過ぎる懸念があるくらいだ。
「そうですね⋯⋯面倒事が省けるのはこちらにとってもありがたいと思うのですが先生どうですか?」
「営業日や時間も定めてもらえるならいいと思います」
「土日は参加者が多いと思いますので考慮していただけますと⋯⋯」
そんなこんなで、大枠は合意できたので詳細はまた後日詰めることになった。
「⋯⋯あ、あの迷宮を実際に見せてもらうことはできますでしょうか?」
「じゃ私が案内~」
遠慮がちに尋ねる秘書さんに暇そうにしていたマイさんが刀を掲げて応えていた。1層をちょっと様子見くらいならマイさん1人でも十分過ぎる。
自分は出入りだけエスコートする役目なので、秘書さんとも手を繋いでトイレのドアを潜る。
「そういえば先日の弁護士さんは⋯⋯?」
「あの失礼な輩ですか?もちろん契約を打ち切りました。あちこちで問題を起こすので清々しましたよ」
とても良い笑顔だった。
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