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航海の終着点

近接戦闘始め

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「碧い……な」

 呟くと、俺の肩に手をかけて同じように窓の外を見ようとするやつがいる。

「え、なになに?なんか面白いものでもあるの?」
「あの、司令。可能であるならば、私の肩に体重を乗せるのは止めて頂けないでしょうか」
「何かね、力久君。上官に楯突たてつく気かね?」

 円城寺はにやつき、腕を後ろで組み、アニメに出てきそうな将官を演じている。円城寺は昔から、その場の空気が何であれ気にせずにおちゃらける。彼女なりの考えがあるのだろうし、それでクラスの雰囲気が良くなることもしばしばあった。

「司令、今のこの状況をお分かりですか?思いですし早急に退いて下さらないと、最悪、私の肩が――」
「そういうのいいから、何があったの?」

 なっ?!こいつ、自分から火種を生み出しておきながら、自分で水をかけてきやがった。
 ……吸って、吐いて…………落ち着け、幼馴染とはいえ、相手は上官であり司令だ。

「し、失礼致しました。少し太陽に異変を感じたもので」
「太陽?」

 円城寺が頭をかしげながら、左舷ウィングに歩み始めた時、逆側の右舷から航海員が怒号を上げた。

「該船より、飛行物体が現出!人のようなものが、我に向かって真っ直ぐ飛翔する!」

 俺の体は、それを確認する行為はせず、円城寺の方へ向かった。手首を掴み、引き寄せる。

「ひゃい!ちょっと、何すんの?」

 円城寺を危険な外に出すわけにはいかない。幸い、外に出てしまう前に止めることが出来た。そして、今、我に近付く飛行物体を確認しなければならない。が、しかし、そんな事は不要だった。俺の目が艦橋の窓へと向けられた時には既に、“人”が確認出来る距離だったのだ。そして、二人の人は飛行甲板に豪快に着艦した。

「……近接戦闘始め。運用、飛行科要員は甲板から退避。射撃員は、飛行甲板並びに艦内にて迎撃準備…!」

 自然と声を潜めてしまっていた。

「近接戦闘始め!運用、飛行科要員は飛行甲板から退避せよ!射撃員は武装し、飛行甲板、艦内に展開せよ!」

 通信士が艦内放送で俺の号令を伝達した。一気に緊迫した空気が、艦橋はおろか艦内全域に広まった。

「合戦準備!」

 遅れて、ブザーが鳴り響く。艦の図体と反比例して狭い通路からは、足音や乗組員の声がせわしなく聞こえてくる。
 このまま、艦橋にいるのは危険だろう。

「司令をCICに護送する。射撃員は五人で足りるかな。あと、私の分の拳銃を持ってくるよう言ってくれ」

 指示を出しながら、灰色の救命胴衣兼防弾チョッキを着装し、テッパチを被る。

「射撃員長、艦橋。射撃員五名と共に、至急艦橋へ。完全武装し、拳銃一丁を更に持って集合」

 もう一度、飛行甲板を望むと、まだいた。正体不明の宙を舞っていた人。辺りを見回している。見えにくくて気付きにくかったが、すでに射撃員はその人達に64式小銃を向けていた。
 なんと、侵入者は二人いた。一人は雰囲気で分かる、船乗りだ。黒い服に身を包み、金の装飾を多く身に着けている。もう一人の方は、少女か?翼を生やした人としては何とも異形な少女。
 俺はありだと思うが。

「射撃員長鈴木、到着いたしました」
「司令、CICに参りましょう」

 円城寺は頷いた。

「射撃員長、これから司令をCICに護送してもらう。私も同行する。拳銃を貰えるか」
「了解。林、9mm拳銃」

 射撃員長が引き連れて来た内の一人が前に出てきた。握把を俺に向ける。それを手にした俺は、すかさず弾倉を抜き弾を確認する。射撃科なのだが、艦長程になってから久しく銃に触れていなかった。銃のずっしりくる感じ。冷たい遊底。取り出しにくい弾倉。良くも悪くも全てが懐かしい。

「まだ、装填しておりません」

 射撃員長の言葉を聞き、弾倉が入る握把の底を覗いた。

「確かに」

 安全装置を確認した上で、弾倉を戻した。円城寺に目を向けた。準備は出来ているようだ。

「私の傍から離れないで下さい、司令。行くぞ!射撃員は司令を囲め!」

 艦橋を後にした。9mm拳銃を銃口を下に向けながら、片手で持っている。何故なら、左手は円城寺が支配しているからだ。手を差し伸べたのは俺だが、まさか腕を絡ませてくるとは思わなんだ。

「司令、流石に絡ませるのはちょっと……」
「な、何よ!別に良いでしょ」

 司令に申し出てみたが、理由をなくして却下されてしまった。正直、離れてもらわないと、動きずらいし俺の顔がどのように変形してしまうか分かったものではない。
 だが今は、そんな事で言い争っている暇はない。にす、あの侵入者らが艦内にまで侵入してしまったら。今、先導してくれているのは射撃員長だが、彼がやられてしまえば司令の盾になるのは俺だ。
 4つ目のタラップを降り始めたら、扉が開かれる音が聞こえた。ここは、飛行甲板と同じ高さの甲板だ。もしかすると、外へと繋がる扉が開かれた可能性がある。

「司令はまだタラップを降りないで下さい!射撃員が先に降りろ!」

 飛行甲板には大勢の射撃員が向かった。彼らが一瞬にしてやられるなんて普通に考えれば有り得ないだろう。銃声が聞こえてもおかしくはない。しかしなんだ?空を飛んできて、我の艦に乗艦?既に有り得ないことの連発だ。この状況であれば、有り得ない事に怯えても仕方が無いと思う。護れなかったらと考えると末恐ろしい。
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